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2026年5月27日、今年で6回目を迎えた「法務の重要課題」セミナーが開催された。取適法や公益通報者保護法など、企業を取り巻く重要な法改正が相次ぐ中、本セミナーでは実務の最前線に立つ弁護士と企業の法務責任者らが登壇し、制度改正のポイントや実務上の課題について本音で語り合った。企業価値向上やリスクマネジメントの観点も交えた活発な議論が展開され、参加者にとって示唆に富む機会となった。

2026年度施行の重要な法改正への対応

第1部は、ベンチャーラボ法律事務所・代表弁護士の淵邊善彦氏による、今年度施行の法改正の概説で幕を開け、法務が抱える実務上の課題をテーマにディスカッションが展開された。まずは2026年1月1日施行の取適法について、各社の取り組みが紹介された。

守田氏 ハード面とソフト面の二本立てで対応しています。ハード面では社内規程の見直しや取引先登録時の従業員数入力のしくみ化、ソフト面では社内周知や弁護士を招いた研修の実施などです。完全な違反ゼロが難しい以上、問題が生じた際に“適切に対応してきた”と示せるよう、取り組みの記録を法務に集約しておくことが重要です。

守田 達也 氏

大島氏 法務だけでなく、財務など関連部署も巻き込み、対象取引先リストを間接部門で一元管理する体制に移行しています。従業員数の確認については、データを購入して半期に一度チェックするしくみを構築しました。子会社については自社が保護される側になるケースもあるため、各社の実態に向き合った個別対応が不可欠です。

早川氏 法律の適用判断が複雑なので、関係部門へのヒアリングを強化し、連携体制を敷いて対応しています。支払条件などは広めに取適法対象として扱う方針としました。従業員数の確認は書面で取引先に回答を求める形で実施しましたが、今後どのような形で継続するかが課題の一つです。

板谷氏 取適法のような業務オペレーション自体を見直す必要がある法改正では、“法律をビジネスの言葉に置き換えること”と“現場が自然に守れる業務のしくみを設計すること”の二つが求められます。AIを活用するには、業務マッピングで事業部門ごとに“どんな取引があり、どこにリスクがあるか”を具体的に把握したうえで、プレイブック(AIへの指示書)を作ること、そしてAIが自社の業務データにアクセスできるインフラを整備することが重要です。

淵邊氏 各社の取り組みが示すとおり、取適法対応には各事業部門の業務実態を踏まえた運用設計が不可欠です。適用の判断基準を浸透させるため、法務は事業部門と対話しながらガイドラインを整備し、現場が動けるしくみを構築する必要があります。まずは公正取引委員会のテキストを丁寧に読み解くことが出発点となるでしょう。

続いて、議論は公益通報者保護法改正へ移行。まず淵邊氏が「通報対応義務の強化、罰則の新設など、事業者に求められる措置は全体的に強化されています」と指摘したうえで、各社の課題と対応状況を尋ねた。

早川氏 当社では前回の改正を機に、通報受付窓口を完全に外部へ集約しました。会社側は通報者を特定する情報を原則として入手せず、マスキングされた情報を基に調査を行っています。通報後に別の理由で人事異動が生じた際、“通報したから異動させられた”と受け取られるケースも想定されることから、従業員の理解を得る難しさを感じています。本改正で、通報から1年以内の解雇等は通報を理由と推定する規定が入ったことで、懲戒・解雇手続の証拠資料をより充実させる必要があると考えています。

大島氏 調査の難しさとして、事実確認の聴取により、特に小さな部署では通報者が特定されるリスクがあります。また、社内に調査ノウハウを持つ担当者が固定化され、重い負担となっています。法令に抵触せず、かつ真の不正をきちんと把握できる調査スキルを形式知化し、次世代に引き継げる体制を整えることが急務です。懲戒委員会での事実認定の議論に耐えうる記録の整備につき、法務がより積極的に関与する余地があると感じています。

大島 美穂子 氏

守田氏 内部通報は、調査ノウハウが蓄積されている法務・コンプライアンス部門で一元的に受け付けています。今回の改正を契機に、経営陣に対して“調査員保護のために外部弁護士の活用が不可欠”と説得する材料として活用しています。通報者への対応で担当者が疲弊するケースがあるため、通報者へのフィードバックを弁護士経由で行うトライアルを開始しました。費用対効果を考え、大手ではなくフットワークの軽い事務所を探しており、案件の性質に応じて対応できるよう弁護士ネットワークの拡充も検討しています。

