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はじめに

日本における美容医療は、ここ十数年で急速に市場規模を拡大し、クリニック数・施術件数ともに増加傾向にある。美容医療は、外見の変化を通じて個人の満足感や自己実現に寄与する側面を有し、社会的需要の高い分野として定着しつつある。他方で、その提供主体はあくまで医療機関であり、行われる行為も「医療」である以上、医師法・保健師助産師看護師法・医療法・薬機法・特定商取引法等、複数の法令の対象となる。

もっとも、美容医療は自由診療領域が中心であるがゆえに、公的保険診療に比べて行政による実態把握や介入が相対的に及びにくく、安全性確保や適正な運営に課題があるとの指摘が従前よりなされてきた。特に、無資格者による説明や施術、誇大広告、過度な勧誘行為、未承認薬剤の使用といった問題が報告され、社会的関心が高まっている。

こうした状況を背景として、令和6年から令和7年にかけて、厚生労働省等の当局から美容医療に関する重要な通知が相次いで発出された。これらの通知は、従来必ずしも明確でなかったルールや解釈を整理し、美容医療を「医療」として適切に位置付け直す意図を色濃く反映するものである。さらに、令和7年医療法等改正においては、美容医療を行う医療機関に対し、安全管理体制に関する報告義務が明確化され、組織として安全性を担保することが強く求められるに至った。これらを含め、近年の美容医療を取り巻く規制動向は、次の四点に集約される。

  • 施術主体・施術範囲の明確化
  • 美容医療を行う医療機関における定期報告の義務化
  • 保険医療機関の管理者要件の新設
  • 医療広告規制の厳格化と説明責任の強化

本稿では、こうした近時の通知及び法改正の内容を整理し、美容医療を取り巻く規制の方向性を概観するとともに、美容医療の今後のあり方について実務的な観点から若干の示唆を試みる。

施術主体・施術範囲の明確化

美容医療は、その多くが自由診療であっても、あくまで医療行為である。それゆえ、その施術に当たっては医師法の厳格な適用を受ける。医師法17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めており、同条に違反した者は、3年以下の拘禁若しくは100万円以下の罰金に処され、又は、これらが併科される(同法31条1号)。一般に、「医業」とは、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと」をいうと解されている注1。そして、ある行為が医行為に当たるか否かは、判例上、「当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮したうえで、社会通念に照らして判断するのが相当である」とされている注2

ところで、保健師助産師看護師法31条は、「看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない」と定めており、同法5条に規定する業とは、「傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助」をいう。つまり、療養上の世話及び診療の補助は、看護師の独占業務である。無資格者(看護師ではない者)がこれらを行うことは、同条に違反し、2年以下の拘禁若しくは50万円以下の罰金に処され、又は、これらが併科されることになる(同法43条1項1号)。一般に、「療養上の世話」とは、たとえば、食事の介助、清拭等の傷病者又はじょく婦に対して療養上必要な世話を行うことであり、「診療の補助」とは、たとえば、医師又は歯科医師の指示のもとで行う採血、静脈注射等の医師又は歯科医師の指示のもとで医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある医行為を行うことであると解されている。要するに、療養上の世話は、必ずしも医師による指示を必要とせず、看護師の判断で行うことができるが注3、他方で、診療の補助は、医行為であり、(臨時応急の手当をする場合を除き)医師の指示に基づく必要がある注4。言い換えれば、診療の補助は、本来医師が行うべき医行為(の一部)でありながら、医師の指示に基づいて看護師においてその実施が例外的に許容されているといえよう。逆説的ではあるが、そのように例外的に医行為の実施が看護師において認められているのは、当該行為の身体的侵襲の程度が比較的軽微であることを前提としているからであり、そのような内在的制約を逸脱する場合には、たとえ医師の指示に基づいたものであったとしても、もはや「診療の補助」の範囲を逸脱すると考えられる注5。その場合、そのような行為は看護師の独占業務ではなくなるし、また、看護師がそのような行為を行った時には、医師法17条や保健師助産師看護師法37条本文に違反する可能性がある。実際、診療の補助の外延は、これまでたびたび問題とされてきた。

