生成AIの急速な発展と普及が法務部門のあり方に大きな変革をもたらす中、その波に乗り、法務DXに果敢に取り組む法務関係者やリーガルテックベンダーが一堂に会するセミナーが2025年10月3日に開催された。
約2時間半にわたり繰り広げられた充実の7講演では、業務効率化における現状の課題から、生成AIを最大限に活用した“攻め”の法務戦略、そして未来の法務部門のあり方まで、多角的な視点から活発な議論が交わされた。
本レポートでは、各講演のハイライトをお届けし、法務DX推進のヒントと未来への展望を探る。
[特別講演]生成AIで進化するリーガルオペレーションの今
日本ペイントが実践する“攻め”の法務DX戦略
セミナー冒頭を飾ったのは、日本ペイントホールディングス株式会社法務部の藤原大輔氏と細見麻衣氏による同部の“法務DX戦略”に関する特別講演。まず細見氏が自社内専用の生成AI「NP ASSISTANT」の導入概要について、「2023年10月にグループ全体での導入を完了した後、国内拠点を実際に訪れて社員の困りごとをヒアリングし、生成AI(以下「AI」)による解決策を提示しました。この“現場目線のアプローチ”により、約70%の社員がNP ASSISTANTを利用するに至っています」と説明。コストはAIモデルの使い分けで低減を図り、著作権侵害やハルシネーション(誤情報の生成)リスクは法務部作成のガイドラインで管理。活用事例発表会や勉強会を通じて、社員のデジタルリテラシー向上を継続的に支援していると語った。
続いて藤原氏が、具体的なAI活用方法について紹介。法務業務を“コア業務(人間にしかできない付加価値の高い業務)”と“非コア業務(AIで代替・支援可能な業務)”に徹底的に分類し、非コア業務をAIに任せることで、法務部員は創出された“余白”を使い、経営課題への戦略的支援といったコア業務に集中できるようになったと述べた。具体的なAI活用事例として、①法務チャットボットと、②NP ASSISTANTが紹介された。①法務チャットボットは、稟議規定や契約書ひな形に関する単純な問い合わせなど、定型的な質問に自動回答。優先的に社内情報を検索したうえで回答を生成することで、ハルシネーションを抑制するしくみだ。藤原氏は「日々の地道な情報整理がデータベース構築の最大の土台となりました」と語り、約1.5か月という短期間での導入を可能にした“完璧を目指さない”アジャイルな姿勢の重要性を強調した。②NP ASSISTANTは、単純な覚書作成、会議議事録作成、法務相談の初期検討、契約審査の初期レビューなど、作業業務や検討の初期フェーズをサポートする。AI導入の最大の成果は、定量的な業務削減だけでなく“余白の創出”と“行動変容”にあると藤原氏は語る。「AIに定型業務を任せることで、法務部員は戦略的業務に時間を割けるようになり、攻めの法務への転換を実現しました。AIの日常利用により、社員の新しいものを受け入れるハードルが下がり、組織全体のパフォーマンス向上に貢献しています」。
最後に藤原氏は「今後も余白の拡大と最適化を進め、固定観念を打破する改革を追求していきます。創出された時間でコア業務を最大化し、経営課題への貢献を深めることで、法務が経営にとって不可欠なパートナーとなる未来を目指しています」と語った。

(左から)藤原 大輔 氏、細見 麻衣 氏
AIと上手に付き合う!マネーフォワードが考える0.5歩先の契約管理
株式会社マネーフォワードの髙木雅史氏は、人員不足や複数ツールの管理負担など、現在の法務部門が抱える課題を提示したうえで、ワンストップ契約管理サービス「マネーフォワード クラウド契約」の利点を次のように紹介した。「法務相談、審査記録、社内稟議、電子契約から保存まで、契約管理の全プロセスを一つのツールで管理するワンストップサービスです。他社の電子契約ツールで締結された契約書も自動で取り込み、一元管理が可能。さらに、電子契約の“送信料と管理料が0円”という料金体系を実現し、電子化コストの懸念を払拭しました」。髙木氏は、生成AIを「すべての業務を代行するのではなく、補助的業務が得意」と位置づけ、新リリースの「マネーフォワード クラウドAI契約書レビュー」の活用法を紹介。クラウド契約の機能も含め、生成AIを使ったAI審査機能や契約書の一括アップロード機能、新リース会計基準への対応支援が可能だと語り、「当社サービスは、バックオフィスが本業に集中できるよう、AI搭載サービスで支援し、すべてのトランザクションが円滑に回るしくみを構築していく方針です。導入後も、つまずきやすいポイントや規定の見直し、取引先への案内文作成まで、プロジェクトマネジメントを含む包括的なサポートを提供し、企業のDX推進を後押しします」と結んだ。

