官公庁経験豊富な専門家を増員 著作の刊行もスタート
2018年の設立以来、独禁法・消費者法のブティックファームとして、著名事件対応をはじめ多くの企業の法的課題の解決を行ってきた池田・染谷法律事務所。所属弁護士は公正取引委員会(以下「公取委」)への出向者2名を含む22名に拡大し、2025年には4名が加入する予定だ。
同事務所には官公庁出身者をはじめ独禁法・消費者法に関連する専門性を有する弁護士が集結している。実力派揃いの弁護士・専門家を惹きつけているのは設立6年で該当分野のブティックファームとして名を上げた実績だけではない。同事務所の案件へのアプローチや先進的な働き方も魅力となっている。
まず、弁護士個人ではなく事務所全体で案件を受託する。これにより均一で高品質なサービス提供を実現し、案件に適した弁護士が所属拠点によらず対応できる体制を構築している。また、単なる“法的アドバイス”にとどまらず、クライアントの課題解決までをサポートする“ソリューション・オリエンテッド”の姿勢で案件に臨む点も多くのクライアントから信頼されているポイントだ。
加えて、同事務所は、設立以来、ペーパーレス化を目指し、ビデオ会議やチャットツールといったテクノロジーを積極的に活用し、リモートワークを含めた柔軟な働き方を推進することで、弁護士が多様なライフステージにおいて障壁を感じず活躍できる環境を整備している。
2024年4月には事務所として初の著作『デジタル広告法務――実務でおさえるべきFAQ』(商事法務)が、12月には『60分でわかる!改正景品表示法 超入門』(技術評論社)が刊行された。前者は複数の法律が絡み合う広告業務について法規制を平易な言葉で解説し、具体的な事例を用いながら注意点をわかりやすく示したものだ。一方、後者は近年の景表法の改正点や運用状況を踏まえ、違反に問われないための基礎知識を端的に理解できるよう解説している。いずれも複雑で把握に労力がかかる領域について、実務に即した内容を非法務担当者でも理解できるように配慮されている。
「前者はデジタル広告に関わるすべての方が読み解けるよう、広告作成から配信終了までの各段階に分け、それぞれの留意点や関連法令の解釈、規制当局の考え方を網羅的にまとめました。また、後者の改正景表法は、優良誤認表示や有利誤認表示など、判断基準があいまいな部分が多く企業担当者にとって対応が難しい点についても豊富な事例をもとにわかりやすく解説しています」(染谷隆明弁護士)。
独禁法・下請法の相談が増加する名古屋にオフィスを新設
同事務所は2025年5月、名古屋オフィスを新たに開設し、2名の弁護士が駐在する。東海地方はリニア中央新幹線開通により経済の活性化が見込まれるほか、公取委の中部事務所が所在し活発に活動を行う地でもある。また、近年公取委の中部事務所への独禁法・下請法関連の相談は増加傾向にある。
「下請法の執行が活発になり、製造業の多い中部地区の相談が増えていると考えられます。世間的な下請法の認知度や関心の高まりやフリーランス法の施行もあり、企業のコンプライアンス意識が高まっていることも要因かと思います」。全未来弁護士はその背景をこのように指摘する。全弁護士は企業内弁護士と法律事務所勤務を経て、中小企業庁でフリーランス法の立法、下請法や下請中小企業振興法の運用など、取引の適正化に関わる政策に携わってきた。名古屋オフィス開設後は、現地での企業支援に力を入れる。
全弁護士が立法に携わったフリーランス法には、多くの企業が関心を寄せている。「これまで下請法対象外だった取引も新法で対象になったため、“対象か否か”の判断や書面の準備でお困りの企業が多い状況です。これから着手する企業は一度に対応できないため、まず形式的に判断されやすい3条通知など、チェック形式で実行できる点から始めるようにアドバイスをしています」(全弁護士)。
