はじめに
事業者が社会経済活動を行う限り、必ず廃棄物が排出されることになるので、いかなる事業者も、廃棄物処理の問題から目を背ける訳にはいかない。
廃棄物処理法(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年12月25日法律第137号)。以下「法」という。また、同法施行令を「令」、同法施行規則を「規則」と表記する)3条1項は「事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」と定め、
・ 産業廃棄物処理基準の遵守(法12条1項、令6条1項)
・ 保管基準の遵守(法12条2項、規則8条)
・ 委託基準等の遵守(法12条5項~7項、令6条の2等)
を規定している。
仮に法令違反があると、当該違反を行った事業者は、行政指導、行政処分、刑事処分等の対象となる可能性があり、その時、突如として重大なリスクやトラブルに直面することとなる。
今回は、排出事業者として留意すべき基本的な通知・ガイドラインを紹介するとともに、近年改めて通知がなされた「下取り行為」「専ら再生利用の目的となる廃棄物」「焼却禁止の例外」等の解釈について、項目ごとに、事業者が知っておくべきポイントを指摘するので、これにより、廃棄物関係の知識のアップデートを図っていただきたい。
排出事業者の責務およびチェックリスト
排出処理業者の責務に関する通知・ガイドライン
平成28年、建設廃棄物についての不適正処理事案、食品廃棄物に関する不適正な転売事案が連続して発生したことを受けて、平成29年に以下の二つの通知が発出された。
① 「廃棄物処理に関する排出事業者責任の徹底について」(平成29年3月21日環廃対発第1703212号・環廃産発第1703211号)
② 「排出事業者責任に基づく措置に係る指導について」(平成29年6月20日環廃産発第1706201号)
上記①については、排出事業者責任の重要性について改めて周知徹底を促すとともに、以下のとおり、第三者によるあっせんについての言及がなされている。
「排出事業者は、委託する処理業者を自らの責任で決定すべきものであり、また、処理業者との間の委託契約に際して、処理委託の根幹的内容(委託する廃棄物の種類・数量、委託者が受託者に支払う料金、委託契約の有効期間等)は、排出事業者と処理業者の間で決定するものである。排出事業者は、排出事業者としての自らの責任を果たす観点から、これらの決定を第三者に委ねるべきではない。」
事業者が知っておくべきポイント
上記①の通知のとおり、産業廃棄物の処理については、第三者があっせんをすること自体が禁止されているわけではない。仲介業者等が介在し、委託料の授受に関与することは現実に多く行われている。
ただし、その場合でも、上記通達のとおり、委託料の金額等の重要な事項は、排出事業者と処理業者との間で決定し、直接委託契約を締結する必要がある。そして、仲介業者との間の支払委託や具体的な支払・精算の方法等については、別途書面で定めておき明確に文書化しておくことが望ましく、その際には上記通達の趣旨に反しないよう留意する必要がある。
上記②の通知は、その内容の大半が「排出事業者責任に基づく措置に係るチェックリスト」で構成されており、排出事業者が産業廃棄物を処理する場合において講ずべき措置についての解説とチェックリストが記載されている。
廃棄物の定義、遵守すべき基準、現地での処理状況の確認、マニフェスト等について、簡にして要を得た説明がなされており、排出事業者としては、必ず押さえておくべき必見資料である。
行政処分の指針
行政処分の指針に関する通知・ガイドライン
違反事業者を対象にした行政処分の指針については、令和3年、成年被後見人が欠格要件から除外されたことを受けて、以下の通知が発出されている。
③ 「行政処分の指針について」(令和3年4月14日環循規発第2104141号)
当該通知の内容としては平成30年3月30日通知またはそれ以前の通知の内容をほぼ踏襲するものである。
ただし、従前の通知と比較すると、
・ 違反行為の事実認定について具体的な記載が追加されたこと
・ 違反者に破産手続があった場合の迅速な対処についての言及
・ 都道府県間で廃棄物該当性判断が異なる場合の調整方法が追加されたこと
・ (都道府県に対し)マニュフェストにかかる義務の不履行をもって措置命令を出すのではなく、法19条の5を根拠とするよう周知したこと
等、これまでの内容の修正も若干行われているので、改めての留意が必要である。