板谷氏 テクノロジーの観点から見ると、今回の改正で最もコストがかかるのは初動対応、つまり、ファクトを揃えるためのヒアリングプロセスです。ここをAIで代替できないかという議論が増えています。AIには匿名性を損なう質問や誘導的な質問をしてしまうリスクがある一方、ヒアリング後のサマリーのみを会社に渡すような権限設計が可能という利点もあります。ただし汎用AIはリップサービスが過剰になる傾向があるため、法務実務に特化したシステムプロンプトの設計が不可欠です。

カスハラ対応については、早川氏が「カスハラ防止方針」の策定とルールの整備により担当者の精神的負担が軽減したと、自社の取り組みを紹介。就活セクハラ防止措置の観点では、大島氏が、相談窓口をわかりやすい場所に設置しているかどうかは、ESGを重視する学生から見た企業評価にも影響すると指摘。「リスクが小さいからと目立たない対応をしていると、採用競争力の低下につながりかねない」と警鐘を鳴らした。

出展企業ブースでは、参加者との名刺交換や情報交換が活発に行われた。

 

リーガルテック各社によるサービス紹介

法改正の議論に続き、実務での活用という観点から、リーガルテック企業によるサービス紹介が行われた。

「MNTSQ AI Agent」のご紹介

MNTSQ株式会社の板谷隆平氏は、AI時代の法務業務のあり方と同社のビジョンについて語った。従来の“AI契約レビュー”や“契約管理システム”といった単機能型のリーガルテックは、今後AIに代替される可能性があると指摘。そのうえで、契約業務を営業支援システムやコミュニケーションツール、稟議システムなど、全社の業務オペレーションと連携させ、AIが企業の意思決定プロセスや取引先との関係性まで理解できる環境を構築することが重要だと述べた。また、リーガルテックは法務部門だけが利用するツールではなく、事業部門も活用できる形へと進化すべきだと強調。法務部門の知見や判断基準を学習したAIアシスタントを全社に展開することで、低リスク案件は事業部門とAIが自律的に処理し、法務は高度な判断を要する案件に集中できるようになると述べた。さらに、法務による判断結果をAIへ継続的にフィードバックすることで、AIが対応可能な領域は徐々に拡大し、法務業務全体の効率化と高度化が進むとの予測を示した。そして、「企業全体のガバナンス強化と法務機能の持続可能性を実現するため、AIと人が役割分担しながら協働する新たな業務モデルの実現を図っていく」と今後の展望を述べた。

板谷 隆平 氏

法務に、組織で使えるAIを。「MNTSQ AI Agent」(詳細はこちら

AI時代に求められる契約データベースの構築と仕組み化

Sansan株式会社の友澤祐太氏は、AI活用の成否を左右するのは、“何をAIに学習させるか”であり、その前提として契約データの整備・構造化が重要であると説明。AI契約データベース「Contract One」を使うことで、すべての契約書をデータ化し、契約同士の関係性も含めてAI分析に利用できると説明した。さらに、同社が保有する企業データと組み合わせることで、取引先の従業員規模や資本金などを踏まえた契約審査や、取適法の対象判定を支援できると続け、最後に「Contract Oneと生成AIをMCPサーバーで連携すれば、契約審査前の案件振り分けや、共同研究契約書のような非定型契約のレビュー支援も可能になり、契約データと企業データを活用した高度な契約業務を実現できます」と語った。

友澤 祐太 氏

AI契約データベースが、利益を守る「Contract One」(詳細はこちら

取適法・新リース会計基準。制度対応で生じる“各部門との板挟み”を解消するAI活用

株式会社Hubbleの酒井智也氏は、取適法と新リース会計基準への対応において、“契約情報が各部門に分散した状態では適切な対応が難しい”という課題を指摘し、契約管理プラットフォーム「Hubble」による解決策を示した。取適法対応では、AIによる適用対象取引の判定や記載事項の不足検知を自動化できると説明。過去契約のリスク分析や行政調査時の情報提出にも対応できるとした。新リース会計基準への対応では、AIが契約書を横断的に分析し、リース該当性や簡便処理の適用可否を一次判定することで、属人的な判断や契約棚卸しの負担を軽減できると紹介。「制度対応に伴う実務負荷の削減と、経理・法務部門の業務効率化を支援します」と述べた。

