福岡事務所20周年の軌跡 高い専門性と他拠点との連携で九州を代表する法律事務所へ
大阪、東京、そして福岡に拠点を構え、総勢100名を超える弁護士が所属する弁護士法人北浜法律事務所。その福岡事務所が、2026年4月に設立20周年という節目を迎える。大阪事務所で研鑽を積んだ福岡出身の敷地健康弁護士(現・福岡事務所所長)が地元に戻る形で第一歩を踏み出し、以来、九州の経済界の発展とともに成長を遂げてきた。
その歩みを後押ししているのが、採用と育成を組み合わせた成長戦略だ。新卒・中途を問わず優秀な人材を採用し、OJT教育に加え企業への出向や留学といったルートを用意して、どのような案件でもクライアントの満足を得られるサービスを提供する体制を整えている。現在、福岡事務所には13名の弁護士が所属する(外国法事務弁護士1名を含む)。クライアント層は、上場企業や大企業から中小企業に至るまで幅広く、福岡に限らず、九州・沖縄に本社を置く企業の法務ニーズに対しても、これらの人材で手広く対応している。
加えて、東京・大阪の拠点とシームレスに連携できることも特色の一つだ。
「福岡事務所のメンバーが持つ専門性、たとえば私の場合は再生可能エネルギー分野の知見を、東京・大阪のクライアントに提供することがある一方で、他拠点の知見を取り入れるべき案件では、東京・大阪の弁護士と連携して対応しています」と、福岡事務所の中枢を担う一人である佐野俊明弁護士は説明する。
さらに“アジアの玄関口”という福岡の地理的特性を反映し、国際案件も増えている。九州のクライアントが東南アジアへ進出する支援はもちろん、最近では台湾からのインバウンド投資が活発だ。こうした国際案件にも、時には他拠点と連携しつつクライアントのニーズに応え、地域に根ざしつつも、国際法務への対応力を備えている。
ファイナンスとベンチャー法務の知見で地域経済へ貢献
佐野弁護士が特に強みとするのが、ファイナンス分野だ。
「FIT制度(固定価格買取制度)が導入された当初から、事業者側と連携して再生可能エネルギー案件組成のアドバイザーを務めてきました。プロジェクトファイナンスはしくみが複雑で、膨大な契約書の作り込みが要求されるため、自分の経験とスキルが発揮できる領域だと思っています。多角的な分析と契約交渉力が求められ、やりがいを感じる分野です」(佐野弁護士)。
また、不動産ノンリコースローンの分野でも豊富な実績を持つ。福岡市では、大規模開発プロジェクト“天神ビッグバン”および“博多コネクティッド”により、多くのビルの建て替わりが実現しつつあるが、その再開発案件に金融機関側のアドバイザーとして複数関与している。
「中にはかなり複雑なスキームを活用する案件もあり、金融機関の担当者と協議を重ねて案件組成に至りました。自らが生活している福岡市のまちづくりにリアルタイムで関与できていることに非常にやりがいを感じています」(佐野弁護士)。
もう一つの柱がベンチャー法務だ。佐野弁護士は九州大学のビジネススクール(QBS)でMBA(経営修士)を取得しており、QBSの先輩や後輩が起業したスタートアップ企業の顧問を務めることも多いという。
「シード期と呼ばれる起業前の段階から、アーリー期と呼ばれる会社設立直後の段階まで、さまざまなタイミングでのご依頼があります。ご相談内容としては、一般的な法律相談から、事業の適法性調査、ベンチャーキャピタルから出資を受ける際の契約書レビューなど多岐にわたります。スタートアップ支援は、福岡市も力を入れている分野であり、私も弁護士の立場から地域に貢献できるよう注力しています」(佐野弁護士)。

佐野 俊明 弁護士
紛争対応力に裏打ちされた労働法務のエキスパート
松嶋秀真郎弁護士は、使用者側労働法務の分野において、所内屈指の知見を有している。
