Lawyers Guide 2025
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137企業法務戦士さん 2024年も終わりに差しかかっている時期でもありますので、まずは皆さんにとって最も印象に残っているトピックについてうかがいます。經文緯武さん 価格転嫁に関する競争法の運用の強化です。正直なところ、発注者側から積極的な価格転嫁を求めるなど冗談だと思っていたら大真面目な話でしたし、法令に違反していなくても公表して“晒し者”にするというので、誰もが戦々恐々としていました。他社の法務の方に会うと「御社はどこまでやっていますか?」「弊社ではここまで……」といったことを、こそこそと話す場面が増えました。ちくわさん 当社は製造業ですので、サプライヤーさんもかなり多く、この問題についてはかなりセンシティブに捉えています。その一方、“超大企業”と言われるようなところが報道で晒し者になったとしても、実際に自社が狙われるリスクはどれぐらいあるのかがわからず、見えないお化けと戦い続ける羽目になるのではないかと懸念しています。 対策に充てられるリソースは限られています。自社のビジネスモデルや業界構造を理解したうえで狙われるリスクを正しく把握し、適切なリソースを配分しておかないと、他の重要なところにリソースを割けなくなってしまいかねませんから。ただ、当社では調達サイドにも知見が蓄積されています。下請法をめぐる動きを見ていて、法務機能を全社的にどう配分していくかを検討することが難しい時期にきていると感じます。企業法務戦士さん 下請法については、本社の法務部門ではなく現場サイドで見ている会社が多かったのではないでしょうか。チェックする項目もパターン化されているので、“型”がわかれば現場で判断できたところはあったと思うのですが、最近では実質的なところまで突っ込んで判断しないといけないところもあり、判断が難しくなっているのでしょう。utenaさん 価格転嫁が適正になされているかを改めて調べることはなく、調達部門の監査であれば契約書や価格協議の記録、またそれが課税文書になっているかどうかといった従来どおりのことを見るのみではありますが、とはいえ、それは当社だけでなく企業グループ全体で気をつけるようにしています。また、フリーランス法の面では“フリーランス”という名目で契約を結んでいるものはなく、ほとんどが業務委託契約や委任契約に隠れているので、たとえば建設業での協力施工業者さん、特に“一人親方”との契約は気をつけなければなりませんし、さらに施工図を書いたり、Webサイトやカタログのデザインをしたりといった業務を、個人と契約を締結していることもあるので、この機会にきちんと洗い出そうと法務が動いていたと思います。企業法務戦士さん 各社の話を聞いていると、現場はとにかく混乱していると感じます。フリーランス法に関して言うと、まず“取引相手がフリーランスか”ということが要件になってきますが、それをどのように確認するのかについては、会社間での温度差もあると思っています。「私はフリーランスではありません」と本人が言えばフリーランス法の対象外とすることもあり得ます。一方、客観的にフリーランスの要件を満たしているか、エビデンスをもって判断しようとしているところもあります。この動きがどうなるのかはまだわからず、混乱はしばらく続くでしょう。企業法務戦士さん アクティビスト対応や“同意なき買収”の話題も多く上がりました。株主総会が盛り上がった会社もいくつかありましたし、“同意なき買収”の提案はかなりポピュラー化してきたと思います。經文緯武さん アクティビストはもともと、彼らの好きな匂いがするところに集まってきていましたが、2024年は「こんなところに来たか!」という場面が多くありました。株式会社セブン&アイ・ホールディングスの買収提案などよい例で、上場していればどこが狙われてもおかしくないと感じています。utenaさん 対象会社の経験から言うと、実際に自社が売買されたとき、売買の対象となったことはしかたがないとして、「我々をどうしたいのか」「何をしたいのか」という情報は、最後まで現場に下りてきませんでした。「親会社が変わる?」といった段階になってようやく現場も知らされるのが実情です。売買の当事者が出てくることもなく、終始弁護士や会計士のチームへの対応でした。ちくわさん 当社は、“買う側”となることがほとんどです。担当レベルという立場からの観点で言うと、買収事案などは事業会社の中にいるとそれほどないので、法務でもノウハウを持っている人はかなり限られてくると思います。実際、私にはノウハウがあっても、下の世代にはノウハウがないといった状況です。そのうえで今後の事業戦略を考えていくと、買収事案は増えてくるのだろうと思っているのですが、ノウハウの基礎がないままにスキームが複雑化していくと、「法務部門としてどこまできちんと検討し、対応していけるのか」という懸念があります。法務で対応できないとなると、法律事務所に丸投げする方向になって、法務部門が空洞化してしまうのではないかと感じています。企業法務戦士さん 限られた時間の中での対応になるので、「取引スキームの検討や契約書のドラフティングは外に任せたほうがよい」ということになることは多いと思います。社内の法務部門で担うとしたらDD(デューデリジェンス)で、それも時間がないからM&Aの教科書に書いてあるようなフルパッケージでは到底できない状況であることを踏まえ、必要最低限の資料を見て判断せざるを得ないことも多いでしょう。utenaさん 私が対応したケースでは、DDは2回、だいたい3週間でした。DDはそのぐらいで回さなければなりません。ダメならダメで結論を早く出す、買うなら買うでやはり結論を早く出す必要があるので、DDで3週間を使って、残りの1週間で追加の質疑応答があるかないかです。DDが終了してから1か月もしないうちにファンドから「書き方がわからないから埋めてほしい」と公正取引委員会に届け

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