企業活動のDX化を後押しするための令和3年電子帳簿保存法改正への対応 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに―電子帳簿保存法改正の概要

昨今、サステナビリティ経営へのシフトやコロナ禍におけるリモートワークの常態化などを契機として、ビジネスや働き方に関する社会環境、技術、価値観は急速な変化を続けています。それに伴い、企業活動の各分野においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)も急速に進展しています。
当然ながら、経理分野においてもDXを求める動きは広がっています。具体的には、立替経費精算や請求書関連業務に係るプロセスのデジタル化・効率化・ペーパーレス化対応や、情報管理プラットフォームの利用による企業グループ内での会計・税務関連データの効率的な収集・集中管理や税務申告書の作成や電子申告などの自動化・効率化など、多岐にわたります。これらのうち、領収書・請求書等に基づく取引情報の入力・保存における自動化・電子化・ペーパーレス化に適切に対応するためには、税法で定める電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成10年3月31日法律第25号)。以下、本稿では「電子帳簿保存法」といいます)を正しく理解して法令対応を行う必要があります。

電子帳簿保存法とは、税法上保存が必要とされる帳簿書類などに関して電子的に保存する場合の要件を定めた法律です。電子帳簿保存法の規定は大きく「電子取引」「スキャナ保存」「電子帳簿」の三つに分類されます。電子帳簿保存法は、こうした時代の変化に対応すべく令和3(2021)年度の税制改正において抜本的な改正が行われました(令和4(2022)年1月1日より施行)。この改正においては「事前承認制度の廃止」や「各種保存要件の緩和」といった利用の促進を目的とするものだけではなく、「不正があった場合のペナルティの創設」、さらには「電子取引に係るデータによる保存の義務化(代替措置の廃止)」など実務において大きな影響を与える内容となっています。したがって、企業が経理分野におけるDXに取り組む際に法令による文書保存義務を遵守するためには、この改正内容を正しく理解することが不可欠です。

そこで、本稿では、企業のDXをさらに推し進めるために必要な令和3年電子帳簿保存法改正のポイントについてご紹介したいと思います注1

電子取引に係る電磁的記録の保存義務

保存義務の対象範囲

「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式を利用して行う取引をいいます。ここでいう「取引情報」とは、取引に関して受領または交付する契約書、領収書、請求書などで、その範囲は広く、たとえば、取引先から電子メールに添付される形で受領したPDFの請求書やEDI取引で取引先に交付した注文書などが該当します。
これらの電子取引を行った事業者(所得税法および法人税法に係る国税関係帳簿書類の保存義務者)は、原則として、その電磁的記録を一定の要件(図表1を参照)に従ってデータでの保存を行わなければなりません。電子取引の保存については電子帳簿やスキャナ保存と異なり、事業者が任意で適用できる制度ではなく法令上の義務である点に留意が必要です。

保存要件

令和3年度制改正後の電子取引に係る電磁的記録の保存要件は図表1のとおりです。

図表1 電子取引のデータ保存に係る要件

真実性

下記のうちいずれかを充足

① 発行者側でのタイムスタンプ※1付与

② 受領者側でのタイムスタンプ※1付与(最大約2か月以内)および保存者情報の記録・確認

③ 訂正削除の履歴が確認できるシステムまたは訂正削除のできないシステムで取引データを授受・保存

④ 正当な理由がない訂正削除防止のための事務処理規程の整備

関係書類の備え付け

・ システム概要書の備え付け(自社開発プログラムの場合のみ)

見読可能性

・ 一定のスペックのディスプレイ・プリンタ等の出力装置の設置

・ 整然とした形式・明瞭な状態での速やかな出力

検索機能※3

・ 取引等の年月日、取引金額、取引先による検索機能

・ 日付または金額に係る記録項目についての範囲指定検索機能※2

・ 2以上の記録項目を組み合わせた複合検索機能※2

※1 一般財団法人日本データ通信協会が認定する時刻認証業務の認定を受けた認定事業者が発行し、改ざん検知・一括検証機能を有するもの。NTPサーバとの同期がある他社クラウド等の場合にはタイムスタンプ不要。
※2 税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができる場合にはこれらの機能は不要。
※3 基準期間売上高が1,000万円以下の小規模事業者の場合で、税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができる場合には、すべての検索要件が不要。

