Lawyers Guide 2024
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5001年東京大学法学部卒業。03年同大学大学院法学政治学研究科修了。06年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。12年バージニア大学ロースクール修了(LL.M.)。13~14年長島・大野・常松法律事務所ニューヨーク・オフィス勤務。09年慶應義塾大学法学部卒業。10年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。16年コロンビア大学ロースクール修了(LL.M.)。16~17年Gleiss・Lutz(ドイツ)勤務。17~18年Stibbe(オランダ)勤務。18~19年ALRUD・Law・Firm(ロシア)勤務。うしたリレーション作りもニューヨーク・オフィスの役割の一つです」(大久保弁護士)。地政学的リスクがありつつも活況な中国とのビジネスにバランス感覚を 「これまで日中間の企業取引は、“政冷経熱”と呼ばれる、政治的な緊張があっても民間取引は維持する“政経分離”の考え方が定着していました。しかし、トランプ政権半ばから米国による対中規制が強まり、現在に至るまで日中間取引を取り巻く状況が年々厳しくなっています」と、上海オフィスの首席代表である若江悠弁護士は語る。 「米国が対中貿易・投資を促進し中国の経済成長を促すことで中長期的に民主化を実現し、米国を中心とした国際秩序に組み込もうとする “関与(エンゲージメント)”政策は、見込み外れに終わりました。結果として米中対立が起こりましたが、これは中国側からすると“米国等からの封じ込めに対し対抗しているに過ぎない”という考え方です。経済安全保障をはじめとする世界情勢を適切に把握するためには、西側諸国以外のメディアや現地での情報の把握が欠かせません。このバランス感覚を持つことも、経済安全保障分野において今後弁護士に求められる素養だといえます」(若江弁護士)。 地理的な近さもあり、進出する企業数や輸出入の規模が最も大きい中国関連のビジネスは、日本企業にとって米中対立によるリスクを鑑みても容易に手を引ける対象ではない。「日本企業に今後求められるのは、一つひとつの規制を踏まえつつも“賢く稼ぐ”ことです。“中国でのビジネスが世界での成長の原動力になる”と考え、行動に移す外資企業は少なくありません。中国は世界最大の消費市場であるうえ、EVなどの技術では最先端を行く存在です。この環境における弁護士の役割は、数多くの規制の運用と地政学的リスクについて詳細に把握し、打開策を導き出していくことなのです」(若江弁護士)。 米国・中国の法律事務所での執務経験を持つ鹿はせる弁護士は、日本企業から相談を受けることが多い米中対立に基づく輸出入規制について「中国側の措置を理解するには多角的な視点の理解が欠かせません」と語る。「中国による半導体原材料等の輸出規制は、中国の立場から見れば、従来の輸出入規制の国際的な枠組みと異なる日米蘭の先端半導体の輸出規制への対抗としての側面があります。こうした輸出規制の応酬については、WTOで決着をつけることも考えられますが、時間がかかるうえ、政治的な色彩が強い問題なので法的な処理に必ずしもなじむものではありません。もっとも、弁護士としては米・中・日等各国の動きや過去における同種問題の検討を通じて、依頼者に対してリスクの先読みと、今後予想される展開に応じた対応を助言できます」(鹿弁護士)。 経済安全保障問題で“中国ビジネスは下火になった”という見方もあるが、そうとは限らないという。「日本企業による中国からの撤退が相次いでいますが、すべてが経済安保に基づくものではなく、コストの高騰や市場競争の変化など、企業のライフサイクルの一環として行われるものも多いです。また、多くの企業は中国から撤退したとしても、中国とのビジネス関係が消失するわけではありません。たとえば、最近のご相談として多いのは中国企業への現地事業の売却ですが、売却後に技術やブランドのライセンスを求められることが多く、ほとんどの企業は中国との間で取引関係も続きます。弁護士としては、単純化せずに個々の事案における依頼者のニーズに沿ったきめ細かい助言をすることが肝要です」(鹿弁護士)。 また、“規制が増える一方で、日中間の投資は静止状態である”というのも、一面的な見方に過ぎないと鹿弁護士は語る。 「日本から中国へ新規投資したり、現地で合弁事業を再編したりする場合には、地政学リスクを睨んだクリーン・イグジットできる条項など、特殊な契約上の手当濱口 耕輔 弁護士Kosuke Hamaguchi大沼 真 弁護士Makoto Ohnuma

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