入り口は各法人であっても成果物はEYとしての知識・知見を結集
「弁護士に依頼するのは問題が起きてから」「法的リスクがあるかどうかもわからないぼんやりとした状態で、弁護士に相談するのは気が引ける」―こうした相談者の二の足を踏む様子をよく耳にするが、弁護士にとってはむしろ問題が起きる前、リスクを含む可能性をほんの少しでも感じたときこそすぐに相談してもらうのがベストである。やはり、弁護士や法律事務所へのアクセスはまだまだハードルが高いと言わざるを得ない。
「企業側が弁護士に相談することに対して無意識にハードルを設けてしまっているのであれば、弁護士側からハードルを越えていけばよいのです。EYでは、監査法人、税理士法人、ストラテジー・アンド・コンサルティングなど豊富な業務経験を有するプロフェッショナルチームが密に連携しているため、たとえばコンサルタントがクライアントとの日頃からの何気ない会話の中で、微かな法的リスクを感じ取り、オフィスで顔を合わせたときやチャットで我々にすぐ意見を求め、我々も依頼がある前の段階に自らコンサルティングチームと一緒に動き出すことが多くあります。入り口は各法人であっても、異なる専門性・業種の専門家、アドバイザーが有機的に連携することで、EY全体としてプロジェクトに取り組み、EYの各種プロフェッショナル全員の知識・知見を結集したものとすることができます。プロジェクトの初期段階から携わり、クライアントも気づいていないニーズを自ら掘り起こしていくことができるのも、日常的にクライアントを見続けている監査法人などを有するEYだからこそであると感じています」。松田暖弁護士はこれまで、日系および外資系法律事務所に在籍し、税理士や会計士、アドバイザーなどと連携しながら業務にあたっていたものの、あくまでも外部の専門家同士であったため、弁護士の出番が来るのはどうしてもある程度の形を伴ってからであったという。
「各法人は独立した法人としてサービスを提供していますが、“EY”という同じ看板を背負った同僚です。“クライアントが今困っているのだけど、法務面から何かアドバイスできないだろうか”と各法人から相談されることもあれば、逆に我々弁護士法人で受けた案件について税理士やコンサルタントの意見を聞くこともあります。もちろん、クライアントの法的課題を解決し、適切なアドバイスを提供できる体制を整えていますが、必ずしも弁護士法人の中だけでの解決にこだわる必要はなく、各業法を遵守しながらハブとしての役割を担うことがあってもよいと思っています。特に我々は今、法務機能コンサルティングやリーガル・マネージド・サービス、サステナビリティ法務など、サービス領域を拡大しています。各国における法令改正、法務人材の不足など、企業をとり巻く環境が目まぐるしく変化し国際化・複雑化していく中にあって、企業の継続的な成長を支援するためにはさまざまなプロフェッショナルが協働しなければなりません。EYにはそのような素地が整っていますし、我々もEYのメンバーファームの一員として力になれているか、常に挑戦を続けています」(松田弁護士)。
弁護士法人の中にあってコンサルタントとして経営アドバイスを
「企業内弁護士として日系および米国系事業会社で勤務していた際、法務、経営企画、内部監査、マーケティング広報、事業企画、買収米国企業駐在、インド統括会社役員を経験し、文字どおり会社の隅から隅までくまなく見ることができました。その過程で、さまざまな分野を専門とするコンサルタントと協働することが多くありましたが、日本においては特に弁護士法上の制約などから法的アドバイスについては切り出して法律事務所に依頼していました。関係者が増えれば、連携・調整不足など効率性が下がります。“リーガルサービスとともに経営に関するアドバイスも一度に提供できるようになれば、これまでにないサービスとなる”と考え、Legal Function Consulting(LFC:企業の法務機能強化のためのコンサルティングサービス)を約3年前に立ち上げました。さらに、最近では法務機能強化だけに限らず、知財・無形資産経営、グループガバナンスや全社リスクマネジメント、コンプライアンスなどに関するコンサルティングサービスも提供しています」。前田絵理弁護士は、11年以上の日系、米国系および英国系民間企業勤務経験を有し、コンサルティングサービスを提供する民間企業等において、“経営上の課題は何か”“それをどのように解決するか”“法的な論点も含まれるのか”“その際にどこがボトルネックとなってしまっているか”がすぐにわかるという。