酒井 智也 氏

AI契約業務・管理クラウドサービス「Hubble」(詳細はこちら

2026年度の重要トピック

議論の後半では、まず、各社のサイバーセキュリティ対策の状況が紹介された。

守田氏 法務の主な役割は、インシデント発生時の個人情報保護委員会への届出と当局対応です。グループ会社を含めインシデントは頻繁に発生していますが、“疑わしければ届け出る”という実務が定着してきました。

早川氏 情報セキュリティ委員会を、システム・法務・総務・人事などの横断体制で運営しています。従業員向けには2~3分で完結するプチ・ラーニングを高頻度で実施し、なりすましメールを使った訓練も行っています。ランサムウェア攻撃による事業停止を“起こりうる事態”として想定したBCP(事業継続計画)の策定にも着手しており、発生後の対応を前提とした体制整備の段階に入っています。

早川 拓司 氏

大島氏 最近のインシデントは悪意ある情報持ち出しより、セキュリティ設定の不備が穴になるケースが増えています。“業務フローに沿って動いていれば自然とルールが守れている状態”の設計が重要だと考えており、IT部門と連携して体制整備を進めています。

板谷氏 法務部門が直面するサイバーセキュリティ上の論点として、①AIへの情報入力に関する整理(個人情報・営業秘密・秘密保持それぞれの観点から検討が必要)、②初動の法的オペレーション設計(年間2万件規模の届出をどうガバナンスするか)、③ベンダー契約責任(利用するツールの裏側でどのサービスが使われているかまで把握・確認すべきか)の三つがあります。いずれも明確な解を出しにくく、法務対応の難しさを感じています。

続いて、利活用促進と規制強化の両面を併せ持つ今回の個人情報保護法改正について、淵邊氏は「論点が多岐にわたるうえ、数多くのガイドラインが公表されており、フォローが難しい状況」だと述べ、AIへの情報入力の問題を含めた対応課題や、AI利用について議論を促した。

早川氏 BtoCビジネスを行う立場として、本改正の焦点の一つは子どもの個人情報取得時の同意手続です。消費者キャンペーンなどで広く個人情報を取得する際に子どもが含まれうるケースへの対応を、どのように設計するかが今後の課題です。

板谷氏 “社内データは匿名化してからAIに入力せよ”というポリシーは、実際には“シャドーIT”を生むだけで機能しないケースがほとんどです。厳しく制限すれば、従業員が勝手にAIを使用してしまうでしょう。情報ガバナンスのエンフォースメントには現時点で明確な解がなく、各社が苦労している状況だと思います。

淵邊氏 すべての個人情報を一律に匿名化するというルールは、現実的ではありません。要配慮個人情報はしっかり保護しつつ、それ以外はメリハリをつけて対応することが重要です。まずは社内にどんな情報があるかを把握したうえで、ガイドラインを策定し、システムに落とし込んでいくことが理想です。とはいえ、それも容易ではなく、各社が試行錯誤しながら取り組んでいる領域だと思います。

淵邊 善彦 氏

最後に、会社法改正とCGコード改訂の動向について議論が及んだ。

守田氏 会社法改正については、検査役制度の全面的な見直しなど企業側からさまざまな要望が出ていますが、すべてが通るとは見ていません。CGコードはシンプル化・プリンシプルベース化の方向で、それほど大きな対応は不要と考えています。

大島氏 指名委員会等設置会社として、取締役会事務局は独立した取締役会室が担っており、法務の直接関与は限定的です。実務上の最大の懸念は有価証券報告書(有報)の早期開示です。決算・業績予想・中期経営計画と重なる中で総会3週間前の有報提出は現実的に難しく、総会日程自体を見直さない限り解決しないと感じています。

早川氏 まったく同感で、有報の総会前開示は、社内の承認・確認手続を考えると3週間前開示は困難であり、総会日程の見直しとセットで議論する等も必要になってくるものと考えています。取締役会の実効性評価については、“議論の内容”という実質が問われるフェーズに入っています。

淵邊氏 法務が組織全体の業務設計に関与していく時代が確実に近づいています。変化の激しい時代では、今回のように現場の知恵を持ち寄り、率直に議論できる場はますます重要となります。各社の取り組みが互いの参考になり、法務部門の底上げにつながることを期待しています。

講演終了後の懇親会では、登壇者と参加者による交流の輪が広がった。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2026』を 「まとめて読む」
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