事業者が知っておくべきポイント
排出事業者の立場としては、万が一、違反があったとして責任を問われる状況となったり、委託先の業者に違反事実が発見されるなどの事態が生じた場合には、本通知の該当部分を確認し、行政処分の要件を把握したり、今後の行政の動きを想定したりすることが必要な場合があり、その際の重要な手がかりとなる指針である。
また、そのような状況ではない平時の場合であっても、本指針には廃棄物該当性の判断(いわゆる「総合判断説」)についての詳細な説明等、廃棄物処理法の解釈上有益な記載があるので、ぜひ参考にされたい。
廃棄物情報の提供
廃棄物情報の提供に関する通知・ガイドライン
排出事業者は、産業廃棄物の処理を業者に委託するに際して、廃棄物情報の提供を行う必要がある(規則8条の4の2第6号)が、こうした場合に参照すべき資料として、
④ 環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部「廃棄物情報の提供に関するガイドライン―W D Sガイドライン―(Waste Data Sheetガイドライン)(第2版)」(平成25年6月)
がある。明らかに必要な情報を排出事業者が処理業者に提供しなかった場合は、委託基準違反として刑事処罰の対象となる可能性があるので注意が必要である(3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金(法26条1号)、同額の罰金に関する両罰規定(法32条1項2号))。
事業者が知っておくべきポイント
このガイドラインは、排出事業者が処理業者に情報提供すべき項目を記載できるツールとして作成されており、活用することで適切な情報提供が可能となる。
処理業者との間の処理委託契約書にも、同ガイドラインに従って委託者が情報提供する旨が規定されている場合が多く、契約遵守の観点からも把握しておく必要がある。
専ら再生利用の目的となる廃棄物
「専ら再生利用の目的となる廃棄物」に関する通知・ガイドライン
「専ら再生利用の目的となる廃棄物」は古紙、くず鉄(古銅等を含む)、あきびん類、古繊維の4種類を指す。この定義と当該廃棄物の回収事業者について、下記の⑤通知に以下のような記載が見られる。
⑤ 「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務等の取扱いについて(通知)」(令和2年3月30日環循規発第2003301号)
「産業廃棄物の処理業者であっても、もっぱら再生利用の目的となる産業廃棄物、すなわち、古紙、くず鉄(古銅等を含む。)、あきびん類、古繊維を専門に取り扱っている既存の回収業者等は許可の対象とならないものであること」(第1・15(1))
これは旧厚生省および環境省における通知で発出されていた内容であり、それらの内容を踏襲したものといえる。
このほか、「専ら再生利用の目的となる廃棄物」の処理等について規律する資料に下記⑥⑦がある。
⑥ 「規制改革推進のための3か年計画」(平成21年3月31日閣議決定)
本閣議決定の8「環境」の(2)「廃棄物の資源循環促進について(廃棄物・リサイクル分野)」97頁には、以下のように記載されている。
「① 使用済衣料品・繊維等のリサイクルに係る店頭回収・運搬・処分について【平成20年度措置】
複数の企業が環境への取組として、衣料製品を始めとする古繊維のリサイクルのために店頭回収を試みている。しかし、回収した古繊維の取扱に関して地方公共団体の見解にばらつきがあるため、全国展開できないという問題が発生しており、古繊維の回収が進まないという指摘がある。したがって、古繊維は、廃棄物処理法に定めのある「専ら再生利用の目的となる廃棄物(いわゆる専ら物)」に当たる場合、収集運搬及び処分業の許可は不要であり、例えば衣類の販売等、ほかの業を主として行っていても、同様に業の許可は不要であることを周知する。」
この文言は、主に店頭回収を念頭におき、古繊維については「専ら再生利用の目的となる廃棄物」に当たるので、たとえば衣類販売業者が店頭回収を行う場合に、地方公共団体が過剰な取締り等を行わないように注意喚起したものである。業許可を不要とする場合について、法の規定は「専ら再生利用の目的となる(一般/産業)廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者」(法7条1項/法14条1項)とされており、素直に読めば、「のみ」の文言により、古紙回収専門業者や古繊維回収専門業者でなければならないかのようにも読めることから、“そのような読み方をしない”という解釈を明らかにしたものと考えられる。
