TMIのさらなる先駆的なグローバル展開 アフリカ・中東プラクティス
TMI総合法律事務所(以下、「TMI」)は、設立時からの基本コンセプトである“国際化そしてさらにボーダーレスな世界に進もうとしている時代への対応”を念頭に、世界でビジネスを行う日本企業を支援すべく、これまで日本人弁護士のサポートが及んでいなかった地域にも積極的な展開を進めている。
その中でも進出のハードルが高いといわれるのがアフリカと中東だが、TMIはこの地域でも、他の法律事務所に先駆けて体制整備を進めている。
パリオフィスの開設によって広がる西・北アフリカへのネットワーク
2015年には日本の法律事務所として初めてアフリカに弁護士を駐在させ、ケニアに現地デスクを設置した。同デスクにはTMIの弁護士が常駐し、この9年間にアフリカ20か国以上の案件を手がけるなど、現地での日本企業のサポートに当たっている。
また、2023年には日本の大手法律事務所として初めてフランス・パリにオフィスを開設した。TMIは創業期から日仏間の取引を多数支援しており、東京オフィスにもフレンチデスクを設置するなどしてフランス法務の支援体制を既に充実させていたが、ロンドンに続く、欧州第2の拠点となるパリオフィス開設の目的の一つは、“アフリカでの対応能力強化”にあるという。
パリオフィスの開設に携わり、TMIのアフリカ・プラクティスを率いる平林拓人弁護士は、開設の背景を以下のように語る。
「“アフリカ”と一括りで語られることが多いですが、54もの多様な国々からなる広大な大陸で、日本の弁護士による法的サポートという点からは、いまだに多くの国々が手つかずの状態です。私が2015年にケニアに赴任したとき、日本の弁護士はアフリカ大陸で私一人という状況でした。その後、さまざまな案件への対応に加え、JETROのご依頼を受けてケニア、タンザニア、ウガンダの事業設立ハンドブックを作成したり、大使館や商工会に主催していただきセミナーを実施したりするなど、現地の法令情報やリーガルサポートへのアクセスを高めることができたと思います。しかし、ケニアから離れた北アフリカや西アフリカについては、個別案件の対応は多くあるものの、現地で活動されている日本企業全体に裨益するような継続的活動を行うことは難しい状況でした。そこで、TMIパリオフィスの開設に合わせ、パリからのアクセスがよく、フランス語を公用語とする国が多い北アフリカ・西アフリカに展開していくというプロジェクトが始動しました。2023年にパリで開催されたIBA年次総会の際にはアフリカからも多くの弁護士が集まり、TMIパリオフィスの北・西アフリカでのネットワークも一層広がりました。引き続き最重要地域の一つである東アフリカでは、既にアフリカ案件の経験を多く積んだ梅田朋子弁護士がケニア現地デスクでの常駐を開始しています。TMIのアフリカ・プラクティスは、東アフリカを中心とする第一フェーズから、北・西アフリカに対応地域を拡大していく第2フェーズに入ったといえます。現在の激動の世界情勢の中で、アフリカの複数の国々で共通して立ち上がる法的問題も多く、また、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)などの国境を越えた動きも進む中で、一つの地域での活動を他の地域でも大きく活かすことができています」(平林弁護士)。
ファーストペンギンの挑戦を後押しする土壌―中東プラクティスグループの軌跡
また、TMIは中東プラクティスグループを有し、いわゆる“中東諸国”といわれるアフガニスタン、アラブ首長国連邦、イエメン、イスラエル、イラク、イラン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、トルコ、バーレーン、ヨルダン、レバノン、パレスチナに加えてエジプトをカバーする形で日本企業による各地でのM&A・投資、アライアンス、事業展開等をサポートしている。
TMI中東プラクティスグループの中核を担う田中真人弁護士は、UC Berkeleyのロースクールを卒業し、同事務所のシリコンバレーオフィスで短期間勤務した後、日本の弁護士として初めて、イスラエルに約2年間駐在した。
