Lawyers Guide 企業がえらぶ、法務重要課題 2024
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三上 貴弘 弁護士も高いと考えられており、場合により台湾での裁判を選択することも考えられるでしょう。日本と中国は判決の承認・執行に相互の保証がないとされ、日本の裁判所の判決は中国では執行できないことになります。仲裁が選択されることが多いのはこうした背景によります」(山本弁護士)。山本 卓典 弁護士問題に思える。しかし、「そうした戦略的場面でこそ法務に活躍してほしい」と、両弁護士は力を込めて語る。 「台湾有事を見据えて、各企業は有事の際に起こるさまざまな事態を想定し、シナリオごとに中国や台湾の取引先との契約関係を検討されることになると思います。このような事業上の判断を整理される際にも、法務部門や我々弁護士は、”契約や法制に即してどのような展開が想定されるか“の分析に貢献できますし、続く戦略の策定や実施の局面では、事業上の判断を踏まえて契約書の条項を見直し、目的に合わせた修正案を提案していくクリエイティブな役割を果たすことができます」(三上弁護士)。 「サプライチェーンの再構築ともなると、将来の予測やコストの計算を含めたグローバル規模の大変難しい経営上の判断になるかと思いますが、そこには契約、製品規制、知的財産権、輸出入規制、そして労務等々、必ず法律が絡んできます。企業の最適戦略を描くには、法務の知見が欠かせないともいえるのではないでしょうか。経営の重要局面でビジネスのよき理解者となり、“伴走者”として経営陣や法務部の方々と一緒になって企業をお支えすることは、弁護士の大事な役割だと思っています」(山本弁護士)。 両弁護士の発言からは、クライアントの長期的ビジョンや全体利益を考慮した解決策の提示や経営判断に真に役立つ法的助言を大事にしているT&K法律事務所ならではの視点がうかがえる。 では、台湾有事への備えに、企業は具体的にどのように取り組むべきだろうか。三上弁護士は「契約の見直しや交渉にはコストがかかり、限られたリソースを有効活用する観点から、リスクベースで取り組むのがやはり基本的な考え方となる」と助言する。 「わかりやすく言えば、“台湾や中国に非常に重要な取引先があり、そこからの供給が絶たれるとビジネスが立ち行かなくなる”との事情があれば、関係する契約書類に24有事が長期化した場合に備え“一歩先”を見据えた対策が必要 台湾有事が生じた場合、事態の収束は容易ではなく、事業環境が中長期的に影響を受ける可能性がある。対立陣営間の武力衝突だけでなく禁輸措置や経済制裁の応酬でサプライチェーン(供給網)が分断され、中国や台湾のサプライヤーが原材料を供給できない状況が長引けば、日本企業には新たな供給元を探す必要が生じるかもしれない。“不可抗力状況が60日間継続した場合は契約を解除できる”といった条項はそのような場合を想定したものであると、三上弁護士は説明する。 「たとえば、台湾からの部品輸入について特定の台湾企業以外からの輸入が契約上禁じられている場合、契約を解除しない限り、別の供給元から同種の部品を輸入することができません。台湾企業は納品義務の不履行につき不可抗力条項で免責されるので、債務不履行による契約解除もできない可能性があります。このような場合に備え、不可抗力事由が一定期間継続した場合の契約解除権を認めておくことや、さらには供給元の会社の履行能力に懸念が生じたら契約を解除できる条項を定めておくことで、新たな供給先にシフトしやすくなります」(三上弁護士)。 以前からリスク回避のため調達先や生産地を一拠点に集約させない分散化の必要性は指摘されていたが、現実に新たな取引先を探したりサプライチェーンを再構築するとなると、法務というより経営サイドで取り組むべき

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