髙木 雅史 氏
MNTSQ AI契約アシスタント ビジネスの高速化とガバナンス強化を両立する全社契約DXとは?
MNTSQ株式会社の北野貴之氏は、新サービス「MNTSQ AI契約アシスタント」を紹介。「当社が開発した“MNTSQ AI Agent”を搭載しており、事業部門が契約に関する相談を直接AIに投げかけることで、低リスク案件は自動で解決され、高リスク案件は法務部門にエスカレーションされます。これにより、事業部門は契約交渉のリードタイムを大幅に削減でき、法務部門は重要案件にリソースを集中することが可能になります」と語った。リリース前の試用段階から既に多くの企業が導入を決めている状況について、北野氏は、法務リソースの不足をAIで補うニーズの高まりと、汎用AIの課題であるハルシネーションを抑制する独自の特徴が評価されている点を理由に挙げた。「大手法律事務所監修のプレイブック(審査基準集)を標準搭載することで、導入初日から精度の高い回答を実現しています」。このサービスは、大企業だけでなく、リソースが限られる中小企業や、“一人法務”の状況でも活用できる場面が多く、ナレッジの検索や引き継ぎの効率化にも貢献するという。「今後もAI機能の追加を進め、法務部門がナレッジを対話形式で活用できるようなMNTSQ AI Agentを既存システムに実装していく予定です」。

北野 貴之 氏
[特別講演]テクノロジーをフル活用した企業法務の未来を描く
パナソニック ホールディングス株式会社の根橋弘之氏は、驚異的な速さでテクノロジーが進化する中、その導入自体が目的化してしまう可能性がある現状に警鐘を鳴らし、「テクノロジーをフル活用した法務とはどんな姿か」という未来志向の発想の重要性を強調。法務部門の未来像として、三つの「夢の未来」を提示した。
①「AIエージェントが法務業務の「効率化」を超えた「自動化」を実現する」では、定型的な法務相談はAIが自動回答し、リスクが高く、複雑な案件のみを人間が担当するようになると語り、具体的な活用例として、契約審査だけでなく、内部通報やコンプライアンス監査において、過去事例との照合による初期方針策定までAIが担う可能性を示した。「生成AIはもはや単なるツールではなく、人間と役割分担するパートナーになると考えています」。
夢の未来②「法務部門はリーガルリスクの「判断」に加えて「設計」を担当!」では、「生成AIの発展により、法務部門がすべてのリーガルリスクのマネジメントを行う時代は終わり、全社リーガルリスクマネジメントの時代へと移行します」と説明。AIが契約のひな形やプレイブックに基づいて現場の自律的な判断をサポートすることで法務部門の介在を減らし、意思決定のスピードを高めるという具体例が紹介された。「法務の役割に、リスク判断をどこまで現場に任せるかの線引きや、現場のリスク判断をサポートする社内教育を通じた全社的なリスクマネジメントのデザインが追加されるでしょう。そこでは、部門最適ではなく全社最適の視点で事業部門や関連機能と対話するコミュニケーション力が求められます」。
最後に③「企業法務も「データドリブン」の時代!」では、「法務の業務・活動がプラットフォーム上で行われることによってデータとして蓄積され、高度なアサインメントマネジメントやデータに裏づけられた契約交渉・自社ひな形の最適化等の実現につながります」と説明。また、法務情報をビジネス情報と連携させることにより、法務業務が単なる事務処理ではなく、経営戦略に貢献するものとして認識されるようになるという。「最終的には、これまで困難だった法務部門のKPI設定や、ROIC経営における貢献度の定量化も進むと予想しています」と展望を述べた。「その実現のためには、ユーザー企業が“お客様”として一方的に要求するのではなく、どんな未来を実現したいかをベンダー側に明確に伝えて議論を重ねることで、共に協力しながら新しい価値を創造する“価値協創パートナー”としての信頼関係を築くことが重要です」。
最後に根橋氏は、テクノロジー活用を真に目的達成の手段とし、法務DXを推進するために、①部門の「壁」や専門性の「殻」に閉じこもらず、社内外のあらゆるステークホルダーとクリエイティブに連携することと、②常識にとらわれず、ワクワクしながら考え、動き続けることの二つがカギとなると語り、「法務のあり方はテクノロジーだけでなく、我々自身のマインドセットや行動を変革することによってより大きく進化するはずです」と結んだ。

