クライアントのファンとなり事業を一緒に盛り上げていく
野村晋右弁護士を中心に2009年に設立された野村綜合法律事務所。所属弁護士数16名の少数精鋭体制で、主に上場企業グループを中心とした長年取引のある顧問先企業にハイクオリティかつスピーディなサービスを提供し続けている。
“所属弁護士数”という指標のみに着目すれば同事務所の規模は全国で151番目(2024年1月1日時点)となるが(リーガルジョブマガジン編集部「2024年最新版 全国法律事務所ランキングTOP200」(2024年11月29日公表))、一方で日本経済新聞社による「企業が選ぶ「頼りがいがある法律事務所」ランキング」において2022年、2023年と続けて第8位、2024年には第9位に輝いている。その理由は、クライアントの事業・企業文化への深い理解と、密な連携を通じた信頼関係をもとに最上のリーガルサービスを提供するよう努めてきたからだ。
「案件を通じてクライアントと苦楽をともにすることで、互いの人間味も見えてきます。そのような経験を通じて、クライアントが何を考え、何に悩んでいるかを次第に理解できるようになってくる。つまり、クライアントに愛着を持って接することが重要で、そうした中で、法的な問題のみならず、煩わしく思われがちな社内の調整事なども相談していただけることも私たちの価値の一つです」(石鍋謙吾弁護士)。
「初めて対応するクライアントであれば、まず公表されている資料を読み込むことで事業や理念の理解を試みます。普段から密に接しているクライアントであれば、たとえば、契約書でよく気にする条項や契約交渉の基本スタンスについては理解できているため、先回りした迅速なサービスを提供できる。クライアントのファンとなり事業を一緒に盛り上げていくことが私たちの信条です」(水沼利朗弁護士)。
「各クライアントの案件検討や社内決裁の流れを理解しているため、クライアントとゴールまでの共通イメージを持って案件を進めることができます。また、我々はさまざまな業態・業種のクライアントに対して広範囲にわたる豊富なサポート実績と知見を有しているので、新規事業に関するご相談にも的確なアドバイスができる環境が整っていると思います」(川﨑毅弁護士)。
「少人数のチームで、役職を問わずフラットで活発な議論が展開されるのも私たちの特徴の一つです。これにより素早く、よいアイデアを出すことができれば、クライアントにとって役立ちます。また、日頃からクライアントの事業・業界の研究を心がけていますので、クライアントの狙いや悩みの芯を捉えた対応が可能です」(宮國尚介弁護士)。
きめ細かい最上のリーガルワークのためには弁護士同士の連携が必須であり、“そのためには少数精鋭主義が適している”というのが石鍋弁護士の見解だ。また、水沼弁護士は“大所帯だと品質にバラツキがでてしまうことがある”こと、川﨑弁護士は“一貫して少数で対応することにより案件に関与する弁護士全員の当事者意識が強くなる”ことを指摘する。今後は、さらに質の高いサービスの提供のために緩やかな規模拡大を志向しつつも、少数精鋭体制を維持していく予定だという。
徹底的な調査・整理と精緻な分析で“真の利益”を提供
企業はさまざまなトラブルが発生するリスクを抱えている。企業同士の紛争、顧客とのトラブル、契約に関連するトラブル、経営権争い、あるいは労使トラブルや労災事故まで非常に多岐にわたる。同事務所が注力している分野の一つが訴訟だ。訴訟において同事務所が支持される理由、それは徹底的に事実関係を調査・整理し、精緻な法律分析を行い、常にクライアントの“真の利益”(目先だけではない長期的な利益)を考え、粘り強い主張・交渉を行うことにある。
「訴訟は事実をベースとして主張を展開しますが、クライアントの書類や説明を一面的に捉えてそのまま鵜呑みにしてしまうと、他の証拠との不整合・矛盾を見逃してしまうおそれがあります。それゆえ事実関係の調査はさまざまな角度から徹底的に行います。また、クライアントの感情や意向を尊重しつつも、より広い視野から見て“ベストな選択は何か”を訴訟以外の解決方法も含めて検討し、提案しています」(宮國弁護士)。
「訴訟も含めた紛争においては、“どのような解決方法がクライアントにとって有益であるのか”を常に視野に入れながら進めることが肝要です。そのためには、クライアントの意向を汲み取りつつ、紛争を取りまく事情を総合的に考慮に入れながら丁寧に説明し、クライアントが適切に判断をするための材料を提供することこそ、“真の利益の提供”と言えるでしょう」(石鍋弁護士)。
「案件の中には、筋として勝ち切ることが本当に厳しいものもあります。しかし、最初から匙を投げるのではなく、裁判所に対して最後まで一貫して主張し続けることが重要です。相手方に少しでも“危ないな”と思わせることができれば、後々の和解交渉にもよい影響を与えることができるからです」(水沼弁護士)。
