【独占禁止法】同業他社とのコミュニケーションにおける留意点 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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研究者でもある弁護士が独占禁止法活用の新しい戦略を構築

公正取引委員会(以下、「公取委」)への出向経験、独占禁止法弁護士としての多様な経験、そして筑波大学准教授という研究者の視点も持つ、平山法律事務所の平山賢太郎弁護士。平山弁護士は、経験と視点を活かして、公取委審査対応のみならず独占禁止法に関する多様な助言を行っている。その一つが、取引先や同業者の独占禁止法違反行為の公取委への申告である。

「“競合他社から不当な妨害を受けている”“取引先から‘下請けいじめ’というべき無理難題を押しつけられている”などの場合には、相手方に独占禁止法違反の懸念を直接に伝えることも選択肢の一つでしょう。しかし、相手方が納得しないことも想定されますので、公正な競争秩序を実現するために公取委への情報提供という選択肢を検討すべき場合があります」(平山弁護士)。

ただし、公取委はすべての案件を取り上げるわけではないだろう。「公取委へ情報提供すべき案件は、公正な競争秩序を実現することの大切さを国民や関連業界が理解することにつながるような、インパクトがある案件です。ご相談をいただいた場合には、このことを確認し、調査着手の必要性を正しく伝えるための検討を重ねた上で公取委への申告に至ります。実際にいくつもの案件で、立入検査や報告命令など正式な審査が開始されるという大きな成果を得ました」(平山弁護士)。

グローバルビジネスへの審査対応に最新の知見を活かす

近年、公取委はグローバルIT企業やプラットフォーム事業者への審査を積極的に行うようになっている。平山弁護士は、これらの審査案件において事業者を代理した経験から、また大規模プラットフォーム事業者を監視する経済産業省「モニタリング会合」委員としてさまざまな分野の専門家と議論した経験から、公取委には新しいビジネスの本質を理解した上で事案の真相を解明することが期待されていると語る。

「公取委がビジネスの内容を誤解してしまう可能性もゼロではありませんので、調査対象となった会社は、公取委にビジネスの本質を正しく理解してもらうよう積極的に説明を行うべきです。代理人弁護士は、“審査対象のビジネスが競争にどのような影響を与えるのか”“どのような合理性を備えているのか”について、公取委の審査に対応してきた経験や独占禁止法理論に関する知見をふまえて、公取委に分かりやすく説明するためサポートすることが求められます」(平山弁護士)。

米国などでは、独占禁止法分野の経済学・法学研究者がIT企業やプラットフォーム事業者へ移籍したり法律事務所のアドバイザーに就任したりして実務経験を積み、大学に戻って研究成果を公表することも珍しくない。実務が研究を発展させ、研究成果がさらに実務へ応用されるサイクルが成立しており、日本でも海外の知見から主張のヒントを得て公取委へ提示することが審査対応の突破口となることがあるという。

「欧米の最新の議論をウォッチし理解するには相応の労力を要しますし、日本の実務へ応用するには日本特有の事情を踏まえた検討も必要です。私は研究者および独占禁止法弁護士として、論文を日々チェックし、海外や国内の研究会でネットワークを構築してきましたので、クライアントからご相談をいただいたときに追加のリサーチに時間をかけず、すみやかにご助言を差し上げることができます」(平山弁護士)。

同業他社とのコミュニケーションの留意点は

同業他社との会合などには、多くの法務部員や関係者が不安を感じているだろう。販売価格引上げにつながる情報交換を慎むべきであることは知られているが、落とし穴というべきポイントにも留意が必要である。

「近年、SDGsに関する同業他社との情報交換が注目されています。二酸化炭素の排出量を減らすために、老朽化した工場を一斉に閉鎖し廃棄することを業界団体の会議で決定することは、環境保護を隠れ蓑にした違法なカルテルと評価されてしまうおそれがあります。“環境保護の目的を掲げればどのような手段を講じても許される”などと誤解せず、合理的といえる範囲内の取り組みを着実に進めていただきたいと思います。
実は、SDGsについては議論がグローバルかつ急速に進展しており、公取委もその動向を注視しています。独占禁止法理論に支えられた骨太な説明を公取委に示すことが重要でしょう」(平山弁護士)。

また、“同業他社は‘誰’か”ということにも留意すべきだという。「会議の相手方が同業ではない事業部門の担当者であっても、その会社が同業といえる事業部門も有していれば、開示した情報が相手方の会社の中でシェアされ、結果的に同業他社と情報を共有したことになってしまう可能性があります。会議の相手方から開示を受けた情報を自社内で共有する場合も同様です。情報が各社においてどのように共有されるか確認し、秘密保持契約において必要な手当てを行うなど、適切な情報管理を心がけることが大切です」(平山弁護士)。

読者からの質問(情報管理への取り組み)

Q 情報管理を徹底することが現実として難しいです。どこまで、どのように取り組むべきでしょうか。
A 同業他社との会合などについて、事前申請や事後報告の制度を整える会社が増えています。しかし、内容をチェックするために法務部・総務部に過大な負担がかかってしまっていることも少なくないようです。
コンプライアンスの取り組みを持続的かつ実効的なものにするためには、独占禁止法リスクの程度を正しく評価し、その上で、申請対象となる会合の範囲を適切に設定したり、申請内容のチェックをリスクの程度に応じて事業部門と法務部・総務部との間で分担したりするのがよいでしょう。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題』を 「まとめて読む」
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平山 賢太郎

弁護士
Kentaro Hirayama

01年東京大学法学部卒業。02年弁護士登録(第二東京弁護士会)。07~10年公正取引委員会事務総局(審査局審査専門官)。10年Slaughter and May法律事務所(英国)競争法グループ出向。22年筑波大学大学院ビジネスサイエンス系准教授(経済法)。このほか、九州大学部法学部准教授や、東京大学、名古屋大学等のロースクールの講師を歴任してきた。独占禁止法分野(日本)を代表する弁護士の一人としてChambers Asia Pacificに11年連続掲載されている。