「経営層が法務部門に求める機能は高度化・複雑化しています。経営的な視点を踏まえた戦略法務機能の強化が要望されているのです。一般的な経営コンサルタントはビジネスのしくみをよく理解し、適切な経営戦略、事業戦略上のアドバイスを提供してくれますが、当然のことながら法的なアプローチではなく、ビジネスのアプローチに偏る傾向にあります。一方、一般的な弁護士は法的なアプローチに偏るきらいがありますが、その両方を経験したEY弁護士法人のLFCチームであれば、法律の枠組みを理解したうえで法的な視点から経営・事業戦略の実現を支援することができます。たとえば、昨今“両利き”の経営が求められており、新規事業開発やイノベーションにおいては、いち早く本質的なリスクを捉え、当該リスクを適時・適切にマネジメントすることが必須であり、リスクマネジメント体制そのものが競争力の源泉であると言っても過言ではありません。しかしながら、なかなか法務機能をグループの全社リスクマネジメントに活用し、プロセスの中に組み込んでいる企業は少ない状況です。経営管理プロセスの中に戦略的な法務の視点を組み込むことこそが経営の意思決定の質とスピードを向上させ、企業の競争力・成長力強化につながります。より多くの日本企業の経営層が戦略的法務機能の重要性に気づき、同機能を使いこなすことができる環境作りが重要であると考えます。そのためには経営層にも戦略法務的なものの見方を伝え、他方で法務バックグラウンドを有する人材にも“法律の枠を超えた一ビジネスパーソンとして多角的に経営や事業に貢献するのだ”というマインドセットを持ってもらう必要があります。私自身も経営層との共通言語を身につけるべく、MBAを取得し、法的な視点に偏らず、経営的な視点を身につけたつもりです」(前田弁護士)。
LFCに携わるメンバーは、日系・外資系企業の法務や知財の責任者、法務・コンプライアンス・知財、経営企画を担当した弁護士、MBA資格保有者、コンサルティングファーム出身者、アカデミア出身者など多様で、弁護士資格の有資格者にこだわらず幅広い知識や経験を有するメンバーが集う。
ルーティンワークを巻き取りクライアントがより戦略的なことに注力できるように
「また、民間企業において法務部門の業務や責任範囲が広がってきているものの、“人員も予算も少なく、できることが限られてしまう”という課題が指摘されています。我々のLegal Managed Services(LMS:法務業務のアウトソーシング)を利用し、他者でもできるルーティンワークを外部に委託することによって、クライアントがより戦略的な高付加価値業務に注力できるようサポートしています」。前田弁護士はLMSもリードする。
「リスクプロファイルの変更・拡大、労働人口の減少に直面する中、日本企業が自社の法務機能を強化するためには、より付加価値の高い業務にリソースを集中させていくことが不可欠であり、内部・外部リソースをうまく振り分けることが重要です。我々は、当該クライアント企業において法務機能に期待されていることを明確化し、そのうえで法務の戦略を立て、法務人材のケイパビリティや法務業務を可視化し、その課題と原因を特定したうえで、法務業務の効率性および品質向上のための法務機能設計や最適な内部・外部リソースミックス戦略の立案等体制整備の支援(LFCサービス)とともにAlternative Legal Service Provider(ALSP:代替法務サービスプロバイダー)として法律業務のアウトソーシングサービスを提供し、クライアントにとって最適なリソースミックスを実現し、法務機能を最大限、発揮できるようサポートします」(前田弁護士)。
かつての日本企業であれば、契約書のチェックを外部に委託することなどあり得なかったであろう。しかし、内部リソースが限られる中にあっては、社内で取り組むべきことを厳選し、定型的な契約書の審査や子会社管理・法令調査(マッピング)に関しては外部リソースを活用するという判断が求められる。前田弁護士は、LFCとLMSを推進していく際にも豊富な知見を有するEY内での連携が役に立っていると述べる。「LFCやLMSのようなサービスを提供するために最も必要となるのが“人”です。単に人員が揃っていればよいというわけではなく、専門知識や経験、多様なアイディアを持った人がたくさん必要です。その点、EYにはテクノロジー、エネルギー、自動車・モビリティ、製造、化学、小売流通、銀行・証券、商社、社会インフラなど、各業界に精通した専門家が数多く在籍しています。我々がこれら専門家集団のコアとなって法的な専門性や視点も加味してクライアントを支援させていただくなど、EYのネットワークを活かした我々にしかできないサービスがあります」(前田弁護士)。
