【情報ガバナンスと暗号資産】企業と投資家を守る、資産としての“情報”の適切な管理・運用を支援 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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“情報”を取り巻く法規制の動向を注視し適時・適切な支援を

「企業活動を取り巻く法令は精緻化を続けています。個人情報や営業秘密などの情報漏えい、過重労働やハラスメント、不正経理といった典型的な不祥事であってもその原因は多岐にわたり、さらに新しいタイプのコンプライアンス違反にも対応が求められています。不祥事の事後対応としての調査・再発防止策策定、事前対応としての社内体制の整備・社内教育という総論は変わっていなくても、各論として各事案への対応策として求められる水準は高くなり、また、暗号資産などテクノロジーの進化による新たな課題も生まれるなど、各論の種類自体も確実に増えてきています。企業にとっては、事前対応としての社内体制の整備についてもこれまで以上に各論に対する細かい対応が求められています」。シティユーワ法律事務所の栗林康幸弁護士は、コンプライアンスの大枠を捉えているだけでは不十分であり、日ごろから細部まで対応していなければならないと指摘する。
「不祥事発生後の速やかな調査と原因究明、再発防止策の構築が重要であることはいうまでもありませんが、さらに適切なタイミングで適切な内容の企業情報を開示していくことも企業のレピュテーションを守るためには重要です。近時は、財務情報のみならず、非財務情報に向けられる視線が厳しくなっています。適切な情報開示を行うためには、平時から適切に社内情報を管理しておくことが必要ですが、このことが危機時に適切に対応できることにもつながると考えています。万一不祥事が発生してしまったとしても、発生後の情報開示を適切に行い、企業のレピュテーションの低下を最小限に抑えなければなりません。平時からの情報管理体制の構築と適切な情報開示は、不祥事対応にも結びついているといえるでしょう」(栗林弁護士)。

栗林 康幸 弁護士

同事務所では、暗号資産取引をめぐる動きにも注視し、日本暗号資産取引業協会の運営にも携わるなど、取り組みを進めている。オンライン上のやり取りという点において、データ管理に関する業務の一環といえよう。「信託銀行による暗号資産を信託財産とする信託取引などは法令上認められていないため、暗号資産が現状、事業会社の中で重要な位置を占めているとはいえません。しかし、ブロックチェーンが決済の仕組みとして優れていることは事実ですし、デジタルの世界で新たな経済空間を実現しようとするメタバースの取り組みが活発になってきています。暗号資産を取り巻くルール作りが進み、信頼性が向上し、規制が緩和された際、暗号資産は企業にとって管理すべき重要なデータの一つになるはずです。そのときに、暗号資産の仕組みや規制緩和に至るまでの流れなどを理解していなければ適切なアドバイスができません。当事務所にとって重要なテーマと考えています」(栗林弁護士)。

情報管理体制の構築とそれを運用する“人”のあり方

個人情報やデータに対する社会の感度が高まっているにもかかわらず、情報漏えいや情報の不正入手とその利用など、情報をめぐる不祥事は、後を絶たない。「従業員の内部不正やサイバー攻撃による情報漏えいを防ぐことは当然ですが、近時は、蓄積されたデータの利活用や自社の非財務情報の発信など、情報・データを守るだけでなく、適切な活用や開示という情報のコントロールが重要になっています」。武田涼子弁護士と豊田祐子弁護士は、企業内での情報管理に関する戦略やガバナンスの重要性が非常に高まっていると指摘する。
「情報ガバナンスには三つの局面があります。まず、社内のどのような情報が自社の価値を増やすために必要で、どのように所在しているかということを把握するという“データマッピング”を実施し、守るべき情報を適切に守るという“データ管理の局面”、次に自社の情報をどのように正確かつ適切に開示していくか、また情報やデータをどのように利活用するか戦略を考え、自社に関する広報戦略をどのように展開するかという“利活用の局面”、さらにこれらを効果的に進めるために自社内での社内体制や内部統制をどのように構築していくかという“情報ガバナンスの構築・運用の局面”です。本社は適切に対応しているものの、子会社やサプライヤーにおける対応が不十分と感じる場面も多々あります。また、データの利活用の面では先走りの危うさを感じるときがあります。データの利活用による新たなサービスの可能性は想像されている以上のものがあり、事業者として早く世に出したいと思う気持ちはよくわかりますが、一般消費者のプライバシーの感度を読み誤り、良かれと思って提供するものが批判を浴びることも少なくありません。弁護士としては、保守的に過ぎることなく、一般消費者の不安感も考慮して、事業者には、規制内容を伝えるのみならず、社会で共有されているような感覚も伝える役割となることも重要であると考えます」(武田弁護士)。

