新事務所設立により渉外案件がよりシームレスに
対策において明確な答えがない中、各社が対応を模索している経済安全保障分野。名取・大木法律事務所の共同代表パートナーである大木怜於奈弁護士は、当分野において、“クライアントのチームメンバーの一人”という自負に基づき、法律分野を超えたアドバイスを提供している。
同事務所は2026年、大木弁護士と渉外法務・国際取引を専門とする名取勝也弁護士が共同で新事務所を設立したものだ。これまで両氏は業務提携を行い、共同で案件を担当してきたが、より一体となった迅速な対応を実現するため事務所統合という決断に至った。
「経済安全保障には地政学リスクやサプライチェーンリスク、バリューチェーンリスクといった要素が含まれます。これは日本企業が海外に子会社や関連会社を設立する際に必ず関わる渉外的な要素であり、その点で経済安全保障と非常に親和性が高いのです」。
両氏の専門性が融合することで、大木弁護士が担う経済安全保障案件、特に海外子会社が関わるサプライチェーンリスクなどにおいては大きなシナジーが期待できるという。
法律家関与の利点を活かしつつ枠を超えた総合的知見の提供を
これまでサイバーセキュリティや人的リスクを中心に扱ってきたが、近年は経済安全保障分野への対応に注力している大木弁護士。その背景には、政府による法整備の加速と企業における対策ニーズの急増がある。
2022年5月に、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(経済安全保障推進法)が成立し、特定重要物資の安定供給確保、特定社会基盤役務の安定提供確保、特定重要技術の開発支援、特許出願の非公開制度が整備された。2024年5月には、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」(重要経済安保情報保護活用法)が成立し、セキュリティ・クリアランス制度が導入された。また、当時、経済安全保障担当大臣であった高市早苗・現総理大臣が閣僚に宛てた指示書にも、非常に広範な経済安全保障に関する事項が挙げられていた。さらに、アクティブサイバーディフェンスを制度化するサイバー対処能力強化法および同整備法が2025年5月16日に制定され(2026年内施行予定)、セキュリティ・クリアランス制度と密接に関連しながら企業における対策が求められている。
「政府の動向を受けて、企業の間で経済安全保障への問題意識が高まり、セミナー等をきっかけに、より具体的な支援を求められるケースが増えています」。
経済安全保障の分野における弁護士の従来の役割は、先端的な情報収集や規制情報についての評価や分析が主だった。
「多くの企業は社内に専門部署を設置し、弁護士やコンサルティング会社を使い分けながら総合的な対応を立案してきました。弁護士が助言する法律分野に限ってしまうと、対応範囲が狭すぎます。たとえば、人的リスクという問題に対し、従来の労働法の観点だけでは経済安全保障の推進という視点が抜け落ちます。また、技術流出やサイバーセキュリティは、不正競争防止法だけではカバーしきれません」。
この現状に対し、大木弁護士は“リーガルを超えた”サービスを提供する“ビヨンド弁護士”として戦略立案に取り組んでいる。
「提供したいのは、従来コンサルティング会社が主に担ってきた事例分析を、法律家の視点でより深めたものです。そのうえで企業の基準をどう設定すべきか、どのような防御策を講じるべきかを提案します。法律家が関与することで“法務監査報告書”など、オーソライズされた専門家によるエビデンスを残し、ステークホルダーへの説明等にも強力な武器として活用していただきたいと考えています」。

大木 怜於奈 弁護士
LUコンサルティング設立で各分野の専門家の知見を結集
理想のサービスを実施するため、大木弁護士が2025年に設立したのが「LUコンサルティング株式会社」だ。経済安全保障分野をはじめとするリスク・ガバナンス・コンプライアンスの諸問題について、全方位的なサービスを提供する(図表1参照)。
図表1 法律事務所(Law Office)×コンサルティングファーム(Consulting Firm)
「経済安全保障分野への対応が求められる企業の多くは大規模組織であり、部門間の役割分担が明確に区分されている傾向にあります。しかしながら、同分野への取り組みには部門横断的なアプローチが不可欠であり、専門部署は、法務、人事、知的財産など、社内の多様な部門との連携が求められます」。
大木弁護士は、LUコンサルティングと協働することで、法務部に限らず、多数の部署と同時並行的にやり取りを行う。より広範な政策・施策レベルまで対応範囲を拡大し、ワンストップでのサービス提供を可能にしているという。
こうした対応を可能にするため、同社には多様な専門性を持つメンバーが集う。代表の大木弁護士のほか、警視庁・民間での諜報事件捜査経験を持つスパイ対策専門家の稲村悠氏、人的リスクマネジメントに精通した結城優弁護士、地域創生や地方企業のリスクマネジメントに精通する坂井活広弁護士などの発起人のほか、リスク・ガバナンス・コンプライアンス分野の専門家の幅広いネットワークを抱えている。
「リスク・ガバナンス・コンプライアンス分野では多様な知見が欠かせません。たとえば、経済安全保障問題の対応について、本社と地方工場との間には意識の乖離が生じることがあります。しかし、地方工場で最先端の技術や情報が扱われていることは往々にあります。そのような場合、地域企業のガバナンス管理に長けた坂井弁護士が支援を担うなど、抜け・漏れのない知見の提供を心がけていきたいと思っています」。
大木弁護士をはじめとする同社のメンバーは、案件全体をコーディネートする役割も担う。
