Lawyers Guide 企業がえらぶ、法務重要課題 2024
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宮島 和生 氏な表現を使って伝達されているのでしょうか。宮島氏 検討次第で解決の道が見出せることもありますので、「未来永劫No」とは言いませんね。多くの案件がある中で、検討のリソース配分の優先順位の観点から「今はNo」と言う時もあります。 菊池氏 事業部門は、以前は楽観的な見通しを立てることもありましたが、各種コスト、必要となる人員、トラブル対応方針等も検討・説明すべきことがようやく理解されてきた印象です。「“光”と“影”の両面をわかったうえで進めるならOK」という言い方はよくします。近藤氏 法令上、絶対に遵守する部分、とりわけ適時開示やインサイダー取引規制など、株主・投資家や資本市場と向き合う分野はどうやっても曲げられません。ただ、常に“最適解はないか” の可能性は検討します。山下弁護士 御社は、外部相談の際に「こうしたい」「このような解釈は可能か」と明確にお伝えになることが印象的です。リスクテイクの判断における、外部専門家の活用状況についても教えていただけますか。菊池氏 外部専門家は頻繁かつ気軽に活用していますが、弁護士費用が嵩んでいる印象はありません。各部門ともシナリオを組み立てたうえで依頼しているため、“‘丸投げ’で費用が肥大化し、十分な成果が得られない”といったケースは見かけないですね。近藤氏 ガバナンス領域では、法的に義務化されていることの対応はある程度定型になっています。一方、情報管理や開示の実務など、具体的に実務に落とし込む次元では悩ましい問題もありますので、他社の事例・情報を入手するために専門家に相談することも多いです。宮島氏 外部専門家の起用は、“社内における知見が乏しい場合の論点スポッティング(パターン1)”“論点・リスクは概ね明らかだが、デュー・プロセスまたは客観性の観点からの外部意見の聴取(パターン2)”“単純な人員不足の補填(パターン3)”に分けて、それぞれ適切な依頼先を考えています。山下弁護士 内容を問わず気軽に相談できる相手がいることはよいことですが、分野に応じて相談できる専門家のラインナップを揃えていく方がより望ましい方向性であるということですね。瀬谷 絢子 氏瀬谷氏 宮島さんの示したパターンのうち、3番目の“人員不足”を除けばご指摘のとおりです。山下弁護士 当事務所でも取り組んでいますが、法務分野の人材不足をどう外部事務所がカバーするかは、今後、より重要な視点になっていきそうですね。19次世代の法務人材・リーダーの育成に向けて山下弁護士 最後に、法務人材の獲得・育成についてうかがいます。御社が将来の法務責任者やチームリーダーに求める人物像はどのようなものですか。菊池氏 「自分の仕事を客観的に見てほしい」とよく思います。こういう対談の場での自己表現も客観化の一つですし、体制を組み替えて異なる目線を得たり、他社の法務担当者と意見交換したりすることも有効です。採用の際は、“現場とのコミュニケーションや情報収集がしっかりできそうな人材か”を重視します。 近藤氏 “マネージャー育成”という観点では、“答えがすぐに出ない状況に慣れること”を強調します。特に若手の頃は、法的論点に性急に答えを出し、相手に正論を突きつけてしまうこともあるでしょうが、上席者になると他部署の利害関係、動きも考慮したうえで、“全社視点”や“全体最適”を意識した意思決定が不可欠です。宮島氏 法律の周辺、ファイナンスや税務等の知識は企業法務のリーダーとして必要ですが、スキル面の向上は個人で追求できる分野です。ただ、それだけではなく、社内オペレーションを回す技能も重要であり、両者は“車の両輪”の関係にあると考えています。瀬谷氏 ある商品をメルカリで出品できるかを社内で再三議論し、自分の常識・感覚を疑いつつも、一定の条件下で解禁したことがありました。法令上問題がなく需要があるとしても、“それは社会人、ひいては人間として許容される判断か”、また、“そのサービスの提供に従事する社員がどう感じ、反応するのか”“自社サービスに誇りをもてるのか”という視点も忘れてはなりません。視点を広く構えられる方に仲間になっていただけたら嬉しいですね。

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