Lawyers Guide 2025
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揺るがない“事件の核”をつかみ知財分野特有の難しさに向き合う大須賀 滋 弁護士Shigeru Osuga 東京事務所に在籍しているのですが、私のもとには東属弁護士から欧州圏に関係する相談が届いています。その多くの相談には即答できると思いますし、この色です。もっと大きな組織の場合、どうしてもチームが分かれてしまうことが多いのですが、“分化しない総合力”が当事務所の強みです」(生田弁護士)。 知財分野の難しさとして、特許であれば技術分野の深い理解が必要であったり、国際的な要素が絡む場合も多く、各国法制度の理解が必要になりがちであ非侵害の見通しがつけにくい”という点も挙げられる。過去の類似裁判例を踏まえて見通しを判断するとして等の紛争対象の個別性が高く、予測が困難である場合が多いのだ。一方、企業にとっては、リスク評価や意思決定のうえで、“訴訟になったらどう判断されるのか”は重大な関心事項である。が、前述した元裁判官の眼だ。谷弁護士が「実際に知財訴訟を担当してきた者としての着眼点があり、他谷 有恒 弁護士Yuko Taniの方とは違ったアドバイスができると思っています」と述べると、冨本弁護士も「所内の弁護士にとっても、元裁判官と議論することにより、壁打ち以上に精緻なシミュレーションができる。そこから逆算して、今、クライアントに何を助言すべきかが判断できます」と同意する。また、いざ裁判になったときに、裁判官がどういった価値観の持ち主なのか、権利保護重視なのか、自由競争重視なのか――といった“価値観の対立”とどう向き合うべきかという問題について、大須賀弁護士は以下のように述べる。 「前提として、日本の裁判官にはそこまではっきりとした価値観の傾向はありません。そのうえで、確かにそれなりの違いはあります。しかし、そこを意識しすぎて主張を変えると、かえって軸がブレているように映る。表面的な解釈の違いはあれど、揺るがない“事件の核”をしっかりとつかむことが、事件の見通しを立てるうえでは重要です」(大須賀弁護士)。 社内で訴訟の見通しを立てられず、「訴訟になったら裁判官の価値観次第のところもあり、どうなるかはわかりません」等とお茶を濁して上層部の不興を買ってしまう法務担当者にとって、目の覚めるアドバイスと言えよう。 訴訟の行方は、裁判官だけでなく紛争相手の出方によっても趨勢が変わる。大須賀弁護士が「商標の相談案件で、クライアント側である程度見通しを立てたものの、そこに不正競争防止法上の検討が抜けてしまっていることがあるのです」と指摘するように、こちらが想定していなかった法域で紛争を持ちかけられるこ32京都大学法学部中退。92年裁判官任官。知的財産権に関わる訴訟事件を多く担当し、00年東京地方裁判所判事補・知的財産部配属。06年最高裁判所司法研修所教官。12年大阪地方裁判所知的財産部裁判長、15年札幌地方裁判所医療部裁判長、18年大阪地方裁判所知的財産部裁判長を経て、21年退官。22年弁護士登録(大阪弁護士会)、北浜法律事務所入所。知的財産権の案件を幅広く取り扱うほか、愛知大学法科大学院教授として、将来の法曹養成にも携わる。79年東京大学法学部卒業。84年裁判官任官。知的財産権が関わる訴訟事件を多く担当し、09年知的財産高等裁判所判事。10年東京地方裁判所知的財産部部総括。14年知的財産高等裁判所判事。18年退官、弁護士登録(第一東京弁護士会)、北浜法律事務所入所。特許権を中心とした知的財産権の案件を多く取り扱う。東京地方裁判所民事調停委員(知財調停担当)、日本知的財産仲裁センター仲裁人候補者、産業構造審議会知的財産分科会審査品質管理小委員会委員等、公職も多く務める。レビューを行うという。 「たとえば、私は欧州やフランスを得意としており、京・大阪・福岡といった在籍拠点の枠を越え、多くの所ように所属弁護士が相互に情報交換をすることでシナジーを生み出しやすいのが我々の規模ならではの特るといった点に加え、“相談の初期段階において侵害・も、問題となる知財の技術内容・表現内容・表示内容 同事務所においてその予測の確度を高めているの

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