「弁護士3年目くらいから、クロスボーダーのM&A・投資、特にスタートアップファイナンスを専門の一つとしたいと考えるようになり、TMIの先輩方と相談したうえで、スタートアップ実務が進んでいる米国ベイエリアでの留学と第2のシリコンバレーと呼ばれていたイスラエルにファーストペンギンとして飛び込むことを決意しました。異なる文化に適応するためには、現地の言語を学ぶべきと考え、UC Berkeleyのロースクールに通っていた頃は、教授と交渉し、学部生用のヘブライ語のクラスを履修させてもらい、週5で20歳前後の学生とともに英語でヘブライ語を学んでいました」(田中弁護士)。
同弁護士は、これまでに50件以上の日本企業によるイスラエルでのM&A・投資案件をサポートしており、2021年にはイスラエルのビジネス環境、法務、税務をカバーしたイスラエルビジネスガイドブックを編著で刊行した。2022年からは日本イスラエル商工会議所の副会頭に就任し、同商工会議所を通して日本とイスラエルの交流をより活性化させる活動も積極的に行っている。2020年に同事務所東京オフィスに復帰して以降は、中東プラクティスチームとして、UAE、サウジアラビア、トルコ等の中東案件を担当することも増え、これまでに中東10か国以上の案件を担当している。
「TMIには、若手の挑戦を事務所全体で応援する環境があります。TMIの尊敬する先輩方のサポートがなければ、私のイスラエル・中東に関するこれまでの挑戦・活動は間違いなく実現していませんでした。これまでの事務所のサポートに本当に感謝していますし、いま、TMIで現地法律事務所や各地域・各分野のスペシャリストである同僚と連携しながら、中東案件を含むクロスボーダー案件に関与できていることをとても幸せに感じています。
TMI中東プラクティスグループには約20名が所属しており、日々の案件に対応するとともに、毎月勉強会を開催し、中東の各地域の実務に関するノウハウを蓄積、共有しています。現地ファームとの連携も強化しており、地域ごとに幅広い法律事務所・会計事務所等とのネットワークがありますので、必要となる専門性やクライアントの予算感に合わせて適切な現地のプロフェッショナルと連携して案件を進めています。企業のグローバル展開が進み、グローバルなビジネス環境がますます複雑化する現代において、日本企業の法務ニーズに応えるためには、世界中の法的動向を理解し、異なる法的枠組みや文化との調和を踏まえた包括的なアドバイスを提供できることが重要です。今後も国際的な視野を持つ現地駐在経験のある弁護士を増やし、現地の実務・文化を踏まえたリーガルサービスを提供できる体制をより強化していきたいと考えています。
中東は、今後もアフリカと並んで日本企業のグローバル化にとっての重要な地域として、さらにビジネスが拡大していくことが予想されます。TMI中東プラクティスチームは、こうした日本企業のグローバル展開に伴う法務ニーズに万全の体制で応えていきます」(田中弁護士)。
時代の要請に応えるサポートを“現地での経験”を踏まえて行うことの意義
同じく中東プラクティスグループのメンバーである篠原一生弁護士は、中東各国の事務所での勤務経験を有し、現在は東京オフィスで中東エリアに関連する案件を担当している。
「私が留学に出るタイミングでは、既にTMIは東南アジアの各国にブランチオフィスを展開しており、その他にもロンドン、シリコンバレーと、海外への展開を積極的に行っている状況でした。また、ブランチオフィスがないエリアでも、現地の法律事務所にTMIの弁護士が出向する形でプラクティスを展開しており、アフリカや南米の案件も対応できる体制となっていました。このような中で、個人としても、ただ“留学に行きました”というだけでなく、“海外業務の中でどのような専門性を身につけていくか”ということを考えるようになり、また、事務所としても“どのようなエリアに展開することがプラスになるか”を考え、中東の法律事務所で勤務することを決めました」(篠原弁護士)。
篠原弁護士は、アメリカでの留学後、アラブ首長国連邦のAl Tamimi&Companyドバイオフィス、エジプトのMatouk Bassiouny & Hennawyカイロオフィス、トルコのHergüner Bilgen Özeke(現Hergüner Bilgen Üçer)イスタンブールオフィスで勤務した。