以上のような規制が設けられているにもかかわらず、それらに違反する事例は、古くから現在に至るまで枚挙に暇がない。近時においても、厚生労働省は、「美容医療の適切な実施に関する検討会」がとりまとめた『美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書』(令和6年11月22日とりまとめ。以下「本報告書」という)を公表しており、そこでは、無資格者による医行為の実施(医師法17条違反)が疑われる事例として、以下の事例が列挙されている。

・ 医療機関において、無資格者による医療脱毛やHIFU(高密度焦点式超音波)等の医行為が行われている事例

・ 医療機関において、いわゆるカウンセラーが、無資格者であるにもかかわらず実質的に治療内容の決定等を行っている事例

・ 医師以外の者がオンライン診療(薬の処方含む)を実施している事例

・ エステサロン等、医療機関ではない場所で、無資格者により医療脱毛やアートメイク等の医行為が行われていると考えられる事例

また、本報告書では、看護師における医師の指示のない診療の補助行為(保健師助産師看護師法37条違反)が疑われる事例として、以下の事例が列挙されている。

・ 医療機関において、医師の指示がない状況下で、看護師が脱毛等の医行為を実施している事例

厚生労働省は、本報告書の検討結果を踏まえ、警察庁及び消費者庁と協議を行ったうえで、美容医療に係る違反事例等に適切に対処するべく、「美容医療に関する取扱いについて」(令和7年8月15日付け医政発0815第21号厚生労働省医政局長通知。以下「本通知」という)を発出している。本通知においては、問題事例として以下の事例が列挙されているが、とりわけ美容医療の実務との関係で重要なのは、①及び②である。

① いわゆるカウンセラー等の無資格者による診断等

② 看護師等のみによる治療行為等

③ メール・チャットのみによる診断・処方等

④ 診療録の作成・保存義務違反

⑤ 病院等の管理者の一般的な管理義務違反(長期間にわたる不在を含む)

⑥ 医療の安全確保に関する違反

⑦ 医療広告規制に関する違反

まず、本通知は、①について、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師又は准看護師の免許を有しない者を「無資格者」と定義したうえで、そのような無資格者が「カウンセラー」等と称して患者に対して医療行為や診療に関連するカウンセリングを行うことは、医師法17条及び保健師助産師看護師法31条に違反する可能性を示している。具体的には、医師法17条に違反するものとして、次のような例が列挙されている(看護師でない者がこれらを実施した場合には同時に保健師助産師看護師法31条にも違反すると考えられる)。なお、医師が、下記のような行為を無資格者に指示して実施させていた場合には、当該医師は、いわゆる間接正犯として、保健師助産師看護師法31条に違反する可能性がある。

ⅰ 脱毛行為等(「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」(平成13年11月8日医政医発第105号厚生労働省医政局医事課長通知)において示した行為)、いわゆるアートメイク(「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」(令和5年7月3日医政医発0703第5号厚生労働省医政局医事課長通知)において示した行為)注6、HIFU(高密度焦点式超音波)施術(「医師免許を有しない者が行った高密度焦点式超音波を用いた施術について」(令和6年6月7日医政医発0607第1号厚生労働省医政局医事課長通知)において示した行為)

ⅱ 患者の主訴(例:一重まぶたを二重まぶたにしたいといった要望)や希望する処置(例:二重整形について埋没法ではなく切開法がよいとの希望、ダウンタイムの少ない処置がよいとの希望)を聞き取った上で、具体的な治療方法を選択して患者に対して提案し、又は決定するなど、患者の個別の状況に応じて医学的な判断を行い、これを伝達する行為。なお、これは形式的には各治療行為に係る料金設定の説明という体裁を取っていたとしても、実質的に患者の個別の状況に応じて医学的な判断を行い、これを伝達する行為は、医行為に該当する

ⅲ 侵襲を伴う検体の採取をする行為

ⅳ 情報通信機器を用いて、ビデオ通話、電話、メール、チャット等により、患者の個別の状況に応じて医学的な判断を行い、これを伝達等する行為

次に、本通知は、②について、看護師等が診察等を行い、これにより得られた患者のさまざまな情報から、治療方針等について主体的に判断を行ってこれを伝達したり、医師の指示なく診療の補助や治療行為を行ったりした場合には、医師法17条及び保健師助産師看護師法37条に違反する可能性を示している。具体的には、医師法17条及び保健師助産師看護師法37条に違反するものとして、次のような例が列挙されている。なお、仮に医師が下記ⅱやⅲのような行為を指示した場合において、当該医師が、いわゆる共犯又は間接正犯として、それらの条項に違反することになるのかは明らかではないが、本通知は、医師においても、所属医療機関の看護師等が上記の違反行為を行うような状況を作出することはあってはならない旨述べている点には、厳に留意が必要である。

