130運用面が心配で導入に踏み切れないSaaSpresto株式会社 代表取締役社長CEO日本ヒューレット・パッカード合同会社、株式会社リクルートホールディングス、株式会社セールスフォース・ジャパンにおいて営業・営業マネージャー・営業企画プロジェクトマネージャーを歴任。2014年にセールス・マーケティングのコンサルティング会社2BC株式会社の設立に参画し、代表取締役社長 兼 チーフコンサルタントを務める。2024年にSaaSpresto株式会社の代表取締役社長CEOに就任。プロジェクト責任者として現場の最前線に立ちながら、国内外のチームを率いる。弁護士法人GIT法律事務所 代表社員/パートナー2000年から2020年まで国際的法律事務所に所属し、同事務所のパートナーを10年以上務める。国際訴訟・紛争解決、国内外の上場企業の不正に関する調査、米国FCPA(the Foreign Corrupt Practices Act)のコンプライアンス、製薬・医療機器メーカーのコンプライアンスを手がけ、不正調査、米国FCPAに関して多数のセミナーで講師を務める。その他、グローバル内部通報制度の構築、国際労働事件の解決、米国クラスアクション、GDPRを含む個人情報保護法関連のコンプライアンスなどの法的助言も行う。主な著書に『グローバル内部通報制度の実務』(2022年5月)がある。御手洗 制度の重要性は理解しつつも、運用面での懸念から導入を躊躇している企業も少なくないようです。特に対応人員が限られている企業からは、「通常業務だけで手一杯」という声が聞かれます。このような課題に対しては、どう取り組めばよいのでしょうか。西垣 リソース不足の問題は、本質的には適切な経営資源の配分によって解決可能な課題であり、ここでも経営層の理解と判断がカギを握ります。私たち専門家としても、継続的に啓蒙活動を続けていくべき部分だと思っています。実際、社外セミナーで影響を受けた社員が中心となって、社内啓発が一気に進む例もあります。 また、最近では“スピークアップ文化”の根づいた先進的な企業の成功事例が蓄積されつつあるので、これらのベストプラクティスを参考にすることもおすすめです。御手洗 「会社への不平不満ばかりが大量に通報されたら処理しきれないのでは」と危惧する声も聞かれます。この点についてはいかがでしょうか。西垣 効率的な運用のポイントは、受けた通報の適切な振り分けにあります。私の感覚では、本社で調査を要するような深刻な案件は全体の1割程度で、残りの9割は現地の担当者で対応可能なレベルのものです。すべての通報を本社で抱え込むのではなく、重要度に応じて振り分けられるしくみが整備されれば、運用面での負担も合理的な範囲に収まるはずです。むしろ、しっかりと通報制度の周知徹底を行わないと通報件数が伸び悩むことが多いと言えます。したがって、運用面の課題は、むしろ利用率の低さにあり、制度の形骸化を防ぐための積極的広報が重要になってきます。そのため、「突然、多くの通報が来たらどうしよう」という懸念は通常は杞憂に終わります。御手洗 通報件数が伸び悩む原因は何ですか。西垣 大きく二つの要因が挙げられます。一つは制度の利便性の問題、もう一つは認知度不足です。一つ目の利便性については、多言語対応がされていなかったり、匿名通報が認められていなかったり、通報受付窓口のWeb構成が外国人にとってわかりにくい場合には、なかなか使ってもらえません。苗代 匿名通報については、虚偽や誹謗中傷を懸念する声もありますが。西垣 その懸念は理解できますが、匿名通報を認めない場合、多くの人は報復を恐れて通報をためらい、結果として制度の利用度が極端に低下してしまうでしょう。御社で取り扱う「WhistleB」のような内部通報管理ツールでは、匿名性を維持しながら通報者との双方向コミュニケーションが可能になりますので、匿名通報に関して従来指摘される調査の困難さは、ある程度克服できます。苗代 利便性について、通報の受付チャネルには、電話、メール、オンラインシステムと、さまざまな手段がありますが、何をおすすめされますか。西垣 グローバル内部通報制度において、電話窓口の設置がどこまで必要かは、よく検討してみる必要があります。グローバル内部通報の主眼は重大な不正の早期発見にあり、その目的に照らせば、電話という媒体は必ずしも一般的ではないと考えられます。また、メールによる受付は、手軽に導入できる点から一定の意義はあると思いますが、個人的にはあまり推奨していません。信頼性の観点から、「通報したのに届かなかった」という事態は避けるべきですし、個人情報を扱うため情報漏洩の懸念も無視できず、多数の通報が来た場合の情報管理としても困難です。重大な通報で漏洩の問題が生じた場合、大きな責任問題に発展する可能性もあります。そのため、暗号化をはじめとする十分なセキュリティ対策が実装された、信頼性の高いWeb受付システムの利用をおすすめしています。苗代 制度の実効性を高めるうえで、認知度の向上も避けては通れない課題だと思います。効果的な周知方法についてアドバイスをいただけますでしょうか。西垣 制度の認知度向上には、複数の施策を組み合わせたアプローチが必要です。その中核となるのが、経営トップからのメッセージ発信です。実際、調査結果からも、さまざまな媒体を通じて経営トップが制度の重要性を継続的に発信している企業では、制度の利用度が顕著に高いことが判明しています。特に、日本本社のトップだけでなく、現地法人のトップからの発信も併せて行うことで、より高い効果が得られる場合が多いです。現地従業員に
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