法務担当者が語る、社内コミュニケーション術(日常編) - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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法務担当者にとって、法務部門以外の部門との社内コミュニケーションというのは、日常的な課題でありながら、永遠のテーマでもある。そうした法務担当者であればぶつかることが多いであろう問題点に対する基本的な考えや、実践しているノウハウについて、実務経験10年以上15年未満の中堅実務担当者である3名のスピーカーに、実践現場でのリアリティのあるお話を語っていただいた。


日野弁護士 本日は、法務部門以外の部門との社内コミュニケーションをテーマに、議論を展開していきます。まずは、それぞれの企業での法務機能の位置をお伺いしたいと思います。

小泉氏 法務の役割とは、ビジネスを進めるうえで、いかにリーガルリスクを少なくし、かつ目的が達成できるようにするための方法を探すアドバイスをすることです。そのために、事業目的を適切に把握し、取りうる選択肢を考え、それぞれのメリット、デメリットを整理することが必要と考えています。

塩澤氏 法務部門も事業を一緒に行っている、という意識を大切にしています。違法性がある場合に、その代替手段を考えるなど事業をいかに進めていくかを事業部門とともに共有するという姿勢が重要ですね。

日野弁護士 とはいえ、どうしても事業部門にストップをかけなきゃいけない場面もあるでしょう。その際にはどのようなコミュニケーションをとられていますか?

「守りの法務」としてどのように事業にストップをかけるか

小泉氏 基本的には、止めざる得ない場合は止めるしかありません。その際、違法性の所在や、どのような行政指導や刑事罰があるかを説明して納得してもらいます。また、法的リスクなどがある場合は、どのくらいの損害が出る可能性があるか、レピュテーションリスクも含めて最大値の見込みを伝えるようにしています。

小泉 陽子 氏

塩澤氏 ビジネス判断がされる場合には、同じくリスクの最大値を伝えるようにしています。また、担当や、その部門だけでは決められないイシューの場合には、複数部門やマネジメントレベルで議論をすべきとアドバイスしていますね。

日野弁護士 法的リスクには、取れないリスクと、取りうるリスクがあると思いますが、取りうるリスクの場合は、その分析を精緻に行い、きちんと事業部門に伝えるのが重要ということですね。

コンプライアンス意識の高め方

日野弁護士 次に、自社のコンプライアンス意識の高め方について議論します。一つの企業にずっと在籍していると、自社のコンプライアンス意識の高低を客観的に見ることが難しいのではないかと感じています。

小泉氏 はい、コンプライアンス違反になりうるということを知らないでやっているということが多いですね。それを回避するためには、研修等の啓蒙活動による周知徹底が大事です。当社は、会社規模も踏まえて、全社的に研修プログラムを組んで行っていますが、普段の法務の問題意識がプログラムの決定や改訂に反映されていると感じます。

塩澤氏 故意に違反するというものよりも、たとえば業界慣行だと勘違いしていて、コンプライアンス違反のリスクに気づけていない場合もあります。理解してもらうためには、周知徹底が必須です。当社の場合は、会社規模も踏まえ、社内メール等で全体に啓蒙する方法が効果的だと考えており、平均週2回程度は実施しています。また、過去に周知した情報を集約するプラットフォームとしてSlackも活用してます。

新しいサービスの相談では、事業部門が作成したスキームを鵜呑みにしない

日野弁護士 次に、新しいサービスに関して相談を受けた場合のポイントはいかがでしょうか?

塩澤氏 まずは、事業部門が作成したスキームのポンチ絵を鵜呑みにせずに、話を聞いて、そもそも事業部門が何をしたいのかをヒアリングします。そうすると法務リスクのみならず、確認すべき点があらわになりますので、必要に応じて他の間接部門にも確認するようにします。

塩澤 一訓 氏

日野弁護士 新規事業を検討するにあたっては、許認可周りで官公庁に照会することもあると思いますが、この点について小泉さんいかがでしょうか?