ⅰ 看護師等が、医師の指示なく、脱毛行為等、いわゆるアートメイク、HIFU施術等の医行為を行うこと。

ⅱ 看護師等が、医学的判断を伴う行為である診察を行うこと。

ⅲ 看護師等が、具体的な治療方法を選択して患者に対して提案し、又は決定するなど、患者の個別の状況に応じて医学的な判断を行い、これを伝達すること。

以上のとおり、本報告書や本通知は、医療行為の担い手に関する基本的な法的整理を示している。すなわち、無資格者が診断行為や治療方針の決定を行うことは許されず、また、看護師等の資格者であっても、治療方針について主体的に判断したりそれを患者等に伝達したりすること、さらには医師の指示を欠いたまま診療の補助や治療行為を行うことは、いずれも違法となることが明確にされている。加えて、こうした行為に医師が関与している場合には、その責任が問われ得る点についても示唆されている(実際、無資格者による施術等については医師が処罰された事例も存在する)。このように、本通知は、美容医療の分野において従来必ずしも明確でなかった「誰がどの範囲までの行為を担うべきか」という点について、法的枠組みを整理・明確化する意義を有するものといえる。

美容医療を行う医療機関における定期報告の義務化

高齢化に伴う医療ニーズの変化や人口減少を見据え、地域での良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を構築するため、地域医療構想の見直し等、医師偏在是正に向けた総合的な対策の実施、これらの基盤となる医療DXの推進のために必要な措置を講ずることを目的として、2025年12月5日、医療法等の一部を改正する法律(令和7年医療法等改正)注7が成立した。これは、医療法をはじめ、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律、健康保険法、社会保険診療報酬支払基金法、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等、多岐にわたる法律について改正を行うものである(以下、同改正によって改正された後の医療法を特に指して「改正医療法」という)。

その中でも、改正医療法は、美容目的の医療行為を行う医療機関との関係において、医療安全指針の策定、事故防止策の実施、緊急時対応体制の整備、医師に関する情報等の報告義務を新たに導入した。これは、近年、美容医療の普及に伴いトラブルが増加する一方で、①美容医療を提供する医療機関における院内安全管理の実施状況や体制について、保健所等が十分に把握できていないこと、②患者側においても、医療機関の体制や相談窓口を知る手段が乏しいこと、③関係法令・ルール(オンライン診療に係るものを含む)の周知・浸透が不十分であること、④合併症等への対応が困難な医師が施術を担当している事例がみられること、⑤安全な医療提供体制や適切な診療プロセスが全般的かつ統一的に示されていないこと、⑥アフターケアや緊急対応が適切に行われていない医療機関が存在すること、⑦保健所等の指導の根拠となる診療録等の記載が不十分な場合があることなど、複合的な課題が指摘されてきたことを背景とするものである。改正医療法は、これらの課題に対応し、美容医療分野における安全管理体制の可視化と実効性の確保を図るために導入されたものであり、近年の美容医療規制における最も重要な法令上の変化の一つと評価できる。施行期日は公布後2年以内に政令で定める日とされており、報告の内容や方法等の詳細についても同期日までに政令等で定められる予定であるが、現時点において既に確定している事項は以下のとおりである。

まず、改正医療法は、「美容を目的として人の皮膚若しくは歯牙を清潔にし、若しくは美化し、身体を整え、又は体重を減ずるための医学的処置、手術及びその他の治療を行う病院又は診療所であつて厚生労働省令で定めるもの」(以下「美容医療機関」という)に対して、同法6条の12に規定する措置の状況その他の医療の安全の確保のために必要な情報として厚生労働省令で定める事項を、当該病院又は診療所の所在地の都道府県知事(診療所にあっては、その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長)に報告すべき義務を新たに設けた(同法6条の12の2第1項)注8。もともと、同法6条の12は、病院等の管理者に対し、安全管理体制の構築を義務付けており注9、これは、保険診療であると自由診療であるとを問わず、医療法における「病院等(病院、診療所又は助産所)」の定義に該当する施設である限り適用されてきた。したがって、美容医療機関についても、病院等に該当する以上は、従前から安全管理体制の構築義務が課されていた。改正医療法の新規性は、こうした医療安全管理体制の構築状況に加えて「その他の医療の安全の確保のために必要な情報」として厚生労働省令で定める事項について、行政に対する報告義務を美容医療機関に新たに課した点にある。そして、都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、報告された事項のうち医療の安全の確保のために特に必要な事項として厚生労働省令で定めるものを公表しなければならないとされている(同条4項)。