「受け身で相談を待つのではなく、クライアントの状況に踏み込み、潜在的な課題を能動的に発見・定義することを重視しています。そのうえでネットワーク力を活かし、企業や案件の特性に応じて最適な専門家チームを組成して対応することを方針としています。時間やコストの無駄を排し、信頼できるリレーションに基づいた質の高いサービスをもって顧客に向き合いたいと考えています」。
経済安全保障の新たな政策領域においては、確立された実務慣行や判例の蓄積が十分ではなく、企業は手探りでの対応を強いられている。経済産業省等から各種ガイドラインは公表されているものの、個別企業の実情に即した具体的な実装方法や企業のインテリジェンス強化のために不可欠となるリスクシナリオの策定や解決策までは示されていない。
「経済安全保障という未踏の領域において生じる“解のない課題”に対し、我々は企業と協働して最適解を創出していく役割を担っています。この分野で求められるのは、単純な人的リソースの投入ではなく、高度な専門性を有する人材の“質的集約”です。M&Aにおけるデューデリジェンスのような大量の人員を動員することで解決可能な定型的業務とは本質的に異なります。極めて特殊かつ先端的な領域だからこそ、プロジェクトの旗振り役となる我々が各分野の第一線の専門家の関与を適切にアレンジし、そのうえで直接企業の経営層および実務担当者と対話し、共に課題解決に取り組む必要があるのです」。
情報の棚卸しから体制構築まで 企業の根本的課題に一から伴走
経済安全保障分野への対応において、企業から寄せられる相談で最も多いのは“自社が保護すべき経済安全保障上の重要情報をいかに特定・棚卸・評価するか”という根本的な課題である。
「法令対応の観点では、経済安全保障推進法およびセキュリティ・クリアランス制度への対応準備に関するご相談が増加しています。しかしながら、保護対象となる情報資産の棚卸と評価といった基礎的作業こそが各施策の出発点となるため、ここから包括的な支援を求めるご要望が最も多く寄せられています」。
部門横断的な推進体制の構築とガバナンス設計に関する課題もある。
「経済安全保障推進室等の専門部署に新たに配属された責任者の方々は、具体的な実施方針の策定に苦慮されているケースが少なくありません。経営層から短期間での成果創出を求められる中、関係部署との連携体制の構築や実行計画の立案について支援を求められることが増えています。こうした組織設計は、既存のテンプレートを適用できる性質のものではなく、各企業の組織構造や企業文化を踏まえた個別最適化が不可欠です」(図表2参照)。
図表2 経済安全保障観点の反映例
三層の防御体制で挑む包括的リスクマネジメント
技術流出や営業秘密漏洩に対する企業の危機意識は急速に高まりを見せているが、実際の被害事案においては法的対抗措置を断念せざるを得ないケースも多い。
「近年、大企業だけでなく、中堅企業においても不正競争防止法対応や営業秘密保護の重要性に対する認識が向上してきました。しかし、最大の課題は“秘密管理性”の要件充足です。法的保護を受けるために必要な管理水準は、個別事案ごとに総合的判断がなされるため、企業が万全と考える管理体制を構築していても、司法判断において秘密管理性が認められず、結果として法的救済を受けられない事例も少なくありません。事件として報道されるのは氷山の一角であり、多くの企業が泣き寝入りを余儀なくされているのが実情です」。
この課題に対し、大木弁護士は予防・検知・対応の三段階防御体制を提唱する(図表3参照)。
図表3 漏洩ルートの分析例~インサイダーリスクの場合の体系的整理例
「まず、不正行為を未然に防ぐ予防的措置として、物理的・技術的セキュリティ(制御面)と組織的・人的管理(心理的抑止)の両面から対策を講じます。次に、不正行為の早期発見を可能にする検知システムを構築します。そのうえで、インシデント発生時の迅速な初動対応計画を策定するのです。予防段階では懲戒処分等の制裁措置も必要ですが、それ以前に、人事評価制度や報奨制度といったポジティブ・インセンティブの設計、すなわちヒューマン・リソース・マネジメントの観点を統合した総合的な対策を行う必要があります」。
大木弁護士はTTX(TableTop Exercise)による実践的な危機対応能力の向上支援にも注力している。
「いかに精緻な管理体制を構築しても、定期的な訓練なくして実効性は担保されません。各企業固有のリスク要因を詳細に分析し、完全にカスタマイズされたシナリオを策定しています。たとえば、関連会社における金型データ流出事案のような技術情報の不正持ち出し、中国への技術移転リスク、ウクライナ情勢や台湾有事といった地政学的リスク、サプライチェーンを通じた間接的な情報流出など、企業が直面する脅威は多様化・複雑化しています。本社従業員による内部不正、製造拠点における管理体制の脆弱性、取引先企業を経由した技術流出など、複数のリスクシナリオを組み合わせた複合的な訓練プログラムも提供可能です」。
大木 怜於奈
弁護士
Leona Ohki
東京弁護士会所属。認定経営革新等支援機関。プライム上場企業を含む多くの企業に対して、経済安全保障推進、技術流出防止・営業秘密管理、セキュリティ・クリアランス制度対応、AI法務、不正調査対応等の法務対応に日々取り組む。26年名取・大木法律事務所開設。
著 者:東京弁護士会 法友全期会[編著]
(共著者として大木怜於奈が執筆に参加)
出版社:日本法令
価 格:4,510円(税込)
著 者:東京弁護士会法友会[編]
(共著者として大木怜於奈が執筆に参加)
出版社:ぎょうせい
価 格:3,630円(税込)
著 者:東京弁護士会法友全期会破産実務研究会[編]
(共著者として大木怜於奈が執筆に参加)
出版社:ぎょうせい
価 格:5,170円(税込)


