経営統合でシナジー効果 多様なサービスの提供を
2024年7月に設立されたTXL法律事務所は、高井&パートナーズ法律事務所とレックス法律事務所が経営統合して誕生した。高井&パートナーズ法律事務所は長島・大野・常松法律事務所出身の高井伸太郎弁護士が代表を務めるM&Aやクロスボーダー取引を主に取り扱う事務所であり、レックス法律事務所は森・濱田松本法律事務所出身の大宮立弁護士が代表を務める全国の中堅中小企業の再生やM&A、スタートアップ支援を多く手がける事務所だ。また、両事務所ともに上場企業を含む多数の顧問先を抱える。
元は中・高・大の先輩後輩だったという高井弁護士と大宮弁護士。10年ほど前から交流を深め、案件で協働するうちに互いの専門分野を持ち寄り、シナジーを生みたいと考えるようになった。
「レックスが担当することが多い再生案件は、国内案件が大半ですが、近年は国内企業でも海外に工場や子会社を抱える場合が多い。以前は外部事務所に依頼していた海外業務をクロスボーダー分野で実績がある高井&パートナーズの所属弁護士とともに取り組めることは機動力、コストの面で魅力でした」(大宮弁護士)。
「高井&パートナーズの顧客は東京中心、レックスの顧客は全国津々浦々に広がっているため、統合することで総合事務所として多様な案件を受任できるようになります。契約法務はもちろん、M&A、再生、訴訟、クロスボーダー、人事労務、知財、スタートアップ支援など取扱分野も幅広くなり、ワンストップでの支援が可能になりました」(高井弁護士)。
元々個性豊かな経歴の弁護士を採用していた両事務所。現在は大手法律事務所出身者、人事労務系ブティック法律事務所出身者、裁判官出身者、海外の法律事務所勤務経験者、インハウス弁護士経験者、弁護士過疎地域の公設法律事務所勤務経験者、弁護士・弁理士登録者など多様な経験を持つ人材が集っている。
各世代の弁護士をまんべんなく育成しサステイナブルな組織に
両弁護士が統合を決意した背景には、取扱分野の拡大のほかに“顧客に長期的・安定的にサービスを提供するサステイナブルな組織作り”という目的もあった。
「一桁の人数では、どうしても“代表弁護士の事務所”という体制になり、代表のカラーが色濃く、万が一の際に組織がバラバラになりがちです。案件に丁寧に取り組み、顧客から頼りにされる規模感を大事にしたいと考えた結果、統合による緩やかな業務分野の拡大と安定性の確保に至りました」(高井弁護士)。
「法律事務所の継続性は、顧客である企業とって必要な要素だと思います。特に中堅・中小企業にとっては頼りになる存在が消滅してはなりません。代表弁護士以外にも責任を持って企業を支えられる人材を各世代に育てていくことが重要だと考えています」(大宮弁護士)。
若手の人材育成には、代表をはじめとするパートナー弁護士がOJTによる指導を行い、大手法律事務所と遜色のないクオリティを提供できるようにしている。
「若手弁護士の成長を考えると、特に最初の数年は丁寧にコミットしています」(大宮弁護士)。
「“大手並みのクオリティとはどういうことか”を内部の議論も含めてきちんと見せ、修正して見せ、不明点がないかもこちらから都度声をかけて確認しています。こうしたアプローチができるよう業務量を調整している面もありますね」(高井弁護士)。
一方で「若手にはチャレンジもさせている」と語るのは大宮弁護士。「大転びしないように見守りつつ、まずは自主的に取り組むことを尊重しています。細かく指導するパートナー弁護士もいるため、チャレンジとクオリティ担保の両面が結果としてバランスしているように思います」(大宮弁護士)。
どの規模の企業でも頼りやすいよりよき相談相手を目指して
両弁護士が規模と人材の質にこだわるのは、継続性以外の要素もある。企業にとっての“よき相談相手”であることが同事務所の目的だからだ。
「新聞の一面を飾るような巨大案件ばかりを担当したいわけではありません。リーズナブルなフィーで気軽に相談できる顧問先を探している企業、“海外進出をしていきたいが経験がない”と頼ってくださる中小企業などにもサービスが行き届く事務所でありたいと思っています。ゆえに、最終的に20~30名程度となる規模感を目指すことが適切と考えています」(高井弁護士)。