次に、改正医療法は、都道府県知事が、上記報告の内容を確認するために必要があると認めるときは、市町村その他の官公署に対し、当該都道府県(診療所にあっては、その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市又は特別区)の区域内に所在する美容医療機関に関し必要な情報の提供を求めることができる旨定めている(同条3項)。さらに、都道府県知事は、美容医療機関の管理者が上記報告をせず又は虚偽の報告をしたときは、期間を定めて、当該美容医療機関の開設者に対し、当該管理者をしてその報告を行わせ、又はその報告の内容を是正させることを命ずることができるとされている(同条5項)。

以上のとおり、改正医療法は、美容医療機関に対し、従前から課されていた医療安全管理体制の構築義務を前提としつつ、その実施状況等について都道府県知事等への報告義務を新たに課すとともに、報告内容の一部について公表を予定する制度を導入した。併せて、都道府県知事に対し、報告内容の確認のための情報収集権限を付与し、未報告や虚偽報告があった場合には是正命令等の行政処分を可能とするなど、制度の実効性を担保するしくみも整備されている。今回の改正により、美容医療の安全性に関する情報の透明性が高まり、行政による適切な監督が可能となるとともに、利用者にとっても医療機関の体制や安全性を踏まえた適切な選択が可能となる環境整備の進展が期待される

保険医療機関の管理者要件の新設

令和7年医療法等改正は、上記定期報告の義務化に加えて、美容医療への規制をもう一つ導入している。それは、健康保険法の改正による保険医療機関の管理者要件の新設である(以下、同改正によって改正された後の健康保険法を特に指して「改正健康保険法」という)。これは、医師偏在是正に向けた総合的な対策の一環と位置付けられており、保険医療機関の管理者になるための要件として、保険医(健康保険法64条)であることに加えて、2年の臨床研修に加えて保険医療機関(病院に限る)において3年以上診療に従事した経験その他の厚生労働省令で定める要件を備える者であることを要請するものである(改正健康保険法70条の2第1項)。これにより、今後、保険医療機関の管理者(院長等)になろうとする医師は、合計5年間の保険診療経験を積むことが求められる。なお「その他の厚生労働省令で定める要件」としてさらに加重される可能性がある点には留意が必要である。施行期日は令和8年4月1日となっている。

このような要件は、いわゆる直美現象(医学部卒業後2年間の臨床研修修了直後に美容医療を専業とする医師となる現象)が、医師の地域偏在や診療科偏在を助長しているとの問題意識を背景として導入されたものである。確かに、本要件のもとでは、臨床研修修了直後に美容医療へ進んだ場合、保険医療機関の管理者資格を得ることが困難となる。そのため、まずはファーストキャリアとして保険医療機関で勤務することに一定のインセンティヴが生じ、その結果、直美現象を間接的に抑制する効果は期待できる。しかしながら、本要件はあくまで保険医療機関の管理者(院長等)となるための条件にとどまるものであり、医師が臨床研修修了直後に美容医療に従事すること自体は可能である(つまり直美そのものを制限するものではない)。また、将来的に保険医療機関の管理者となる意向を有しない者(たとえば、勤務医としての勤務を継続することに支障を感じない医師や、独立開業を予定しているとしても専ら自由診療の提供を志向する医師)に対しては、上記のようなインセンティヴは働かないため、本要件が実質的な牽制として機能する余地は乏しい。