同じく名古屋に常駐する林紳一郎弁護士は2017年~2021年までの約5年間、公取委に勤務した経験を持ち、幅広い執行経験を有している。デジタルプラットフォームを含む多数の企業への立入検査や入札談合・カルテル等の事件審査に携わったほか、フリーランス等の人材分野にかかる調査、デジタル広告・モビリティ・ヘルスケア・FinTech等のデータ利活用ビジネスに関する政策立案業務も担当した。「私は公取委出身ということもあり、当事務所に入所以来、主に独禁法・下請法の法律相談や立入検査対応を担当しています。審査手続の流れや勘所は座学のみでは把握しにくい点があるため、日々の業務の中でも公取委での実務経験が活きていると感じる瞬間が多くあります」(林弁護士)。
全弁護士・林弁護士の駐在により、中部地方のクライアントとの物理的距離は非常に近いものとなる。染谷弁護士とともに代表パートナーを務める池田毅弁護士は「独禁法・下請法案件は審査期間が長いこともあり、立入検査対応のスピードの向上、近くに専門性が高い弁護士がいる安心感をクライアントに提供したい」と語る。
「相談窓口の場所を問わず、当事務所のすべての弁護士から最適な弁護士が担当できるので、お近くの弁護士に何でもご相談いただきたいですね。事務所の所属人員が増え、各地域に弁護士が分散していても東京の情報をアップデートし、所内に共有できるようになりました。今後はよりスムーズかつスピーディに全国に高品質のサービスを届けたいと考えています」(池田弁護士)。
大阪オフィスは2名増員 ニーズが高い関西圏の窓口を強化
大阪オフィスは2022年の開設から2周年を迎え、関西圏を中心に活動の幅を広げている。大手渉外法律事務所での豊富な経験を持つ山本宗治弁護士が常駐しており、2025年前半には競争法が関連することの多い規制分野の経歴を持つ弁護士を含む2名の弁護士が増員される予定だ。「関西圏や中四国には重厚長大産業が多く、独禁法や消費者法関連の相談ニーズはまだまだ高いと感じます。その中心である大阪の体制を充実させることで、初めての依頼者様にも当事務所にアクセスしやすい環境を整えたいと考えています」(山本弁護士)。
大阪オフィス開設以来、同事務所には関西圏の企業からさらに多くの相談が寄せられるようになった。独禁法・消費者法分野が大半だが、山本弁護士は渉外や訴訟分野の経験も活かし、幅広い相談に応える。この点について、染谷弁護士は「中部・関西では東京と比較して企業法務部内の人手が一層足りていない傾向がある」と指摘する。「法務部がなく総務部が兼務している企業など、法務コンプライアンスを内製化できない企業もあります。アドバイスだけでなく競争・消費者戦略の立案・実行までを伴走するリーガルサービスを全国津々浦々に届けることが、現地オフィス開設の狙いです」(染谷弁護士)。
訴訟の専門家の加入で実行力の強化と選択肢の多様化を
「“実行まで併走する”という点で以前から強化を考えていたのが紛争解決分野です。この分野に2名が加わったことで、紛争が見込まれる、もしくは紛争対応が必要な場合でも、より実効性のある形で最後まで支援できる体制が整いました」(池田弁護士)。日本では独禁法・消費者法・情報法分野のトラブル解決は規制官庁に委ねられることが多い。しかし、これらの機関のリソースは限られており、必ず解決に至るとは限らない。「選択肢の一つとして、企業自身による訴訟を含むトラブル解決も模索する必要がある」と池田弁護士・染谷弁護士は考えているという。欧米では独禁法・消費者法分野での民事訴訟の活用が進んでおり、今後日本での普及を見込み、同事務所は訴訟対応力の強化に至った。
新たに加入した竹蓋春香弁護士は東京法務局の訴訟検事、総務省行政不服審査会の専門官として行政訴訟や行政への不服申立てなど、国を当事者とする紛争に国の代理人として携わってきた。「行政側にいた頃は、幅広い案件に対応するジェネラリスト的な役割を求められました。さまざまな分野の行政紛争を見てきた経験から、行政側が重視するポイントや訴訟における事実認定のポイントなどをアドバイスとして活かしていければと考えています」(竹蓋弁護士)。
