「もう手遅れ」の法律相談が来たとき、君はどうする? - Business & Law(ビジネスアンドロー)

© Business & Law LLC.

―現役知財法務部員が、日々気になっているあれこれ。本音すぎる辛口連載です。

※ 本稿は個人の見解であり、特定の組織における出来事を再現したものではなく、その意見も代表しません。

後手後手の法律相談を受けて思わずイライラ…

もっと早く相談してくれれば解決のための選択肢はいくらでもあったのに…という事態は、おそらく法律事務所とクライアントの関係でも多いと思うが、実は企業内でも少なくない。

「この広告表現は問題ないでしょうか?」という質問が、広告の入稿後に来たり、「秘密保持契約を結びたいんですけど」という相談が、既にあらかた秘密を開示した後に来たりするのである。問題点を指摘すると、「えっ、それじゃ困ります! なんとかこのままでいけませんか?」と返ってくるのも常だ。

そんなとき、「アンタが相談に来るのが遅かったせいだろうが!」と胸ぐらをつかみたくなるのは、法律事務所でも企業法務部でも同じだと思うが、事務所とクライアントの関係では胸ぐらをつかむことはできないだろう。しかし事務所の先生方には安心してほしい。社内でも胸ぐらをつかむことは推奨されていないのだ。

「今さら後戻りできない!」に法務が流されてはいけない

ここで考えるべきことは二つある。
まず、“手遅れの相談”が来たときの相手に対する適切な接し方。そして、このような相談を繰り返させないための対策である。

いくら相手を責めても、目の前の問題は解決しない。
この点、外部の法律事務所なら「ウチでは手の施しようがありません」と話を打ち切ることもできようが、同じ社内だとそういうわけにもいかない。せめて、胸ぐらはつかませてほしい。

たとえば発売直前の商品について初めて相談を受け、法的リスクを捕捉したときに、それが確実に違法といえるものであれば、発売を延期してでも是正することに躊躇はないだろう。しかし現実にはグレーゾーンのリスクの方が多く、その場合、「本当に今から直さないといけないレベルの話なんですか?」という押し問答が発生しがちである。

こんなとき、現場部門の焦りと勢いに流されて、法務部門が「ま、まぁなんとかなるでしょう」「確かにバレる可能性は低いでしょう」などと法的リスクに目をつぶってしまうのが一番よくない。現場部門と同じレベルになってタイトロープを渡れば、いざ“なんとかならなかったとき”に、トラブルや不祥事から身を守れない

法的なイシューについて、現場部門が“なんとかなる”、“バレない”ことを期待するのは仕方がないかもしれないが、法務部門は“なんとならなかったとき”、“バレたとき”を常に考えなければならない。そこから逆算して今すべきことを判断するのだ。

手遅れのときこそ、手取り足取りのサポートが大切!

発覚したときに会社に不利益を生じる問題であれば、やはり正さなければならない。
しかしこのとき、「問題があるので直してください」と突っぱねるだけでは冷たく、現場部門との良好な関係は築けない

口を出すだけではなく、是正するにあたっての障害―たとえばスケジュール調整、コスト調整、関係各所への説明など―を取り除くための協力をなるべく惜しまない姿勢が必要だ。
「今から直すなら猶予が〇日しかない、××万円かかる」という障害があれば、最短・最安で済むような代替案を現場と一緒になって考えたり、なるべくスピーディな意思決定ができるように最速の法的検討をしたりすべきである。お偉いさんや関係部署に頭を下げないといけないなら、「こういう法的問題があり、仕様変更・発売延期はやむなしです」などと説明役を買って出ることも厭わないことだ。
「今からの修正は大変でしょうが、こっちも協力しますから」という申し出をするだけでも、現場部門からの印象は良くなる

