Lawyers Guide 企業がえらぶ、法務重要課題 2024
42/74

杉村 光嗣 弁護士“同意不要”と処理する考え方もあり得ます」(寺田弁護士)。寺田 光邦 弁護士“保有個人データ”の3分類だったものが、改正を重ねるにつれて増えていったという経緯があります。一方で、GDPRは最初から“個人データ”のみです。ただ、これをGDPRに倣って一つに集約するとなると、もともと3分類が根幹になっている法律なので、かなり広範囲の検討が必要となる改正になるように思われます。そのため、今回の改正ですぐに簡素化されるという方向性にはなりにくいのではないかと予想しています」(寺田弁護士)。 また、法改正の際には毎回議題に上るものの、検討課題として先送りにされてきた“課徴金制度の導入”についても検討がなされている。これには、“データを活用したビジネスについて過度な萎縮を招く”という懸念から、事業者側からの反対意見が根強い。一方で、個人情報を不当に利用する悪質な事業者に対する制裁や抑止も考える必要があるだろう。果たして今回はどうなるのか。 「高額の制裁金を課すことで制度の実効性を高めている諸外国と比べると、日本の個人情報保護法の罰則は弱すぎるというのは厳然たる事実だと思います。私も個人情報保護委員会で働いていたときに、海外の当局からその点を指摘されることがありました。特にAIを利用した事業を念頭に置くと、情報の取得・利用範囲がグローバルですから、海外企業による違反行為も想定しなければなりません。“GDPRの制裁は厳しいけど、日本ではこの程度だから踏み越えてもいいだろう”といった考え方をされることは回避しなければなりません。グローバル企業に対する必要性を考慮すると、課徴金制度の導入は視野に入るかもしれません。一方で、日本ではこれまで個人情報保護法に基づく勧告や命令などの罰則の執行事例が乏しいという事実もあります。ここから、課徴金のような強い制裁手段を用いなくても、大多数の事業者は概ね個人情報保護法を遵守している状況にあると考えることもできます。その状況で“本当に課徴金制度を導入す個人情報保護法の改正で、AIに関する個別の規制がなされる可能性はありますか。個人情報保護委員会では、AIの普及による個人情報の取扱いの変化を意識した法改正の検討が行われています。2024年5月末時点においては、法改正についての個人情報保護委員会の“中間整理”も公表されていないため、どのような法改正になるか見通すことは難しい部分があります。ただ、一口に“AI”と言っても、その範囲や技術内容はさまざまであるため、個人情報保護法にAIにのみ着目した個別の規制が設けられるという形ではなく、現行法の特定の条文の修正やガイドラインの制定・修正を通してAIの適正な利活用を図っていくという流れになるのではないかと予想します。読者からの質問38情報定義の見直しや課徴金制度の導入はどうなるか もう一つの個人情報保護法の根幹といえる、個人情報などの取扱いを規制する情報について、“バリエーションが増えすぎている”という指摘がある。個人情報、個人データ、保有個人データ、仮名加工情報、匿名加工情報、個人関連情報……それぞれの定義も複雑であり、その取扱いに関する規定も異なるため、“ついていけない”という問題提起が、個人情報保護委員会による事業者ヒアリングで確認されているという。これについて、寺田弁護士は以下のように述べる。 「用語の定義は法律を遵守するうえで重要なので、“ここがわかりにくくて困る”という指摘はもっともです。最初の個人情報保護法では“個人情報”“個人データ”

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る