Lawyers Guide~Compliance×New World~
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田井中 克之 弁護士完璧な内容が求められているわけではないと田井中弁護士は語る。「“まずはできる点からの実施を促そう”という東証の狙いも感じられ、実務も今後変化することが予想されます。サステナビリティ分野をリードする欧州ですら、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けて、現実路線への揺れ戻しの意見も出ています。真理を見失わないようにしつつ、柔軟に対応する必要があるでしょう」(田井中弁護士)。プライム市場上場企業の間でも取り組みには大きな差があると語るのは、IRを通じた危機管理やファイナンス等の業務を手がける宮田俊弁護士。「TCFD提言に基づくディスクロージャーに積極的な企業が業界をリードする一方で、最低限の取り組みにとどまる企業も多くあります。開示を通じて価値を高めて差別化を図る企業との差が出るようになりました。日本はESG開示のベストプラクティスとは何かを模索している最中だと感じます」(宮田弁護士)。気候変動リスクや多様性・人的資本等、企業のサステナビリティについて、有価証券報告書に記載をする企業も出てきた。「サステナビリティ項目の有価証券報告書への記載は早ければ2023年3月期から義務化されると見込まれます。統合報告書やサステナビリティレポートに記載していた内容を有価証券報告書においても開示することを検討する動きは活発になっています」と語るのは田井中弁護士。有価証券報告書は誤りがあればペナルティが発生する。その点で身構える企業も多い。「難度は一段高いですが、過度に萎縮する必要もありません。ポジティブな内容を記載することが多い統宮田 俊 弁護士合報告書等とは視点はやや異なりますが、企業として重要であると考える内容を記載する点は変わりません。また、数十年後の未来を予測することは容易ではなく、100%の正確さが要求される事項ではありません。現時点でのベストエスティメイトを積極的に伝えようという時代や社会になりつつあるのです」(田井中弁護士)。開示内容の算定については、社内の人材で完結できる企業はほぼなく、外部の機関や専門家に依頼することが一般的だ。一方で、記載内容の根拠の担保や開示リスク把握のためには、企業でESG開示に通じた人材の育成が欠かせないと宮田弁護士は語る。「リスクが考えられる局面は二つあります。まずはESG開示が有価証券報告書等において法定開示項目となり、当局による執行の対象となった場合です。現在のところ法定開示項目ではないものの、既に有価証券報告書等において記載が見られる男性の育休取得率を例にとれば、企業によって計算の根拠が異なる状況です。将来執行の対象となり得ることを見据えれば、正確かつ誤解のない計算根拠を採用することが必要です。もう一点は、投資信託等の商品販売における開示です。ESGに関連した商品において、説明の誤りや根拠の薄弱さがあるものが欧州で既に問題となっています。日本では顕在化していませんが、ほどなく同様に問題となるでしょう」(宮田弁護士)。同事務所には、グリーンボンド発行の際のフレームワークへの助言依頼も増加してきたという。「グリーンボンド発行のためには、調達資金を投じる適格プロジェクトの内容などを定めたフレームワークを作成し、第三者機関の意見書を取得する必要があります。会社の経営戦略や事業内容と整合するフレー17有価証券報告書での開示義務化には算定手法に正確な根拠付けを大規模な投資の呼び込みにはESG対応が必須項目に

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