武田 涼子 弁護士

「データ管理の局面では、営業秘密や個人情報、プライバシーなど情報にもさまざまな性質があり、それぞれに関する法令やガイドラインに従った対応が求められます。情報を守るという点では社内でのセキュリティ体制の構築や文書管理のために、また経営判断という点では適切な情報が適切に伝達されるために、内部統制の仕組み作りが不可欠です。仮に情報漏えいなどの不祥事が発生してしまった場合でも、適切な内部統制の体制を構築・運用していれば“ここまで対応していたが起こってしまった”と釈明できますが、体制が整備されていなかったと評価されれば取締役の監督責任が問題となります。もちろん、事前に予防できる体制であるべきですが、有事の際を考えても内部統制の仕組みは不可欠です。また、社外への情報発信については、適時開示の要請に従うことはもちろんですが、コーポレートガバナンス・コードの改訂もあり、特に上場企業においては、財務情報にとどまらず、中長期的視点に基づいて持続可能な社会を担う社会的責任をどのように果たしていくかといった非財務情報をどのようにステークホルダーに伝えていくかという広報戦略が重要です。気候関連情報や人的資本に関する情報など、さまざまな議論がなされていますので、これらを注視して、自社の企業価値との関連性を主体的に判断しつつ、開示していくことが求められます」(豊田弁護士)。

豊田 祐子 弁護士

自社に関する財務情報のみならず非財務情報をどのように開示し、広報として幅広いステークホルダーに情報を届けていくか。今後もこのような事項の開示要請は加速していくと、武田弁護士と豊田弁護士は指摘する。
「財務情報の開示には慣れていても、非財務情報の開示は雛形のようなものがなく、企業規模や戦略に応じて各企業が考えなければなりません。投資家はもちろん、社会全体の厳しい視線が注がれている中、リーガルリスクだけでなくレピュテーションリスクまで考慮しなければならず、各企業とも苦慮されていると感じています。また、情報は一度開示してしまうと元に戻せません。開示すべきもの、守るべきもの、広報戦略、社内体制の整備など、一朝一夕に培えるものでなく、日頃から整えていく必要があります。世界のトレンドがどのように進んでいくのか、現時点では何ができるかを考え続けていくことが大切ですし、弁護士もサポートできる部分だと思います」(武田弁護士)。
「組織は“人”です。まず、社内役職員に対し、情報の取り扱いに関し、何がどの程度のリスクとなるかを意識させるとともに、適切かつ迅速な情報伝達の実践方法を構築し、また守秘義務の遵守を継続して意識する仕組み作りが必要です。また、不正が起こりやすいような企業風土を是正し、コンプラアインスを遵守し、愛社精神が醸成されるような職場環境作りが求められます。内部通報制度などは最後の手段であり、そこに至る前に、経営トップがイニシアチブをとって、自社を良くしようと思う社員の声を反映できるよう、風通しの良い組織とすることが、適切な情報管理につながっていくといえるでしょう」(豊田弁護士)。