「大手法律事務所時代から中堅・中小企業の再生に取り組んできましたが、経営者や担当者と“人”として密に付き合い、頼られ、結果を残して感謝されてこそだと思っています。AIの登場等で変わりゆく時代ですが、大手並みのサービスを中堅・中小企業に提供することに対する需要は、今後も根強くあると考えています」(大宮弁護士)。
事務所の理念を支える個人の尊重と柔軟な働き方
同事務所では、所属弁護士が定着し、事務所経営の担い手となるように柔軟な働き方も推奨している。元レックスの弁護士が所属する紀尾井坂オフィス、元高井&パートナーズの弁護士が所属する赤坂オフィスで働き方はやや異なるが、“個人らしい働き方を尊重する”点は共通する。
「働き方に関してルールは一つである必要はありません。働く場所はリモートでも事務所でもよい。ライフスタイルの変化に応じて柔軟に、作業効率を維持できる職場環境を本人が選べばよいのです」(大宮弁護士)。
「赤坂オフィスは少なくとも週3回出勤することになっていますが、これは全員が少なくとも週1回は顔を合わせるため。互いのことをよく知り、個人・家庭の事情などを把握したうえでさりげなく配慮・尊重できる関係を保ちたいと思っています」(高井弁護士)。
事務所の未来を担う若手弁護士が活躍
同事務所の理念を実現するカギとなるのは、多様な専門性を持つ弁護士、中でも今後の事務所を担う若手弁護士の存在だ。
レックス法律事務所出身の堀口拓也弁護士は、スタートアップ支援、IPO支援、知財、M&Aを専門とする。大学時代から知財分野に強い興味を持ち、“スタートアップ支援を行いたい”という希望から、同分野に専門性を持つ弁護士も所属するレックス法律事務所に入所した。現在はIPOやM&Aによるイグジット戦略の支援を行うことでスタートアップ企業に伴走している。特許事務所での実務経験があり弁理士資格も有するため、技術を核とするスタートアップ企業には知財戦略のサポートも行う。
「スタートアップ企業は管理部門が整っていないケースが多く、弁護士のアドバイスが経営判断に直結しやすいという特徴があるため、責任感を持って最善の提案をするよう心がけています」(堀口弁護士)。
高井&パートナーズ法律事務所出身の大塚啓寛弁護士と藤村揚洋弁護士は、M&A、組織再編を主戦場としながら、それぞれ人事労務・紛争、知財・ITといった分野にも精通し、クライアントのニーズに応えている。
学生時代から専門分野として人事労務案件に取り組んできた大塚弁護士は紛争解決も得手とする。「人事労務案件は最終的に訴訟に至る場合も多いため、訴訟を見越した対応を常に心がけています。また、M&A分野においては表明保証違反についての国際仲裁という稀な案件も担当しました」(大塚弁護士)。
藤村弁護士は、知財・ITに関する知見に基づき、生成AIに関する相談も取り扱う。「たとえばChatGPTを利用したサービスでは、どこまでの情報を表示可能か、出典元の表示方法はどうするかなど、具体的な質問が多く寄せられます。最新の情報を得て適切なアドバイスを提供するよう心がけています」(藤村弁護士)。
顧問業務においては上場企業ならではの論点である役員報酬制度や海外子会社関連の相談も多い。専門性の高い案件はパートナー弁護士と連携し対応する。
「当然、他の弁護士の目は通りますが、5年目なので成果物がそのまま依頼者に渡ることもあります。そうなっても胸を張れる品質で取り組みます」(藤村弁護士)。
統合による相乗効果と成長機会 切磋琢磨し、高め合う
事務所の統合は、若手弁護士にとって専門性を深め視野を広げる絶好の機会となっている。
「異なる専門性を持つ弁護士と日常的に接することで、自身の専門分野以外の知識や経験も自然と吸収できるようになり、成長できる機会が増えたと感じます」と語るのは堀口弁護士。
大塚弁護士も「レックス法律事務所は訴訟や紛争分野が強いので、初めての手続でも相談しやすくなりました。若手からの視点では旧事務所では行ってこなかった案件にも参加できるようになり、経験を充実させることができて喜ばしいですね」と統合を歓迎する。
