“法務”の枠を超え経営課題を解決 グループの力を活かした協業体制
EYメンバーファームに所属する会計士・税理士・コンサルタントと日常的かつ密接に連携し、監査・財務・税務・戦略・トランザクションアドバイザリーと共に法務をワンストップで提供し、法務機能コンサルティングやLegal Managed Services(LMS)によるアウトソーシング、さらにはサステナビリティや経済安全保障といった最新の法的課題まで、企業の複合的な課題を一括で対応するのがEY弁護士法人だ。
近年、企業を取り巻く法規制環境は急速に複雑化しており、法律・会計・税務・経営戦略にまたがる課題は増加している。このため、「業務の約7割はグループ内の他のプロフェッショナルと協業している」と、代表の松田暖弁護士は語る。松田弁護士は、昨今は“従来の法律事務所の業務”の枠を超えた、経営コンサルティングに近い要素を含む業務の増加が著しいと感じるという。「いつでも“最初に相談できる”安心感と“ハブ機能”を提供したいと考えています。法律問題に限らず、経営課題のすべての窓口として、社内外のリソースを最適化し、戦略的課題へ集中できる体制構築をお手伝いします」(松田弁護士)。
クライアントである企業がさまざまな経営課題に取り組む際に、法律事務所はプロジェクトに関与するアドバイザー・スペシャリストとしては比較的遅く関与することも珍しくないが、同事務所ではEYのメンバーファームに所属する他のプロフェッショナルと共にプロジェクトの構想段階から関与するケースが多い点に特徴がある。特に近年はM&A案件におけるフィナンシャルアドバイザーとの連携にとどまらず、コンサルティングチームとの協業が増加しているという。「これまでも、クライアントがM&Aを行う際にEYのフィナンシャルアドバイザーや他のプロフェッショナルチームと連携して対応することは日常的に行っていました。最近では、クライアントがM&Aを行うべきか、組織再編か、あるいは新規分野への進出か――といった事業戦略を策定する段階から、私たちが規制の動向やリスクの評価についてコンサルティングチームと連携して案件に携わる機会が増えています。この点がEY弁護士法人の特徴であり評価いただいている点かと思います」(松田弁護士)。
伊藤多嘉彦弁護士は、この協業体制のメリットの一つを「レフト、センター、サード、ショートの間に落ちる“ポテンヒット”、つまり専門領域の狭間に落ちてしまうような課題を拾えるところにあります」と表現する。「時には海外にしか専門家がいない分野もあります。そうした知見が必要な場合には、グローバルなEYのメンバーファームの知見を活用したアドバイスが可能です。顧客は課題が解決できればよく、必ずしも法律的な助言にとどまる回答である必要はありません。事業を促進していくうえでのリスク分析・フィージビリティスタディを広い視点で行うことが必要です」(伊藤弁護士)。
全所員へのAI導入で業務を高度化 少人数で幅広いサービスの実現を
EYは業務効率化とサービス品質の向上のためグローバルで巨額のテクノロジー投資を行い、AIの活用に舵を切った。直近では米国の巨大IT企業と提携し、同社の提供する生成AIツールを広く導入しており、EY弁護士法人でも全弁護士・スタッフに導入している。EYでは、頻繁なトレーニングプログラムが実施されているほか、弁護士やスタッフが自発的に活用方法を共有しているという。
松田弁護士は、このテクノロジーの進化が法律事務所の組織構造そのものを変革すると予測している。「将来的に法律事務所における大規模な人員体制は不要になるかもしれません。かつての米国訴訟におけるディスカバリー手続において、段ボール箱が会議室を埋め尽くすほどの膨大な量の資料を多数の若手の弁護士やスタッフが事務所に缶詰め状態になって人海戦術で確認作業をしていましたが、現在は“Eディスカバリー”と呼ばれるようにテクノロジーを利用したデジタル化された情報の確認作業に変容しており、必要な時間や人員のリソースは格段に減っています。法律事務所が従事するさまざまな業務に同様の変化が起こるでしょう。当事務所は現在少数精鋭の体制ですが、EYの巨大なテクノロジー投資のメリットを最大限に活かし、少人数でより幅広く高品質なサービスを提供していきたいと考えています」(松田弁護士)

松田 暖 弁護士
AI活用で複雑化する海外規制対応 現地の生の声や肌感覚を活かす
EYの取り組みと同様に、生成AIや先端テクノロジーの導入は多くの企業で標準となりつつある。しかし、技術の実装が進むことで、企業が直面する法的課題はより複雑化している。「各企業でAIの活用が進展する中、“具体的な活用方法やリスク管理をどうすべきか”というご相談が増えています。また、“既存の事業にAI技術を組み込む際の現行の各種法規制といかに整合性をとるべきか”というご相談も多いですね」とデジタル法を専門領域の一つとする伊藤弁護士は語る。