「労働法務と聞くと、未払賃金、解雇、ハラスメントといった紛争のイメージが強いかもしれません。もちろん紛争案件にも数多く対応していますが、それにとどまらず、トラブルの芽を摘む予防法務にも注力しています。また福岡では、東京や大阪に比して、労働案件を使用者側と労働者側の双方から受任する弁護士が多いように感じますが、使用者側労働法務に特化して多数の案件に対応している点は、一つのアピールポイントです。労働法務については、当事務所の拠点を越えて対応していますね。たとえば、東京事務所で受任した労働審判事件を東京のアソシエイトと共に担当することもあります」(松嶋弁護士)。
労働法務は、従業員を1名でも雇用していれば問題になり得るため、クライアント層は上場企業から中小企業まで実に幅広い。
「紛争が起きてからご相談にお越しになるケースも多いのですが、単発の紛争を解決することで終わりではなく、企業体質の改善につながるサポートを心がけています。“今回は規程の定め方が不十分だった点に紛争化した原因があるため、今後ここを改善すべきですね”というように、根本的な解決や再発防止に向けた具体的なアドバイスを付加することを常に意識しています」(松嶋弁護士)。
労働法分野は法改正が多く、また新規の裁判例も多数に上るため、たゆまぬ研鑽が求められるという。
さらに、M&AやIPO(新規株式公開)支援における法務デューデリジェンス(以下、「DD」)の人事労務DDの局面でも、その知見は遺憾なく発揮される。
「当事務所は、いわゆるセクション制を採用していないため、M&AやIPOに特化した弁護士ではなく、紛争対応の経験を積んだ弁護士がDDに関与します。そのため、DDにおいて、紛争化する可能性や紛争化した場合のリスクについて、実務的な感覚をもってクライアントに報告することができます」(松嶋弁護士)。
専門とする労務分野だけでなく、さまざまな紛争類型への対応経験も松嶋弁護士の特徴である。建築訴訟、損害保険の約款解釈が争点となる訴訟といった難易度の高い紛争に対応しており、活躍場面は多岐にわたる。
「訴訟はあくまで最終的な手段ですから、企業法務を担当する中で、ご相談を受けた案件が訴訟に至るというケースは決して多くありません。ただ、さまざまな分野で、訴訟をはじめとする紛争を多数経験することで、日常的に対応する企業法務、たとえば顧問相談などでも紛争対応の経験に裏打ちされた知識とノウハウ、そして自信は活きると自負しています」(松嶋弁護士)。

松嶋 秀真郎 弁護士
M&Aを始まりから終わりまでフルサポート 九州の事業承継問題に伴走する
堀内雅臣弁護士は、政府系金融機関のM&Aアドバイザリー部門に約3年間の出向経験を持ち、その際は弁護士としてではなく、一担当者としてM&Aアドバイザリー業務に従事していたという。
「弁護士がM&Aに関与する場合、一般的にはDD業務が中心となりますが、私の場合、DDはもちろん、M&A案件の始まりから終わりまで、長く関与することが多いのが特徴です。“始まり”、つまり売り手と買い手のマッチング段階では、日頃から付き合いのある金融機関やM&Aアドバイザーから、“スタートしたばかりの案件で法的な問題が見つかった”といった相談を受け、そのリスクの程度を検証し、DDを見据えた対応策を助言することがあります。“終わり”の段階、つまりM&A成立後のPMIでは、人事労務や社内制度など手続面の整備、あるいは、DDで確認された論点への対応などを中心に多くの相談を受けています」(堀内弁護士)。
堀内弁護士は“ブレーキ役”にとどまらない弁護士の役割を強調する。「M&Aの検討段階では、いまだ顕在化していないさまざまなリスクを検証するという側面がありますが、ただ単にリスクが存在すると指摘するだけでは買い手は不安になり、案件の継続に及び腰になることもあります。私は、これまでのM&A案件への関与や、それにまつわる紛争案件の経験に基づき、発見されたリスクがどの程度許容できるものなのか、顕在化した場合のインパクトはどの程度かなどを踏み込んで分析し、その結論次第では、“リスクテイクすることも一つの選択肢である”、といったアドバイスを差し上げることもあります。M&Aに関わる弁護士には、ブレーキの役割だけではなく、状況次第では案件を前向きに推進する方向の役割も期待されていると考えています」(堀内弁護士)。