根橋 弘之 氏
テクノロジー活用の未来に向けた第一歩 企業法務が成すべき“真の”効率化を探る
株式会社BoostDraftの渡邊弘氏は、GMOフィナンシャルゲート株式会社の西澤朋晃氏を迎えた対談において、法務業務で発生する形式面の作業を自動化するソフトウェア「BoostDraft」の魅力を紹介。まず渡邊氏が最大の特長として“導入ハードルの低さ”を挙げ、「非クラウドでWordに完全結合されるため、普段どおりWordを起動するだけで、契約書等の形式的な問題点が瞬時に指摘されます」と、テクノロジー活用に抵抗があるユーザーでも容易に導入できる環境を提供していると説明した。西澤氏も、「体裁チェックのような面倒な作業が自動化できるのは本当に便利。自分が手をかけたくない業務の時間を圧縮し、本来注力すべき業務に時間を充てることができる」と評価した。渡邊氏は、BoostDraftが「法務の無駄な作業を徹底的に潰しにいく」ことに特化していると強調。契約レビューサービス等とは異なる領域で、効率化を実現すると語った。対談終盤には、西澤氏から“新旧対照表の作成”といった具体的な業務の効率化について質問が投げかけられると、渡邊氏は「正確かつ瞬時に、インターネット不要で作成できます」と答え、“人間が行う必要のない無駄な作業を徹底的に削減する”というBoostDraftの理念が、あらゆる具体的な業務に適用されることを示唆した。

渡邊 弘氏
法務人材不足を解消・収益化を加速させる法務アウトソーシングの活用術
Authense法律事務所の西尾公伸氏(第二東京弁護士会所属)は、法務部門の慢性的なリソース不足解消への解決策として、法務アウトソースサービス「法務クラウド」を紹介。同サービスは、企業の法務業務を同事務所の弁護士が支援するしくみで、導入までのリードタイムが短く、必要なときに即座に人員を補充でき、幅広い業務に対応できる点が特長だ。「顧問弁護士とは性質が異なり、法律相談ではなく、日常的な法律業務のリソースを補うソリューションです。契約審査や法律相談など標準化しやすい領域を中心に、既存の業務フローを乱さずに稼働できます」。繁忙期や人員不足時の“緊急避難的”利用はもちろん、従業員の育休・退職や株主総会前後など、一時的な欠員補充にも柔軟に対応可能。業務フローの見直しやツール導入を含むコンサルティングも行い、法務体制全体の最適化をサポートするという。同サービスは日常業務をトータルに支えるインフラとして機能する点が最大の魅力だ。西尾氏は「テックツールと正社員の間をつなぐ“ハイブリッドな法務体制”を実現し、企業が本来の戦略業務に集中できる環境を提供します」と強調した。

西尾 公伸 氏
[クロージング講演]AI&テクノロジー戦略
クロージング講演として登壇したGMOフィナンシャルゲート株式会社の西澤朋晃氏は、AI活用戦略とAI時代における法務の役割変革に焦点を当てた。自身を“構造思想家”と定義する西澤氏。思想と実装の両翼を駆使した「AI&テクノロジー戦略」について、余すことなく語ってくれた。
まず、AIの活用において「業務の解像度の高さが重要であり、自らの業務を細部まで理解し、最適な適用箇所を見極めることが不可欠」だと指摘。AI導入は“業務の解像度の高さ”と“AIの最適な使い方”のかけ算であるという方程式を示し、「解像度が低いAIは“おもちゃ”に過ぎず、高い解像度があれば“強力なパートナー”になります」と主張した。さらに具体的なAI活用戦略として、①Make(創る)、②Use(使う)、③Connect(関わる)の“三方陣”を提唱し、②のAIを使う場面に関しては、AIを業務に組み込む際には“リクエストを出す人”に注目すべきだと説明した。「AIを動かすには自然言語での具体的な指示(プロンプト)が求められます。そのリクエストを出すために必要な能力として、AIの専門知識、業務の知識と課題発見力、そして両者を組み合わせるマッチング能力、最終的にAIで課題を解決する能力の4点が必要です」。
続いて西澤氏は、契約審査業務の工程を細分化し、それぞれの工程に最適なAIツールや人の役割を割り当てる“CREATEモデル(AI実務設計図)”を紹介。このモデルは、AIの役割を❶Create(生成)、❷Refine(修正)、➌Expand(拡張)、❹Aggregate(集約)、❺Transform(変換)、❻Evaluate(評価)の6フェーズに分類し、人の責任と切り分けることで、AIを使えるレベルではなく、AIを使わないと損するレベルまで業務に深く組み込むことを可能にすると説明した。
AIによる時間短縮が進む中、法務部が提供すべき付加価値とは何か。西澤氏は、法務は“改善(現行のしくみの部分的効率化)”ではなく“改革(業務プロセスの根本的な再設計)”を主導し、“設計者(アーキテクト)”として活躍できると提言。「法務は経営判断の原則に最も詳しい存在です。業務の本質を見抜き、しくみを作り、経営判断をデザインする役割を果たせます」と述べた。そして、法務が“経営調査官”として、経営判断に必要な情報を網羅的に提供し、最適な意思決定をサポートする“ディシジョンアーキテクト”となることで、企業価値における法務部の価値は一層高まるだろうと締めくくった。

