多いため、吸収分割や子会社を設立し事業をカーブアウトして株式譲渡を行うという対応になることの方が多いのでしょうか。また、会社法上の事業譲渡には該当しなくとも、競業避止義務などを取り決めたい場合には、事業譲渡契約書を結んで取り決めればよいのでしょうか。孝岡弁護士 ご指摘のとおりです。ただ、契約書のタイトルを「事業譲渡契約書」とする必要はありません。小規模クライアントの事例ですが、「資産等譲渡契約書」としたケースもあります。また、“事業譲渡”の場合は、会社法上、契約書に明記されていなくても競業避止義務を20年負担する旨が定められていますが、“事業譲渡”に該当するか否かにかかわらず、事業を切り出す場合には契約書内で別途その期間を規定し直すことが一般的です。多くの場合は2~3年で、長くても5年というところでしょう。56大企業が“事業譲渡”を選択すべき場面は山田氏 ダイセルは総合化学メーカーとして製品の製造・販売等の事業を展開しており、グループ企業も国内外に数多く存在します。そのうちの特定の事業を切り出そうとした場合、法務は現場から「これは事業譲渡ではないのか。その手続にはどのようなものがあるのか」と質問を受けることがあります。多様な事業を行っている上場企業の場合、総資産額の20%の規模に該当する事業の切り出しはまずないように思われます。この場合、会社法を意識する必要のある“事業譲渡”となることはありますか。孝岡弁護士 その点から言うと、規模の大きな企業の場合は“事業譲渡”となることは基本的にありません。浅沼弁護士 会社法467条以下の規制の対象となる“事業譲渡”で実務上の問題となるのは、「重要な一部の譲渡」または「子会社の株式……の全部又は一部の譲渡」にあたるか否かです。承継資産や承継する株式の帳簿価額が総資産額の20%前後で“重要”と言えるかが争点となる場合に、株主総会を開く必要があるかが検討の俎上に挙がります。上場企業の場合、株主総会の開催は非常に労力がかかるので「避けられるのであれば避けたい」というニーズがあります。他方で、非公開会社や中小企業の場合は、株主総会の開催にそこまで労力がかからないので、念のため開催して決議しておくことが多いと思います。山田氏 ある程度の規模の事業の承継の場合は、取引先ものれん代は事業譲渡契約でどのように表記する?山田氏 事業譲渡の場合は事業自体の価値を時価評価して譲渡することになり、個別の資産等譲渡契約の場合よりも譲渡代金がプラスになることもあると思います。それを契約書に表すとすれば“のれん代”となると思いますが、どう書けばよいのでしょうか。浅沼弁護士 事業譲渡契約書には譲渡価額のいわば“総額”しか規定せず、個別の資産等の金額やのれん代を個別に書M&A対談株式会社ダイセル山田諭敬事業譲渡の留意点と最新ノウハウ会社分割・事業譲渡・資産等売買の選択とその実務弁護士法人北浜法律事務所浅沼大貴 孝岡裕介
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