多くの企業はグローバルに事業展開をしているため、海外の法規制に対する関心も高い。「特にこの領域は技術の進化が非常に速く、法整備が追いついていない、もしくは、これから形成されようとしている段階の国や地域が多いため、調査の重要性が一層高まります。ですが、単純な文献調査だけでは最新の動向を正確に把握することが困難な場合があります。私たちはEYのグローバルネットワークを最大限に活用し、現地のプロフェッショナルと連携して背景にある微妙なニュアンスや実務上の解釈を考慮したうえで、クライアントに報告を行います。特に現地のメンバーファームに所属するプロフェッショナルから寄せられる生の声、実務家としての肌感覚や見解を積極的に活用しています」(伊藤弁護士)。
最新情報を迅速に収集・分析するうえでは、同事務所が当局の調査案件に関与していることも活かされている。「デジタル庁の調査案件などに関与することで、規制当局がどのような点に着目し、どのような方向性で法整備を検討しているのか、初期段階の動向を把握することができます。調査業務を通じて政策形成の背景や意図を深く理解することは、より的確なアドバイスにつながると感じています」(伊藤弁護士)。
デジタル法に関する相談は、単独の法務マターとしてではなく、ビジネス全体の大きな流れの中の一部として持ち込まれることが多い。「変化の速い分野であるため、“社内リソースだけでの対応が困難だ”という声や、“一体どこから手をつければよいのか”という根源的な悩みも少なくありません。複合的な課題に対して分野横断的に対応する必要性が高まっており、クライアントへの直接的なアドバイスだけでなく、EY内の他チームを法的な側面からサポートをして間接的な支援をすることも多いですね」(伊藤弁護士)。
経済安全保障に関する相談も増加している。「多くの企業は、米中間の対立を背景とした半導体などの先端技術に関する輸出規制が、サプライチェーンを通じてどのような影響を及ぼすのかに関心を寄せています。欧州で導入されているサイバーセキュリティ関連法が、現地の日本企業にどのような義務を課すのかにも注目が集まっています」(伊藤弁護士)。
今後は各国で新たな規制の導入が検討されており、ある国で導入された規制が他の国々の法整備に影響を与える、または各国の独自規制が乱立するといった、国際的な連鎖反応の発生が見込まれる。
各国の動向について、EYのグローバルネットワーク内では、各国のファームが蓄積した案件の知見や事例が共有されている。「サイバーセキュリティ、GDPR(EU一般データ保護規則)、そしてEU AI Act(AI規則案)など、法整備が先行している欧州の事例については、現地の専門チームが中心となって情報を集約し、我々と連携しています。AIやデータ関連の規制が厳しい中国についても、現地のメンバーファームと協力して情報提供を行っています。メンバーファームの弁護士から具体的なプラクティスについて直接知見を得られることは、課題解決において非常に心強いものです。たとえば、欧州のクライアント課題は同じ業態の日本のクライアントと共通していることもあります」(伊藤弁護士)。

伊藤 多嘉彦 弁護士
顧客の課題を正確に理解 信頼関係をもとにしたプライベート法務
同事務所が主要分野の一つとして力を入れるのが、EYメンバーファームのプロフェッショナルの連携とグローバルネットワークを活かした、富裕層が直面する問題に対応する“プライベート法務”だ。「サービスを提供しているのは、多くの人が名を知る大企業から伝統的な中小企業も含めた事業承継案件などです。EY Japanが有する監査法人や税理士法人との緊密な連携体制があり、日頃から監査業務や税務申告で企業と深く関わっているため、チームメンバーはクライアントの内情を非常によく理解しています。面識のない外部の専門家に対してデリケートな相談をすることは、心理的なハードルが高いものですが、既に信頼関係が構築されている担当者を通じてであれば、漠然としたご相談からでも法務チームと連携し解決策を提案することが可能です」と説明するのは、長年プライベート法務に携わってきた津曲貴裕弁護士。
富裕層の海外資産の承継においても、EYのグローバルネットワークが大きな強みとなるという。「承継の対象となる資産が国内か海外かによって、適用される法律や税制は異なります。既に資産を海外に移転している人も多くいますが、その先の承継対策までは手が回っておらず、ご相談が多い状況です。また、事業承継のしくみを構築するうえで株式を特定の法人に集約する必要が生じた際に、法人を設立する国によって税務上の取扱いが大きく変わることがあります。我々は各国の税制を比較検討し、最も有利な国で法人を設立するなどの国際的なタックスプランニングの観点からの提案も可能ですし、諸外国、特に米国や欧州の超富裕層を対象としたファミリーオフィスの実務の蓄積もあります」(津曲弁護士)。
株式分散による経営停滞のリスクを回避 議決権の集約と粘り強い対話で解決へ