サステナビリティ法務に求められる対話と協働
「サステナビリティ法務において重要なことは、対話と協働です。たとえば、近時サプライチェーン・デューデリジェンスが重要なイシューの一つとなっていますが、サプライチェーンの適切な管理のためには、クライアント企業において、内部では調達部門、事業部門、法務部門その他の複数の部門間や地域間の連携、外部ではサプライヤーやカスタマーとのコミュニケーションが重要になってきます。我々の側でも、サステナビリティ関連サービスは弁護士だけで手がけられるものではないため、EY内の気候変動・サステナビリティ・サービスチームのコンサルタントや、EY税理士法人の環境・サステナビリティ関連税制や通関に詳しい税理士などとチームを組み、分野の垣根を越えた体制で臨んでいます。さらに、昨今は国外でも欧州を中心としてサステナビリティ関連法規制が矢継ぎ早に制定され、グローバルに活動する日本企業にも影響が及ぶことから、国内のメンバーだけでなく、欧州や他のアジア諸国でサステナビリティ法務を専門とするメンバーとも緊密に連携し、一つのチームとしてサービスを提供しています。サステナビリティ法務に携わる弁護士として、こうしたEYの専門分野や地域を超えた協働体制は非常に適していると感じており、伝統的な弁護士業務のあり方ではないかもしれませんが、クライアント企業が抱える難題に対して幅広いサポートをご提案できることに、日々喜びを感じています」(川谷恵弁護士)。
EYでは、各専門分野・地域間のネットワークを通じ、環境法規制、サプライチェーン・デューデリジェンス、サステナブルファイナンス、カーボンプライシング、クリーンエネルギー、サステナビリティ情報開示等のさまざまなサステナビリティ課題に関して企業を多面的にサポートする。川谷弁護士は、EYの法務チームにあってグローバルネットワークを構成する専門家やサービスとも連携し、クライアントのサステナビリティ課題に関する戦略的な法務サービスを提供している。
「近時、特に注目されているのは、欧州における企業サステナビリティ・デューデリジェンスに関する指令(CSDDD)や欧州森林破壊防止規則(EUDR)等のサプライチェーンに関連する法規制です。グローバル企業にとっては欧州市場を完全に無視することはできない場合が多く、グローバルに展開する日本企業にとってもこの点は同じです。多くの企業にとってサプライチェーンの管理やトレーサビリティの確保は大変な課題であり、たとえば我々のクライアントの取引先の中には零細企業や小規模サプライヤーも少なくなく、“人権を尊重している”“森林破壊を防ぐ取り組みを進めている”―といったことを発信する体制が整っていないこともあります。また、欧州のサプライチェーン関連法規制は文言上あいまいな点が多く、法令解釈が難しい場合も少なくありません。このような未知の課題に取り組むクライアント企業のご担当者の話に耳を傾け、現場の課題を十分に理解したうえでEY内のネットワークを挙げ、本当に必要とされるサポートを提供できるよう努めています。また、サステナビリティ情報の開示も重要なトピックの一つです。サステナビリティ情報の開示にあたっては、各社が類似した紋切り型の情報開示をすることは望ましくなく、積極的に情報発信すべきと言われていますが、他方で、環境やサステナビリティに配慮しているように見せかけて実態は異なる、よい面ばかりを主張して悪い面を公表しないといった、いわゆる“グリーンウォッシュ”の問題もあります。欧米では、気候変動、人権、グリーンウォッシュ等に関連する訴訟が数多く提起され、企業をめぐるステークホルダー間の緊張関係を前提として、サステナビリティ課題への取り組みが進められてきた側面がありますが、日本ではこうした訴訟の数はいまだ少ない状況です。ステークホルダー間の協調的な対話に基づく政策形成は我が国の強みでもあり、サステナビリティ情報開示も、個々の企業の責任追及を主眼とするのではなく、ステークホルダー間の協調的な対話を促すためにこそ推進されるべきだと思います。サステナビリティ関連領域においては、今後もダイナミックな変化が予想されます。従来の弁護士業務のあり方を超えて、クライアントのサステナビリティ課題に対して真の解決策となるようなサービスを提供できるよう、努めていきたいと思っています」(川谷弁護士)。
法律問題のみならずすべての経営課題を解決する窓口に