以上のとおり、令和7年医療法等改正は、保険医療機関の管理者要件として通算5年間の保険診療経験を求めるに至ったものの、直美現象に対する規制効果は限定的なものにとどまると考えられる。そもそも制度的に解決すべき本質的課題は、医師の地域及び診療科の偏在にある。直美現象は、その構造的問題の一側面にすぎず、今回新たに設けられた要件も、直美ではない形で美容医療に従事する医師の増加(たとえば、将来的なキャリア形成や人生設計を見据え、まず保険医療機関で一定の勤務経験を積んだ後に美容医療へ転身するケース)によって生じる医師の地域・診療科偏在については、何ら抑止的な効果を有するものではない。

もっとも、間接的であれ直美現象に対する制度的対応が講じられたこと自体は、美容医療分野における医師のキャリア形成や医療提供体制のあり方が、今後、より一層制度的な監督及び評価の対象となっていくことを示唆している。その結果、医療の質及び安全性の確保を重視する政策的関心は一段と高まり、美容医療への新規参入に関して、より実質的な法的措置が講じられる可能性も否定できない。医師の診療科選択の自由との関係から、直美や保険医療に従事した後に美容医療に転身すること自体を全面的に法令で制限すること(たとえば、美容医療に従事する医師の数を一律に制限する、美容医療を提供する医療機関の新規開設を一律禁止するなど)には自ずと限界があると考えられる。今後の規制の方向性としては、たとえば、諸外国において議論が進められているように、美容医療を行う医療機関の管理者となるために一定の専門研修の修了を義務付けることや、美容医療の実施に際して当該分野における一定期間の実務経験を前提とする専門医資格の取得を求めること、さらには特定の医療手技ごとに専門研修の履修や資格取得を要件とするなど、段階的かつ機能別の規律を導入することが現実的な選択肢として想定されよう。

医療広告規制の厳格化と説明責任の強化

美容医療に関する相談件数が増加する中、平成29年の医療法改正により、医療機関のウェブサイト等についても広告規制(医療法6条の5、同法施行規則1条の9、1条の9の2)の対象とされた。しかしながら、依然として、美容医療を行う医療機関における広告規制違反の事例は後を絶たない。令和7年3月に発表された『医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)』では、ウェブサイト上の問題事例として、「科学的根拠が乏しい情報による誘導(再生医療関連の誇大広告)」や「『再生医療等提供計画』について誤認させる広告(誇大広告)」が取り上げられているほか、動画広告に関しては新たに「体験談」に関する問題事例が整理・紹介されている。また、本通知においても、虚偽広告(「絶対に安全」「必ず綺麗になる」といった医学上あり得ない表現や、加工・修正した術前術後の写真等を広告するなど、患者等に著しく事実に相違する情報を与え、適切な受診機会を喪失させ、不適切な医療を受けさせるおそれがある場合)や比較優良広告(自らの病院等が他の病院等よりも優良である旨の広告の他、「日本一」「No.1」といった最上級の表現、さらには著名人との関係性を強調する広告を行った場合)、誇大広告(科学的根拠が乏しい情報であるにもかかわらず、特定の治療、処置に誘導を行う場合)等について、その違法性が改めて強調されている。

さらに、広告規制の一般法とも位置付けられる不当景品類及び不当表示防止法は、すべての事業者の表示行為を規制するものであるところ、同法5条3号・一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(令和5年3月28日内閣府告示第19号。いわゆるステルスマーケティング告示)に該当するとして措置命令を受けた医療機関も複数確認されている。インフルエンサーを活用した集客や口コミ対策等が多用されがちな美容医療分野においては、引続き高度な注意が求められる

加えて、自由診療である美容医療は、診療内容や価格設定の自由度が高い一方、情報の非対称性が生じやすく、患者が十分な情報を得ないまま意思決定を迫られる構造的な課題を内包している。実際、美容医療の分野においては、施術内容や効果、リスク、費用等について患者の理解が十分でないまま治療が行われた結果、トラブルや紛争に発展する事例が少なからず指摘されてきた。こうした状況を踏まえ、厚生労働省は、施術内容・費用・安全性・リスク等の十分な説明とそれに基づく患者の自由意思による同意を確保することを目的として、「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(医政発0322第9号令和6年3月22日)を発出している。上記の医療法改正や医療広告規制の強化と相まって、当該通知は、美容医療分野における患者保護を多面的に推進する施策の一環を成すものであり、美容医療を行う医療機関においては、説明体制や同意取得プロセスを含めた診療フロー全体について、改めて見直しを行うことが求められている