九州では小規模なM&Aも多く、専門家費用に多くの資金を割けないという案件もあるが、堀内弁護士は、法的にリスクのある特定の部分に絞ってサポートするなど、柔軟な対応を持ち味にしている。その姿勢は、九州全体が抱える“後継者不足”という深刻な事業承継問題においても重要となる。
「九州には、素晴らしい技術やノウハウを有しているにも関わらず、後継者などの人材不足により廃業の危機に瀕している中小企業が少なくありません。そうした企業がM&Aという手段で事業を存続させるという案件が増えてきています。売り手の経営者にとって、M&Aは、自分が育ててきた子どもを他人に預けるようなもの。その不安や機微に寄り添いながらアドバイスを行うことには、事業承継特有の難しさがありますが、うまく良い方向にお手伝いできた場合は大きなやりがいを感じます」(堀内弁護士)。

堀内 雅臣 弁護士
証券会社での実務経験を活かしたIPO支援
阿南康宏弁護士は、同事務所に入所後、3年間にわたり東京の大手証券会社の公開引受部に出向した経歴を持つ。
「公開引受部は、上場準備会社が証券会社による引受審査や東京証券取引所による審査を通過し、無事に上場できるよう、内部管理体制やガバナンス体制の構築等多岐にわたる項目について上場準備会社に対してアドバイスする部門です。私は、せっかく出向させていただくのであれば、弁護士としての業務ではなく、こうしたアドバイザーとしての業務を身をもって体験したいという思いから、顧客向けには基本的に弁護士とは名乗らず、一担当者として、IPO準備の実務にみっちり携わりました」(阿南弁護士)。
その経験を活かし、IPO準備のあらゆるフェーズで専門性の高い支援を提供している。
「たとえば、IPO準備を開始した直後のフェーズでは、一般的にはまだプライベートカンパニー色が濃い企業も多く、上場に向けた内部管理体制やガバナンス体制構築を、できるだけ会社の成長を妨げない形で支援します。上場に向けた準備が整い、証券会社による引受審査のフェーズに入ると、引受審査部から法令遵守体制等について細かい指摘が入ることもありますが、そうした場合、法律意見書の作成や、スケジュールを踏まえた対応策を提案する等のサポートを行います」(阿南弁護士)。
続く東証審査でも、上場直前のフェーズになるため、より審査を滞りなく進めることが重要となる。
「審査段階で問題が指摘されれば、上場スケジュールが後ろ倒しになり、上場遅延という致命的な結果につながりかねません。そのため、初期の段階でDDを行い、顧客において遂行されている事業が関係法令に適合しているか、顧客における適用法令の把握漏れがないかを審査します。早期に対処することで、審査段階になって問題が指摘され、スケジュールが延期されるようなリスクを最小限に抑えることが可能になります」(阿南弁護士)。
阿南弁護士は上場後の複雑な規制対応においても強みを持つ。「上場後は、金商法上の複雑な開示規制などが適用されます。現状、九州には、金商法に精通した弁護士は必ずしも多くはないため、私自身の専門性を活かせる場面となっています」(阿南弁護士)。
IPOを目指すベンチャー企業は新たな市場に挑戦するケースも多く、法務の知見が蓄積されていない分野もある。阿南弁護士は、「企業の成長と法令遵守を両立させる方策を頭をひねって考えるのは、知的好奇心が満たされる、やりがいのある仕事です」と語る。その経験は、ガバナンスの重要性への深い認識にもつながっている。「私自身、上場会社の社外取締役として、企業のコーポレート・ガバナンス体制の構築に携わっています。昨今、日本企業に対する海外投資家からの視線も厳しくなる中、馴れ合いではない、透明性の高い良質なガバナンス構築に貢献すべく、襟を正して取り組んでいます」(阿南弁護士)。

阿南 康宏 弁護士
理念と制度が“専門性”と“総合力”を支える
北浜法律事務所は、“クライアントとともに”をアイデンティティに、五つのコア・バリュー(高度な総合法律事務所、豊富な国際案件実績、専門知識と経験の蓄積、スピーディな仕事、真摯に向き合うコミュニケーション)を掲げるが、これはすべての拠点で共有されているという。