また、⑦でも、以下のような記載がある。
⑦ 「専ら再生利用の目的となる廃棄物の取扱いについて(通知)」(令和5年2月3日環循適発第2302031号・環循規発第2302031号)
「専ら再生利用の目的となる一般廃棄物又は産業廃棄物のみの収集若しくは運搬又は処分(以下「処分等」という。)を業として行う者については、その業を行うに当たって廃棄物処理業の許可は要しないとされている(法第7条第1項ただし書及び第6項ただし書並びに及び第14条第1項ただし書及び第6項ただし書)。また、事業者が、その一般廃棄物又は産業廃棄物の処分等を他人に委託する場合には、これらの者に委託できるとされており(法第6条の2第6項及び第12条第5項)、この場合には、産業廃棄物管理票の交付を要しないとされている(法第12条の3第1項)。このことは、専ら再生利用の目的となる廃棄物以外の廃棄物の処分等を主たる業として行っている者であっても同様であり、当該専ら再生利用の目的となる廃棄物の処分等については、廃棄物処理業の許可は要しない。ただし、専ら再生利用の目的となる廃棄物であっても、それが再生利用されないと認められる場合には当該許可が必要であることに留意されたい。」
事業者が知っておくべきポイント
⒈の冒頭でも述べたように、「専ら再生利用の目的となる廃棄物」は古紙、くず鉄(古銅等を含む)、あきびん類、古繊維の4種類とされており、上記資料記載のとおり、これらに該当する場合は、事業者から委託する場合に委託先の業許可は不要であり、マニフェストも不要となる(ただし、委託契約書は必要とされることに留意しなければならない)。また、上記⑥および⑦の閣議決定および通知から、委託先は専門業者である必要はない。
一方で、上記⑦の通知のただし書きのとおり、当該廃棄物が上記の4種類に該当したとしても、再生利用されないと認められる場合には、許可が必要となる。そのため、委託先がどのような取扱いをしているかにも留意する必要がある。
では、この「古紙、くず鉄(古銅等を含む。)、あきびん類、古繊維」の4種類以外で、「専ら再生利用の目的となる廃棄物」は存在しないのだろうか。
この点については、廃タイヤについての最判昭和56年1月27日・刑集35巻1号1頁で「もつぱら再生利用の目的となる産業廃棄物とは、その物の性質及び技術水準等に照らし再生利用されるのが通常である産業廃棄物をいうと解するのが相当である」とされていることに鑑み、必ずしも4種類には限定されないと考えられる。
ただ、その「物の性質及び技術水準」から、再生利用されるのが「通常」と言えるためには、再資源化についての実績が相当程度積み上がっている必要があると考えられ、事業者には慎重な判断が求められる。
下取り行為
「下取り行為」に関する通知・ガイドライン
「下取り行為」についても、Ⅴで取り上げた⑤通知と⑥閣議決定にそれぞれ以下のような記載がある。
⑤ 「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務等の取扱いについて(通知)」(令和2年3月30日環循規発第2003301号)
「新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要であること」(第1・15・(2))
これは、上記Ⅴで述べたように、これまでの通知内容を踏襲したものである。
⑥ 「規制改革推進のための3か年計画」(平成21年3月31日閣議決定)
これもⅤで紹介したように、8「環境」の(2)「廃棄物の資源循環促進について(廃棄物・リサイクル分野)」の97頁に以下のような記載がある。
「② 電子機器等、同一性状の他社製品を含む下取り・運搬・処分について【平成20年度措置】
電子機器等の下取りに関する規制緩和要請が規制改革会議にも多く寄せられている。製品を販売した際に商慣習として下取り(同種の製品の無償引取)した使用済み製品の輸送を事業者自身が行う際には、「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務の取扱いについて」(平成12年9月29日厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課産業廃棄物対策室長通知)によって、収集運搬業の許可が不要とされているところである。しかしながら、同種の商品であれば他社製品も下取りの対象になることや、そのタイミングが新製品の購入と必ずしも同時である必要はないことまで明確に言及されていないため、企業のCSR活動を始めとする優良事業者による自主的なリサイクルへの取組を遅らせてしまっている。したがって、同種の商品であれば他社製品の下取りも可能であること及びそのタイミングは必ずしも新製品の購入と同時である必要はないことを周知する。」
