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はじめに―株主総会の4類型

会社法上、株主総会を招集する際には、「場所」の決議が必要とされている(会社法298条1項1号)。この規定の存在を根拠として、株主総会を開催するには、物理的な場所の存在が必要不可欠であり、会場の存在を前提としないバーチャルオンリー株主総会は実施することができないと解するのが通説的見解である。
ただ、インターネット技術の発展などによって、参加者の全員が特定の場所に参集することなく、会議を開催することが容易になった。株主総会においても、完全バーチャル化は不可能であったとしても、会場開催とインターネットでの配信を併用することで、より多くの株主が総会に関与することができるはずである。そうした問題意識のもとで、経済産業省が2020年2月26日、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下、「実施ガイド」という)を公表し、株主総会を以下の四つの類型に分類する考え方を提示した。

① リアル株主総会:会場で株主総会を開催する伝統的な類型

② ハイブリッド参加型バーチャル株主総会:株主総会の模様をインターネットで同時配信するというもので、株主はインターネットで株主総会の様子を閲覧することができる。

③ ハイブリッド出席型バーチャル株主総会:株主総会の模様を同時配信するだけでなく、株主はインターネットで株主総会の様子を視聴するのに加え、質問や議決権行使などを行うことができ、株主総会に「出席」することができるというもの

④ バーチャルオンリー株主総会:会場を用意せず、インターネット等を通じてのみ株主が総会に出席することができるというものであり、会社法上は実施不可とされている類型

経産省の実施ガイドが公表されたのと偶然同じタイミングで、実務は新型コロナウイルス感染症によるパンデミック対応に直面し、来場自粛要請や開催時間の短時間化を推し進めた。これにより、株主との対話機会が限定されることとなり、その代替手段として、インターネット等の活用が一気に検討されることとなった。特に、大規模総会の実施会社においてハイブリッド参加型バーチャル株主総会の採用が広がり始め、中川雅博「2021年6月総会を振り返って」(旬刊商事法務2269号34頁)によれば、2021年6月総会において、招集通知の記載ベースでハイブリッド参加型が309社、出席型が14社、合計323社(6月総会全体の13.6%)に及んだとのことである。

以上のような背景の中で、産業競争力強化法の一部改正法(「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」(令和3年6月16日法律第70号))が2021年6月16日に公布、施行され、「場所の定めのない株主総会」(バーチャルオンリー株主総会)が解禁されることとなった。同改正法により、定款に「株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる」旨を定めることで、バーチャルオンリー株主総会を実施することが可能となり(産業競争力強化法66条1項)、実施ガイドが提示した4類型がすべて選択可能となったのである。経過措置規定により、施行日から2年間は、所定の条件を満たせば上記の定款規定が存在するものとみなすことができ、定款変更のための株主総会特別決議を経ずに、バーチャルオンリー株主総会を開催することができることとされている。

同改正法を受けて、早速、2021年6月総会にて、10社がバーチャルオンリー総会の実施を可能とするための定款変更を行っている。さらに、経過措置規定を用いてバーチャルオンリー総会を開催する事例も登場した。2021年8月にはユーグレナ社が臨時株主総会を、9月にはグリー社フリー社が定時株主総会をそれぞれバーチャルオンリーの方法で開催した。
こうしてバーチャルオンリー株主総会が解禁され、上場会社はリアル、ハイブリッド参加型、出席型、バーチャルオンリーの4類型やその他の派生形を選択肢として持つことになった。株主総会にかかわる実務家にとっては、4類型それぞれの特性を見極め、各社各様での株主総会の獲得目標との関係で、合理的な選択と実務対応を進めていくことが求められる。
以下、本稿では、バーチャルオンリー株主総会について紹介する。本稿が株主総会を運営する企業担当者の理解に役立てば幸いである。

バーチャルオンリー株主総会の基本

産業競争力強化法の骨格

産業競争力強化法66条1項および2項の骨格は次のとおりである。

  • 1項:上場会社は、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業省令・法務省令で定めるところにより、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることができる。
  • 2項:1項の規定による定款の定めがある上場会社の取締役が場所の定めのない株主総会を招集する場合(その招集の決定の時において1項の経済産業省令・法務省令で定める要件に該当しない場合を除く)における会社法298条1項および4項、299条4項、317条ならびに318条1項…の規定中、本項(2項)の表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句とするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。

