Lawyers Guide 2024
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5陣のレベルアップです。株主から付託を受けて、代表を選任し監督する責任がある取締役は、“国会議員”にたとえることができます。しかし、社内の取締役は“閣僚”にあたるので、なかなか“総理大臣”(=代表取締役)の不信任は出せません。そこで、“野党の国会議員”たる社外取締役の役割が重要になります。桑形 具体的な施策として、どのようなことをお考えでしょうか。冨山 ガバナンスに関わる社内外の取締役および取締役事務局の能力強化に関しては、当会が新しくスタートする“3階建て構造のトレーニングプログラム”を実施し、これが一つのロールモデルとなることを目指しています。近い将来、すべての上場企業の取締役会関係者がこれと同レベルのトレーニングを受けるようになることを期待しています。桑形 他方で、“機関投資家によるエンゲージメントの向上“も肝になりそうですね。冨山 はい。改革のもう一つのカギです。民主主義がしっかり機能するためには、“民度”も重要なファクターです。“選挙民”たる株主次第では不相応な人が選ばれてしまうこともありうる。これがまさに“エンゲージメントの問題”で、株主の代表ともいうべき機関投資家がどこまで企業価値の向上に関われるかが重要です。桑形 “法務”という切り口から申し上げますと、「人が言いにくいことをあえて言う」「根拠を伴って述べる」ことが法務の立場でもあります。先程“選挙民の代表”というお話がありましたが、そこも俯瞰した立場で、何か特定のビジネス領域における利益や、会社の過去のしがらみなどから1歩離れて意見を言う。それをきちんと取締役会の議論や意思決定に反映させることこそが法務の存在意義につながると考えています。冨山 日本企業は同質的で、狭いところを突き詰めていく傾向があります。以前はそれが競争力の源泉となった時代もありましたが、今はそうではない。「破壊的イノベーションが起きる」「社会的価値観が変わる」といった中で、それらに対する視座をきちんと持てないと取り返しのつかない事態に陥ってしまいます。そうならないためにも、法務が取締役会の議論に対して俯瞰的な立場から物申すことは大切ですね。桑形 ちょっとホットな話題ですが、日本取締役協会では2023年9月21日に「未成年者に対する性加害問題と企業のコンプライアンス姿勢に関する緊急声明」を発表されました。こうした声明の発端となったコンプライアンスに関わる事例も、組織の中の意見に多様性がな日本取締役協会会長、経営共創基盤 IGPIグループ会長、日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長冨山和彦氏

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