暗号資産の今後 トラベルルールやステーブルコインの行方

暗号資産をめぐっては、いまだにネガティブな議論が目立つ。「単なる投機の手段にすぎない」「犯罪の隠れ蓑になる」という2点である。このような議論に対して、後藤出弁護士と齋藤崇弁護士は「マネーロンダリング対策(Anti-Money laundering:AML)の向上と決済手段としての活用によって、暗号資産は今後、ブロックチェーン取引、ひいては社会経済の発展に寄与するものとなっていくと考えています」と述べる。特に、後藤弁護士は日本暗号資産取引業協会の顧問弁護士として、暗号資産取引に関する規制全般を見るだけでなく、業界の自主規制の整備にも尽力する。
「暗号資産の将来性に対する見方は、昨年来かなりポジティブなものになってきています。例えば、テスラが自社の電気自動車を暗号資産で購入できるようすると発表したり、暗号資産先物のETFが承認されたり、米国での暗号資産の取り扱いの幅が急速に広がってきたことがきっかけです。また、不正流出などの事件がここ数年なかったこともあります。しかし、重要なポイントは、決済手段への活用と、AML対策の進展にあると思っています。まず、決済手段への活用についてですが、米国では、かなり前から暗号資産取引の決済手段として“ステーブルコイン”と呼ばれる法定通貨と連動した暗号資産が用いられてきました。最近ではNFTなどブロックチェーン上で取引される新しいデジタル資産が注目されており、その決済手段として暗号資産が期待されています。さらに一般の事業会社も顧客サービスとして暗号資産での決済に対応し始めており、決済手段としての暗号資産が徐々に姿を現しつつあります。AML対策については、暗号資産の匿名性に伴う課題の克服がテーマとなります。アドレスさえ交換業者に伝えれば送金してくれる、受取人がどのような人かを問われることなく、受取人が制裁対象者であったりマネーロンダリングに使われる可能性があったりしても送られてしまう。そのような匿名性は、もともとは暗号資産の魅力でもあったわけですが、現在では厳しい目が注がれています。しかし、このようなリスクを克服するための取り組みが2022年から2023年にかけて急ピッチで進められています。その結果として、日本は暗号資産をめぐるAML対策において世界でも充実した国の一つになるのではないかと思っています」(後藤弁護士)。

後藤 出 弁護士

「暗号資産投資ファンドの組成や暗号資産を信託財産とする信託・暗号資産関連デリバティブ取引を行う信託の引き受けについて検討するなど、金融機関においても暗号資産を取り扱うことについての関心は高かったのですが、投信法や銀行法、兼営法などの各種法令や、金融庁の監督指針による規制により、現状は金融機関において暗号資産の取り扱いが許容される場面はかなり限定的になっています。当事務所が手がけた案件が実現しそうになったものの、最終的に金融庁の承認を得られず、断念せざるを得なかった事例もあります。ただ、米国での暗号資産の取り扱いの拡大を受けて、海外の暗号資産取引業者からの、日本の規制状況などに関する問い合わせが増えてきています。海外の取引業者においても、今後の日本の暗号資産に関する規制の動向を虎視眈々と注視していると思います」(齋藤弁護士)。

