TMIのグローバル展開 東南アジアプラクティスの拡充
TMI総合法律事務所(以下「TMI」)は、設立時からの基本コンセプトである“国際化そしてさらにボーダーレスな世界に進もうとしている時代への対応”を念頭に、世界でビジネスを行う国内外の企業を支援すべく、東南アジアでの展開を積極的に進めてきた。近年は、インドネシアおよびマレーシアでの展開も加速させている。
魅力的な経済大国インドネシア
TMIは、2012年11月よりジャカルタに日本人弁護士を常駐させている。2023年以降は、インドネシア法律事務所との業務提携を通じて現地展開を加速させており、現在は、「Mataram Partners In Association with TMI Associates」の名称で、提携先事務所とともに、ジャカルタ中心部のJakarta Mori TowerおよびTreasury Towerの2拠点にて業務を行っている。ジャカルタ拠点の代表を務める齋藤英輔弁護士は、2012年にジャカルタ駐在を開始した当時の状況を次のとおり語る。
「2012年に、手探りの中で駐在が始まりました。アジア金融危機の記憶から、インドネシア進出に対して懐疑的な見方もありましたが、当時から、私はインドネシア経済の可能性に強く魅力を感じていました。その後、米国留学やシンガポール駐在を経て、2019年2月より再びジャカルタに常駐しています」(齋藤弁護士)。
インドネシアは、2012年以降、コロナ禍を除き毎年5%前後の経済成長率を維持しており、2025年時点で、名目GDPは世界第17位(東南アジア最大)、購買力平価GDPは世界第7位に位置しており、首都ジャカルタには近代的な高層ビルが並んでいる。親日国としても知られ、安定した民主主義の下で成長を続けるインドネシアの今後について、齋藤弁護士も期待を示す。
「世界第4位の人口を抱え、国民の平均年齢が約30歳と若く、人口ボーナス期が継続しているインドネシアは、生産拠点としての魅力がありますし、また、中間層の拡大を受けて、市場としての魅力も高まっています。日系企業は既に2,000社以上進出しており、コロナ後は、日本からのM&Aのご相談も増えており、今後ますますの成長が期待されます」(齋藤弁護士)。

齋藤 英輔 弁護士
インドネシアの法制 宗教および文化面での特殊性
2024年の株式会社国際協力銀行による投資有望国ランキングでは、「日本企業が進出したい国」第5位にインドネシアが選ばれているが、“法制に不透明さがある”との記載も目立つ。齋藤弁護士によれば、インドネシア特有の壁が存在するとのことである。
「法制の不透明さは確かに存在します。たとえば、法令と実務とのギャップもその一つです。日本企業として、コンプライアンスの重要性および法令違反時の特有のリスク(当局からの賄賂要求の理由となりやすい等)から、法令遵守を軽視することはできませんが、他方で、法令とは異なる実務や運用が多く存在する中で、その二つのバランスをとることが重要となります。長年の現地での駐在を経て、この二つのバランスのとり方が垣間見えてきたように感じますが、まだまだ奥が見えない面もあります。
また、法令も目まぐるしく変わり、書籍やインターネット上の法令情報では、規制の全体像・最新情報は把握できない状況があります。過去からの法令の変遷を理解して、法体系全体の中での改正の位置づけを認識したうえで、最新の法令情報をいかに素早く入手するかが重要になります」(齋藤弁護士)。
インドネシアは、世界最大のイスラム教徒数を抱える国だが、日本企業の進出や事業への影響という点では、宗教よりも文化面での難しさを感じることの方が多いという。
「宗教の影響は当然あります。身近なところでは、労働法は宗教上の配慮を求めていますし、たとえば、私が2025年9月に出張で訪れたアチェ州では、シャリア法が適用され、刑罰に市民公開の杖刑(鞭打ち刑)が取り入れられています。もっとも、宗教に関しては、日本企業は、異質のルールとして割り切って受け入れやすい側面もあるように感じています。
他方で、個人的には、文化面での難しさを感じることの方が多いです。たとえば、総領事館で「規制当局とのコミュニケーション方法」と題したセミナーの講師を務めた際、インドネシア人弁護士からは、当局とのコミュニケーションのコツとして、“相手が弁明に終始する場合でも、直接的な表現を避け、間接的に忍耐強く話し合いを続けること”“相手の話を遮らないこと”“不合理な説明をする相手であっても、常に敬意を示し、態度・服装・口調に気をつけること”“変更がある前提で柔軟な計画を立てること”などが挙げられていました。コミュニケーション方法のコツを含めて、現時点における“インドネシアの文化”の一つの側面であると捉えて、日本の常識ややり方を押し付けない配慮も必要だと感じています」(齋藤弁護士)。
新たな投資フェーズにおけるアドバイザーとして
新政権の経済政策が必ずしも奏功しているとはいえない中で、2025年10月には、会社設立の最低払込資本金額が100億ルピア(約9,000万円)から25億ルピア(約2,250万円)に引き下げられ、外国投資の誘致が積極的に行われている。今後、インドネシアは、日本企業にとってますます魅力的な投資国になると考えられる。締めくくりに齋藤弁護士は、TMIのジャカルタ拠点の役割について次のように語る。
「インドネシアの法令や文化面での特殊性から、日本人駐在員および日本側担当者の皆様方は、ストレスが溜まることや不安を感じることも多いかと思います。長年インドネシアで勤務してきたノウハウおよびコネクションを駆使して、少しでも日本企業のインドネシア事業が円滑に進むように尽力してまいります」(齋藤弁護士)。