当局対応・処分後の対応を問わず、一気通貫で強みを持つブティック事務所は貴重な存在だ。また、竹蓋弁護士は「訴訟分野強化により広がった選択肢を活用してほしい」と語る。「行政や民間に対する紛争対応能力を前提として、今後はさまざまな選択肢がご提案できます。裁判までを想定した、より幅広い観点で課題解決を捉えていただけると思います」(竹蓋弁護士)。
尾池悠子弁護士は東京地裁の知財部において特許権侵害や不正競争をはじめ幅広い知的財産権に関する事件を数多く取り扱った元裁判官だ。「裁判官時代に培った証拠や事実の認定のスキルを、違反行為の認定を行う監督省庁対応に活かしていきたいですし、知財部で不正競争の分野も多く取り扱っていたため、独禁法・競争法と親和性があると考えています」(尾池弁護士)。
法人同士の大型の訴訟を多数経験したことは平時の助言にも活きているという。「事後的な訴訟だけでなく、事前の差止めなども裁判官の感覚を活かして適切に実施できます。競争力強化の面でもぜひご活用いただければと考えています」(尾池弁護士)。
池田 毅
弁護士
Tsuyoshi Ikeda
02年京都大学法学部卒業。03年弁護士登録。05~07年公正取引委員会審査局勤務。08年カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修了(LL.M.)。09年ニューヨーク州・カリフォルニア州弁護士登録、森・濱田松本法律事務所入所。18年池田・染谷法律事務所設立。「企業が選ぶ弁護士ランキング」(日本経済新聞社)独禁・競争法分野(22年)で第3位、消費者対応分野(24年)で第3位選出。第一東京弁護士会所属。
染谷 隆明
弁護士
Takaaki Someya
09年専修大学大学院法務研究科修了。10年弁護士登録。12年株式会社カカクコム入社。14年消費者庁課徴金制度検討室・表示対策課勤務。18年池田・染谷法律事務所設立。23年独立行政法人国民生活センター商品テスト分析・評価委員会専門委員。「企業が選ぶ弁護士ランキング」(日本経済新聞社)消費者対応分野(24年)で第1位選出。東京弁護士会所属。
全 未来
弁護士
Mirai Zen
13年首都大学東京法科大学院修了。15年弁護士登録。16年積水メディカル株式会社入社。19~24年中小企業庁事業環境部取引課勤務。24年池田・染谷法律事務所入所。東京弁護士会所属。
林 紳一郎
弁護士
Shin-ichiro Hayashi
16年中央大学法科大学院修了。17〜21年公正取引委員会勤務(審査局、調整課、経済調査室を歴任)。22年弁護士登録、池田・染谷法律事務所入所。第一東京弁護士会所属。
山本 宗治
弁護士
Muneharu Yamamoto
12年京都大学法学部卒業。14年京都大学法科大学院修了。15年弁護士登録、長島・大野・常松法律事務所入所。22年カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロースクール修了(LL.M.)、池田・染谷法律事務所入所。大阪弁護士会所属。
竹蓋 春香
弁護士
Haruka Takebuta
12年立教大学法科大学院修了。15年弁護士登録。16〜20年日本司法支援センター勤務。20〜22年東京法務局訟務部勤務。22〜24年総務省行政不服審査会事務局勤務。24年池田・染谷法律事務所入所。第二東京弁護士会所属。
尾池 悠子
弁護士
Yuko Oike
15年京都大学法科大学院修了。17〜20年さいたま地方裁判所裁判官。20〜23年福島地方裁判所郡山支部裁判官。23〜24年東京地方裁判所(知的財産部)裁判官。24年弁護士登録、池田・染谷法律事務所入所。第一東京弁護士会所属。
著 者:染谷隆明[編著]、池田・染谷法律事務所[監修]
出版社:技術評論社
価 格:1,760円(税込)
著 者:池田・染谷法律事務所[編著]
出版社:商事法務
価 格:2,970円(税込)