保存要件の充足の検討にあたって、実務上特に問題となるのが「真実性の要件」と「検索機能の要件」です。
電子取引の範囲は広範にわたるため、まずは社内で発生する電子取引の種類、関連する業務処理や使用するシステム等の棚卸をして全体像を把握することが肝要です。そのうえで、真実性の要件に関してはすべての電子取引について図表1におけるのタイムスタンプのみで要件を充足することは難しい場合が多いため、その場合は、の内部規程の整備を行い、タイムスタンプが付与されない電子取引に関する真実性の要件を確保する必要があります。検索機能の要件については、使用するシステムごとに電子取引データが保存されている場合には、それらのすべてのシステムにおいて要件の充足を確認する必要がありますので、検索機能の要件を充足する文書管理システムを導入して保存先を一元化することなどが有効です。また、システムの選定にあたっては、JIIMA認証制度の認証を受けているシステムかどうかを確認することも有用です。

「JIIMA認証制度」注2とは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(通称JIIMA)が、市販されているソフトウェア等について電子帳簿保存法の要件を満たしているかをチェックし、法的要件を満たしていると判断したものを認証している制度です。JIIMAが認証しているシステムを使用することで、保存要件のうちシステム上の要件の充足については事業者において細かくチェックすることなく、法令に準拠して電子帳簿保存法対応を行うことができます。なお、このJIIMA認証に関しては、電子取引だけではなく、後述するスキャナ保存制度や電子帳簿制度に対応するソフトについても認証が行われており、国税庁のホームページ注3において認証されたソフトのリストが公開されています。

令和3年度税制改正の主な改正内容

電子取引に係る令和3年度税制改正の主な改正内容は図表2のとおりです。

図表2 電子取引のデータ保存に係る主な改正内容

 

改正前

改正後

タイムスタンプ要件の緩和

・ 保存上の措置をタイムスタンプによる場合、電子取引データの受領後、遅滞なくタイムスタンプの付与が必要

・ 保存上の措置をタイムスタンプによる場合、タイムスタンプの付与までの期間を最長約2か月とする

検索要件の緩和

・ 取引年月日、その他の日付、取引金額その他の主要な記録項目による検索、日付・金額の範囲指定検索、2以上の記録項目の組合せによる複合検索機能が必要

・ 検索項目を取引年月日、取引金額および取引先に限定

・ 範囲指定検索機能および複合検索機能について税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができる場合にはこれらの機能は不要

・ 基準期間売上高が1,000万円以下の小規模事業者の場合には検索機の要件は不要

要件を満たさない場合の取扱い

・ 保存要件を満たさない電子データは国税関係書類等と扱わない

罰則規定の追加

・ 電子データに関し隠蔽または仮装があった場合に課される重加算税を10%加重

出力書面保存による代替措置の廃止

・ 電子データの出力書面の保存をもって電子データの保存に代えることが可能

・ 電子データの出力書面の保存による代替措置は廃止(ただし令和5(2023)年12月31日までは宥恕措置あり)

「保存要件の緩和」については、タイムスタンプの付与期間が「最長2か月とおおむね7営業日」となり、検索要件の記録項目が取引年月日その他の日付、取引金額および取引先の3項目に限定されるなど、いずれも事業者にとっては有利な改正といえます。

一方で実務上、最も影響を与えるのが「出力書面等による代替的措置の廃止」です。従来は、電子取引にかかる電磁的記録に関しては、電子データによる保存と出力書面による保存、どちらも認められておりましたが、令和3年度の税制改正では、令和4年1月1日以後に行われる電子取引については出力書面による保存は認められず、電子データによる保存が必須となりました。
しかしながら、改正から短期間での制度対応が困難となっている事業者が数多く存在していることから、その実情に配意するために、令和4(2022)年度税制改正により、令和4年1月1日から令和5(2023)年12月31日までの2年間に限定して、やむを得ない事情により保存要件に従ってデータ保存ができなかった場合の宥恕規定が設けられ、その出力書面を保存している場合には適法に保存義務を果たしていると認められることとなりました。

なお、ここでいう「やむを得ない事情」とは、たとえば、電子取引の保存にかかるシステムの導入や社内のワークフローの整備が間に合わなかったなど、自己の責めに帰さないとは言い難い事情も含まれるため、実質的には2年間の準備期間が追加されたといえます。したがって、令和6(2024)年以降の電子取引に向けて法令対応への準備を整えておくことが重要です。