なんで法務部がそこまで現場におもねらないといけないんだ、という意見もあるだろうが、良好な関係の構築こそが重要である。最終的には、こういった“手遅れの相談”が繰り返されないように、なんでも早めに相談してもらう環境を整えることが必要なのだ。
しかし現場と法務部門の関係が冷え込んでいると、かえって「次からは法務に相談しないで黙って通してしまえ」という発想になりかねない。これは最悪だ
一緒になって難局を乗り切ることで、現場と法務の強い結びつきが生まれるのだ。

法律相談の抜け漏れを防ぐシステムをつくろう

“手遅れの相談”を繰り返させないためにはどのような工夫が必要だろうか。
一つには、現場部門の業務フローの中に、リーガルチェックのプロセスをあらかじめ組み込むという仕組みづくりだ。たとえば、

・ 新規取引先との商談を進める前に与信調査を依頼する

・ 秘密情報の開示を伴う取引の前に秘密保持契約書の作成を依頼する

・ 商品は最終仕様を固める前に表示や知財の調査を依頼する

といったように、企画開発の所定のタイミングにおける必要なリーガルアクションをあらかじめ決めておくのだ。できれば、それを経ないと次のステップに進めない(社内承認が下りない)ような仕組みになっていれば、なお良い。
こうしたシステマチックなリーガルチェック体制を整えることで、相談の抜け漏れはだいぶ抑止できるはずである。

相談しやすい環境は「相談すれば得をする」という信頼でつくられる

一方、ビジネスとは生き物だ。現在のビジネススキームを前提に想定している業務フローやプロセスが、常に適当だとは限らない。システムに頼りすぎていると、システムが想定していなかったリーガルリスクが見過ごされてしまうのだ
そうすると結局、やはりローンチの直前になって「そういえばこれって、一度も法務に見てもらってないけど大丈夫なんでしたっけ?」という“手遅れ”の事態が発生してしまうのである。

したがって、大切なのは仕組みづくりに加えて、現場部門が新しいことを始めるときや、少しでも不安になったときには気軽に相談してもらえる環境を整えることである。そのために最も必要なのは、「法務に早めに相談した方が得をする」という認識と信頼感を現場に醸成させることだ。

実際に、協業や共同研究などの商談に出向く前に早めに相談してもらえれば、

「その前に特許出願しておきましょう」
「こういう契約条件には注意しましょう」
「この情報は開示したら保護できないので伏しておいた方がいい」

など、交渉を有利に展開するうえで役に立つアドバイスができる。
また、商品仕様や広告表現などについても、余裕をもって相談してもらえれば、リーガルリスクを早めに捕捉し軌道修正も容易である。

「法務に相談すると面倒なことになる」と思われているむきもあるが、もし企業で共に働く仲間からそのように思われているなら、自らを恥じなければいけない。相談の敷居を低くして、現場部門の役に立つ、得になるようなアドバイスを地道に積み重ねていくしかないのだ

それがたまたま“手遅れ”の相談だったとしても、冷たくあしらわずに、リカバーや次善策の実行のために親身に立ち回ることが、信頼感醸成のための積重ねの一つになる。法務に力量があれば、100%のソリューションではなくとも、なんとか道を切り拓けることもあるはずだ。
そのうえで、「次からはこういうときは早めに相談してくださいね」と指導すればよいのである。
それでもまた“手遅れ”の相談が繰り返されるようであれば、そのときは胸ぐらをつかんでビンタしよう。

→この連載を「まとめて読む」

友利 昴

作家・企業知財法務実務家

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務・知財実務に長く携わる傍ら、著述・講演活動を行う。最新刊に『エセ商標権事件簿―商標ヤクザ・過剰ブランド保護・言葉の独占・商標ゴロ』(パブリブ)。他の著書に『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)『エセ著作権事件簿』(パブリブ)『知財部という仕事』(発明推進協会)『オリンピックVS便乗商法—まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』(作品社)など。また、多くの企業知財人材の取材・インタビュー記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。一級知的財産管理技能士として、2020年に知的財産官管理技能士会表彰奨励賞を受賞。

Amazon.co.jpでの著者紹介ページはこちら