Lawyers Guide 企業がえらぶ、法務重要課題 2024
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緒方 絵里子 弁護士とは別に配慮が必要な点として、被害者とされる労働者のメンタルヘルスの問題が挙げられる。ハラスメントを訴える従業員が“適応障害やうつ病に罹患した”と主張するケースは多く、精神障害に基づく労災請求事案も年々増加している。 細川智史弁護士は「パワハラに関してのご相談は、パワハラの6類型である“身体的攻撃”“精神的攻撃”“人間関係からの切り離し”“過大な要求”“過小な要求”“個の侵害”のうち、“精神的攻撃”に関するご相談が比較的多い状況です。精神障害を発症しているケースでは、たとえば、上司から部下への注意指導・叱責がパワハラであるとして、それをきっかけに精神障害を発症したと主張されるケースが多くあります。このような事案では、“指導や叱責があった後に精神障害を発症していればただちに労災や安全配慮義務違反が認められるわけではない”という点に注意が必要です。たとえば、先程述べたとおり、指導などが業務上必要かつ相当な範囲を超えたものでなければそもそもパワハラではありませんし、パワハラに該当しない程度の指導にとどまる場合には基本的に安全配慮義務違反は認められにくいと思われます」と語る。 ただし、相談・申告の対象となる行為がハラスメントに該当しない場合であっても、労働者が体調不良を訴える場合には、上司や企業は事案に応じた適切な対応を行うことが望ましいと、細川弁護士は続ける。細川 智史 弁護士清水 美彩惠 弁護士ものとなったため、労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることです。ご相談が多いのは後者の環境型で、被害者が不快に感じているものの加害者とされる側はそのような意識はなく、むしろ好意から発した行動というケースが代表的ですね」(緒方弁護士)。 近年は衆目の前で性的な言動がとられることは稀で、被害者と加害者が一対一になる場面での言動がセクハラとして問題になることが多い。このため物的な証拠や第三者の目撃がないことが多く、双方の言い分が食い違う場合には性的な言動の有無についての事実認定が難しいという。 「上司や先輩による部下へのセクハラ行為に関するご相談や申告の中には、被害者がはっきり拒否をしていない場合を含め、同意の有無について物的な証拠等が何もないケースが少なからずあり、事実の判断に困難が生じる場合があります。かといって物的証拠や第三者の目撃もないことだけを理由に安易に“セクハラの事実はない”と判断することも適切ではないため、判断が難しい場合は弁護士などの専門性をもった者への相談を検討した方がよいでしょう」(細川弁護士)。 セクハラの認定は“職場における言動といえるか”“相手の意に反する性的な言動であったか”という判断が問題になる場合もある。 「“職場か否か”については、加害者とされる側が恋愛感情を抱いた職場の同僚や部下などと業務終了後や週末に食事などに行ったような場面で問題となり得ます。また、“相手の意に反するか否か”という点については、個々人によって感じ方は異なりますが、事後的に申告者が“意に反していた”と言えば、“相手の意に反するものだ”とただちに認定されるものではなく、客観的な事情などを踏まえて判断されます。パワハラにおける注意指導とは異なり、セクハラについては、日常的な企業活動において、性的な言動が業務上必要となることは基本的に考えにくいため、相手が不快に感じるおそれがある性的な言動は控えるよう意識するとよいでしょう。業務終了後や週末の食事などについても、“セクハラであるという申告を受けることを避ける”という観点からは、飲酒を伴うような場で二人きりにならないように注意することすらありうるでしょう」(清水弁護士)。62変わらず一定数存在するも事実認定が難しいセクハラ ハラスメントの概念が世に浸透し、オフィス内でのあからさまな性的な言動が行われることは少なくなった。しかし、セクハラに関する相談や申告は根強く一定数が存在するという。 「セクハラは職場において行われる性的な言動により労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されたりする行為を指します。2種類の類型があり、一つは“対価型”で、職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、労働者がそれを拒否したことにより、解雇、降格、減給などの労働条件に関する不利益を受けることです。もう一つは“環境型”で、職場において労働者の意に反する性的な言動が行われ、労働者の就業環境が不快な

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