事業者が知っておくべきポイント
下取りについては、上記⑤通知から、
・ 「新しい製品を販売する際」に行われること
・ 「商慣習として」行われること
・ 「同種の製品で使用済みのもの」に対して行われること
・ 「無償」で行われること
が要件となるとされているが、上記⑥の閣議決定解釈からすれば、「他社製品」でもよく、タイミングが「新製品の購入と同時」でなくともよいこととなる。
これは、販売業者による、社会通念上相当なサービスや商慣習として行われている下取り行為について、地方公共団体が過剰な取締りを行うことを制限することを意図したものであると捉えられる。「企業のCSR活動を始めとする優良事業者による自主的なリサイクルへの取組」自体は循環型社会の実現に向けて必要な歩みであり、事業者としては、下取り・店頭回収等のサービスを検討する際に、上記の通知内容を吟味し、サービスの内容が法令および通知の趣旨に適合的であるかを慎重に判断すべきである。
適正処理が困難な廃棄物等の処理
適正処理が困難な廃棄物等の処理に関する通知・ガイドライン
適正処理が困難な廃棄物の処理は、昭和60年ころから通知の対象とされており、古くて新しい問題である。古くは使用済み乾電池に始まり、廃タイヤ、廃エアゾール製品・カセットボンベ、感染性廃棄物等、一般廃棄物及び産業廃棄物として回収する際の危険性が問題とされており、これまでさまざまな通知や製造者団体による注意喚起等が行われてきた。
近年問題となっているのが、モバイルバッテリー、スマートフォン等にも用いられているリチウム蓄電池である。回収過程での火災事故等が発生し、機材そのものへの被害のみならず処理停滞による社会的影響等から、対策を講じる際の参考として、以下の⑧⑨が公表されている。
⑧ 「リチウム蓄電池等処理困難物対策集の公表等について(事務連絡)」(令和4年4月1日)
⑨ 環境省「リチウム蓄電池等処理困難物対策集」(令和4年3月31日)
事業者が知っておくべきポイント
リチウム蓄電池に限らず、地方公共団体において適正処理が困難な廃棄物については、既存制度の活用(産業廃棄物処理施設の設置者に係る⼀般廃棄物処理施設の設置についての特例(法15条の2の5)等)のみならず、拡大生産者責任注1の観点も踏まえて、製造事業者(事業者団体)と地方公共団体とが、課題の共有や取組み方策の検討を行うなどして、連携・協力していくことが求められている。
この観点からは、製造事業者およびその事業者団体において、資源循環の観点から店頭回収等を検討する場合、上記ⅤおよびⅥで示した「専ら再生利用の目的となる廃棄物」や下取りに関する通知の解釈では許可の要否の判断が不明な場合であっても、そこで簡単に諦めるのではなく、循環型社会における製造者・販売者・消費者の連携を通じた資源循環を達成するべく、地方公共団体との協議等を通じて適法かつ適正な回収・再生(再資源化)の方法が存在しないかを模索することも一案である。
焼却禁止の例外(野焼きの問題)
焼却禁止の例外に関する通知・ガイドライン
一定の例外を除き、廃棄物を焼却することは法16条の2によって禁止されている。その“例外”については、同条各号および同条3号に基づく令14条に列挙されており、例として「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」(令14条4項)や「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの」(同条5項)などが挙げられる。ただし、これらについても、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行について(通知)」(平成12年9月28日衛環78号。いわゆる課長通知)において「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却としては、農業者が行う稲わら等の焼却、林業者が行う伐採した枝条等の焼却、漁業者が行う漁網に付着した海産物の焼却などが考えられること。なお、生活環境の保全上著しい支障を生ずる廃ビニールの焼却はこれに含まれるものではないこと」「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なものとしては、たき火、キャンプファイヤーなどを行う際の木くず等の焼却が考えられること」など、より具体的な“例外の範囲”が示されており、これを逸脱するものについては、改善命令、措置命令等の行政処分および行政指導の対象となりうる。
