Lawyers Guide 企業がえらぶ、法務重要課題 2024
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菊池 知彦 氏近藤 雅史 氏です。瀬谷氏 入社時から“時間を無駄にしないこと”は叩き込まれました。MTGの冒頭に“本日のGOAL”は必ず確認しますし、もし会議で解決せず、持ち帰りとなったタスクがあれば、担当者と期限を必ず決めて解散するよう徹底しています。また、業務効率化で言えば、ITツールの有用性を伝播する“社内インフルエンサー”的な存在がいるのも印象的です。山下弁護士 コンプライアンス醸成の視点でもよく語られますが、経営トップが模範や本気度を示すのは、文化浸透に一番効果的ですよね。では、社内法務リテラシー向上のための業務手法について、インフラ・ツール面や人間関係等のソフト面で工夫やアドバイスはありますか。近藤氏 “部門横断的なコミュニケーションの場”は効果的です。たとえば“1 on 1”は、一般的には所属部門の上司・部下間が主流ですが、当社では他のチームのマネージャー、メンバーとも実施することを奨励しています。“チーム”を越えて親近感を高めることで得意分野や悩みの共有にもつながり、業務にも活かせるため、他社でも取り入れる余地があるはずです。瀬谷氏 “情報発信の場”の活用もカギだと思います。社員総出の集会で好きなコンテンツを持ち寄ったり、SlackのAllチャンネルで全社に発信したりする機会が日常的にあります。 近藤氏 大企業に比べると、各チームや各メンバーが社内に向けて情報発信するうえでのハードルは確かに低いですね。宮島氏 “社外・社内向けサービス間でUX(ユーザーエクスペリエンス)の温度差をなくす工夫”もよいと思います。つまり、社外向けプロダクトでは、ユーザー登録までのクリック回数の最小化を極限まで追求する一方、社内手続の場合は、比較的安易に手続を追加して、その分負荷も増える傾向にあります。後者もUXの観点を意識して、業務効率化やナレッジ共有方法を探っていくべきでしょう。瀬谷氏 “UXの高品質化”には、デザイナーの知見も取り入れたいところです。相談者目線でUI(ユーザーインターフェイス)・UXデザインを練るためにも、Legal以外のキャリア保有者にチームに加入いただきたいと考えています。菊池氏 一理ありますね。他社では、法務・知財にPR会社の社員を採用し、社内発信を強化している実例もあるよう18不透明な事業環境におけるリスクテイクの琴線山下弁護士 続けて、コーポレートガバナンス・コードでもなじみの深い“適切なリスクテイク”についてうかがいます。どのようにリスクを適切に把握し、どのような場合にテイクするか、判断の道筋をお聞かせください。菊池氏 金融事業はリスクテイクには慎重、かたやマーケット・プレイスは個人情報保護等を除いて比較的自由度が高い状況です。現在、案件の性質に応じたリスク評価方針の設計会議を開いています。型にはめると評価自体が堅苦しくなりますし、製品のリリース時期も遅れるのでバランスは意識しています。 宮島氏 リスクの性質が“民事的(損害賠償や業務コスト等)”なものか“公的(行政・刑事罰等)”なものかで判断していますね。前者はいわば金銭で解決するものであり、基本はビジネス判断を尊重。後者はビジネス判断ではカバーできないのでLegalが主導する等、両者の切り分けは明確化しています。瀬谷氏 私は現場レベルのリスクを近くに見ている立場ですが、たとえば規制当局からの指摘等、“リスクが顕在化するおそれがあるか”、また、“そのリスクが顕在化したら取り返しがつかなくなるおそれがあるか”が一つの基準です。事業部門寄りのA案、法務寄りのC案に加えて、折衷案のB案まで整理して、リスクの妥協ラインを探ります。宮島氏 当局の指摘リスクについて“発覚する可能性は低い”という話が出ることがありますが、それはリスクテイクの理由にはならないと考えています。“法令に抵触していない”という実質的な整理ができるか否かが、リスクテイクの判断では重要になります。 山下弁護士 私が以前出向していた証券業界では、やはり規制当局である金融庁の意向は非常に重いものでした。一方御社は、事業の多角化により所管する規制当局も多岐にわたることから当局リスクが分散され、“攻め”の事業が容易な側面もあるのですね。では、最近、“No(リスクテイクは不可)”と判断したご経験はありますか。その場合、どのよう

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