国税関係書類のスキャナ保存制度

保存義務の対象範囲

「国税関係書類スキャナ保存制度」(以下、単に「スキャナ保存精度」といいます)は、取引の相手方から受領した領収書や請求書等について、一定の保存要件(図表3を参照)のもとで、書面による保存に代えて、それらの書類をスキャナで読み取って作成した電子データの形式で保存することを認める制度です。
スキャナ保存制度の対象となる書類は、国税に関する法律の規定により保存をしなければならないこととされている書類(国税関係書類)のうち、貸借対照表、損益計算書などの決算関係書類を除くすべての書類です。また、これらの書類については、その内容や性質から重要書類と一般書類に区別され、その区分に応じて保存要件が異なっています。「重要書類」とは資金や物の流れに直結・連動する書類は契約書や領収書などが該当し、「一般書類」とは資金や物の流れに直結・連動しない書類で、検収書や見積書などが該当します。

保存要件

令和3年度税制改正後の国税関係書類のスキャナ保存制度における保存要件は図表3のとおりです。

図表3 国税関係書類のスキャナ保存に係る要件(重要書類の場合)※1

真実性

・ スキャンデータへのタイムスタンプ※2の付与(最大約2か月以内)

・ 入力者情報の記録・確認

・ 一定のスペックのスキャナ装置の使用

・ 解像度・大きさ情報の保存

・ スキャンデータの訂正・削除履歴の保持、または訂正・削除のできないシステムの利用

相互関連性

・ スキャナ保存する書類と関連する国税関係帳簿との相互関連性の確保

関係書類の備え付け

・ システム概要書・開発関係書類の備え付け(自社開発プログラムの場合のみ)

・ システムの操作説明書の備え付け

見読可能性

・ 一定のスペックのディスプレイ・プリンタなどの出力装置の設置

・ 整然とした形式・明瞭な状態での速やかな出力

検索機能

・ 取引等の年月日、取引金額、取引先による検索機能

・ 日付または金額に係る記録項目についての範囲指定検索機能※3

・ 2以上の記録項目を組み合わせた複合検索機能※3

※1 一般書類(資金や物の流れに直結・連動しない書類)の場合には、入力期限要件の緩和や、グレースケールでのスキャナ装置を認める等要件の緩和あり。
※2 一般財団法人日本データ通信協会が認定する時刻認証業務の認定を受けた認定事業者が発行し、改ざん検知・一括検証機能を有するもの。NTPサーバとの同期がある他社クラウド等の場合にはタイムスタンプ不要。
※3 税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができる場合には、これらの機能は不要。

保存要件の充足の検討にあたって実務上特に問題となるのは、電子取引と同様に「真実性の要件」と「検索機能の要件」です。検索機能の要件については電子取引と同様になりますが、真実性の要件の充足にあたっては電子取引とは要件が大きく異なる点に留意が必要です。

スキャナ保存における真実性の要件の充足においては、基本的にはスキャナデータについてのタイムスタンプの付与が必要となりますが、税制改正において入力期限内に電子データの保存を行ったことを確認することができる場合には、タイムスタンプの付与の代替となる要件が設けられました。ただし、この代替要件の具体例としては、他社が提供するSaaS型のクラウドサーバ(訂正削除履歴が残るまたは訂正削除ができないシステムに限る)により保存を行い、自社システムによる時刻の改ざん可能性を排除することやNTPサーバ(ネットワーク上で現在時刻を配信するためのサーバ)と同期している必要があると考えられます。
このように、使用できるシステムが限定される点や、その要件の充足について慎重に検討を行う必要がある点からタイムスタンプを導入する場合と比較して、要件充足のハードルは高いものと考えられます。

令和3年度税制改正の主な改正内容

スキャナ保存制度に係る令和3年度税制改正の主な改正内容は図表4のとおりです。

図表4 国税関係書類のスキャナ保存に係る主な改正内容

 

改正前

改正後

事前承認制度の廃止

・ スキャナ保存開始の3か月前までに税務署に申請が必要

・ 承認制度は廃止

タイムスタンプ付与期限の緩和

・ 領収書等の受領後、入力方式に応じてタイムスタンプの付与期限が異なる(最短で受領からおおむね3営業日以内にタイムスタンプの付与が必要)