ジャカルタ拠点
マレーシアでの新たな挑戦
TMIは、2024年4月にマレーシアのクアラルンプールに拠点を開設した。同拠点の代表を務める梅田宏康弁護士は、赴任の背景について次のように語る。
「私は2019年からTMIのシンガポールオフィスに所属し、当初から出張ベースでマレーシア案件を担当してきました。シンガポールからクアラルンプールは飛行機で約1時間と近く、出張ベースでも業務遂行に支障はありませんでしたが、案件の増加に伴い、マレーシアのプラクティスを成長させるには、クアラルンプールに拠点を設け、日本人弁護士が常駐する必要があると強く感じ、拠点の開設に至りました。
現在は、日本人弁護士2名、マレーシア人弁護士3名の体制で、M&Aを中心に、外資規制・許認可の調査、解雇その他の労務トラブル、横領・セクハラ等の不正調査、債権回収、合弁企業間の紛争対応、個人情報保護法などのコンプライアンス対応といった分野で日本企業を支援しています。マレーシア案件は順調に増加しており、今後も積極的に人員拡充を図る予定です」(梅田弁護士)。

梅田 宏康 弁護士
マレーシアのビジネス環境その魅力と特有のハードル
マレーシアにおける法律実務や日本企業による投資等の特徴・留意点について、梅田弁護士は次のように語る。
「マレーシアには1,600社を超える日本企業が進出しています。多くは首都圏(クアラルンプールおよびその周辺)に集積していますが、ペナン、ジョホール等の他の主要都市、税制メリットのあるラブアン、さらには東マレーシア(サバ州・サラワク州)にも幅広く進出しています。日本企業による投資は従前より製造業の比重が大きい一方、近年は医療、化粧品、食品、外食、アニメ・コンテンツなどの分野の投資も増加しています」(梅田弁護士)。
ビジネスを行ううえで基盤となる法制度としては、英国法の影響を強く受けており、日本企業にとっても比較的透明性が高い環境にあるという。
「マレーシアは英国のコモンローを継承しており、法制度は英国、シンガポール、オーストラリア、香港等のコモンロー諸国に似ています。しっかりとした法制度が整備されており、裁判所もクリーンです。裁判所、警察その他のマレーシア当局とのやりとりの中で、汚職のリスクや、外資だから不利に扱われるといったリスクを感じたことはありません。マレー語が公用語ですが、契約を含め法律実務は英語で行われています。裁判手続はマレー語と英語が併用されることが多いです」(梅田弁護士)。
一方で、外資規制やマレーシア特有の優遇政策(ブミプトラ政策)には、細心の注意が必要となる。
「製造業の外資規制は過去に撤廃されており、総じて外資規制は緩やかな国だと思いますが、倉庫、運送、不動産、流通など、日本企業の関心が高い分野には外資規制があるので注意が必要です。たとえば、外資が小売、卸売等の流通業を営む場合、駐在員の就労ビザを取得するには、資本金が100万リンギット以上(約3,500万円)である必要があります。この規制は、中小企業のマレーシア進出の際のハードルになっています。また、マレーシアには、人口約3,400万人の過半数を占めるマレー系住民(ブミプトラ)を保護する政策があり、ブミプトラ株主や取締役が必須とされる業種やブミプトラのみが保有可能な土地が存在します。日本企業の中には株式の名義貸し(ノミニー)を利用している会社もありますが、マレーシアの判例上、ブミプトラの保護規制を潜脱する目的のノミニー契約は無効と判断される可能性が高いので注意が必要です」(梅田弁護士)。
また、多民族国家であるマレーシアでは、宗教や国際情勢に関するスタンスも日本とは異なるため、文化的な背景への理解も欠かせないと梅田弁護士は注意を促す。
「宗教面では、国教はイスラム教ですが、憲法上、他の宗教を信仰する自由も保障されています。イスラム教が日本企業のビジネスに影響を与える領域は限定的であるものの、ハラル規制や広告(宗教感情への配慮)には注意が必要です。イスラム教を冒涜する広告が炎上する事例はたびたび見受けられます。また、外交上、マレーシアは、イスラエルと国交がなく、親パレスチナの政策をとっています。グループ会社にイスラエルの企業や役員がいる場合、マレーシアの金融機関のサービスを受けることができない場合があります。マレーシアのイスラエルに対するスタンスは、日本人の感覚とは大きく異なるので注意が必要です。
こうした留意点はあるものの、英語でビジネスが可能で、人件費やオフィスコストが相対的に抑えられ、民主主義・自由主義のもと、安定的な成長が見込める点は、マレーシアの魅力です。今後も日本企業の新規進出・事業拡大が続くと期待されますので、TMIとしても日本企業の活動をサポートすることにより、マレーシアの発展に貢献していきたいと考えています」(梅田弁護士)。

