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企業におけるコンプライアンス研修といえば、座学やeラーニングが一般的かもしれない。だが、そうした受動的な学びだけでは、社員の行動変容を促すには限界がある。
その課題に挑んだのが、2025年に創立75周年を迎えた株式会社ナ・デックスだ。
経営層の深い理解のもと、法務部主導でワークショップ型の独自研修を実施し、大きな成果を収めたという。
同社は産業機器や電子部品を中心とする商社であり、溶接制御機器などのメーカー機能も併せ持つ。
単に物を右から左へ流すのではなく、多くの製品・商材およびサービスを有機的につなぎ合わせ、最適なソリューションとして提供できる点を強みとしている。
企画から実施までわずか数か月で実現した本取り組みについて、代表取締役社長である進藤大資氏に話をうかがった。

社員のマインドに働きかけコンプライアンスを“自分事”に

なぜ今、新たな研修が必要だったのか。株式会社ナ・デックス 代表取締役 社長 進藤大資氏は、その意図をこう語る。
「コンプライアンスの実効性を担保するには、従来のルールベースの研修に加え、コンプライアンスの実行主体である社員のマインドに働きかけ、コンプライアンス意識の醸成、つまり“コンプライアンスの自分事化”を図る研修が必要であると考えました。そうすることで、ルールでカバーしきれない問題に直面した際にも、自律的に正しい行動を選択できるようになるのではと考えたのです。そこで、まずは“当社にとってのコンプライアンスのあるべき姿”について社員全員で共通理解を見出し、それを日々の判断の道標とすることを目指しました」。
同社ではコンプライアンスを単なる法令・ルールの遵守にとどまらず、“社会に対する誠実な行動”まで広げて定義しているという。
「コンプライアンスの概念を、カスタマーニーズの充足、トータルソリューション提供による社会への貢献までを含めた広い枠組みで捉えています。そしてその目的を、“社会からの信頼を得続けることで、長く企業として存続すること”と置き、そのために社員一人ひとりが社会に対して誠実な行動をとることを求めています」。
特筆すべきは、研修の企画や実施を外部に委託せず、法務部主導ですべてを社内で作り上げた点だ。
「試行錯誤しながら作り上げるプロセス自体が、自分事化と共通理解のために不可欠だと考えました。法務部内でも意見を出し合い、度重なるロールプレイングを経て、社内文化や社員の特性に合致した実効性の高い研修が実現できました」。

互いの価値観を認め合う全員発言型ワークショップ

作り上げた研修は、一般的なコンプライアンス研修とは一線を画すものだった。
「1グループ5名ほどのチームで互いの価値観を発表し合い、意見交換を通じて、当社のコンプライアンスとどうつながるのか接点を探るワークショップ形式の研修を、全社員に対して実施しました。毎回グループ単位での発表と、参加者の意見の総括も行いました。最大の狙いは、“コンプライアンス推進とは、実は自分の価値観の実現にほかならない”と気づいてもらうことでした。実施にあたり、最も重視したのが、“心理的安全性”の確保です。社員が萎縮せず、自分の価値観や意見を自由闊達に発言できる雰囲気を作るため、“決まった正解はない”“人の意見を否定せず、まずは傾聴する”という二つのルールを明示しました」。

進藤 大資 氏

 

コンプライアンスは“社員の幸福”のために 研修が生んだ新たな成長サイクル

研修の成果は、当初の狙いである“コンプライアンスの自分事化”だけではなかった。社員たちが語る言葉の中から、同社が75年間培ってきた理念が鮮明に浮かび上がってきたと進藤氏は語る。
「全員が自分の言葉で語る過程で、“コンプライアンスと自分の価値観のつながり”の解像度が高まり、当事者意識を醸成するきっかけとなりました。さらに、個人と企業が一体となって互いの成長に貢献し合う姿、いわば“相互支援による成長のサイクル”が、社員の理想像として共有されました。これは、当社が掲げる“安心をつなぐ企業グループへ”という経営基本方針とも一致しており、社員の意識が組織と同じ方向を向いていることを示す結果となりました」。
さらに予期せぬ成果もあったと進藤氏は続ける。
「多くの社員が、“信頼”“チームワーク”“コミュニケーション”を自分の価値観として挙げ、業務上の成功体験も個人ではなく、チームの成果として語っていたことが印象的でした。当社は名古屋市で創業し、地元のお客様との関係を構築しながら発展した企業ですが、創業以来の“人を大切にする文化”が社員の価値観とも密接にリンクしていることを再認識する機会となりました。社内外の信頼関係を重んじながら事業を発展させるビジネスの在り方や企業風土こそが、当社が存続してきた理由なのだと確信しました。さらに、研修中に、“新事業に関する提案制度”や“社内ノウハウの全社的共有”など、事業成長につながる建設的な提案が寄せられ、通常の研修では起こらない会社と社員の対話のきっかけにもなりました」。
最後に、改めて同社のコンプライアンス観と、今後の展望について聞いた。
「当社はコンプライアンスを、“社員の幸福と社会の繁栄”を体現するためのプロセスだと考えています。今後も社員の提案を取り入れながら、社員と会社、双方の成長につながるコンプライアンスを推進していきたいと考えています」。

 Voice from Legal team 

前例のない研修を企画・実施することは、法務部にとっても“正解のない挑戦”でしたが、思い切って踏み出した価値は大きかったと感じています。
特に今回の取り組みを通じて浮かび上がった、“和を尊重し、チームワークをもって課題を解決する”という当社の企業風土は、正解のないVUCAの時代を生き抜くための大きな強みであり、この当社固有の強みを再認識できたことが最大の収穫でした。

法務部長 源川 佳世 氏
Kayo Minagawa

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進藤 大資

株式会社ナ・デックス 代表取締役社長
Daisuke Shindo

95年早稲田大学政治経済学部卒業。08年株式会社ナ・デックス入社。経営企画室長を経て、14年執行役員管理副本部長兼経営管理・法務部長。15年取締役就任。21年専務就任。23年~現職。

源川 佳世

株式会社ナ・デックス 法務部 部長
Kayo Minagawa

リバプール大学生物科学部、中央大学法学部卒業。新卒で食品メーカーに入社し、営業・マーケティング業務担当。11年に株式会社ナ・デックス入社。法務部をゼロから立ち上げ、契約業務のほか、発明創出支援、グループ会社の各種規程・制度設計、コンプライアンス研修の企画・運営、内部通報制度の構築等、幅広い業務を担当。