個人情報保護法の施行以来、変化し続ける情報・データビジネスにクライアントと共に取り組んできた弁護士法人第一法律事務所。新型コロナウイルスの流行により一層進んだテクノロジーの活用と消費者行動の変化に、企業は対応を迫られている。新たな試みを行うにあたり、問題となるのは個人情報保護規制を鑑みた上でどこまで情報を取得すべきかだ。情報に関連した新規ビジネスの相談に対応することが多い上田悠人弁護士は、「例えば、リアル店舗での販売をやめショールーム化しAIカメラを設置することで、消費者を行動分析してニーズを掘り起こしたり、購入履歴等を分析・店員に共有することでパーソナライズされたサービスを提供したりする試みが始まっています。このような事案では、クライアントが達成したいビジネスが、規制の対象外となる個人を特定しない取得・管理方法によることで足りないかを模索・検討し、個人情報として取得・管理する必要がある場合には法令に対応する形でいかにスキームを組んでいくかを共に考えます。また、複数の事業者が連携して一つのサービスを提供することも多く、対消費者との関係で全体として統一的なスキームを組むために、事業者間でどのように調整していくかを検討することもあります」と語る。これまでデータ活用の必要性を感じていなかった企業でさえ積極的に顧客の行動履歴情報の取得と管理に乗り出すようになったと語るのは、弁護士としてのキャリアを情報法と共に歩んできた福本洋一弁護士。「アプリやIoT端末等を通じて顧客の行動履歴情報を積極的に集め、現実世界でのビジネスにおいても顧客分析や接客・広告に活用する動きが盛んになってきました。現実世界でビジネスをしてきた企業は、オンラインのビジネスでは常識である顧客追跡を前提とした“ターゲットマーケティング”自体に慣れていないため、情報利用のアイデアが出た段階で、何が問題となりうるか確認し、共にビジネスの詳細を作り上げるような相談が増えています」(福本弁護士)。情報の取得とその取り扱いについては、近年はもはや法規制を遵守するのみでは不十分だと上田弁護士は語る。「例えば、2021年にJR東日本がテロ対策の一環で顔認識機能を備える防犯システムを導入したことで批判を浴びました。事前に個人情報保護委員会へ相談を行い、法令を適切に遵守したものでしたが、運用方針の公表が不十分だったと指摘を受けたのです。近年コンプライアンスは“社会的要請に応えること”といわれますが、法令以上に消費者の納得を得て、企業価値を高めるために何をすべきかというご相談が増えています」(上田弁護士)。オンラインマーケティングではCookieを活用したターゲティング広告もいま岐路に立たされている。就職情報サイトが内定辞退率の情報を企業に提供したことが規制の潜脱と批判されたように、グローバルにアクセス履歴の分析に対する社会的不信が高まり、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues;倫理的・法制度的・社会的課題)対応として、Google等のビッグ・テックといわれる巨大プラットフォーマーもプライバシー保護へ舵をきりつつある。今後は、事業者は独自に情報を集め、顧客とのチャネルを作らねばならなくなってくると福本弁護士は語る。「企業はどのようにして独自に顧客情報を収集・分析してビジネスに活かしていくのかという課題に直面しています。その際に重要なポイントは、その情報の取得方法や使い方について、顧客からの納得感が得ら34コロナ禍を経て複合化するデータ利活用ビジネスの現場新規ビジネスにおけるELSI対応時流を読む判断が事業を動かす。企業価値を高めるELSI対応へ必要なのは法規制を超えたELSIへの対応弁護士法人第一法律事務所福本洋一 上田悠人
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