美容医療の今後のあり方

美容医療を取り巻く規制は今、大きな転換点を迎えている。法令の厳格化は、単なる遵守事項の増加を意味するものではない。それらはむしろ、業界全体に対して「医療としての原点」へ立ち返ることを求める明確な兆しである。以下、美容医療の今後のあり方について、若干の示唆を述べる。

まず、美容医療もあくまで医療である以上、その適切な実施が強く求められるのは当然である。そのための施策として、今回安全管理体制に関する報告義務が設けられたことは、利用者にとっては望ましいことであることは論を俟たないだろう。そうした報告義務が適時かつ適正に履行されることにより、美容医療機関における医療安全管理体制の実態が可視化され、行政による実効的な監督が可能となるとともに、医療機関自体においても自律的な点検・改善を促す契機となることが期待される。加えて、一定の情報が公表されることにより、利用者においても医療機関の体制や安全性を踏まえた合理的な選択が可能となり、美容医療業界全体における医療の質及び安全性の底上げにつながるものと考えられる。

次に、美容医療への従事に対する制限のあり方(いわゆる直美規制を含む)については、その目的をいかに設定するかが決定的に重要である。すなわち、この問題は本質的には、医師の地域偏在及び診療科偏在という構造的課題の是正をいかに図るかという観点から検討されるべきであり、美容医療(への従事)それ自体を否定的に評価する印象論や感情論を前提として論じられるべきものではない。美容医療は自由診療であることが多く、患者の選択に基づいて提供される医療であるからこそ、その実施にあたっては、十分な臨床経験を有する医師の関与や組織的かつ継続的な教育・指導体制の整備が、他の医療分野と同様、あるいはそれ以上に強く要請される。しかし、こうした要請は、あくまで医療安全及び医療の質の確保という観点から導かれるべきものであって、「美容医療という分野」や「美容医療に従事しようとする医師」そのものを規制の対象とすべきであるという合目的的発想を出発点とすべきではない。すなわち、医療安全及び医療の質の確保を最優先の目的として制度的な関与が段階的に強化されること自体は合理性を有するかもしれないが、美容医療(への従事)そのものを否定的に捉えた規制が容易に正当化されるべきではない。むしろ、今後の制度設計にあたっては、安全管理体制の透明化や実効的な監督を通じて医療の質を高める取組みを基軸としつつ、医師の地域・診療科偏在という本質的課題への対応との均衡を図り、医師のキャリア形成の自由や医療提供体制全体への影響を踏まえた、必要かつ合理的な規律の在り方が引続き検討されるべきである。

確かに、美容医療は社会的需要の高い分野であるがゆえに、集患や売上といった経営効率に意識が向きやすいという側面を有する。しかし、今後の美容医療に求められるのは、短期的な集患競争や広告戦略に依拠する姿勢から脱却し、医療安全、透明性、説明責任を中核に据えた信頼基盤を構築しようとする姿勢である。こうした信頼基盤の確立こそが、結果として長期的な事業価値を生み出す戦略的競争力となる。また、利用者の価値観も、今後確実に変化していくことが予想される。価格や施術結果といったわかりやすい要素のみならず、医療機関の統治体制、説明の丁寧さ、緊急時への対応力といった「見えにくい品質」が、将来的には医療機関選択の重要な判断軸となっていくだろう。その意味で、今後の競争力を左右するのは、派手な広告や短期的成果ではなく、規制強化の方向性を先取りし、確かな医療提供体制を着実に構築していく先見性にほかならない
美容医療に携わるすべての事業者は、この潮流を単なる負担として受け止めるのではなく、業界全体の信頼基盤を再構築する好機として捉えるべきである。美容医療が人々の人生をより豊かにする選択肢であり続けるためには、安全性に裏付けられた美の追求こそが新たなスタンダードであるという自覚を持ち、その自覚を医療行為の一つひとつに具体的に体現していく不断の努力が求められるだろう。そして、その姿勢を個々の医師や看護師の良心や経験、あるいは過度な自己責任に委ねるのではなく、明確な方針と体制のもとで組織として支え、担保していく責任ある運営こそが不可欠である。

