「企業危機」発生時に必要なガバナンスとコミュニケーション - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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近年インターネットの普及により、企業不祥事が一層顕在化・拡散しやすくなった。各企業の対応や記者会見、調査報告書、再発防止策等は時に炎上し、世間の耳目を集めることも少なくない。いわば“企業危機”ともいえる状況で、必要な対応は何か。2021年7月に開催されたエピック主催のウェビナー「「企業危機」発生時に必要なガバナンスとコミュニケーション~社内ですべきこと、社会へ伝えるべきこと~」において、3名の専門家が解説した。

社内における調査対応と再発防止策

第三者委員会の独立性・中立性がカギ

「企業の不正調査において、重要な点は調査主体が誰であるかです。とりわけ、“企業危機”と呼ばれる大規模な不正が発生した際には、第三者委員会が組成されることが多く、この独立性・中立性が問われます」。セミナー冒頭でこう呼びかけたのは、TMI総合法律事務所パートナーの戸田謙太郎弁護士。
戸田弁護士は、第三者委員会には法令による規定はなく、企業が問題の専門性や社会的関心、組織的関与の有無などを考慮のうえ、日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿って人員を選定し、調査委員会を組成することが基本事項だと説明。その後の調査では組織ぐるみの不正か否かが大きな焦点になると述べた。
「調査の際に確認すべきことは三つ。まずは発覚した事案が個人の事案なのか、組織ぐるみの事案なのか。次に確認すべきことが類似事案の有無。これは、カルテルなどでリニエンシー制度を活用するか否かを判断するうえで重要です。最後は、他に不正が存在していないことを証明することです。調査内容は、調査主体、調査範囲、結果について合理的に説明する必要があります」(戸田弁護士)。
調査手法については、以前は社内ヒアリングが中心だったが、客観的な証拠の担保のため、近年では関係資料の精査にデジタルフォレンジックが活用されるようになったと紹介した。

戸田 謙太郎 弁護士

客観的証拠の担保には関係資料の精査が不可欠

デジタルフォレンジックを活用した資料の精査について、Epiq Systems合同会社のディレクター・早川浩佑氏は「ヒアリング主体の調査ではデータ改ざん等のリスクがあります。客観的証拠の収集のためには、ディスカバリ/フォレンジック事業者の協力を得て、電子媒体、ファイルサーバや外付けメディアなどから証拠を収取し、法律事務所や法務部による事実確認を実施することが肝要です」と指摘する。
早川氏は、内部調査のスケジュールとしては、調査範囲や調査対象を決定する“スコーピング”、証拠データをコピーする“証拠保全”、キーワード検索等で対象文書を絞り込む“データ分析”、専門家による関連文書のフラグ付けである“文書レビュー”、発見事項一覧をまとめた“レポート作成”の流れで、早い場合は1~2か月、長期の場合は半年程度で実施していることを紹介。データの絞り込みについて、早川氏は「以前は万単位のデータを扱う際には500~2,000件ほどのレビュー結果を使った教師データの作成が必要でしたが、現在は当初から全データを一斉に機械に学習させ、関連情報をピックアップすることが可能です」と語る。
同社の特徴としてはグローバル展開とオンラインデータベースによる関係者の一斉レビューが可能である点を挙げ、「海外子会社で発生した不正調査の場合は、現地の支社のエンジニアを派遣し、調査データをオンラインデータベースにアップロードします。そうすれば本社や現地の担当者が一つのデータにアクセスしレビューを進めることができますし、複数の国の法律事務所の連携も容易です」と説明した。

早川 浩佑 氏

再発防止策策定には二つの側面に留意を

戸田弁護士は「不正調査の最重要点は、いかなる再発防止策をとるかです」と指摘し、再発防止策には“3線ディフェンスによるガバナンス体制の構築”と“内部通報制度の実効性の確保”の二つの方向性があるとした。
3線ディフェンスは、以前からスタンダードな手法であったが、近年は経産省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」で重要性が議論され、注目されていることを紹介。現業部門、管理部門、内部監査部門の“3線”によりガバナンスを行う本手法については、本社はもちろん、各子会社による国内外のグループ本社への報告体制の構築も重要と説明した。一方、海外グループ会社においては、本社との情報共有の機会の不足や小規模ゆえの管理部門不在が問題となりやすいと指摘。管理部門が不在の場合は担当者を決め、連携の中心を担わせることで国内外のガバナンスを整備し、そのうえで「不祥事の再発防止策では、3線のどこに問題が発生したかを検証し改善策を考える必要があります」と語った。
また、内部通報制度の実効性確保のためは“信頼性の向上”と“内部通報制度の周知”の二つのポイントがあると提言。「内部通報制度が機能せず不正が報道等で発覚したり、発覚が遅れて拡大したりした状況なのであれば、通報者は報復を恐れ、不信感を抱いています。まずは改善策への信頼が得られる体制作りが必要です。制度の周知は、ポスター掲示や社内イントラ内のリンク設置等では不十分。信頼性向上に向けた施策の実施が周知されることが重要です」と述べ、体制構築には、昨年改正された公益通報者保護法の指針案を参考にすべきとアドバイスした。