日本では米国のような超富裕層の数は限られるが、高度成長期に設立された企業が事業承継や相続を数回経た現在、創業家や富裕層個人に特化したリーガルサービスへの需要が顕著に高まっているという。「これには、二つの大きな流れがあります。一つは、後継者が不在のオーナー経営者からの、“事業を円満に終了させるための出口戦略”に関するご相談です。もう一つは、創業家において、相続が繰り返されることで生じる諸問題に関するご相談です。後者では、たとえば2代目、3代目へと事業が承継される過程で、相続により株式が多くの親族に分散することで問題が発生します。相続が繰り返されることで株主がねずみ算式に増加し、議決権のコントロールが効かなくなります。“現状は話し合いで何とか経営方針を決定できていても、今後の保証はない”というご相談が後を絶ちません」(津曲弁護士)。
一方で、逆に、現経営者が親族ではない優秀な従業員に事業を承継させたい場合もある。その場合は円滑に事業承継をするための法的スキーム構築を行う。
こうした課題の解決には、ファミリー憲章等を作成し、理念的なルールをより具体的で実効性のあるものへ落とし込んで法的拘束力を持たせるためのしくみを構築することや、議決権を集約し将来の行使対象を明確にすることなどがあるという。「株主が増え、誰も過半数の議決権を保有していない状態では、会社の意思決定が停滞します。信託のしくみを用いて議決権を特定の組織に集約し、配当などの経済的な利益は引き続き各親族に分配されるような設計にすることも解決策の一つです。こうした意思決定のしくみの構築は、企業の歴史や家族の状況に応じてオーダーメイドで行い、長い時間をかけて関係者全員の合意を得て進めます」(津曲弁護士)。
関係者全員の納得を得ることは非常に難しい。合意形成のためには根気強い対話が必要だ。「最も円滑に進むのは、創業者のカリスマオーナーが健在で、鶴の一声で全体の方向性を決定できる場合です。それが叶わない場合には、地道なプロセスを踏むほかありません。具体的には、今後経営の中核を担っていく家族と方針を固め、そこから比較的関係の近い親族、少し距離のある親族、経営には無関心なご親族など、一人ひとり、一家族ずつ対話を重ね、味方を増やしていくというアプローチをとります」(津曲弁護士)。
それぞれの立場の人々が納得できる条件の設定も欠かせない。「たとえば、経営に継続的に関与する人には相応の権限と責任を、そうでない人には経済的な利益を提供します。合意形成が難しい場合には、株式を適正な価格で買い取る出口戦略を用意することもあります。最終的には、しくみを導入しなければ会社全体の価値が毀損し、結果として保有する株式の価値も下がることを理解していただく必要があります」(津曲弁護士)。
歴史の長い企業ほど、事業承継に早期に取り組んでいる傾向があるが、相続税対策が主で議決権の集約については対応が不十分なことが多い。「“事業承継”という大きな枠組みでの経営体制の再構築にまで踏み込めていないケースが散見されます。時間がかかる取り組みなので、まずは必要性を認識していただくことが重要です」(津曲弁護士)。

津曲 貴裕 弁護士
松田 暖
弁護士
Dan Matsuda
00年弁護士登録(第二東京弁護士会)。05年ニューヨーク州弁護士登録。大手日系法律事務所および外資系法律事務所を経て、22年EY弁護士法人入所。日系企業によるクロスボーダーM&A・各種投資案件、クロスボーダー組織再編案件、海外での紛争案件についてアドバイスするとともに、外国企業に対して対日投資案件および日本市場における各種規制対応についてのアドバイスも行う。EY弁護士法人代表弁護士。
津曲 貴裕
弁護士
Takahiro Tsumagari
99年弁護士登録(第二東京弁護士会)。米国大手法律事務所および国内大手法律事務所を経て、17年EY弁護士法人入所。数多くの企業に対し、クロスボーダーM&A、事業承継、ストラクチャードファイナンス、不動産開発等のほかクロスボーダー独占禁止法案件、訴訟、オーナー企業の事業承継、相続対策、その他企業法務全般に関して豊富な経験を有する。EY弁護士法人パートナー。
伊藤 多嘉彦
弁護士
Takahiko Itoh
03年弁護士登録(第二東京弁護士会)。08年ニューヨーク州弁護士登録。裁判官、英米系の外資系法律事務所および国内大手法律事務所勤務を経て、17年EY弁護士法人入所。トランザクション法務や組織再編法務のほか、独占禁止法、IT・ライフサイエンス領域スタートアップ法務やデジタル法務にも力を入れている。EY弁護士法人パートナー。
著 者:EY新日本有限責任監査法人・EY税理士法人・EY弁護士法人[編]
(共著者として新居幹也・川村晃一・津曲貴裕・小木惇・力石康平ほかが執筆に参加)
出版社:中央経済社
価 格:3,740円(税込)
著 者:幸村俊哉・玉越賢治[編著者代表]
(共著者として津曲貴裕が執筆に参加)
出版社:経済法令研究会
価 格:3,080円(税込)
著 者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社[編]、EY弁護士法人[監]
出版社:同文舘出版
価 格:2,420円(税込)