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―現役知財法務部員が、日々気になっているあれこれ。本音すぎる辛口連載です。

※ 本稿は個人の見解であり、特定の組織における出来事を再現したものではなく、その意見も代表しません。

あなたの根性は、形だけ取適法に対応するだけで十分ですか?

2026年1月1日から、「中小受託取引適正化法」(改正下請法、以下「取適法」)が施行された。2024年の「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(以下「フリーランス法」)に続き、取引関係上、不利な立場に立たされがちだった受託事業者の法的保護が強化されており、これらへの適合を進めている企業、あるいはまだ対応が追い付いていない企業も少なくないだろう。

法律の内容や適用範囲、注意点などについては、すでに関係省庁などから案内やガイドラインが出ているし、専門家の解説注1やセミナーなども多いので、そちらを参照していただくとして、本稿が述べたいのは以下の点である。

いくら法律を覚えて、法令遵守のためのチェック体制を整えたとしても、無意識に受託事業者を下に見るお前らのナメた根性は簡単には治らない!!

これだ。いいかいみんな、誰だって、外注工賃はなるべく低く抑えたいし、多少支払いが遅れたくらいでガタガタ言われたくないし、応援販売員には報酬を払わず奴隷のようにこき使いたいし、納品物の権利は全部自分のものにしたいのである。

その卑しい卑しい自らの性根を自覚し、向き合い、それを恥じる心を養わなければ、仮に表面的に社内体制を法定適合させたとしても、法の趣旨を貫徹することはできない。ナメた態度がコミュニケーションに滲み出れば、権利意識に芽生えた受託事業者とのトラブルを招き、うっかり境界線を踏み越えれば逆襲を受けることもあるだろう。

自分の利益を100%通そうとするな。相手の不利益を想像しよう!

取適法やフリーランス法、また独占禁止法には、受注者に負担を押しつける商慣習を一掃し、フリーランスでも安心して働ける環境を整備し、不公正な競争を抑止し、事業者の自主的活動を促すといった目的がある。

これらの目的を踏まえれば、取引関係上の優位者が、受託事業者との関係において、自分の利益を最大化することに執心することはもう止めなければならないだろう。とかく、古い考えの法務部では、自社を100%利する契約書をつくってそこからは譲らんとするむきがあるが、調子に乗るなよと言いたい

相手は事業遂行のパートナーなのに、常に100%打ち負かそうとしていたら、「もうこことは仕事したくない」と思うはずである。それを「とはいえ相手も失注したくはないだろう」と、ナメた態度で押し付けていたら、いつか後ろから刺される時代である。

ちょっと待てよ。これはいくらなんでも相手の不利益が大きくないだろうか」という視点と想像力を常に持ち、両者間の利害が適切に一致する落としどころを、探り合う姿勢で臨まなければならないのだ。

法務部員こそ、売り場に立って取引優位者のプレッシャーを体験すべき!

とはいえ、繰り返しになるが、取引優位性がある以上、受託事業者を下に見る性根は簡単には治らない。テキストを読んで、セミナーを聞いて、理解した気になっても、自席に戻ったらいつものように強気な契約書を起案してしまうのが、人間の悲しい性である

その根性を叩き直すために、一度、受託事業者的な立場での業務を経験してみてはどうだろうか。たとえば、メーカーでは、小売店の繁忙期などに社員が販売応援に駆り出されることがある。無償で派遣させればそれこそ独禁法違反の可能性がある、注意すべき慣行だが、適法な形で一度経験してみるとよいだろう。

販売応援は、メーカー社員にとっても研修や現場理解増進というメリットもあるため、駆り出されるのは、営業部門や事業部門の社員、あるいは新入社員であることが多い。一方、法務部員などバックオフィスの社員はお役御免となっていることが少なくないのだ。しかし、法務こそ、自分から手を挙げてでも現場に立った方がいい。一日中、小売店の社員にアゴで使われ、品出し、陳列、接客に奔走し、「これ、確かに無償でやらされたらキツいな……」という実感をカラダに叩き込めば、優越的地位者からのプレッシャーにさらされる劣後的地位者の気持ちが分かるだろう

法務部員よ、受託事業者として副業をしよう!