「知財・無形資産の活用、また今後の活用に向けた戦略の策定にも注力しています。内閣府が「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」を公表するなど、企業は自社の知財・無形資産の投資・活用戦略を経営・事業戦略に組み込み、戦略に基づいた取り組みを上手に開示し、投資家にアピールすることが重要ですが、現在日本企業はまだまだ取り組みも開示も十分と言える企業は少数派と言えます。この点についても我々LFCチームの弁護士、弁理士、技術者、開示の専門家に加え、“EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社”と協働し、経営・事業戦略立案の専門家を交えたチームを構成しています。これができるのもEYだからこそです。我々EY弁護士法人には、弁護士に限らず多様な専門性や経験を有するメンバーが揃っています。さらに、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社には戦略の専門家が多数在籍しています。我々EY弁護士法人へのご相談が、いわばすべての経営課題を解決する“端緒”となります。ぜひ“一番に相談すべき弁護士・法律事務所”として認知していただきたいと思っています」(前田弁護士)。
「2024年4月からマネージングパートナーとなり、EY弁護士法人のどのような特徴を打ち出していくべきか、どのような方向に向かわなければならないかを、常に考えています。各法人と協働できることは大きな特徴でありつつ、“EY”と言えば監査法人やコンサルティングのイメージが強く、現状では弁護士法人の認知度は決して高いといえません。だからと言っていたずらに規模の拡大を追求していくわけではなく、従来の法律アドバイスチームと法務機能コンサルティングチームを両輪に、案件を通じて我々ならではの姿を示していきたいと思っています。そして、EYのネットワーク、リソースを十分に活用し、“どこに相談すればよいのだろう…”と迷ったとき真っ先に“相談してみよう”と思い浮かべていただける、“法律問題ではないかもしれないが聞いてくれるだろう”と思っていただける存在になっていきたいと考えています」(松田弁護士)。
松田 暖
弁護士
Dan Matsuda
EY弁護士法人代表・マネージングパートナー。00年弁護士登録。弁護士として20年以上の経験を有し、22年4月にEYへ加入するまで大手日系法律事務所および外資系法律事務所に在籍。日系企業によるクロスボーダーM&A・各種投資案件、クロスボーダー組織再編案件、海外での紛争案件についてアドバイスすると共に、外国企業に対して対日投資案件及び日本市場における各種規制対応についてのアドバイスも行う。エネルギー企業(石油、ガス)、化学メーカー、医療機器・製薬会社、金融機関やフィンテック企業を主なクライアントとする。
前田 絵理
弁護士
Eri Maeda
EY弁護士法人・アソシエートパートナー。07年弁護士登録。22年1月にEY弁護士法人に加入し、法務機能コンサルティングおよびリーガル・マネージド・サービスに従事。EY弁護士法人への加入前は、07年より日系大手法律事務所に勤務後、11年より日系大手化学系メーカーにて企業内弁護士として勤務。同社にて法務部門のほか、経営企画部門、買収先米国企業の法務部門、インド子会社の役員を経験。その後世界最大のトータルヘルスケアカンパニーの法務部門を経て、21年7月から12月までEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にてLead Legal Counsel。合わせて11年以上の民間企業勤務経験を有する。
川谷 恵
弁護士
Megumi Kawatani
EY弁護士法人・シニアマネージャー。12年弁護士登録。大手日系法律事務所および外資系法律事務所を経て、24年にEYに加入。数多くの日系企業及び外資系企業に対して、主に国内・クロスボーダーM&Aや一般企業法務において助言を提供。エネルギー分野の政府機関及び民間企業での出向経験を有する。また、オックスフォード大学においてMSc in Sustainability, Enterprise and the Environmentを取得しており、EYではグローバル・サステナビリティ・リーガルサービスチームに所属する。
著 者:前田絵理[編著]、飯塚尚己・黒澤壮史・渋谷高弘・吉川万美[著]
出版社:中央経済社
価 格:3,300円(税込)
著 者:EY新日本有限責任監査法人・EY税理士法人・EY弁護士法人[編]
(共著者として新居幹也・川村晃一・津曲貴裕・小木惇・力石康平 ほかが執筆に参加)
出版社:中央経済社
価 格:3,740円(税込)
著 者:幸村俊哉・玉越賢治[編集代表]
(共著者として、津曲貴裕が執筆に参加)
出版社:経済法令研究会
価 格:3,080円(税込)