藤村弁護士は幅広い案件を担当できるようになった点を成長のチャンスだと感じているという。「高井&パートナーズは比較的規模が大きな案件が多い傾向にありました。レックス法律事務所と統合することで、この人数の事務所ながら日本全国のあらゆる規模の案件に携わる点は大きな強みであると思います」(藤村弁護士)。
大手のクオリティを実現する熱意と手厚さが共存する教育体制
同事務所では、大手法律事務所のノウハウや品質を実現する手法が教育によって若手弁護士に伝えられる。
堀口弁護士は、教育体制について「パートナーの真摯さから学ぶことは多い」と語る。「紀尾井坂オフィスの面々は森・濱田松本法律事務所出身弁護士から指導を受けています。契約書のチェック一つをとっても、形式面から内容面まで精緻なチェックが行われます。また、訴訟の際にはチームで各人が何度も遂行し、全員で期限直前まで一言一句、問題はないか、証拠の見落としがないかをチェックしていきます。そのマインドを学ぶことで、サービスの品質の高さを受け継いでいきたいですね」(堀口弁護士)。
他事務所での経験がない弁護士であっても、専門性を伸ばしやすい環境だと藤村弁護士は指摘する。「私は新卒で入所しましたが、希望を伝える機会が多く、案件の割り振りも配慮されてきました。パートナーに質問がしやすく、むしろ頻繁に先輩から声がかかります。案件を通じ海外事務所との連携等も経験でき、事務所の中で専門性を育める環境だと感じます」(藤村弁護士)。
高い専門性と品質を担保したうえで、人材の定着を図るために同事務所が実施しているのは、個人のライフスタイルを尊重した柔軟な働き方を尊重する制度だ。リモートワークの活用や子育て中の弁護士への配慮などにより、各弁護士はそれぞれの事情に合わせて柔軟に働き方を選択できる。一方で、自由がゆえに互いの関係性が希薄にならないようにも配慮されている。「対面での相談機会も多いので、顔を見ながらの関係性を築くことができます。一方で、事情に合わせて早帰りなどもできるので、子どものお迎え後のリモートワーク等も可能で大変助かっています」(大塚弁護士)。
高井 伸太郎
弁護士
Shintaro Takai
97年東京大学法学部卒業。99年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野法律事務所(現 長島・大野・常松法律事務所)入所。04年The University of Chicago Law School卒業(LL.M.)。04~05年Schulte Roth & Zabel LLP(New York)勤務。16年高井&パートナーズ法律事務所設立。24年TXL法律事務所設立。
大宮 立
弁護士
Tatsushi Omiya
98年東京大学法学部卒業。98年株式会社日本興業銀行入社。03年弁護士登録(東京弁護士会)、森・濱田松本法律事務所入所。12年シティ法律事務所入所。18年レックス法律事務所設立。24年TXL法律事務所設立。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。認定経営革新等支援機関。
堀口 拓也
弁護士
Takuya Horiguchi
12年慶應義塾大学総合政策学部卒業。15年慶應義塾大学法科大学院修了。18年弁護士登録(第二東京弁護士会)、鈴榮特許綜合事務所、弁護士法人銀座ファースト法律事務所入所。19年弁理士登録。23年レックス法律事務所入所。24年TXL法律事務所入所。
大塚 啓寛
弁護士
Takahiro Otsuka
12年神戸大学法学部卒業。17年広島大学法務研究科(法科大学院)修了。19年弁護士登録(第一東京弁護士会)。20年高井&パートナーズ法律事務所入所。24年TXL法律事務所入所。
藤村 揚洋
弁護士
Akihiro Fujimura
16年神戸大学法学部卒業。18年大阪大学法科大学院修了。19年弁護士登録(第一東京弁護士会)。20年高井&パートナーズ法律事務所入所。24年TXL法律事務所入所。