あるいは、何か副業をして、受託事業者、フリーランスの立場で仕事を受けてみることもオススメだ。筆者は、普段、企業で法務・知財の仕事をしながら、その傍らで作家などをしているのだが、この経験は、受託事業者の立場を理解したリーガルコミュニケーション力を身に着けるうえで、大いに役立っている。

若干、話は逸れるが、作家の典型的な仕事とは、出版社からの依頼で原稿を書く、というものだ。こうした典型的な出版社と作家の取引関係は、取適法やフリーランス法の適用対象から外れる場合が多いと考えられる。

というのは、出版社からの依頼とは、大まかな企画があり、それに沿った原稿(情報成果物)を書け、というものだが、具体的な内容については作家側にかなりの裁量があり、納期も目安程度で、遅れてもいかようにも調整が利くことが多い。このような取引実態に鑑みると、取適法やフリーランス法が規定する(情報成果物の作成の)「委託」、すなわち、給付に係る仕様、内容等を指定して情報成果物の作成を依頼すること注2には当たらない場合が多いように思われる注3

もっとも、納期(締切)が厳格だったり、分量、内容、レイアウトなど、出版社の指定する仕様が多かったりと、作家側の裁量が少なければ、この限りではないだろう。また、典型的な原稿執筆ではない、たとえば取材記事、広告記事、翻訳、監修などは「委託性」が高いと思われる。執筆分野にもよるかもしれない注4

筆者も、自由に書ける原稿も多いが、受託仕事を受ける機会も少なくない。そして、そうした仕事においては、発注の仕方、条件提示、契約書の内容、契約書の交渉過程、支払いなどのやり取りやタイミングについて、「こっちの事情を考えないな~」「思いやりがないな~」と思わされることが、残念ながら、ときどきある

筆者は、逆に発注者側の法務の立場も分かるので、そんなときでも相手方に過度に忖度して不本意を甘受したり、あるいは癇癪を起こしてディールブレイクしたりすることもなく、ウマく交渉してやっている。ただただ、「あ、こういう態度や対応が、受託事業者にムカつかれるのだなぁ」という学びになっている。

これが肌身に染みて分かっているか分かっていないかで、法務部員としてのソフトスキルに差が出ると思う。特に「ここまでは要求しても大丈夫。これ以上要求すると信頼関係にヒビが入る」という勘所を掴むことができるのは大きい

法務部員が、取適法やフリーランス法の精神を理解し、受託事業者とのWIN-WINな関係性構築に貢献するためには、条文やガイドラインを熟読するだけでは足りない。販売応援に出たり、副業をやったりするべきなのだ。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. Business & Law,赤津俊一郎「最新法務課題 Monthly Pick Up[第46回]令和8年改正で、下請法はどう変わるか―取適法の概要と実務上の留意点」など。[]
  2. 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)12頁、公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日、改正:令和7年10月1日)4頁。[]
  3. 旧下請法に関するものだが、日本書籍協会、日本雑誌協会が同見解。「出版社における改正下請法の取扱いについて」[]
  4. なお、取適法やフリーランス法に定める取引類型に該当しない場合でも、独占禁止法にいう優越的地位にあたる場合はあるだろう。[]

友利 昴

作家・企業知財法務実務家

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務・知財実務に長く携わる傍ら、著述・講演活動を行う。新刊に『明治・大正のロゴ図鑑』(作品社)、他に『企業と商標のウマい付き合い方談義』(発明推進協会)『江戸・明治のロゴ図鑑』(作品社)『エセ商標権事件簿』(パブリブ)『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)『エセ著作権事件簿』(パブリブ)『知財部という仕事』(発明推進協会)などがある。また、多くの企業知財人材の取材・インタビュー記事や社内講師を担当しており、企業の知財活動に明るい。一級知的財産管理技能士として、2020年に知的財産官管理技能士会表彰奨励賞を受賞。

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