ポイントは、上場会社が、省令要件に該当することについて、経産・法務大臣の確認を受ければ、定款で、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定めることができ上場会社は、当該定款規定があれば、場所の定めのない株主総会として、株主総会を開催することができる、ということである。
そして前記のとおり、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえ、経過措置規定があり、施行後2年間は、上場会社は、経産・法務大臣の確認を受ければ、当該定款規定があるものとみなすことができる(改正法附則3条1項)。ただし、この経過措置規定を利用して開催したバーチャルオンリー総会では、上記の定款変更を行うことができないため(同条2項)、継続的にバーチャルオンリーの方法を採用するためには、一度はリアル総会を開催し、定款変更決議を経る必要がある。

バーチャルオンリー株主総会の開催4要件

バーチャルオンリー株主総会の開催に必要となるのは、

 上場会社であること

 省令要件を充足したうえで、経産・法務大臣の確認を受けること

 株主総会の特別決議による定款変更によって、定款規定を設けること(経過措置規定の存在は前記のとおり)

 招集決定時に省令要件を充足すること

の4要件である。
カギを握るのはの“省令要件”であり、これは

(ⅰ) 場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に関する事務の責任者を置いていること

(ⅱ) 場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に係る障害に関する対策についての方針を定めていること

(ⅲ) 場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針を定めていること

(ⅳ) 株主名簿に記載され、または記録されている株主の数が100人以上であること

の4要素からなる(「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令」(令和3年6月16日法務省・経済産業省令1号。以下、単に「省令」という)1条)。
要は、事務責任者を決めて、通信障害対策の方針を決めて、デジタルデバイドへの配慮方針を決めて、株主数が100人以上いればよい、ということである。
注目すべきは、パンデミック対応のための緊急避難措置としての要素が含まれていないことである。産業競争力強化法改正によるバーチャルオンリー株主総会の解禁は、今の新型コロナウイルス感染症の脅威への対策とした時限措置としてではなく、なかば恒久的な規制緩和としての措置として理解することができる。

バーチャルオンリー株主総会の開催方法

実際にバーチャルオンリー株主総会を開催する際の実務手順は、概要、次のとおりである。
まず、取締役会決議により、バーチャルオンリー株主総会の招集を決定する。その際の決議事項は、産業競争力強化法により、会社法298条1項が読み替えられており、「場所」の決議に代えて、「株主総会を場所の定めのない株主総会とする旨」を決議する(産業競争力強化法66条2項)。その他の招集決定事項(会社法298条1項各号・施行規則63条各号)は通常と同様である。また、「株主の利益の確保に資するものとして経産省令・法務省令で定める事項」が決議事項として追加されており、書面による議決権行使の採用、通信の方法、事前行使と当日行使の重複行使の取扱いの3点の決議が必要となる(省令3条)。

次に、招集通知を準備する際には、狭義の招集通知が変わる。招集通知記載事項(会社法299条4項、298条1項1号)も読み替えられており、招集決定事項(会社法298条1項1号)の記載としては、「場所」に代えて、「場所の定めのない株主総会とする」旨を記載する(産業競争力強化法66条2項)とともに、書面による議決権行使、通信方法、事前行使と当日行使の取扱いも記載する。加えて、バーチャルオンリー総会への出席方法(情報の送受信に必要な事項)、通信障害等への対策方針の概要、デジタルデバイドへの配慮方針の概要を記載する(省令4条)。狭義の招集通知は、全国株懇連合会理事会決定(「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の施行に伴う定款モデルおよび招集通知モデルの改正について」(2021年7月26日))により、バーチャルオンリー株主総会の開催を想定した招集通知モデルが提示されており、実務上、参考となる。