齋藤 崇 弁護士

後藤弁護士も齋藤弁護士も、現状、事業会社にとってすぐに暗号資産への対応が求められる状況にはならないと見ているが、暗号資産の決済手段としての活用や信頼性の向上、そしてAML対策の進化によって、暗号資産を取り巻く規制が緩和され、暗号資産投資ファンドの組成やその投資運用、あるいは暗号資産によるファンドへの出資等の機会が拡大する可能性を指摘する。
「2015年から1年間、金融庁に出向していたのですが、市場や世の中の動きを捉えて、一般の投資家等に被害が及ばないようにするための規制や監督・検査のあり方を検討する場面に直面しました。動いているビジネスを止めず、それでいて一般投資家等を守っていくという基本的な考え方のもと、どのような方向にどの程度舵を切っていくのか、規制庁の考え方に接することができました。決済のスピードやコストの面で暗号資産が便利なものであることに変わりはなく、広く使えるようになればより便利な社会が実現できると考えています。今後、暗号資産に対する信頼性の向上を前提に金融庁など規制庁が規制を緩和する動きが出てくれば、暗号資産に投資するファンドなどが金融取引の中で使えるようになることも期待できるので、そこで我々がアドバイスできればと考えています」(齋藤弁護士)。
「AML対策についてもう少し詳しく説明するなら、世界各国の暗号資産交換業者において導入が進められている“トラベルルール”が大変重要です。トラベルルールは、AMLやテロ資金供与防止(Counter Financing of Terrorism:CFT)、制裁潜脱防止のための取り組みの一環として、暗号資産の送り手と受け取り手の情報を取引業者間で把握するというものです。個人間の暗号資産取引の規制はまだなかなか難しいのですが、暗号資産を取引する前提として、暗号資産を法定通貨に変換する場があることは必須であり、そこに規制の網をかけることが有効であると考えられています。暗号資産を法定通貨と交換する交換業者に対してトラベルルールの規制をかけることによって、暗号資産取引におけるAML対策は飛躍的に向上すると思います。また、ブロックチェーン分析ツールなどの活用により、暗号資産の送付先をスクリーニングし、ハイリスクの送付先への送金を止める仕組みも導入されつつあります。暗号資産が実物取引の決済手段として活用されるのはまだ先のことかもしれません。しかし、このようなAML対策を進めながら、ブロックチェーン取引の決済手段としての活用を進めていけば、ブロックチェーンエコノミーの拡大をもたらし、それにより社会経済の発展につながるものと思っています。日本の事業会社にとって、現時点では暗号資産の重要性は高くないでしょう。しかし、今後、AML対策がどれだけ進み、暗号資産がさまざまな取引、特にブロックチェーン取引の決済にどれだけ使われ始めているかを注視することは重要です。ここを見ていれば、暗号資産をめぐる動きが自社にとってどれだけ関わってくるかがわかるはずです。2~3年後に、自社にとって暗号資産の管理が見過ごすことのできないデータ管理の一つになる可能性は十分にあります」(後藤弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE Compliance × New World』を「まとめて読む」
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栗林 康幸

弁護士

パートナー。大阪大学法学部卒業。92年弁護士登録。96年ペンシルバニア大学ロースクール卒業(LL.M.)。97年ニューヨーク州弁護士登録。クデールブラザーズ法律事務所ニューヨーク事務所および東京事務所等を経て現職。東京弁護士会所属。

武田 涼子

弁護士

スペシャル・カウンセル。東京大学法学部卒業。98年弁護士登録(14年再登録)。98年西村総合法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)入所。04年ロンドン大学(UCLカレッジ)卒業(LL.M.)。04~05年デーエス法律事務所(DS Avocatsパリオフィス)。14年~シティユーワ法律事務所。第一東京弁護士会所属。

豊田 祐子

弁護士

スペシャル・カウンセル。東京大学法学部卒業。00年弁護士登録。00~11年西村総合法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)。02~06年法務省(任期付任用公務員、民事局付)。11~13年野村ホールディングス株式会社(グループ法務部次長)。14~15年バークレイズ証券株式会社(コンプライアンス部)。15年~シティユーワ法律事務所。第一東京弁護士会所属。

後藤 出

弁護士

パートナー。東京大学法学部卒業。86年弁護士登録。86~89年ファーネス・佐藤・石澤法律事務所。89~01年田中・高橋法律事務所。92年デューク大学卒業(LL.M.)。93年ニューヨーク州弁護士登録。01~03年ユーワパートナーズ法律事務所。03年~シティユーワ法律事務所。第一東京弁護士会所属。

齋藤 崇

弁護士

パートナー。早稲田大学法学部卒業。07年弁護士登録、シティユーワ法律事務所入所。15年デューク大学卒業(LL.M.)。15~16年金融庁総務企画局市場課専門官。第一東京弁護士会所属。