「代理人は、訴訟全体の進め方から書面における細かな言葉選びまで多面的に気を配り、冷静に訴訟を行うことが求められます。感情的な訴訟追行は、ときにクライアントのレピュテーションにも影響を与えうるからです」(川﨑弁護士)。
訴訟経験の蓄積と“業種×スキーム”のチームで多様なM&A案件に対応
M&Aも同事務所が得意とする分野である。同事務所のクライアントは、上場会社グループのほかにもスタートアップ企業、プライベート・エクイティ・ファンドなど多様である。またその業種も、商社、IT、アパレル、小売、eコマース、ケーブルテレビ、機器部品、化学薬品、医療、食品、鉄鋼、人材紹介、広告運用等、多岐にわたる。同事務所はいわば、規模・業種・スキームを問わず、さまざまな態様のM&Aを柔軟かつスピーディに扱える希少な事務所であるといえよう。
「同様の取引であっても、クライアントによって気にするポイントはさまざまです。たとえば、過去案件で苦い経験をしたことがあれば、当然その部分にはより一層センシティブになりますので、特に丁寧にその箇所のリスクを説明するなど、クライアント目線で柔軟に対応しています。また、クライアントによっては、M&Aを何度も経験している場合もあれば初めての場合もありますので、その経験値に応じて説明や案件の進め方も柔軟に変えていきます」(川﨑弁護士)。
「当事務所の弁護士は全員が訴訟を取り扱っていますので、“裁判所がどのような視点で見ているのか”についても経験の蓄積があります。M&Aの契約作成・交渉においてもその知見を活用し、実際に紛争になった場合を想定して適切な条項を提案することができます。また、チーム構成の際には、最適なサービスの提供のため、“業種×スキーム”の経験を考慮して組成します」(水沼弁護士)。
「デュー・ディリジェンスにおいてはリスクの抽出と評価を適切に実施したうえで、これをクライアントと共有して共通認識化することが重要です。クライアントの目的をしっかりと把握したうえで、リスクについて丁寧に説明することを大切にしています」(石鍋弁護士)。
「“このM&Aがクライアントにとってどのような意味を持つのか”を理解したうえで検討・交渉を行うことで、よりクライアントの狙いに合致するアドバイスが可能となります。また、デュー・ディリジェンスで法的なリスク要因を抽出し、契約書の条項に反映することも重要ですが、相手方が履行・遵守しなければ意味がないことも多いです。そのため、デュー・ディリジェンスや契約交渉の過程で相手方が誠実な対応をしているのかを見極めることも重要ですので、それもクライアントの判断材料として提供します」(宮國弁護士)。
一人ひとりの経験を全員で共有 豊富な経験による総会指導
アクティビストなどの株主提案の増加、会社提案の取締役選任議案の賛成比率が低下した事例の増加など、総会での対応事項は毎年新たなトレンドも加わり枚挙に暇がない。同事務所では、豊富な経験に裏付けされた有効なアドバイスの提供や定時株主総会だけではなく、委任状争奪戦のような有事の総会にも対応している。
「創設以来、当事務所の弁護士は、上場会社グループをはじめとしてさまざまな企業の総会に立ち会ってきました。この経験を所内で共有することで、全員の知見を各弁護士が蓄積できます」(水沼弁護士)。
「多様な規模・さまざまな業種の企業をサポートしていますので、これらの側面からの蓄積も豊富です。また、M&Aと同様に総会対応においても訴訟の蓄積からサポートできることも強みですね。有事対応においては相手方のスピードに反射神経よく対応することが大事です」(石鍋弁護士)。
「経営権争いの場合など、将来的に取消訴訟などが提起される可能性が高い場合には、そのような事態も想定した総会運営をするよう指導することもあります」(川﨑弁護士)。
丁寧な調査と本質を捉えた改善策で企業の不祥事対応を支援
株式会社パーソル総合研究所が公表した「企業の不正・不祥事に関する定量調査」によると、就業者の13.5%が“不正に関与あるいは見聞きしたことがある”と回答。また、株式会社東京商工リサーチによれば、2023年の上場企業による不適切会計は60社と11年前の28社の2倍を上回り、個人情報漏洩・紛失事故をとっても過去最高の150社を記録した2022年に次ぐ147社にのぼる。すべての企業にとって不祥事は、まさに“今そこにある危機”であると言える。同事務所では組織的な事案から個人による事案まで、さまざまな不祥事対応にも力を注いでいる。