・ タイムスタンプの付与期限を最長約2か月以内に統一

タイムスタンプの要否

・ すべてについてタイムスタンプが必要

・ 入力期限内に電子データの保存を行ったことを確認することができる場合にはタイムスタンプは不要

自署要件の廃止

・ 領収書等の受領者等がスキャニングする際には自署が必要

・ 領収書等の受領者等がスキャニングする場合でも自署は不要

適正事務処理要件

・ 適正事務処理要件(相互牽制、定期検査、問題の再発防止策の体制構築と社内規定の整備が必要)

・ 適正事務処理要件は廃止

検索要件の緩和

・ 取引年月日、その他の日付、取引金額その他の主要な記録項目による検索、日付・金額の範囲指定検索、2以上の記録項目の組合せによる複合検索機能が必要

・ 検索項目を取引年月日、取引金額および取引先に限定

・ 範囲指定検索機能および複合検索機能について税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができる場合には、これらの機能は不要

要件を満たさない場合の取扱い

・ 保存要件を満たさない電子データは国税関係書類等と扱わない

罰則規定の追加

・ なし

・ 電子データに関し隠蔽または仮装があった場合に課される重加算税を10%加重

スキャナ保存制度の主な改正内容は、

・ 税務署への事前承認制度の廃止

・ タイムスタンプ付与期限の緩和

・ タイムスタンプの付与の代替要件の創設(3.を参照)

・ 自署要件の廃止、適正事務処理要件の廃止

・ 検索要件の緩和

など、そのほとんどが事業者にとって有利な改正といえます。
一方で、税務署への事前承認制度が廃止されたことは手続の面やスケジュールの面では事業者の負担は減りますが、裏を返せば当局からの確認を受けずに制度を開始することとなるため、事業者自らが、より慎重に要件充足について確認を行う必要があるともいえます。

これは、「保存要件を満たさない電子データは国税関係書類と扱わない」とする改正にも影響していて、最悪のケースの場合、青色申告に係る承認の取り消し事由にもなりうるとされています。

もう一つの懸念点は、「適正事務処理要件の廃止」です。この要件は、国税関係書類に受領等から入力までの各事務について、事業者において入力処理に関する

・ 相互けん制機能体制の構築

・ 定期的な検査の実施

・ 各処理に関して不備があった場合の再発防止対策等に関する規程の作成

を行うとともに、これらに基づき当該各事務を処理する要件です。これらの規程は、まさに企業内での有効な内部統制としての体系化された仕組みづくりの基盤となり、税務コンプライアンスが適切に実行されるために有効な措置です。令和3年度改正においてこの要件が廃止となったため、必ずしもこのような社内の体制づくりを整備せずとも制度を利用できることとなりました。
一方で、不正があった場合に課されるペナルティが加重される改正も踏まえても、税務上の要件の緩和にかかわらず、事業者が自ら適切なガバナンスの構築を行うことがこれまで以上に求められることとなったといえます。

国税関係帳簿のデータ保存制度

保存義務の対象範囲

電子帳簿保存法において電子保存が認められている「国税関係帳簿」とは、国税に関する法律の規定によって備え付けと保存が義務づけられている帳簿のことをいいます。具体的には、法人税法の場合、

・ 仕訳帳

・ 総勘定元帳

・ その他の補助簿(売上帳、仕入帳、固定資産台帳等)

が該当します。
「国税関係帳簿のデータ保存制度」とは、これらの国税関係帳簿について、最初の記録段階から一貫してパソコン等を使用して作成を行い、かつ、一定の保存要件(図表5を参照)を充足することで、書面による保存に代えて、電子データの形式で保存することを認める制度です。

保存要件

令和3年度税制改正後の国税関係帳簿のデータ保存制度における保存要件は図表5のとおりです。

図表5 国税関係帳簿のデータ保存に係る要件

 

優良電子帳簿(特例国税関係帳簿)

一般電子帳簿(その他の電子帳簿)

訂正・削除履歴

・ 記録事項の訂正・削除を行った場合に事実および内容を確認できること

(充足不要)

・ 通常の業務処理期間経過後の入力履歴を確認できること 

(充足不要)