「当事務所は1973年に大阪で設立され、東京・大阪・福岡の三拠点を有するようになって既に20年が経ちます。しかし、このアイデンティティやコア・バリューは、拠点を問わず共有されています。私は、自分の仕事はクライアントの役に立っているのかを常に自問していますが、この考え方は他拠点の弁護士と共有されていると感じます」(佐野弁護士)。
コア・バリューの表れの一例として、事案の性質に応じた最適なチームを迅速に組成できる体制が整う。日本国内で複数の拠点で対応する場合も、一両日でチームアップが完了するという。松嶋弁護士は、「普段から拠点を越えたコミュニケーションが活発ですし、拠点を問わず連携して業務に取り組むことも多いので、チームアップのコストは抑えられています。数分の電話で初期的な案件共有がなされ、速やかに内部会議へと移行するようなイメージです」と語る。このスピード感は、日頃の関係性の構築があってこそだろう。
クライアントへの貢献を常に念頭に置き、個性豊かな弁護士一人ひとりが専門領域を深め、異なる専門性を有する弁護士がフットワーク軽く協働することで、クライアントの多様なニーズに応えられる総合力を実現している。福岡事務所の弁護士からは、これこそが北浜法律事務所の強みであるという自負が強く感じられた。
佐野 俊明
弁護士
Toshiaki Sano
01年慶應義塾大学経済学部卒業、日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(投資銀行本部金融法人部に所属)入社。08年九州大学法科大学院修了。09年弁護士登録(福岡県弁護士会)。10年株式会社西日本シティ銀行入行(法人ソリューション部に所属)。12年北浜法律事務所へ移籍。16年同事務所パートナー就任。20年九州大学経済学府産業マネジメント専攻修了(経営修士:MBA)。金融機関での勤務経験から、主にファイナンス分野を取り扱うことが多い(具体的には、不動産ノンリコースローン案件、再生可能エネルギー案件、PFI案件などのプロジェクトファイナンス)。その他、M&A、事業再生案件なども取り扱う。また近時では、スタートアップ企業の支援にも注力している。
松嶋 秀真郎
弁護士
Hidemaro Matsushima
12年京都大学法学部卒業。14年京都大学法科大学院修了。15年弁護士登録(福岡県弁護士会)、北浜法律事務所入所。20年社会保険労務士登録。24年パートナー就任。当事務所福岡事務所を拠点に、企業側労働法務(たとえば、解雇、未払賃金請求、ハラスメント対応、労働組合対応その他)を全般的に取り扱うほか、M&A、建築・不動産紛争、保険法務、倒産案件等に手広く対応している。
阿南 康宏
弁護士
Yasuhiro Anan
13年大阪大学法学部卒業。15年京都大学法科大学院修了。16年弁護士登録(福岡県弁護士会)、北浜法律事務所入所。22年中小企業診断士登録。22年大手証券会社・公開引受部出向を経て、25年に当事務所復帰。26年パートナー就任。IPO、M&A、コーポレート案件を中心に取り扱う。そのほか、国立大学のコンプライアンス調査委員会や、上場会社社外役員に就任する等、幅広い案件に対応している。
堀内 雅臣
弁護士
Masaomi Horiuchi
11年一橋大学商学部卒業。14年一橋大学法科大学院修了。15年弁護士登録(東京弁護士会)、東京の企業法務系の法律事務所に入所。22年北浜法律事務所へ移籍。政府系金融機関への3年間の出向において、M&Aアドバイザリー業務に従事。M&A、事業再生を中心に、多種多様な案件に対応している。
著 者:事業再生研究機構 法的整理に係る債権者申立研究会[編]
(共著者として堀野桂子が執筆に参加)
出版社:商事法務
価 格:3,080円(税込)
著 者:加藤公司・伊藤憲二・内田清人・石井崇・籔内俊輔[編]
(編著者として籔内俊輔、共著者として中森伸・加藤輝政・池川愛乃・西本悠夏が執筆に参加)
出版社:青林書院
価 格:5,390円(税込)
著 者:山下眞弘・堀田善之[編著]、向笠太郎・川畑大・安田雄飛・井村旭[著]
出版社:第一法規
価 格:3,960円(税込)