Lawyers Guide 2025
141/186

139企業法務戦士さん 不祥事系のインシデントは2024年も多かった印象です。皆さんの印象に残っているものがあれば教えてください。utenaさん 最も印象に残っているのは自動車メーカーの認証不正と、サプリメントによる健康被害に対する製造販売会社の初動です。これまでいろいろな例があるのに何だったのだろう、あの初動は……と思います。經文緯武さん 健康被害の件に関しては、法務が関わったから逆によくなかったのではないかと見ています。民法の世界では立証責任があって、「明確に責任がないものについて対応するのはよくないのではないか」という発想だと、あのような対応になってしまいます。消費財の場合、厳格な民法っぽい考えよりは、もう少し柔軟に対応した方がよいのではないかと思います。製造業のリコールもそうでしょう。厳格に法的責任がある欠陥が立証された段階まで動かなかったら、もう遅すぎるのです。情報があったときに幅広に対応することができておらず、担当したのが法務なのか、弁護士なのかはわかりませんが、あのような対応ではこうなるはずだと思いました。企業法務戦士さん もともと会社のオーナー独自の発想があって、それに法務が合わせようとしてあのようになったということではないでしょうか。ただ、あの会社の法務部門にはかなりの存在感がありましたし、ガバナンスに関しても取締役会に大物の社外役員が入っていましたので、「なぜあのような事態になったのだろう」という感情を抱いた方も多かったのではないかと思います。ちくわさん 不祥事系の報告書を見ていると、よく言われるのは、法務に対する事業部からの信頼の欠如だったり、現場との連携不足だったりですが、その背景を深掘りして見ていくと、会社内の人事争いや政治的に作られたポストの奪い合いなど、ドロドロした現実的な世界があって、そういうところからガバナンスは機能していかなくなっていくのだろうな……と感じています。utenaさん ひと昔前の暖房機器の製品リコールの事例で言うと、当事者企業の広報から聞いた話なのですが、「リコール対象製品を短期間で回収するには買い取りしかない」となって、現場から「原価や経年から考えて○万円で買い取ります」という案を出したら、グループの会長が「その金額ではユーザーは動かない」と言って買取価格を上乗せさせたことがあったそうです。理屈ではなく、コンシューマー相手の企業であれば、一般の人の心情のようなものを汲める人がいないとうまくいかないのではないかと思います。ちくわさん 一般の人の心情を考えるとなると、法務はマーケットからとても遠いですよね。そう考えると、こういった不祥事事案が出たときに、「法務がリーダーシップをとるべきなのか?」と言われると、「よくわからない」というのが正直な気持ちです。經文緯武さん 法務部門やコンプライアンス部門は、不祥事のときに火消しのリーダーシップをとることが期待されている部署だと思いますが、現実的には“とれない”と思います。騎馬戦の“脚”にはなれるのですが、自分で走る向きや速さを決める人ではないような気がするのです。トップが「やれ、対応しろ」と動けば法務もよい方向に動けますが、そうでなければまったく動けません。utenaさん  “懐刀”みたいになれればよいのです。トップに立たなくても。たとえば、社長が「もうやっぱり耐えられん。俺はこう説明するんだ」というようなときに必死に止める役目もあるわけです。企業法務戦士さん 自動車メーカーの“不正”に関して言うと、私はメディアの取り上げ方も問題だったのではないかと思っています。「あれだけいろいろな会社で起きるということは、明らかに認証試験制度の側にも問題があったのだろう」と。豊田章男会長が会見で思い切って制度に言及した発言をしたことは、日頃からコンプライアンスに関わっている人たちの間ではすごく評判がよいのです。「うちでは無理だけど、あそこまで言えるのはあの人しかいない。よくぞ言ってくれた」という感じです。

元のページ  ../index.html#141

このブックを見る