クアラルンプール拠点
東南アジアをエンタメの中心地に
マレーシアで勤務する落合一樹弁護士は、東京オフィスで4年間にわたりゲーム関連案件およびM&A案件に取り組んできた。その後2年間、シンガポールを拠点として、日系企業のクロスボーダー案件の実務経験を積んだ後、梅田弁護士とともにクアラルンプールに赴任。ブロックチェーンやAIに関する規制も含め、ゲーム・デジタル分野の幅広い案件をカバーしている。
「マレーシアは人口規模こそ大きくないものの、日本のゲーム・アニメコンテンツのファンも多く、アプリゲームなどの消費市場も年々拡大しています。また、他のASEAN地域に比べ安価で電力の安定供給が可能な点などを理由に、オフショア開発拠点としても注目を集めています。マレーシアひいては東南アジア全体のエンターテインメント市場を後押しできるよう、たとえば、アプリゲームにおいて、一番のマネタイズポイントであるガチャ(loot box)やeスポーツ大会における賞金・賞品提供について、海外の賭博規制の有無を調査したり、日本にはない法律・宗教的な観点からのコンテンツ規制がないかを調べたりするなどして、日系企業がよりマレーシアでビジネスをしやすくなるサポートを提供しています」(落合弁護士)。
TMIは、一般的なコーポレート業務やM&Aといった大規模案件に加えて、デジタル分野という最先端の法領域についても幅広くカバーしている。そして、東京オフィスおよび各国オフィスが連携し、ASEAN地域での各種規制対応を一気通貫でサポートできる体制を整えている。ASEAN地域に明るくない事業者にとって、この守備範囲の広さは心強い存在に違いない。
最後に、梅田弁護士と落合弁護士は、次のようにマレーシアでの展望を語る。
「マレーシアは、次なるASEAN諸国への玄関口として、日本企業の海外展開を支える拠点としての重要性を一層増しています。TMIとしても、従来のM&Aや一般企業法務に加え、日本が誇るコンテンツ産業の中核の一つであるゲーム・エンターテインメントといったデジタル分野などの成長領域にも積極的に取り組み、東京オフィスや各国の提携事務所と連携しながら、“日本と東南アジアをつなぐ最良のパートナー”としての役割を強化していきたいと考えています」(梅田弁護士、落合弁護士)。

落合 一樹 弁護士
齋藤 英輔
弁護士
Eisuke Saito
06年一橋大学法学部卒業。09年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。10年弁護士登録(東京弁護士会)。11年TMI総合法律事務所入所。14年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)、シンガポール国立大学ロースクール卒業(LL.M.)。通算で7年半ジャカルタに常駐して勤務している。多数の公的機関および民間企業の企業法務、M&A、取引等のサポートに携わる。
梅田 宏康
弁護士
Hiroyasu Umeda
07年京都大学法学部卒業。09年京都大学法科大学院修了。10年弁護士登録(第二東京弁護士会)。11年TMI総合法律事務所入所。18年ペンシルベニア大学ロースクール卒業(LL.M.)。19年~シンガポールオフィスに勤務し、25年~クアラルンプールでの勤務を開始。日本・マレーシア間のクロスボーダーM&A、紛争等に携わる。
落合 一樹
弁護士
Kazuki Ochiai
15年千葉大学法経学部卒業。17年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。18年弁護士登録(第二東京弁護士会)。19年TMI総合法律事務所入所。23年~シンガポールオフィスに勤務し、25年~クアラルンプールでの勤務を開始。日本・海外のゲーム企業、日本・シンガポール・マレーシア間のクロスボーダーM&Aを数多くサポート。
著 者:竹内信紀・小川周哉[編著]、林雄亮・田中真人・松永耕明・彈塚寛之・松村英弥・金澤久太・藤森裕介・八尾理菜・永峰太郎[著]
出版社:日経BP
価 格:4,620円(税込)
著 者:中山茂・古西桜子・菅野邑斗[編著]、近藤僚子、丸山駿、柿山佑人、飯田真弥・林里奈[著]
出版社:中央経済社
価 格:3,300円(税込)
著 者:水田進[著]
出版社:中央経済社
価 格:3,190円(税込)