議事進行の基本は、リアル総会と変わらない。出席株主の本人確認(株主IDとパスワードの入力などで行う)、議長による議事進行、開会宣言、目的事項の説明、質疑応答、採決、閉会宣言の骨格はリアル総会と同様である。会議体の一般原則に照らした議事進行が求められるからである。質問の受付や動議の提出が可能となるようなシステムも必要となる。ハイブリッド出席型であれば、バーチャル出席株主による動議提出の制限が可能と解されているが(動議を出したければリアル会場に行けばよい)、バーチャルオンリー総会では、質問や動議提出の機会を用意しなければならない。ただし、テキストベースのみでの受付でよい。
議事進行の通信は、電話でも構わないが、基本的にはインターネットが中心となるであろう。特設のウェブサイトにて、動画(映像と音声)を配信し、質問・動議提出・議決権行使のための操作画面を用意することになり、プラットフォームを利用すればよい。現在、バーチャル総会の実施を可能とするプラットフォームの選択肢が広がっており、コストも低く抑えられつつある。
採決は、議決権行使の機能をシステム上で用意し、事前の議決権行使の集計データと当日行使分のデータを統合して対応する。可能であれば、議事の中で速報値を報告することも考えられる。集計に時間を要するのであれば、議事の中では承認可決の結果のみを報告し、詳細結果は臨時報告書で報告すればよい。全議案の集計がリアル総会に比して容易である点にバーチャルオンリー株主総会の特性がある。

バーチャルオンリー株主総会では、通信障害等による法的影響がリスクとなる。通信障害等の発生タイミングや議事に与える影響等によって、決議取消事由や決議不存在事由に該当しうる。経産省・法務省「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関するQ&A」(令和3年6月16日)は、「採決のタイミングで、通信障害により大多数の株主の議決権行使が妨げられたような場合等には、決議不存在事由と評価される可能性があると考えられます」と指摘する(Q8-1)。実務対応としては、通信回線の増強、予備回線の準備、バックアップの用意、システムの冗長化などのほか、延期・続行の決定の議長一任決議(産業競争力強化法66条2項)や予備日の設定で対応する。

今後の実務対応

バーチャルオンリー株主総会が選択肢に加わったことを受けて、実務上は、その実施を可能とするための定款変更を経ておくかどうかが検討事項となる。
定款変更の要否を検討する際には、バーチャルオンリー総会の意義・効用をいかに考えるかが判断軸となる。株主との対話機会の拡充を強調するのであれば、リアルとバーチャルを併用するハイブリッド型が選択肢となろう。では、バーチャルオンリー総会でこそ実現できることは何か。
まずは、将来のパンデミックや天災地変への備えとしての位置づけがある。
プラットフォームの利用が低コスト化しつつあることやリアル会場が不要となることからすれば、費用や手間の削減効果も大きい。小規模総会の会社であれば、徹底的な費用合理化を目的としてバーチャルオンリー総会を利用することは一案である。

これらに加えて、筆者は、会社のありたい姿を発信し、ノイズを遮断し、真に実質的な対話を実現するための価値提供型のチェリーピッキングを実現するための手段として、バーチャルオンリー総会に大きな可能性を感じている。画面の向こう側に語りかけるようなプレゼンテーションとし、コンテンツとしての価値を高める。質疑応答は、会議の目的事項に沿った質問を取り上げ、厳しい意見であっても、株主であれば関心を抱くはずの重要な質問に正面から向き合い、実質的な対話機会とする。寄せられた質問は総会後にオープンにする。機関投資家の傍聴も積極的に認めればよい。機関投資家の質問を取り上げてもよい。これらの取り組みを複合的に行い、結果として、客観性・透明性を高め、信頼を確保する。そうした実務上の工夫を重ねていけば、バーチャルオンリーの方法は、会議体としての株主総会の意義、効用をより高めるための合理的な手段となっていくのではないか。

バーチャルオンリー総会には独自の意義、効用があり、定款変更を行うことで将来の選択肢としては持っておくとともに、その実施を積極的に検討されることをお勧めしたい。

倉橋 雄作 氏

中村・角田・松本法律事務所 パートナー弁護士

2004年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録、中村・角田・松本法律事務所入所。2013年University of Oxford; Masters修了(Law and Finance)。2015年中村・角田・松本法律事務所パートナー。主に訴訟等の紛争案件、M&A・企業再編、会社法務を取り扱う。著書『コーポレートガバナンス・コードの読み方・考え方〔第3版〕』(共著)(商事法務、2021)『執行役員の実務』(商事法務、2018)ほか多数。

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