142法務担当者にとって、法務部門以外の部門との社内コミュニケーションというのは、日常的な課題でありながら、永遠のテーマでもある。そうした法務担当者であればぶつかることが多いであろう問題点に対する基本的な考えや、実践しているノウハウについて、実務経験10年以上15年未満の中堅実務担当者である3名のスピーカーに、実践現場でのリアリティのあるお話を語っていただいた。コンプライアンス意識の高め方新しいサービスの相談では、事業部門が作成したスキームを鵜呑みにしない日野 真太郎 氏弁護士法人北浜法律事務所 パートナー弁護士“守りの法務”としてどのように事業にストップをかけるか日野 次に、自社のコンプライアンス意識の高め方について議論します。一つの企業にずっと在籍していると、自社のコンプライアンス意識の高低を客観的に見ることが難しいのではないかと感じています。小泉 はい、コンプライアンス違反になりうるということを知らないでやっているということが多いですね。それを回避するためには、研修等の啓蒙活動による周知徹底が大事です。当社は、会社規模も踏まえて、全社的に研修プログラムを組んで行っていますが、普段の法務の問題意識がプログラムの決定や改訂に反映されていると感じます。塩澤 “故意に違反する”というものよりも、たとえば業界慣行だと勘違いしていて、コンプライアンス違反のリスクに気づけていない場合もあります。理解してもらうためには、周知徹底が必須です。当社の場合は、会社規模も踏まえ、社内メール等で全体に啓蒙する方法が効果的だと考えており、平均週2回程度は実施しています。また、過去に周知した情報を集約するプラットフォームとしてSlackも活用しています。日野 次に、新しいサービスに関して相談を受けた場合のポイントはいかがでしょうか。塩澤 まずは、事業部門が作成したスキームのポンチ絵を鵜呑みにせずに、話を聞いて、そもそも事業部門が何をしたいのかをヒアリングします。そうすると法務リスクのみならず、確認すべき点があらわになりますので、必要に応じて他の間接部門にも確認するようにします。日野 新規事業を検討するにあたっては、許認可まわりで官公庁に照会することもあると思いますが、この点について小泉日野 本日は、法務部門以外の部門との社内コミュニケーションをテーマに、議論を展開していきます。まずは、それぞれの企業での法務機能の位置をおうかがいしたいと思います。小泉 法務の役割とは、ビジネスを進めるうえで、いかにリーガルリスクを少なくし、かつ目的が達成できるようにするための方法を探すアドバイスをすることです。そのために、事業目的を適切に把握し、取りうる選択肢を考え、それぞれのメリット、デメリットを整理することが必要と考えています。塩澤 「法務部門も事業を一緒に行っている」という意識を大切にしています。違法性がある場合に、その代替手段を考えるなど、事業をいかに進めていくかを事業部門とともに共有するという姿勢が重要ですね。日野 とはいえ、どうしても事業部門にストップをかけなければいけない場面もあるでしょう。その際にはどのようなコミュニケーションをとられていますか?小泉 基本的には、止めざるを得ない場合は止めるしかありません。その際、違法性の所在や、どのような行政指導や刑事罰があるかを説明して納得してもらいます。また、法的リスクなどがある場合は、どのくらいの損害が出る可能性があるか、レピュテーションリスクも含めて最大値の見込みを伝えるようにしています。塩澤 ビジネス判断がされる場合には、同じくリスクの最大値を伝えるようにしています。また、担当や、その部門だけでは決められないイシューの場合には、「複数部門やマネジメントレベルで議論をすべき」とアドバイスしていますね。日野 法的リスクには、取れないリスクと、取りうるリスクがあると思いますが、取りうるリスクの場合は、その分析を精緻に行い、きちんと事業部門に伝えるのが重要ということですね。日常編法務担当者が語る、社内コミュニケーション術
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