相互関連性

・ 他の国税関係帳簿との相互関連性の確保

(充足不要)

関係書類の備え付け

・ 経理規程、事務手続規程等の整備、備え付け

・ 経理規程、事務手続規程等の整備、備え付け

・ システム概要書・開発関係書類の備え付け(自社開発プログラムの場合)

・ システム概要書・開発関係書類の備え付け(自社開発プログラムの場合)

・ システムの操作説明書の備え付け

・ システムの操作説明書の備え付け

見読可能性

・ 一定のスペックのディスプレイ・プリンタなどの出力装置の設置

・ 一定のスペックのディスプレイ・プリンタなどの出力装置の設置

・ 整然とした形式・明瞭な状態での速やかな出力

・ 整然とした形式・明瞭な状態での速やかな出力

検索機能

・ 取引等の年月日、取引金額、取引先による検索機能

(充足不要)

・ 日付または金額に係る記録項目についての範囲指定検索機能※1

(充足不要)

・ 2以上の記録項目を組み合わせた複合検索機能※1

(充足不要)

ダウンロード要件

(該当なし)

・ 税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができること※2

※1 税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができる場合にはこれらの機能は不要。
※2 訂正削除履歴要件、相互関連性要件、すべての検索機能要件を充足している場合には、ダウンロード要件は不要。

まず、令和3年度の税制改正により、その帳簿の種類が

・ 優良電子帳簿

・ その他の電子帳簿(以下、簡便的に「一般電子帳簿」といいます)

の2種類に分類されました。
「優良電子帳簿」とは、「一般電子帳簿」よりも満たすべき保存要件が多くなっていますが、要件に従って備え付けおよび保存が行われている場合には、当該優良電子帳簿に係る過少申告加算税(ペナルティ)の軽減措置を受けることができます(詳細については下記3.を参照)。一方で「一般電子帳簿」とは、税制改正前の保存要件と比較しても必要最低限の要件のみで保存が認められる帳簿です。
保存要件の検討にあたっては、「一般電子帳簿」については特に導入にあたって障害となるハードルはないものと考えますが、「優良電子帳簿」については、電子取引およびスキャナ保存制度と同様の検索機能の要件や訂正・削除等の履歴の確保の要件、各帳簿間での記録事項の相互関連性の確保の要件等が必要となるため、使用しているシステムでの対応が可能か慎重に検証を行う必要があります。

令和3年度税制改正の主な改正内容

国税関係帳簿のデータ保存制度に係る令和3年度税制改正の主な改正内容は図表6のとおりです。

図表6 国税関係帳簿のデータ保存に係る主な改正内容

 

改正前

改正後

 

優良電子帳簿

一般電子帳簿

事前承認制度の廃止

・ スキャナ保存開始の3か月前までに税務署に申請が必要

・ 承認制度は廃止

届出要件

・ その帳簿の保存を行う者が所定の届出書をあらかじめ税務署長等に提出すること

加算税軽減制度

・ 記録事項に関し修正申告・更正等があった場合に課される過少申告加算税を5%軽減※1

関係書類備え付け・見読可能性要件

・ システム概要書等の関連書類に備え付けが必要

・ 整然として形式および明瞭な状態での速やかな出力

・ 現行と同様

・現行と同様

ダウンロード要件

・ 税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができること

検索要件の緩和

・ 取引年月日、その他の日付、取引金額その他の主要な記録項目による検索、日付・金額の範囲指定検索、2以上の記録項目の組合せによる複合検索機能が必要

・ 検索項目を取引年月日、取引金額および取引先に限定

・ 範囲指定検索機能および複合検索機能について税務調査等で電子データの提示または提出の要求に応じることができる場合には、これらの機能は不要

・ 検索機能要件は不要

訂正削除履歴要件

・ 記録事項の訂正・削除を行った場合に事実および内容を確認できること

・ 通常の業務処理期間経過後の入力履歴を確認できること

・ 現行と同様

・ 訂正削除履歴要件は不要

相互関連性要件

・ 記録事項とその取引に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できること

・ 現行と同様

・ 相互関連性要件は不要

※1 優良電子帳簿につき過少申告加算税の軽減措置の適用が受けることができるのは、当該法人が保存すべきすべての帳簿について上記の要件を満たし、法定申告期限までに届出を行った場合に限られる。

