インターネットプラットフォーマーとの交渉にイライラ!? - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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―現役知財法務部員が、日々気になっているあれこれ。本音すぎる辛口連載です。

※ 本稿は個人の見解であり、特定の組織における出来事を再現したものではなく、その意見も代表しません。

AIチャットボットにあしらわれるのはもうたくさん!

ECサイトで自社製品の偽物が売られている。動画サイトで自社コンテンツが無断使用されている。正当な権利者であるにもかかわらず、製品やコンテンツが権利侵害を理由にサイトから削除されてしまった。SNS上で自社名を検索すると根拠のない噂話が上位にヒットする…。
インターネットプラットフォームを巡る法的トラブルは、今やどんな企業にも無関係ではない。

しかし、これは知財・法務担当者にとって気が重い相談だ。何せ、問題を解決するために、まずどこに連絡を取っていいのかが容易に分からないのだ。実際にはAmazonやGoogleのような大手はもちろん、各社が知財や法的トラブル対応の窓口を設けていることは多いのだが、その窓口がどこにあるのかや、削除等を申し立てる手順が分かりにくい点は否めない。

電話をかければサポートセンターの職員が丁寧に教えてくれるようなユーザーフレンドリーさは期待できず、とにかく担当者と話せればなんとかなるだろうと思っても、AIチャットボットの窓口しか見つけることができず、何度メッセージを送っても芯を食ってない返答をされ、答えの書かれていないFAQページに飛ばされてしまったという御仁も多いのでは!?

しびれを切らして、弁護士を通してプラットフォーマーに直接内容証明郵便を送ったところ、散々待たされた挙げ句に「こちらのURLから苦情を申し立ててください」という案内が返ってきた…なんて話も聞かれる。なんともまぁコスパの悪い問い合わせではないか。

「Amazon 権利侵害」で検索すると何が出てくる!?

実は、一旦、プラットフォームごとの削除申請のステップやルールを把握し、それに則った申請を行えば、プラットフォーム上のトラブルはスムーズかつ、機械的に解決できることも少なくない。なんとかして申請方法をマスターする価値はあるのだ。
プラットフォーマー自身の案内が不十分でも、誰とも分からぬ親切な第三者が丁寧に解説してくれていることもある。公式サイト内の迷路をさまよう前に、検索サイトで調べてみよう。

一昔前は、Amazonで販売されている商標権侵害品を削除する方法を知りたくて「Amazon 商標権侵害」といったキーワードで検索すると、Amazonで販売されている商標権の解説書の販売ページがずらっと並んでしまい、「そこから勉強しろってことかい!」と頭を抱えることもあったが、今日では、かなり改善され、知りたい情報に辿り着けるようになっている。

とはいえ、Amazonのような大手はともかく、新興のプラットフォームや、日本や欧米主要国以外のプラットフォームについては、ネット検索で正しい情報を把握することの難易度は格段に上がる。
そこで活用したいのが代理人だ。ネット上の権利侵害対策に強みを持つ法律事務所や調査会社等は少なくないし、削除等の対応そのものも委任すれば、手間もかからず、スピーディな解決が望める場合が多い。一度やり方を教われば、次回の対応からは自社で対応することもできるだろう。

意外とやらない担当者もいるが、有用な手段として、他の企業や業界団体、権利者団体に問い合わせることもおススメだ。
「○○というサイトで侵害品が出ていて困っているんだけど、どうすればいい?」と、遠慮なく相談してみよう。まず、間違いなく親切に教えてくれるはずだ。

というのは、プラットフォーマー対策は、どの事業者にとっても共通の課題であり、かつ技術情報や営業情報ともほとんど関わりがないので、情報交換、助け合いの風土が醸成されていることが多いのである

「横のつながり」でプラットフォーマーとの距離を詰めよう!

こうした「横のつながり」は、「プラットフォーム上の削除申請のステップが分かりにくい」というそもそもの不満自体の解消にも効果を発揮する。
プラットフォーム上の侵害対応は、法律というよりも、プラットフォーマーの定めたプロセスやルールに大きく依存する
埒が明かなかったり、規模の大きな侵害トラブルだったりすれば、発信者情報開示請求や、プラットフォーマーに対する差止や損害賠償請求といった手段も取りうるし、その場合は法律の土俵での対応になるだろう。しかし、プラットフォーマーの規約に基づく削除レベルの対応であれば、どうしてもそうならざるを得ない。その結果、通報ステップの分かりにくさだけでなく、規約の不十分さや、審査の遅さや不透明さなど、プラットフォーマーのペースに振り回されてしまうという権利者は多いのだ。

こうした点について、一社が不満を表明し、改善を求めても、なかなか聞く耳を持ってもらえないのが現実である。しかし、同業他社との共同提言や、業界団体、権利者団体として交渉することで、プラットフォーマーも権利者に向き合うようになる。それに、団体交渉ともなれば、プラットフォーマー側も、サイト越しの対応でなく、血の通った担当者が矢面に出てくることも多い

それで、話してみれば実は結構いい人だったりして、ルールでは対処できない相談事にも、耳を傾けてくれることもしばしばなのだ。
「横のつながり」をつくって団体交渉することは、権利者が現に抱えている課題を解決できるだけではなく、プラットフォーマーと、継続的で良好な関係を築くきっかけにもなるのだ。

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友利 昴

作家・企業知財法務実務家

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務・知財実務に長く携わる傍ら、著述・講演活動を行う。著書に『企業と商標のウマい付き合い方談義』(発明推進協会)『江戸・明治のロゴ図鑑』(作品社)、『エセ商標権事件簿』(パブリブ)『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)『エセ著作権事件簿』(パブリブ)『知財部という仕事』(発明推進協会)などがある。また、多くの企業知財人材の取材・インタビュー記事や社内講師を担当しており、企業の知財活動に明るい。一級知的財産管理技能士として、2020年に知的財産官管理技能士会表彰奨励賞を受賞。

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