小泉氏 基本的にその種の照会は法務でコントロールすべきと思っています。特に官公庁の方々は、法律を意識して発言されるので、誤解なく受け止めることが大切です。事業部門との伝言ゲームをやっている間に趣旨が変わると照会した意味がなくなってしまうので。

雛型の修正は、法務力を高めるために必要

日野弁護士 次に契約書に関するコミュニケーションについてです。私が社内法務として勤務していた際は、雛型を活用しておりました。多くの企業は独自の雛型を持っているので、契約交渉に際してはそのせめぎあいもあるかと思います。

小泉氏 私も雛型を使って進めることを推奨しています。ユニークな契約は、法務より経営企画や知財が関わるパターンが結構多いと思っていて、その意味でも法務にとっては雛型が大事だと考えています。

塩澤氏 他社の雛型でレビューするときには、事業部門が自社の雛型に慣れていると、自社の雛型とここが違いますよと説明できるので、理解が早いと思います。

日野弁護士 雛型は、会社の事業部門にとっては、そのとおりやれば法務はOKという位置づけのことが多いかと思います。そのため、法令改正等必要に応じて修正を行う以外にも、自社にとって適切な条項を設ける観点から、他社との契約交渉やトラブル対応等の経験の蓄積や、事業部門からの要請に応じて修正していくべきですよね。私も社内法務の経験上、雛型を更新していくことが、企業の法務力を強めるには必要だと感じました。

外部弁護士とのコミュニケーションには、正確な事実の伝達が不可欠

小泉氏 外部弁護士に相談する場合は、弁護士としてリスク分析をしていただいてアドバイスをいただくことが多いです。しかし、外部弁護士は、リスク分析まではできても、そのリスクを取れるかについてコメントはなかなかできないので、そこは社内の弁護士として分析し、事業部門や経営にフィードバックしています。

塩澤氏 外部の弁護士が言ったことを伝書鳩のようにそのまま伝えないように気をつけています。外部の弁護士からのメール等をそのまま事業部門に伝えるのは論外で、それをきちんと噛み砕いて自分の言葉で伝えるように意識して対応してますね。

日野弁護士 事業部門と外部弁護士の間でのコミュニケーションで、ヒヤリハット的なエピソードはありますか。

塩澤氏 事業部門と事前にうまくコミュニケーションができず、外部弁護士に事実関係をお伝えできなかった結果、打合せがちぐはぐになり、会社の方針決定に時間を要してしまうということはあります。外部弁護士の先生には、事実関係を正確に伝えるだけでなく、会社として意見があるなら述べるべきだと思っていますが、やはり、前者の方が重要というのを改めて認識いたしました。

日野弁護士 外部弁護士として述べると、事実関係はきちんとご説明いただきたいですね。一方、会社の意見を頂かなくても、弁護士として一定の助言はできるかと思います。

日野 真太郎 弁護士

企業規模を問わない法務の役割

日野弁護士 今日の議論をまとめると、法務の役割は、企業規模を問わず、事業目的の達成が第一だが、駄目なものは駄目とストップをかけるものだというのが本質なのかなと思います。一方で、企業規模によって、マンパワーに限界もあるので、取りうる手法には違いがあるということかと思いました。皆様、本日は、ありがとうございました。

小泉 陽子

アクセンチュア株式会社 法務本部 労働法務部 マネジャー

法律事務所にて、労働法務を中心に、M&A、紛争解決、危機管理対応など企業法務全般を幅広く経験。8年半の法律事務所勤務の後、現職にて、インハウスロイヤーとして、労働法務を中心に担当。

塩澤 一訓

株式会社デジタルホールディングス 法務・コンプライアンス部 部長

メーカーのIT部門に専属する契約担当からキャリアをスタート。現職において、持株会社の法務部門に従事した後、複数の子会社の契約精査や法律相談、M&A、紛争解決、株主総会事務局など法務業務全般を幅広く、また、社内規程の整備等のコンプライアンス業務も担当。

日野 真太郎

弁護士法人北浜法律事務所 パートナー弁護士

中国帰国子女の経歴を生かし、中華圏を中心とした国際法務に相当の経験を有するほか、国内外の顧客のM&A・投資、紛争解決、ベンチャー法務等、企業法務を幅広く取り扱う。外資系企業法務部門で勤務した経験を有し、企業内部での意思決定や、弁護士を起用する側の視点についても一定の理解を有する。

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