[注]
  1. 「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(平成17年7月26日付け医政発第0726005号厚生労働省医政局長通知)。[]
  2. 最判令和2年9月16日刑集74巻6号581頁。[]
  3. ちなみに、「新たな看護のあり方に関する検討会」がとりまとめた「新たな看護のあり方に関する検討会 報告書」(平成15年3月24日とりまとめ)は、「特に、病院内における看護の実情を見ると、診療の補助のみならず、療養上の世話についても、看護師の側から医師の指示を求めているという状況もある。これは、法律や医師による要請があるというわけではなく、むしろ、単なる慣習として行われていたり、看護師等の役割や責任についての認識の不足など様々な背景があると考えられる」、「また、療養上の世話については、行政解釈では医師の指示を必要としないとされているが、療養上の世話を行う場合にも、状況に応じて医学的な知識に基づく判断が必要となる場合もある。このため、患者に対するケアの向上という観点に立てば、看護師等の業務について、療養上の世話と診療の補助とを明確に区別しようとするよりも、医療の現場において、療養上の世話を行う際に医師の意見を求めるべきかどうかについて適切に判断できる看護師等の能力、専門性を養っていくことが重要である」等と述べており、療養上の世話に際しても、実際上医師の指示(意見)を求めるべき場面が存する旨示唆している。[]
  4. なお、保健師助産師看護師法37条は、「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣かん腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない」と定めている。同条に違反した場合には、6月以下の拘禁若しくは50万円以下の罰金に処され、又は、これらが併科される(同法44条の3第2号)。[]
  5. この点については、医行為を「絶対的医行為」と「相対的医行為」に区分する判断枠組みに基づいて議論されることがあるが、その妥当性や射程についてはなお慎重な検討を要する。[]
  6. 特にアートメイクについては、依然として無資格者による施術が散見される状況にある。そこで、厚生労働省等は、「美容所等におけるアートメイク施術について」(令和7年12月26日付け医政医発1226第3号厚生労働省医政局医事課長通知)を発出しており、アートメイクについてはその名称を問わず須らく医行為として扱う旨強調するとともに、悪質な場合は刑事告発を視野に入れると明言している。[]
  7. 施行期日は、基本的に、令和9年4月1日である(ただし、一部の規定については、公布日、令和8年4月1日、令和8年10月1日、公布後1年以内に政令で定める日、公布後1年6月以内に政令で定める日、公布後2年以内に政令で定める日、公布後3年以内に政令で定める日等が施行期日となっている)。[]
  8. 報告をした美容医療機関の管理者は、報告した事項について変更が生じたときは、厚生労働省令で定めるところにより、速やかに当該病院又は診療所の所在地の都道府県知事に報告しなければならない(医療法6条の12の2第1項)。[]
  9. 医療法6条の12は、「病院等の管理者は、前二条に規定するもののほか、厚生労働省令で定めるところにより、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該病院等における医療の安全を確保するための措置を講じなければならない」と定めており、これを受けて、同法施行規則1条の11第1項は、安全管理体制として、①医療安全管理指針の整備、②医療安全管理委員会の設置等、③医療に係る安全管理のための基本的な事項及び具体的な方策についての職員研修、④医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策の実施を列挙している。[]

安部 立飛

弁護士法人西村あさひ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士・マサチューセッツ州弁護士

2011年京都大学法学部卒業、2013年東京大学法科大学院卒業。2014年弁護士登録。2021年カリフォルニア大学バークレー校(LL.M.)修了、2022年ロンドン大学クイーンメアリー校(LL.M. in Technology, Media and Telecommunications Law)修了。2023年米国ニューヨーク州弁護士登録、2025年マサチューセッツ州弁護士登録。主な取扱分野は、危機管理、コーポレート・M&A、国際取引、ヘルスケア(医薬品・化粧品、医療法人関係)。著作「ハッチ・ワックスマン法の功罪-米国の製薬業界を蝕むリバースペイメントの脅威-」(経済産業調査会、知財ぷりずむ第254号所収、2023年)「The Japanese Cooperation Agreement System in Practice: Derived from the U.S. Plea Bargaining System but Different」(Brill/Nijhoff、Global Journal of Comparative Law Volume 12所収、2023年)『The Pharma Legal Handbook: Japan』(共著、PharmaBoardroom、2022年)『基礎からわかる薬機法体系』(共著、中央経済社、2021年)『法律家のための企業会計と法の基礎知識』(共著、青林書院、2018年)ほか。

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