Lawyers Guide 企業がえらぶ、法務重要課題 2024
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シティユーワ法律事務所〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-2 丸の内三井ビルTEL:03-6212-5500(代表)  FAX:03-6212-5700(代表)URL:https://www.city-yuwa.com/所属弁護士会:第二東京弁護士会・東京弁護士会う企業が被る影響は甚大となっている。「ある半導体の素材メーカーは、“規制の動向によっては売上の半分が失われる可能性がある”と懸念されていました。規制は米国の政治に左右されるため予測不能な要素が大きい一方、メーカーは数十年先を見据えて長期的な投資をしなければなりません。身の振り方によっては、大きなダメージを受ける事態となってしまうのです」(粟津弁護士)。 このため、輸出規制の動向を把握するための情報収集や規制対応のニーズは高い。「“最新の状況においてどの程度の仕様であれば輸出できるのか”“輸出規制の対象品目について、輸出許可を米国政府当局から取得できる見込みはあるのか”というご相談は多いですね。中国に輸出できない場合は代替候補地としてベトナムに輸出するなど、サプライチェーンの再構築についてアドバイスをすることもあります」(粟津弁護士)。 日本の外為法における対内直接投資規制は2020年の改正で事前審査の届出業種の対象が拡大されたが、自社事業が届出業種の対象だと自覚していない企業も多い。「届出業種に“ソフトウェア開発等”が含まれた影響は大きいといえます。外国企業がソフトウェア開発等に従事する企業の設立や増資を行うことは非常に多いのですが、規制を把握しないまま、届出をせずに投資を実行している事案が散見されます。米国の議論を踏まえると、今後もAI関係はもちろんのこと、バイオ分野など、規制の対象は広がる可能性があります」(粟津弁護士)。 コロナ禍により現地調査が困難だったアンチダンピング調査は中国が2024年になって新たな調査を開始し、日本も数年ぶりとなる調査を行った。「日本政府の中国産黒鉛電極に対する調査の応訴企業の代理や、中国政府のEU、米国、日本、台湾産のPOM共重合体に対する調査の応訴企業の代理を行っています。アンチダンピング調査は“貿易紛争における報復・対抗措置の一つ”という側面もあり、今後増えるのではないかと推測されます」(粟津弁護士)。で名指しされている中国の中央企業との取引を突然打ち切ると、中国側から損害賠償請求を受けるなどのリスクがあります」(住田弁護士)。 住田弁護士によると、これら経済安全保障分野の問題に明確な解決法はないが、日本や欧米の法令のみならず中国法上のコンプライアンスリスクも考慮したうえで情報を収集・分析して総合的に対応すべきだという。「2023年に中国の反スパイ法が改正され、スパイ行為の定義が拡大されたことで、多くの企業が“自社の社員や関係者が拘束されるリスクはないか”と非常に心配されています。過去にも日本人が拘束された事例がいくつか発生しており、事案の性質上、その背景事情は十分には明らかにされませんが、国境や軍事施設の周辺での旅行、写真撮影、無許可の探査・調査活動、中国にとってセンシティブな議論など、過去の事例から類型的にリスクが高いと考えられる行動は控えるべきでしょう。一方、外国人をみだりにスパイ容疑で拘束することは中国にとってもリスクがあるため、こうした点に最低限注意したうえであれば、一般のビジネスマンが過度に萎縮する必要はないかと思います」(住田弁護士)。 中国で行うビジネスについて発生する法的問題には、やはり現地法律事務所との緊密な連携が欠かせない。「曾我法律事務所時代から緊密に連携してきた現地事務所が複数あり、訴訟や行政上の申請といった現地での対応が必要となる場合にも即時に依頼ができる関係性があります。現地のプラクティスについては、“どの程度が許可されるか”など、政府機関の感覚や法律の背景などへの理解が欠かせません。現地事務所と手を携えることで、経済安全保障問題に限らず、あらゆる問題において迅速かつ最適に対応をすることが可能です」(住田弁護士)。規制技術を扱っていますが、外国人研究者を採用したいと考えています。どのような対処が必要ですか。法令上は、当該外国人研究者が“外国の政府の影響を受けているか”については採用時の宣誓書で確認すればよいことになっていますが、“その宣誓内容は正しいものか”はわかりません。経歴を提出させてもよいのですが、国外の情報を確かめることは容易ではありません。技術管理の観点から、社内の中核的な技術や軍事転用のおそれがある技術、日本企業の競争力を損なうおそれがある技術については、必要最低限の、身元の確かな人員以外にはアクセス権を与えないという運用をすることが必要です。読者からの質問49経済制裁へのカウンター措置に企業はどう向き合うべきか 米中対立における米国の制裁に中国はカウンター的な措置をとっているが、中国でビジネスを行う日本企業はこれにどう向き合うべきか。「中国は経済制裁の効力を否定するルールや経済制裁に加担する企業や個人を処罰するルールを立て続けに制定しています。その結果、たとえば、米国輸出管理規則のもとで整備されたエンティティ・リスト

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