西澤 朋晃 氏
藤原 大輔
日本ペイントホールディングス株式会社 法務部 主任
20年 日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社に入社。法務業務全般に従事する中、自動車用塗料をはじめ、建築用、工業用、船舶用など幅広い分野の取引法務を重点的に担当。現場主義を大切にし、ビジネス現場への深い理解をもとに、企業成長に貢献する「攻め」の法務を実践。近年は、社内生成AIの導入や活用促進プロジェクトにも法的側面から携わっている。
細見 麻衣
日本ペイントホールディングス株式会社 法務部
19年入社。人事部にて採用業務を担当後、23年に法務部へ異動。初めての法律の世界に戸惑いもあったが、温かい同僚に支えられ業務/自己啓発を通じ知識を少しずつ習得。法務相談・契約業務を始め定常業務の経験を積む中、現在はコンプライアンス関連や個人情報保護法分野を重点的に担当。法務業務IT化をテーマとして拝命したことを機に、法務部での生成AI活用を検討、法務チャットボットの導入を実現。
根橋 弘之
パナソニック ホールディングス株式会社 コーポレート法務部(事業法務課) エグゼクティブリーガルカウンセル、リーガルオペレーションズ担当
11年 森・濱田松本法律事務所入所。日本国内外のM&A案件、ベンチャー投資関連案件を担当。アメリカ、ドイツでの留学・海外研修を経て、21年 パナソニック株式会社(現 パナソニック ホールディングス株式会社)に入社。引き続きM&A案件等を担当しつつ、生成AIやリーガルテックに関心を持ち、25年4月より、同社のリーガルオペレーションズ担当に就任。弁護士(日本および米国ニューヨーク州)。
西澤 朋晃
GMOフィナンシャルゲート株式会社 コーポレートサポート本部 法務部 部長
法学部、法科大学院を修了。約3年間の休憩を経て、東証プライム企業にて法務キャリアをスタート。2018年より現職。一人法務として法務組織を立ち上げ、契約法務・商事法務全般・コンプラ・稟議事務局などに加え、決裁制度の仕組み構築まで、幅広い領域を担う。法務という専門性を駆使するビジネスマンとして、未来を現実に引き直す緻密な戦略を描きながら、先駆的なアイデアを実践し、攻守両面におけるコンプリートを企む。
髙木 雅史
株式会社マネーフォワード マネーフォワードビジネスカンパニー リーガルソリューション本部 本部長
新卒でSIerに入社し、新規開拓営業 および ソリューション企画に従事。その後、自然言語処理を専門としたAIスタートアップに参画し、営業/CS組織を立ち上げた後、事業責任者を務める。外資系IT企業を経て21年8月にマネーフォワードに入社。2022年9月からリーガルソリューション部 部長を務め、23年9月の組織の本部化に伴い、リーガルソリューション本部 本部長に着任。
北野 貴之
MNTSQ株式会社 CLM事業本部 本部長
Sansan株式会社にてカスタマーサクセス部門責任者として既存のお客様のトップリレーション等に従事。現在はMNTSQのフロント部門責任者として、マーケティング・セールス・カスタマーサクセス各部門のマネジメントに従事している。
渡邊 弘
株式会社BoostDraft 共同創業者/CRO・弁護士
西村あさひ法律事務所にてM&A/ファイナンス・国際取引を中心に契約業務に従事。その後、スタンフォードロースクール(LLM)のリーガルテック専門機関Codex等で英米リーガルテック調査を行う。2019年よりスタンフォード経営大学院(MBA)にて経営を学ぶ傍ら、The Corporate Legal Operations Consortium(CLOC)のJapan Chapter創業メンバーとなる。法務分野の業務効率化余地を探求すべく各国法務関係者へのインタビューを実施し、アイデアを具現化して2021年に株式会社BoostDraftを創業しCROに就任。
西尾 公伸
Authense法律事務所 企業法務分野マネージャー
中央大学法学部法律学科卒業後、大阪市立大学法科大学院を修了。企業法務分野のマネージャーとして、投資契約、労務問題、企業危機管理、M&Aなど多岐にわたる案件に対応。企業の法務人材不足を解決するために法務人材のアウトソーシングサービスの責任者として指揮を執る。