さらに近年、下記の⑩通知が示された。
⑩ 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第16条の2の規定に基づく廃棄物の焼却禁止の例外とされる焼却行為に対する行政処分等の適用について(通知)」(令和3年11月30日環循適発第2111305号)
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(略)第14条各号に規定する焼却禁止の例外とされる廃棄物の焼却についても、当該焼却行為により、健康被害も含む人の生活に密接な関係がある環境に何らかの支障が現実に生じ、又は社会通念上そのおそれがあると判断するに相当な状態が生ずる場合等においては、処理基準に適合しない焼却行為として、措置命令等の行政処分及び行政指導を行うことは可能であることに留意されたい。」
裁判例では、東京高判令和2年8月20日・高検速報集(令2)号211頁において、農業を営む被告人が廃棄物である竹約20.5キログラムおよび柿の木の枝等約4.25キログラムを焼却した行為について、法16条の2第3号の除外事由に該当しないと判断され、以下の判示により有罪判決が下されている。
「法第16条の2第3号の規定による焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却については、公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として、令第14条各号において具体的に明示している。なお、同条各号が規定されていることを奇貨として、同条各号に該当する焼却行為であると称し、悪質な廃棄物の焼却が行われることを防止するべく、取締りの観点から限定的に解するため、同条第4号においては、「やむを得ない」と付言したものである。したがって、個別の事案における罰則の適用において、当該例外規定における「やむを得ない」ものといえるか否かの解釈に当たっては、公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却に該当するか否かという点を勘案し、法の目的に照らして合理的と認められるかにより判断されるべきものであり、生活環境の保全上著しい支障を生ずる焼却は、これに含まれるものではない。」
本件では、周辺に一般民家等が混在する旧来の住宅街にある所有地で、上記の量の竹と柿の木の枝等を一緒に入れ、ガスバーナーで点火して約30分間にわたって燃やしたことは「社会慣習上やむを得ないと言えない」=「除外規定に当たらず有罪」と判断した。
その後、仙台高判令和3年9月14日・高検速報集(令3)号562頁においても、いちごの葉(たい肥袋で約30袋分)および段ボール箱等合計約46.1キログラムを焼却した事案で、人家や公共施設からそれほど離れていない場所で、焼却によって生じる煙・灰などが周辺環境に影響を与える可能性があること、他の畑に運んでたい肥として使用することが可能であり、そのことが農家にとって過重な負担となるとは言えないこと等を理由として、同様に有罪判決を下している。
事業者が知っておくべきポイント
野焼き行為の罰則は、5年以下の懲役、1,000万円以下の罰金と重く(法25条1項15号)、両罰規定により法人は3億円以下の罰金(法32条1項1号)に処せられる可能性がある。自らの敷地内であるからと油断して焼却を行い、近所からの苦情で摘発されるなどといった事態を招かないためにも、上記の通知・裁判例に目を通し、除外規定の安易な解釈によってそのような行為が行われないよう、従業員に周知することを検討されたい。
既存地下工作物の取扱い
地下工作物の存置に関する通知・ガイドライン
地下工作物に関しては、一般社団法人日本建設業連合会から「既存地下工作物の取扱いに関するガイドライン」(2020年2月)が発表されているところ、これを受け、下記の⑪通知の第3において、当該ガイドラインを基準にして、既存地下工作物を存置することができる場合の要件が示された。