国税関係帳簿のデータ保存制度の主な改正内容は、前述した

・ 「一般電子帳簿」と「優良電子帳簿」の区分と保存要件の設定

・ スキャナ保存制度同様の税務署への事前承認制度の廃止

・ 優良電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置

などが挙げられます。税制改正前の保存要件は、改正後の「優良電子帳簿」とおおむね同等の保存要件が求められていましたが、改正後はとりあえず電子保存を始めたい事業者は「一般電子帳簿」を選択し、既に改正前に承認を受けていて要件の充足が見込まれる事業者などの場合には「優良電子帳簿」について検討をして加算税の軽減措置のインセンティブを得るなど、導入のハードルが下がったとともに、選択肢も広がったといえます。

ただし、この加算税の軽減措置の適用を受ける場合には大きな留意点があります。それは、この措置の適用を受ける場合には、過少申告加算税の対象となる取引に係る対象の帳簿のすべてについて、「優良電子帳簿」の保存要件を充足する必要があることです。
たとえば事業部または支店ごとに国税関係帳簿を備え付けている場合であっても、そのすべての帳簿について「優良電子帳簿」の保存要件を充足する必要があり、また、固定資産台帳などの補助簿が仕訳帳や総勘定元帳と異なるシステムで記帳されている場合には、それぞれのシステムごとに各種の要件を充足しているかの確認が必要となります。つまり、事業の規模が大きい場合や作成している帳簿の種類が多い場合には、検討と対応にあたり多くの時間を要することが想定されるのです。

国税関係帳簿のデータ保存を検討する場合には、事業者において作成されている帳簿を把握し、対象となる帳簿が税法上の要件を満たしているかを確認し、「そのデータがどのシステムで作成され、どのような状態で保存されているか」といった全体像を把握することが重要です。そのうえで、最低限の要件を満たして「一般電子帳簿」として保存するのか、「優良電子帳簿」として過少申告加算税の軽減措置の適用を受けるのか、もしくは段階的に導入していくのかなど事業者の目標実現のための方向性を決定していくことが必要となります。

電子契約と電子帳簿保存法上の保存義務

電子契約の意義

「電子契約」の意義については、法令上一義的に定められているわけではなく注4、実務上も多義的に用いられています。広義としては、たとえば紙の契約書をPDF化した場合も「電子契約」と称されることもあり、それぞれの場面に応じてその意義を捉えていく必要があります。本稿では、昨今普及しつつある電子契約・電子署名にかかるサービスを念頭に、電磁的記録に対して電子証明書を用いた電子署名を付すことにより締結された契約を意味するものとして、「電子契約」について概説します。

電子契約に係るサービスの類型と電子署名の有効性

電子契約に係るサービスについては、大きく

・ 当事者署名型

・ 事業者(立会人)署名型

に分類され、それぞれの概要は図表7のとおりです。

図表7 電子契約に係るサービスの類型

① 当事者署名型 (a)ローカル署名型

契約当事者の保有する秘密鍵※1を用いた電子署名が行われる類型のうち、当該秘密鍵を契約当事者自身がICカード等で保管する類型

(b)リモート署名型

契約当事者の保有する秘密鍵を用いた電子署名が行われる類型のうち、当該秘密鍵をネット上のサーバに預けて管理する類型

② 事業者(立会人)署名型

電子契約サービス事業者が保有する秘密鍵により電子署名が行われる類型

※1 「秘密鍵」とは、電子署名を行う際の暗号化技術である「公開鍵暗号技術」において使用される用語であり、「公開鍵暗号技術」では、1組のペアとなる暗号鍵、すなわち「秘密鍵」と「公開鍵」を用いる。電子署名を行う者は、「秘密鍵」を用いて電子文書を暗号化する。他方、当該電子文書を復号するためには、当該「秘密鍵」とペアになる「公開鍵」を用いる必要がある。したがって、当該「公開鍵」により復号することができた場合には、ペアになる正しい「秘密鍵」により電子署名が行われていたことを確認することができる(以上の仕組みにつき、法務省ウェブサイト上の解説も参照)。

以上の類型において行われる電子署名の有効性を検討する前提として、「電子署名及び認証業務に関する法律」(平成12年5月31日法律第102号)上の「電子署名」とは、以下の要件を満たすものとして定義されています。

