Lawyers Guide 2024
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65“紛争からの逆算”で作る予防法務 サイバーセキュリティや人事労務の分野で訴訟などの紛争リスクが顕在化した場合には、金銭面だけではなく企業イメージの失墜や社会的信用の喪失などの甚大な影響を及ぼす可能性が高い。そこで、同事務所が取り入れているのが“紛争からの逆算”である。 「訴訟における企業側の主な不安点は、“この段場合よりもチャンスが生じてしまいます。このリスクに対する対策が十分にできていないにもかかわらず、テレワークの技術だけはどんどん進歩してしまいました。システム面からのアプローチでは、営業秘密の管理をどのように徹底していくかが重要です。まずは問題点を洗い出し、各リスクの度合い、対応の優先度を加えた課題リストを作成し、これに基づいて“最適のシステムは何か”を検討します」。 そして、システムの導入後は、“人”の側面からのアプローチとして、適正にシステムが使用できるような、その企業に即したマニュアルの作成と社員一人ひとりへの落とし込み(教育)を実施する。当然、モニタリングも欠かせない。四半期に一度、問題や課題がないかを確認し、必要に応じて修正をしていくのである。 「兼業・副業については、会社が貸与しているパソコンの管理を徹底しなければなりませんし、社員の“教育”も重要です。特に“競合関係にある企業との兼業を認めるかどうか”等については、企業にとってリスクがあるだけではなく、それを行う社員側にもリスクが生じる可能性があることを、社員自身にしっかりと理解させる必要があります」。 また、大木弁護士は、「今後は、経済安全保障の観点でも同様にサイバーセキュリティ法務と人事労務法務の一体化は重要になる」と語る。国内の先端技術の輸出管理を徹底するなど、経済力競争のため安全保障上の課題に対応する必要があり、特に海外ビジネスを展開する企業への影響が大きい。自社は経済安全保障推進法の対象事業者でないとしても、当該事業者のサプライチェーンに関与する企業であれば、サイバーセキュリティリスク管理措置に対応する必要があるからだ。とはいえ、先端的な法律であっても、コアになるサイバーセキュリティ法務における対応は共通だといえる。階ではどのような主張をされるのか”“落としどころとして裁判官は何を考えているのか”といったような、かなり“感覚知”に近い内容がほとんどです。そうしたときに役に立つのが、豊富な訴訟案件の蓄積です。まったく同じ内容でなくとも、場面ごとに類似した経験をもとにクライアントの不安を解消するとともに最適な対応を検討していきます。 また、紛争が発生するリスクを“ゼロ”にすることはできません。実際に紛争のリスクが顕在化して“100”になりそうだという状態から、どれだけ“ゼロ”に近づけていくかが重要です。特にサイバーセキュリティ法務と人事労務法務の分野においては、“人から情報が漏洩する”という前提のうえでどのような具体的な予防フローを描くかが予防法務の肝になると思います」。 これまで数多く扱ってきた紛争事例をいわばデータベースとして、紛争となりうるポイントを抽出し、平時においては紛争を生じさせないフローを描く。そして、有事においてはリスクを可能な限り縮減し、クライアントの利益の最大化を図る。それが、同事務所が提唱する“‘紛争からの逆算’で作る予防法務”であるといえよう。

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