多様な企業のニーズに応え“次の時代を拓く”サポートを
きっかわ法律事務所の開設は1942年。80年以上の歴史を持つ、日本の法律事務所の中でもかなりの老舗である。創設者の吉川大二郎氏は裁判官であったが、仮差押や仮処分などの民事保全実務の理論化を志して大学教授に転身して学究の徒となり、その後弁護士として同事務所を開設。「創始者の志を踏まえ、現代でも最新の専門知識を駆使し、最善の解決策を導き出す法の専門家として企業活動を支え、次の時代を拓くのが使命です」と、日弁連副会長を務めた代表パートナーの田中宏弁護士は語る。M&Aやコンプライアンスなどの企業法務全般についても早くから手がけており、国際法務、倒産、競争法、第三者委員会、消費者法など幅広い分野での専門家が育ってきている。
「最近、企業のニーズが多様になり、インハウスロイヤーも増えたと実感しています。従前から法務担当者が担ってきた役割ですが、企業内で法的課題が生じた時点で把握し、訴訟などでは私たちとともに闘い、さらに、社内での体制整備や再発防止策の徹底など、企業内でより深く関わることで法をより有効なものにする協業ができつつあります」(田中弁護士)。
「インハウスロイヤーの増加が、法務部門の体制強化につながっていることが大きいでしょう」と話す那須秀一弁護士は、法務担当者が法的見解について外部の弁護士と深く議論する機会も増えていると指摘。「そのような議論ができるクライアントは複数いらっしゃいます。“ビジネスに即したおもしろい仕事ができるな”という実感を持っていますね」(那須弁護士)。
競争当局が目を光らせる非ハードコアカルテル
「独禁法は談合や優越的地位の濫用の問題もさることながら、“会社として、こういった事業を展開したい”“新たな製品を売り出したい”といった、企業の事業活動に直結している分野です」。那須弁護士は公正取引委員会に審査専門官として出向し、公取委の審査案件への対応経験を豊富に持つ。
コンプライアンス意識の浸透と公取委の執行が相まって、競争法の考え方やリスクは企業にかなり浸透してきた。だが、いまやフェイズは新しい段階へ移り、公取委など当局は新しい類型に目を光らせているという。「“非ハードコアカルテル”と呼ばれる行為に、特に注意が必要です」と那須弁護士は注意を喚起する。たとえばSDGsの観点では、公取委がグリーン・ガイドラインを策定したように、環境対応の必要から、同業者だけでなくそれまでの事業とはまったく異なるジャンルの企業と提携したりM&Aを行うことが増えている。「本業でM&Aを考える場合と異なり、環境対応など新しい観点から同業者やこれまで取引関係のなかった分野の企業とアライアンスを組む場合、競争法の観点が抜け落ちることがありますが、やはり“競争を制限するような行為になっていないか”のチェックは不可欠です。問題は“悪意”というよりも“不注意”で起こりやすいのです」。このように、従前の独禁法の知識だけでは対応できないシチュエーションが増えているという。
最近は“デフレ脱却”に関連して下請法も注目されている。「人件費や物流コストなどさまざまなコストが上昇していますが、たとえば値上げ要求に応じるといった形で受注者側に適正に価格転嫁されているか、規制当局は関心を持っています」(那須弁護士)。“違法”ラインの手前であっても当局による一定の判断基準によって社名が公表されるリスクもある。「価格転嫁の適正性について、いかに当局に説明できる体制を整備するかが非常に重要です」と那須弁護士。昨今、公取委は積極的に事実関係が微妙な事案も取り上げ始めており、どう今後“はねる”かは予測がつかないという。規制官庁がある業種であっても、当該官庁が“よし”とした判断がすべてではない。企業もアンテナを高くし、適切なアドバイスを受けることが必要であろう。
深いリーガル・リサーチが新事業に対応するカギ
入所1年目の清川祐光弁護士は、さまざまな規模の企業の相談に対応する日々の中で「企業の実務感覚を自分の身につけることを心がけています」と語る。「企業は決裁や新規事業ローンチ期日などでご相談ごとにかけられる時間の制約があり、弁護士も限られた時間で対応しなければなりません。その中でどんな展開が考えられるのか、十分にクライアントのスケジュールと先を見据え、余裕を持って考え、アドバイスすべきだと考えています」(清川弁護士)。
企業法務を担当する弁護士として大切なのは“リサーチ力”だと清川弁護士は実感しているという。「リサーチの深度がアドバイスの解像度を上げると考えています。まだ明るくない法分野については、実務経験が十分な先輩弁護士にしっかり訊く。若手も遠慮せずに案件を進められる雰囲気が当事務所の強みであると思っています」(清川弁護士)。
「案件の“前さばき”として、どのような法令が関連するかのチェックは、難易度の高い仕事です。当然、法務部でもリサーチされるのですが、“調べきれない”とご相談されるケースも少なくありません」(那須弁護士)。
企業が新領域に進出する場合には、競争法と同様、業法や省令などの規制や、決済手段を持とうとする場合の資金決済法の知識など、多岐にわたるリサーチが必要となる。条文の大切さはもちろんだが、法的論点をつかみ、先行事例や裁判例、場合によっては監督官庁への問い合わせで万全を期すノウハウを持つ法律事務所は頼もしい。クライアントの業態への深い理解と専門知識の蓄積、その両輪でサポートを続けていく。
田中 宏
弁護士
Hiroshi Tanaka
81年東京大学法学部卒業。83年弁護士登録。16~20年大阪市行政不服審査会会長。21年大阪弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長。22年~代表パートナー。大阪弁護士会所属。主な取扱分野はコーポレート、建築・不動産、コンプライアンス・危機管理・不祥事対応、家事・資産管理、M&A、行政、税務、訴訟・紛争解決。
那須 秀一
弁護士
Hidekazu Nasu
04年京都大学法学部卒業。05年弁護士登録。11~13年公正取引委員会事務総局審査局審査専門官(主査)。20~22年大阪大学法科大学院非常勤講師(「経済法2」「経済法演習」担当)。大阪弁護士会所属。公正取引委員会での執務経験を活かし競争法の案件を専門的に取り扱っていることに加えM&A、コンプライアンス・危機管理・不祥事対応、個人情報・消費者法、コーポレート、知的財産、訴訟・紛争解決など、幅広い案件を取り扱う。
清川 祐光
弁護士
Yugo Kiyokawa
19年大阪大学法学部卒業。21年京都大学法科大学院卒業。22年弁護士登録。大阪弁護士会所属。主な取扱分野はコーポレート、M&A、金融・保険・リース、倒産・事業再生、人事労務、建築・不動産、家事・資産管理、訴訟・紛争解決、刑事弁護。