「これらの事務所はいずれもTMIとの関係があり、既に共同して案件対応を行ったことがある事務所でしたが、私が現地で勤務することで、さらに連携が強化されました。勤務先として選んだポイントの一つとしては、いずれも欧米系の法律事務所のブランチではなく、現地の弁護士が運営する独立系の法律事務所であるという点です。案件対応では直接現地の企業や経営者とやり取りすることになりますので、より深いところで対応をして実務を見てくることができました。また、現地では、勤務先以外の法律事務所で、特定の分野に専門性を持つブティック事務所等との関係性を構築してきましたので、案件の性質や予算に応じた細やかな対応も可能となっています」(篠原弁護士)。
安全保障や地政学リスクの複雑性が増す中で、今後の国際業務にはさらなる専門性が求められることになる。そのような状況の中で、世界のさまざまなエリアで専門性を有する弁護士が集うTMIの強みが活かされることになる。
「一口に“弁護士の海外業務”といっても、その時々において求められるサービスの内容は変わっていると強く感じます。たとえば、私が弁護士になった2015年頃は、中国に関する案件であれば、進出案件よりも経済構造の変化や人件費の高騰を背景とした撤退やポートフォリオの再構築、整理案件が多くなっており、近年では経済安全保障に関連する対応が増えています。そのような影響もあり、従前はインフラやエネルギー分野のプロジェクト案件が中心であった中東法務にも変容が生じており、UAEにおけるフリーゾーンを活用した中東方面への販路の拡大を狙った進出案件や東南アジアの生産拠点をより人件費の安いトルコやエジプトに移管することを企図した案件など、新しいタイプの案件が出てきています。このように、海外業務については日本企業の活動するエリアが拡大傾向にあり、また、海外のあるエリアにおける影響が他のエリアに波及するケースが増えています。TMIでは、中東と関係の深い欧州やアフリカについてもブランチオフィスやプラクティスグループを設けており、常時コミュニケーションをとっていますので、適宜連携をして対応できる体制を構築しています」(篠原弁護士)。
他の法律事務所に先駆け、対応メンバーが中長期的な視点で現地に滞在し、現地の法律事務所との深いリレーションを構築する中で、TMI自身の経験値とノウハウを蓄積する。このTMIのグローバル展開におけるビジネスモデルは、中国、東南アジア、欧米に続き、アフリカ、中東でも着実に進んでいる。
平林 拓人
弁護士
Takuto Hirabayashi
07年東京大学法科大学院修了。08年弁護士登録(東京弁護士会)。09年TMI総合法律事務所入所。14年スタンフォード大学ロースクール卒業(LL.M.)。15年ニューヨーク州弁護士登録。15年アンジャルワラ・アンド・キャナ法律事務所(ケニア・ナイロビ)、ATZ法律事務所(タンザニア・ダルエスサラーム。現 A&Kタンザニア法律事務所)勤務を経て、19年リージョナル・パートナー(アフリカ担当)就任。21年パートナー就任。
田中 真人
弁護士
Masato Tanaka
10年神戸大学法科大学院修了。11年弁護士登録(東京弁護士会)。12年TMI総合法律事務所入所。18年カルフォルニア大学バークレー校ロースクール卒業(LL.M.)、シリコンバレーオフィス勤務。18年Herzog Fox & Neeman法律事務所(イスラエル)勤務を経て、20年TMI総合法律事務所復帰。22年日本イスラエル商工会議所副会頭就任。23年パートナー就任。
篠原 一生
弁護士
Issei Shinohara
13年早稲田大学大学院法務研究科修了。14年弁護士登録(第一東京弁護士会)。15年TMI総合法律事務所入所。18年慶應義塾大学総合政策学部講師(行政法)。20年南カリフォルニア大学ロースクール修了(LL.M., テクノロジー&起業関係法Certificate)。22年Al Tamimi&Company(アラブ首長国連邦)ドバイオフィス、Matouk Bassiouny & Hennawy(エジプト)カイロオフィス、Hergüner Bilgen Özeke(トルコ)イスタンブールオフィス勤務を経て、TMI総合法律事務所復帰。
著 者:水田進[著]
出版社:中央経済社
価 格:2,970円(税込)
著 者:才口千春[著]
出版社:商事法務
価 格:2,420円(税込)
著 者:TMI総合法律事務所[編]柴野相雄・白石和泰・村上諭志・古井恵理[編集代表]
出版社:商事法務
価 格:8,800円(税込)