“有事”におけるメディア対応とクライシス・コミュニケーションの基礎―有事に必須の“ジャーナリズムの常識”への対応

不祥事が発覚し調査をする場合は、いずれかのタイミングで記者会見等を行う必要がある。多くの企業がメディアとのコミュニケーションに失敗を重ねている現実について、ピーアール・ジャパン株式会社代表取締役で危機管理コンサルタントの中村峰介氏は「多くの経営者が、平時と異なる環境に置かれていることに気づいていない」と指摘。その一例として、記者会見場で若手記者が業界知識もないまま無礼な質問をすることに怒りを感じる経営者が多いと紹介した。「有事に相対するジャーナリズムの常識は、平時のビジネスの常識とは異なります。まずはその点を理解することが必要なのです」(中村氏)。
また近年、ネットで局所的な話題だった事案がテレビの情報番組で取り上げられ“社会ごと”化し、最終的に新聞紙面で報道され、ニュース価値が高まることで、テレビやネットニュースで拡散プッシュされる傾向にあると中村氏は説明。そのため、有事においては報道機関への適切な対応が欠かせず、情報提供としてHPに現状や謝罪文などを随時掲載するとともに、事案によってはプレスリリースの配信や記者会見が必要であると述べた。
電話やぶら下がりなどの取材に対しては「社内に“箝口令”を敷き、情報のインプットとアウトプットを広報に集約しましょう。開示する情報の範囲を都度定めて更新していき、非公式な取材には決して応じてはいけません」とアドバイス。一方で、事実確認の段階から、会社の対応への努力を公式HP等で随時公表すべきとした。
開示する情報に関しては、“有事”は当事者企業にとって客観的な判断が非常に難しい環境にあると指摘し、社外の視点を取り入れるべきと強調。「コンサルタントに限らず顧問弁護士でもよい。社会の目や関心度について外部から見ることが重要なのです」(中村氏)。
最後に中村氏は、どの企業にも可能な最低限の備えとして、有事のコミュニケーションマニュアルの整備や、不祥事対応セミナーの受講や事例研究による知見の蓄積、模擬訓練等が有効だと紹介。不祥事の際、企業は“人格”として社会に評価されると述べ「大切なことは二つ。自分自身になぞらえ、信頼回復のために何をすべきか考えること。メッセージがポリシーに裏打ちされ、ブレがないことです」と締めくくった。

中村 峰介 氏

戸田 謙太郎

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング株式会社 取締役
中央大学法科大学院 兼任講師(アジア・ビジネス法)

2001年東京大学法学部第一類卒業。2008年テンプル大学ロースクール卒業(LL.M.)。2008年ロウェル・アンド・ヘンダーソン法律事務所(フィラデルフィア)、中央大学法科大学院卒業、モルガン・ルイス&バッキアスLLP(東京)。2009年ニューヨーク州弁護士登録。2010年弁護士登録。2011年TMI総合法律事務所入所。2015年モルガン・ルイス&バッキアスLLP(ワシントン)。2019年TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング株式会社取締役。2020年中央大学法科大学院兼任講師(アジア・ビジネス法)。

中村 峰介

ピーアール・ジャパン株式会社 代表取締役
危機管理コンサルタント/メディアトレーナー/PRコンサルタント/危機管理士(日本危機管理士機構認定)/事業継続初級管理者(事業継続推進機構認定)

1992年早稲田大学法学部卒業、産経新聞社入社。2002年PR大手・株式会社プラップジャパン入社。2008年ピーアール・ジャパン株式会社創業、代表に就任。

早川 浩佑

Epiq Systems合同会社 ディレクター リーガル・ソリューション
公認不正検査士(CFE)/Relativity Certified Administrator(RCA)

日本企業やグローバル企業の訴訟・調査案件へのソリューション提案やマネジメント全般、ワークフローの最適化を図る。米国民事訴訟および米国司法省国際カルテル案件に加え、日本を含むアジア諸国における規制当局調査案件や内部調査案件など、金融、製造、医療機器・製薬などさまざまな業界におけるクロスボーダー案件に豊富な経験を有する。