「事実関係を聴取する際には、“対象者の説明内容に矛盾点や独自の解釈が入り込んでいないか”などの見極めに特に注意しています。他の客観資料と突き合わせて確認することはもちろん、その方の置かれた立場や人間関係といった背景的なストーリーにも想像を巡らせながら丁寧に確認することが大切です。また、不祥事の原因が会社組織体制にある場合には、問題の本質を捉えた再発防止策の提言などを通じて自浄の端緒として活用していただけるように心がけています」(川﨑弁護士)。
「調査結果の認定においては、“裁判所からどのように評価されるか”を常に念頭に置いています。また、ヒアリング事項を考える際にも、そのような観点から検討しています」(水沼弁護士)。
「ヒアリング対象者の感情や正義感等による証言の歪みにも注意が必要です。安心して話してもらうために、そうした心情に寄り添いつつも、そこに乗らずに対応することを心がけています」(宮國弁護士)。
役職問わずフラットで活発な議論が導くハイクオリティなサービス
これまで見てきたハイクオリティかつスピーディなサービスを提供するために行われているのが、“役職を問わないフラットで活発な議論”と“若いアソシエイトが主体的・積極的に案件に関与するための雰囲気作り”だ。
「チームワークを大切にしながらも、パートナー・アソシエイト、期を問わず率直な意見を交わし、その結果として依頼者により有利な理論構成・主張展開を考えることに重点を置いています。また、若いうちから案件の主担当となり、パートナーと競いながら腕を磨いていくという経験がクオリティを高める源泉となります」(石鍋弁護士)。
「M&Aなどの実務経験がまだ浅い若手弁護士が大手事務所や外資系事務所を経て入所した場合でも、きちんとフォローしながら案件を進めるので、短い時間で密度の高い経験を積むことができます。近い経歴の先輩弁護士も多いため、突き放すでもなく手取り足取りでもない、適度な距離感でのフォローがあり、若手の力を伸ばすのには最適だと思います」(宮國弁護士)。
「所属弁護士の人数が少ないにもかかわらず、顧問先企業への出向制度があり、実際に私も3年間企業内の法務部員として経験を積みました。出向を通じてその企業の文化にどっぷりと浸かりながら、法務部のみならず営業部をはじめとする他部署の方とも接することで、事務所から見る景色とはまた一味違う景色が見えてきます。企業としての考え方や意思決定のフローを直接体感できたことは、帰任後にクライアントと接する場面でも大いに役立っています」(川﨑弁護士)。
顧問先企業への出向については、顧問先の法務部員の産休・育休時の代役や、リモートでの一部対応など、柔軟に行われている。クライアントのピンチへの対応とクライアントを知るチャンスのまさにWin-Winの関係だ。一人ひとりがクライアントとともに、その事業の発展のために歩める弁護士になることを目指しての若手の教育―これもまた同事務所が標榜するハイクオリティかつスピーディなサービスの源泉であると言えよう。
“伝統×多様性”次のステージへ
このように、少数精鋭を維持しながらクライアントにさまざまなサービスを提供してきた野村綜合法律事務所だが、さらに質の高いサービスをクライアントへ提供すべく、今後は緩やかにではあるが人員の拡充と規模拡大を志向している。クライアントのニーズに合った最善・最適なサービスを提供できるよう、若手弁護士はもちろんのこと、女性弁護士や経験弁護士など、多種多様なバックグラウンドを持つ弁護士を積極的に採用する方針だ。伝統を維持しながら次のステージへ向かう同事務所の今後が期待される。
石鍋 謙吾
弁護士/パートナー
Kengo Ishinabe
99年慶應義塾大学法学部卒業。01年慶應義塾大学大学院法学研究科修了。02年弁護士登録(東京弁護士会)。04年国内証券会社プリンシパル投資部門出向。09年コロンビア大学ロースクール修士課程修了(LL.M.)。10年ニューヨーク州弁護士登録、野村綜合法律事務所入所。
水沼 利朗
弁護士/パートナー
Toshiaki Mizunuma
10年東京大学法学部卒業。11年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。13年野村綜合法律事務所入所。19年シカゴ大学ロースクール修士課程修了(LL.M.)。19年Squire Patton Boggs(US)LLP(Los Angeles)勤務。20年ニューヨーク州弁護士登録。
川﨑 毅
弁護士
Tsuyoshi Kawasaki
14年一橋大学法学部卒業。16年弁護士登録(東京弁護士会)、ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)入所。18年野村綜合法律事務所入所。21年国内総合商社法務部出向。
宮國 尚介
弁護士
Naosuke Miyakuni
16年慶應義塾大学法学部卒業。17年弁護士登録(東京弁護士会)、西村あさひ法律事務所入所。21年野村綜合法律事務所入所。