法務で、はたらく。三井不動産株式会社 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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総合職とインハウスの融合が生むシナジー法務

街づくりを通じて新しい価値を創造し続ける不動産業界のパイオニア・三井不動産株式会社。同社は、オフィス、商業施設、住宅、ホテル、物流施設など、多岐にわたる事業領域を展開しており、そのフィールドは全国、そして海外にも広がる。
近年では「産業デベロッパー」というキーワードの下、不動産デベロッパーを超えたプラットフォーマーとして、社会のイノベーション・付加価値の創出に積極的に取り組む。
三井不動産の総務部法務グループは、従来の不動産に関連する契約業務に加え、新規事業展開に伴う新領域へのチャレンジをリーガル面で支え、成長を促進し、事業に伴走する存在だ。その守備範囲は広範にも関わらず、法務グループの人員は11名という少数精鋭である。所属人員のキャリアにも同社ならではの特徴がある。メンバーの半数は、総合職としてジョブローテーションによりそれぞれの事業部で経験を積んでおり、必ずしもリーガルの基盤があるとは限らない。他方で、半数はインハウスローヤーが占めており、事業部の経験を持つ人員とリーガルの専門性を持つ人員が手を携えて業務を行う仕組みとなっている。
「法務に限らず、全社的な特徴として、“個人ではなく、チームで業務を行う”文化があります。法務グループでも3~4人がチームを組成し、議論を重ねブラッシュアップしてから部門に提案します。各チームは複数の事業領域を分担していますが、チーム内の人員は、総合職とインハウスを半々とし、事業と法律の知識バランスを意識していますね」と語るのはグループ長の奥村彰子氏。奥村氏はビルディング本部や商業施設本部を経て法務グループに着任した総合職だ。

法務相談の9割を社内で解決しつつ仕事と家庭の両立も実現

企業法務だけでなく商標管理をはじめとする知財業務まで担う法務グループだが、奥村氏は「全社の法務相談の9割は外部弁護士に依頼せず、社内で解決できています」と笑顔で話す。
「件数ではなく労力で言えば、“デベロッパーの典型的業務”と“新規事業への対応”が半々という感覚です。新規事業の場合、当該分野についての情報のキャッチアップやリスクの洗い出し、担当者の実現したい事業モデルの言語化などもあり、やはり時間はかかりますね」。
また、残りの1割を占める外部弁護士との協業についても、漫然と依頼するのではなく戦略的なものとなるよう日々メンバー間で議論をしている。
非常に密度の濃い業務をこなす同社の法務グループだが、忙殺されているような状況ではないそうだ。所属人員は30代半ばの年代が最も多く、子育てをしているメンバーも多い。仕事と家庭の両立に奔走する時期ではあるが、多くのメンバーは両立を実現しているという。「現在は週2日までのリモートワークが可能になっています。また、当社が事業展開するシェアオフィス「ワークスタイリング」の拠点でも執務することができます。リモートワーク時でなくとも外出打ち合わせの合間などにも利用できて便利ですよ」。
集中的な議論が必要な場合は対面会議で、同僚の子どもが熱を出した際には当日にウェブ会議に振り替えるなど、柔軟に働き方が選択できる。オフの時間は談笑が絶えないなど雰囲気は和気藹々としているそうだ。
企業の法務部として完成形に近いように見えるが、奥村氏によれば課題もあったという。それは、案件に関する記録と資料の整理だ。
「不動産業はプロジェクトが長期にわたることが多いため、十数年後の人が見ても当時の検討状況や対応方針が効率的に把握できれば、法務の知識や対応力の底上げに繋がります。そこで、以前は判例検索や書籍の検索がメインであったリーガルテックの導入を、案件管理にも拡充しました。案件の検討内容を一定のフォーマットで残し、見える化することは長期的観点で財産になると考えています」。

奥村 彰子 氏

法務は企業の全体像を見通せる魅力的な仕事

2020年から本格的にインハウスとして有資格者を採用してきた同社。現行の採用制度としては、有資格者は当初有期雇用の契約社員として働き、社内の登用制度に合格すれば専任社員となる選択肢も用意されている。
「専任社員になる以上は契約社員とは違うステージの役割を担ってほしいと感じています。チーム体制の構築等、マネジメント面などでの貢献も期待しています」。
また、これまでもインハウスや法律事務所での勤務経験がある有資格者の採用を行ってきたが、デベロッパーの法律実務に通じていることは資質として重視はしていないという。
「よく面接などで“不動産分野の経験がないとダメですか?”と聞かれますが、その必要はありません。同様に新規事業支援の経験も問いません。採用の際は、新しい分野の検討であっても、目の前のことを積極的に柔軟に吸収し自分の強みとしていける人かどうかを見ています」。
奥村氏は同社の法務グループで働く魅力を「契約書を通して、全社の事業が横断的に見渡せるところ」と評する。奥村氏自身は法務グループに配属前はオフィスの運営事業やブランディングに関わる業務、商業施設のテナント誘致業務に携わっていた。法務グループとして各事業部に関わることで、不動産業の王道である売買契約や土地賃貸借契約やその交渉の過程を見通すことができ、事業全般への理解が深まったという。
「企業のポリシーとして譲ってもよいところ、絶対に譲れないところを適切に把握し、あらゆる現場の交渉の方向性を決める場にメンバーの一員として同席できることは非常に勉強になりますし、醍醐味を感じます。契約のリスク判断においては経営陣の判断軸や方向性について把握する必要もあるので、企業の舵取りについても日々の業務で触れられることもやりがいといえますね」。

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奥村 彰子

三井不動産株式会社 総務部 法務グループ グループ長 奥村 彰子 氏
Akiko Okumura

03年三井不動産株式会社入社。商業施設本部、ビルディング本部を経て20年総務部法務グループ配属。23年グループ長。