すなわち、以下の❶~❹のすべての条件を満たすとともに、同ガイドライン3.2.3「存置する場合の留意事項」に基づく対応注2が行われる場合は、関連事業者および土地所有者の意思に基づいて地下工作物を存置して差し支えないとされた。
➊ 存置することで生活環境保全上の支障が生じるおそれがないこと
➋ 対象物は「既存杭」「既存地下躯体」「山留め壁等」のいずれかであること
➌ 地下工作物を本設または仮設で利用する、地盤の健全性・安定性を維持するまたは撤去した場合の周辺環境への悪影響を防止するために存置するものであって、老朽化を主な理由とするものではないこと
➍ 関連事業者および土地所有者は、存置に関する記録を残し、存置した地下工作物を適切に管理するとともに、土地売却時には売却先に記録を開示し、引き渡すこと
なお、存置の対象となるのは、コンクリート構造体等の有害物を含まない安定した性状のものに限られ、戸建住宅の地下躯体は対象に含まれない。
また、地下工作物を存置する場合においても、石綿含有建材やPCB使用機器などの有害物、これら以外の内装材や設備機器などはすべて撤去すべきとされ、地方公共団体が上記の❶~❹の条件を満たしていないと判断した場合は、当該地下工作物は「廃棄物」に該当しうるとともに、生活環境保全上の支障が生じ、または生ずるおそれがあると認められると判断した場合は、地方公共団体は当該地下工作物の撤去等、その支障の除去等の措置を講ずべきことを事業者に対し命ずることが可能であるとされている。
事業者が知っておくべきポイント
建設業者・開発業者のみならず、一般の企業も、土地の売買に関わる場合には、地下工作物の処理について自ら検討する場面が多くあると思われる。
万が一にも、既存地下工作物が「廃棄物」に該当すると指摘されないよう、要件該当性を確認する必要がある。
最後に
以上、排出事業者に関係する基本・最新の通知・ガイドラインを紹介してきたが、留意すべき点として、あくまで通知等は法令そのものではなく、法令解釈についての当該時点での一定の見解を通達したものにすぎない点が挙げられる。
通知内容を独善的に拡大解釈して、生活環境保全上の支障を生じさせるような行為を正当化することは当然に許されない一方で、事業者の再資源化に向けた適切な活動が“通知に記載がない”とか“通知内容と完全には一致しない”等の理由だけで(通知の解釈に固執して)必要以上に制限されるのでは、循環型社会の実現にとっては大きな妨げとなる。
事業者の環境担当者、法務担当者におかれては、上記の通知・ガイドライン等の把握や事業者団体、処理事業者、環境コンサルタントおよび弁護士等との折衝・協議を通じて、正しい知識の習得と法令遵守体制の整備を行うとともに、循環型社会の実現に向けた新規の活動を検討するに際しては、行政(地方公共団体等)との連携・協力も視野に入れた展開を模索することも考慮されたい。
→この連載を「まとめて読む」
- 拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)とは、生産者は、自身が生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適切なリユースやリサイクル、あるいは処分に一定の物理的または財政的責任を負うという考え方をいい、法3条2項にも規定されている。[↩]
- ガイドラインにおいては、「全般的な留意事項」と「工学的な留意事項」とがそれぞれ列挙されており、後者には「設備ピットなどの地下空間については、将来の崩落の可能性や溜まり水の腐食など、生活環境保全上の支障となるおそれがある場合は、その空間を充填したり躯体に水抜き穴を設けたりするなどの対処を検討する」「存置した既存地下工作物の近くに新規の杭を打つ場合は、設計支持力が構造計算どおりの性能を示すよう、杭先端が既存地下工作物よりも深い深度となるよう配慮する」など、専門的な指摘がなされている。[↩]
山路 邦夫
弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士
01年京都大学法学部卒業、02年弁護士登録。企業関係の訴訟・紛争解決、企業不祥事対応を取り扱う。とりわけ環境法(廃棄物処理法、土壌汚染対策法等)について企業の相談、案件対応を多く受任し、19年には廃棄物処理法違反被告事件で主任弁護士として無罪判決(一審確定)を獲得するなど、行政対応、民事・刑事の訴訟対応までを見据えたアドバイス、案件受任に特徴がある。東京弁護士会所属。
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