【情報セキュリティ】企業活動における情報・データのリスク管理 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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情報やデータの取得局面におけるリスク
―経済安全保障・反スパイ法

企業が有する先端技術の不正な取得や流出が国をまたいで行われると、国際的な経済競争の基盤を揺るがすのみならず、情報の軍事転用によって国家の安全保障にも影響を与える可能性がある。

「営業秘密の不正取得や流出は、従来は、純粋に企業間の紛争という意味合いで捉えられることが多かったのですが、近年は、いわゆる地政学上のリスクの高まりとともに、経済安全保障との関係でも各国規制との関係に注意を払わなければならないセンシティティブな問題となっています」(松田章良弁護士)。

松田 章良 弁護士

「日本ではスパイ活動全般を包括的に規制する法令は存在しないため、日本企業による経済スパイ活動についての意識および対策の程度には大きな差がみられます。日本企業が他国企業の先端技術を悪意で不正に取得することは考えにくいでしょうが、外国の産業スパイ禁止法令に抵触すると疑われるような行為を、無知または“うっかり”によって行ってしまう可能性は十分にあります」(山田康平弁護士)。

山田 康平 弁護士

とりわけ日本企業にとって注意が必要なのは、中国のいわゆる反スパイ法だ。中国は、国家の安全に関わるあらゆる情報の移転を対象とし、スパイと解釈可能な行為の範囲を拡大した改正反スパイ法を2023年7月1日に施行した。

読者からの質問(中国の反スパイ法への対応)

Q 中国の反スパイ法への対応の要点を教えてください。

 (1)日本政府(在中国日本国大使館)による「安全の手引き」を役職員に周知する(本手引きでは、たとえば、軍事施設や国境管理の施設などを撮影する場合の拘束可能性が記載されている)。

(2)個人用携帯電話やパソコンなどの通信機器は、盗聴される可能性を意識して利用する。

(3)中国側の公務員や国営企業の関係者、または民間政治・経済友好団体の職員と面談する際には面談の記録を残し、疑われた場合に反論できるようにしておく。

「中国のいわゆる反スパイ法では、旧法の“国家の秘密や情報”に加えて“その他、国家の安全および利益に関わる文書やデータ、資料および物品”を盗み取ったり提供したりする行為が新たに取締りの対象になりました。しかし、新規に追加された文言の定義がなされていないため、恣意的な法執行がなされるリスクがあります。日本国内では問題になり得ない情報取得活動であっても、中国の現法社員・駐在員などがそれを行う場合には、中国の反スパイ法により身柄拘束され、立件対象になりかねません」(松田貴男弁護士)。

松田 貴男 弁護士

「万一出張者や駐在者が現地で拘束された場合には、寸刻を争う対応が必要です。当事務所は、中国の金茂律師事務所との間で12年にもわたる緊密な提携関係があり、同事務所から当事務所への常駐パートナー弁護士もいるので、問題が生じる前に、ぜひご相談いただきたいと思います」(田子真也弁護士)。

田子 真也 弁護士

企業の情報取得活動について注意が必要な法域は他にもある。東南アジアの状況について別府文弥弁護士はこう語る。

「東南アジアでは、企業活動は比較的自由に行われていますが、たとえばベトナムでは個人情報の越境移転について強力な制限が設けられていたり、シンガポールでは個人情報保護法違反の摘発が当局によって積極的に行われているなど、日本企業による情報取得活動が問題となりうる局面は多くあります。当事務所は、私が当事務所からの派遣で駐在しているシンガポール最大手のDrew & Napier法律事務所、および同事務所がASEAN諸国で形成するDrewNetwork Asiaの加盟法律事務所と緊密に連携することにより、ASEAN全域の法律問題についてワンストップでのサービスを提供することが可能です」(別府弁護士)。

別府 文弥 弁護士

情報やデータの管理・流出防止
―営業秘密、データコンプライアンス・ガバナンス

2024年の警視庁の発表によれば、2023年は、営業秘密侵害に関する検挙数は過去最多となった前年(29事件)に次ぐ26事件であり、営業秘密侵害に関する相談件数は過去最多の78事件であったという。

「かっぱ寿司の運営会社の元社長が、ライバルの回転寿司チェーンから営業秘密を不正に取得したとされる事件などは記憶に新しいところです。当事務所においても、従業員による営業秘密の持ち出しに関するご相談は増えている印象です。とりわけ、当事務所は、労務チームやデータテクノロジーチームを組成しており、当該事案に複数分野の専門性を要する場合には、複数チームのメンバーが関与することにより専門的な対応を行っています」(田子弁護士)。

「労務チームでは、従業員からの誓約書・宣誓書の記載方法、取得のタイミング、違反者に対する退職金不支給条項を設けることの可否や、懲戒処分に関するご相談や訴訟のご依頼を受けることが多くあります。さらに最近は、転職者を受け入れた企業が、転職元企業から転職者に関する情報漏洩の疑いについて警告文を受けたといったご相談も受けています。人的資本経営が志向される中、高度専門人材の転職等は増加傾向にあるため、各社においては一層注意していただく必要があるのではないでしょうか」(藤原宇基弁護士)。

藤原 宇基 弁護士

「かつて新日鉄住金の元従業員が韓国の鉄鋼大手ポスコに営業秘密を持ち出したという事例がありましたが、この種の事例はグローバルな対応も必要になりますので、手が回っていない企業も多いのではないでしょうか。営業秘密に限られるものではありませんが、個人データの管理を含む海外子会社の内部統制に関するご相談もよく受けます。現地法律事務所と協働で海外に進出されているクライアントのサポートをすることもよくありますが、皆さん苦労されているようです」(山田弁護士)。

不正競争防止法の改正を踏まえた対応も重要である。

「令和5年改正により、“秘密として管理していたが非公知とはいえない情報”について保護を受けられないという問題が解消し、限定提供データと営業秘密の一体的な情報管理が可能となりました。そこで、まず技術上・営業上の情報で有用性のあるものを抽出し、そのうち営業秘密として用いる可能性がある情報については秘密管理性の要件を満たすよう、社内の情報管理体制を見直す必要があります。次に、営業秘密として用いる可能性のない情報のうち、限定提供データとして利活用する可能性のある情報については、限定提供データの要件(電磁的管理性、相当蓄積性)を満たすよう管理することが必要です」(池田美奈子弁護士)。

池田 美奈子 弁護士

「データは、“目に見えず、容易に国境を越える”という特徴を有するとともに、あるデータセットについて複数の法令の検討が必要になる場合が多くあります。そのため、個人情報保護法を含む国内外の各種関連法令をグローバルに遵守しつつ、データを有効かつ効率的に利活用するためのデータコンプライアンス・データガバナンス体制を構築するにあたっては、俯瞰的な視点および検討が必要となります。また、社内の組織体制としては、事業部門・データガバナンス部門・経営層が対話しつつ、事柄の重要性に応じて、事業部門からデータガバナンス部門、経営層の順に情報がエスカレートしていくのが理想です。その際、法務部門・セキュリティ部門は、データガバナンス部門の運営に際して重要な役割を果たすことが期待されますし、外部有識者であるデータに強い弁護士を活用することも重要なポイントです」(松田章良弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2024』を 「まとめて読む」
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