Lawyers Guide 企業がえらぶ、法務重要課題 2024
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Q&A では、不可抗力条項が入っていればそれでよいのであろうか。他に契約条項上の留意点はないのか。こうした企業の法務担当者の疑問に対し、国内外の案件を幅広く扱い、契約書の作成から紛争の解決まで、確かな知見をもとに実践的な最適解を提示することをモットーとするT&K法律事務所の三上貴弘弁護士は、次のように回答する。 「まず原則として、日本の民法を含め、金銭債務は不可抗力による免責を受けられないのが諸法域における考え方の主流です。そのため、“不可抗力条項が有事に役立つのは、主に自社が製品供給(業務提供)側として結んだ契約書である”という点は押さえておくべきです。たとえば、台湾に子会社がある日本企業であれば同子会社が製品等の供給元として結ぶ契約書が、あるいは、台湾企業から部品を輸入して日本で製品を提供している日本企業であればその部品を使用した製品の販売先との契約書が、不可抗力条項を入れる実益の大きい契約となります。反対に、自社が供給を受ける側で、主たる義務が売買代金の支払い義務である場合、不可抗力条項を定める実益は少ないことになります」(三上弁護士)。 さらに、そもそも不可抗力条項に“戦争、その他不可抗22不可抗力事由に“戦争”が含まれていれば台湾有事もカバーされるか ロシアのウクライナ侵攻、ハマスのテロ攻撃を端緒とするイスラエルのガザでの軍事作戦等、武力衝突事態が相次ぐ近年、クロスボーダー取引を行う企業の多くが有事発生時のリスクに向き合わざるを得ない状況にある。日本を含む東アジア地域においても、台湾をめぐる国際情勢が緊迫の度合いを高めており、かかる地政学的リスクを踏まえた契約管理が日本企業にとっても喫緊の課題となっている。中国が台湾に軍事侵攻する事態、いわゆる“台湾有事”も視野に入れ、各企業の法務部では取引先との契約書の見直しを進める動きもあると聞く。 有事対応に問題意識を向ける法務担当者が注目する条項の一つに“不可抗力条項”がある。不可抗力条項とは通例、契約当事者の努力では回避できない事由(=不可抗力)の発生により債務の履行ができなくなった場合に、債務不履行責任を負わないことを定めた条項だ。“地震”や“テロ”といった具体的な事由を列挙したうえで、“その他、当事者の合理的支配を超えた事由”などといった包括的な文言を加えるのが一般的だ。契約読者からの質問に答える!有事を見据えた契約法務台湾有事を例にとり、不可抗力条項を一つの素材としてT&K法律事務所三上貴弘  山本卓典

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