電磁的記録注5に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するもの

❶ 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること(本人性の要件)

❷ 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること(非改ざん性の要件)

この点、図表7に示した電子契約に係るサービスのうちの「当事者署名型」については、従前より、「電子署名」の要件を満たすものとして考えられてきました。
他方、の「事業者(立会人)署名型」については、「電子署名」への該当性について議論があったものの、一定の要件のもとで該当しうることが関係省庁により明らかにされています注6。すなわち、「技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合」であれば、上記の本人性の要件が認められうることが示されました。
たとえば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を一つの措置と捉え直すことによって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には、の本人性の要件を満たすこととなり、あわせての非改ざん性を満たすものであれば、図表7の「事業者(立会人)署名型」の電子署名であっても、同法上の「電子署名」に該当することとなります。

電子帳簿保存法における電子契約の位置づけ

以上のような電子契約に関して、電子帳簿保存法上の位置づけについて若干付言すると、所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます)および法人税に係る保存義務者が「電子取引」を行った場合には、当該取引情報を電磁的記録により保存しなければならないとされています。
ここで、「電子取引」とは、「取引情報…の授受を電磁的方式により行う取引をいう」ものと定義されており、その取引情報の具体的な内容として、「取引に関して受領し、又は交付する…契約書」が含まれています。したがって、上記2.で言及したような電子契約を授受した場合には、上記保存義務者に該当する限りにおいて、法定の要件を満たした形で保存することが必要となります(当該保存に係る法定の要件の詳細については、本稿のを参照)。

おわりに

ここまで説明してきたように、電子帳簿保存法対応にあたって、企業の法務担当に求められる業務は多岐にわたります。その中でも特に重要となるのは以下の点であると考えます。

・ 電子取引のデータ保存義務等に関する法令上の要請への対応により、法令による文書保存義務の遵守を確実に実行すること

・ 電子データへの改ざんや処理の誤りを防ぐために社内の文書保存規定の整備や業務フローの構築により、内部統制機能を強化し、税務リスクの低減につなげること

電子帳簿保存法を正確に理解して、法務面からも企業活動のDXを後押しして検討を進めることが効果的であるといえます。
本稿が企業活動のDX化の一助となれば幸いです。

[注]
  1. なお、電子帳簿保存法の制度概要および実務について、より詳細な情報をお求めの際は、PwC税理士法人編『令和3年度改正に対応 電子帳簿保存法の制度と実務』(清文社、2021)をご参照ください。[]
  2. 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会ホームページ「JIIMA認証制度」[]
  3. 国税庁ホームページ「JIIMA認証情報リスト」[]
  4. たとえば、以下のとおり、当該法令の趣旨や効果に応じて「電子契約」の定義が書き分けられています。
    ① 電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年6月16日法律第64号)2条第2項:「事業者が一方の当事者となる契約であって、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により契約書に代わる電磁的記録が作成されるものをいう。」
    ② 特定商取引に関する法律施行規則(昭和51年11月24日通商産業省令第89号)16条1項1号:「販売業者又は役務提供事業者と顧客との間で電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信技術を利用する方法により電子計算機の映像面を介して締結される売買契約又は役務提供契約であつて、販売業者若しくは役務提供事業者又はこれらの委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従つて、顧客がその使用する電子計算機を用いて送信することによつてその申込みを行うものをいう。」 []
  5. 電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいいます。[]
  6. 総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(令和2年7月17日)[]

金杉 恭平

PwC税理士法人 電子帳簿保存法対応支援チーム マネージャー/税理士

日系企業および外資系企業に対して、税務申告業務や税務調査対応などの税務コンプライアンスサービスに従事するとともに、M&Aにおけるデューデリジェンスや組織再編、連結納税および国際税務に関する税務アドバイスを行っている。2020年からPwCの電帳法対応支援サービスのメンバー。

木下 聡子

PwC弁護士法人 電子契約専門チーム マネージャー/弁護士

国内外のM&Aやコーポレート案件を幅広く取り扱い、航空機ファイナンスなどの金融案件に携わった経験も有する。

令和3年度改正に対応 電子帳簿保存法の制度と実務

編著者:PwC税理士法人[編]
出版社:清文社
発売日:2021年12月3日
価 格:4,180円(税込)