Lawyers Guide 2025
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6鼎 談門永 真紀 氏アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士/Chief Knowledge Officer山下 聖志 氏山下総合法律事務所 代表弁護士瀬谷 絢子 氏株式会社メルカリ Legal Knowledge & Operation Management Manager菊池 知彦 氏株式会社メルカリ 執行役員 CLOLegal Tech導入・活用の前に考えたい、業務の清流化―Legal Operationsの観点から リーガルテック導入のカギとなる“業務の清流化”について、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業の門永真紀弁護士が解説。近年、法務業務の高度化・多様化で、テクノロジーの活用が進む中、“テクノロジーありき”の導入アプローチに注意を促した。 門永弁護士は、多くの企業がリーガルテックを活用しきれていない原因として、以下の三点を指摘。❶抽象的なニーズに基づいてツールを選定したため、具体的な現場のニーズに合わない。❷ポイントソリューションを導入したものの、既存のツールや全社システムとの連携が難しい。❸法務部員のリテラシー不足によりツールを使いこなせない。 特に❶に関しては、ツール導入にあたり具体的なニーズを丁寧にヒアリングする重要性を述べ、ヒアリング対象は法務部門だけでなく、事業部門も含めるべきであると指摘した。 そのうえで門永弁護士はツール選定の前段階で「必ず“業務の清流化”をしてほしい」と提案。“業務の清流化”とは、自社の業務プロセスを丁寧に分解して理解を深めたうえで、業務プロセスにおける課題や、業務における“ペイン”を特定することである。このような課題やペインを解消するために最新テクノロジーに飛びつくのは拙速であり、まずは業務プロセスの見直しやオペレーションの改善を図るべきと述べた。 また、導入検討チームだけでなく、実際にツールを使用する現場のメンバーを含めたトライアルの実施を推奨。ツール選定においては、「機能の優劣よりも自社の業務フローにどれだけ合致しているかが重要」と語った。Legal Tech活用の最前線と法務リテラシー向上策 株式会社メルカリのリーガルテック活用については同社の菊池知彦氏と瀬谷絢子氏が、山下総合法律事務所の山下聖志弁護士をモデレーターに迎えて現状を紹介した。メルカリ社では、「Slack」「ServiceNow」「BoostDraft」などを連携させ、依頼から契約締結までのプロセスをすべて一元管理している。これに関連し、山下弁護士がリーガルテックでカバーできる業務について質問すると、菊池氏は「手順が定まっている業務がテックの対象であり、高難度案件やコミュニケーションが必要な部分は人力で行う」と回答。山下弁護士が契約書レビューのデモの様子から「テック導入の対象であるNDAレビューからも可能な限り情報を得るしくみを整えられていますね」と指摘すると、瀬谷氏は「レビュー不要とする意見もありますが、当社では現時点ではNDAは事業の動向を把握する契機になると考えています」と述べた。 事業部門・法務部門双方におけるリーガルテックの周知に関しては、菊池氏は「プロセスが多いと誰でも面倒に感じるものです。e-ラーニングでの周知だけでは十分でなく、事業部と連携しながらbotの活用なども進めています」と述べた。瀬谷氏は「事業部員の異動や担当変更に伴うルール確認や基礎的な質問も多いため、クリエイティブな業務に時間を使うためにも、テックを活用して効率的な回答に取り組んでいます」と説明した。 今後が期待されるAIやLLMについて、「正確性は50%程度で十分」とした菊池氏は、「あくまで思考の壁打ちとしての活用」と言及。「思考の整理や新しい価値の創出に役立てており、工数削減目的だけでなく、ワクワクすることに使いたいですね」とした。 最後に、山下弁護士が法務部員の採用・育成とテックの関わりについて問うと、菊池氏は「人間に取って代わることはできないが、効率化を図ることで人材の配置やリテンションに役立つと考えられます」と述べ、今後はテクノロジーを“使いこなせる”人材の採用が重要になると語った。

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