Lawyers Guide 2024
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34くのか”“話すタイミングはいつがよいのか”“どの方法が一番企業側の熱意を伝えられるか”なども考えていきます」(塩津弁護士)。 「当事務所では、若手の頃から多数の先輩弁護士のもとで多様な訴訟、交渉を経験します。紛争案件の主任やプロジェクト案件における従業員説明会もアソシエイトとしての年次が早い段階で任され、度胸と交渉力を培っていきます。これらを武器に、“理”を中心として“情”も勘案しながら説得することで、キーマンの流失を防いでいきます」(松嶋弁護士)。 一方、人件費が過剰で、人員削減のニーズが生じる場合もある。その際は、希望退職の募集や転籍スキーム、労働条件の引下げなど多岐にわたる検討事項の迅速なハンドリングが求められる。 「一口に“退職勧奨”と言っても、話の持ちかけ方は従業員ごとにまったく違います。依頼者と徹底的に打ち合わせを行い、一人ひとりの置かれた状況や背景までを把握しながら、“この方にはこのような理由で説得を行おう”という個別方針を策定していく。時には理屈でない感情的対立となる場合もありますが、誠心誠意説明を尽くすこと、また従業員の言い分に理解を示すことも大事にしています」(山口正貴弁護士・東京事務所)。コロナ禍と変容する働き方への対応 労働法制、とりわけ“働き方”は、新型コロナウイルスの流行によって大きな転換を迫られた。テレワークがその最たる例といえよう。 同事務所にも、テレワーク導入に伴う社内規程類の整備から労働時間管理、長時間労働に伴うメンタルヘルス問題等、多くの相談が寄せられたという。その中には、マスクの着用の義務化、手指の消毒を徹底させられなかった場合の安全配慮義務をめぐる論点など、従来争われたことがないものもあったという。 「こうしたご相談に対しては、法の原理原則に立ち返り、“企業はどこまでリスクを予測し、現実的にそのリスクにどこまで対処する義務を負うか”“企業がある対策をとることで、罹患リスクは回避が可能であるか”などを所内でも深く議論しました」(松嶋弁護士)。 また、山口弁護士は、コロナ禍で特にハラスメントに関する相談が増えたと語る。「在宅勤務も増え、また飲み会などがなくなったことで、上司も部下もお互いにその“人となり”がわからない。同じことを言っていても、人によって捉え方が全然違う。うがいや手洗いなどのコロナ対策への温度感も企業や個人ごとに異なっている。こうした小さなことが蓄積し、さらにはコミュニケ―ション不足が加わって、会社不信に陥る人が増えてしまった。それが、“ハラスメント”と受け取る件数が多くなった原因の一つといえると思います」(山口弁護士)。 「コロナ禍における、“エアポケット”のようなこれまで意識されてこなかった事象について、パートナーとアソシエイト間で議論をして問題となりそうなケースについてのQ&Aを作成しました」(塩津弁護士)。 一方、いわゆる“働き方改革関連法案”により、企業は労働時間の上限規制のほか、高度プロフェッショナル制度の創設、有給休暇付与の義務化、割増賃金の割増率改定等の対応に追われた。その中でも、“同一労働同一賃金”の要請は、企業に多大な影響を与えた。 「多数のクライアントから同一労働同一賃金対応に関する質問が寄せられました。裁判が頻発している論点でもあり、私たちは、地方裁判所レベルを含め、この論点が争われた多数の裁判例の判示内容を集約・一元化して蓄積しつつ分析を行っており、その検討結果は労働法チームに共有されています。それを基に自分のクライアントのケースにおけるリスクの濃淡はどうなのかを検討する。これは、一つの集積知と考えています」(塩津弁護士、松嶋弁護士)。外資系企業の事業運営と日本の労働慣行の調和 同事務所は、国際関係法務にも力点を置いており、多数の海外法律事務所と協力体制を構築し、案件によって最適なメンバーをチームアップし、対応している。その中でも労働法は重要な位置づけとなっており、特にアジア圏の国々にとって、日本のモバイルゲーム市場は魅力的なマーケットとして映り、日本国内の優秀なエンジニアの獲得を目的としたシステム関係企業の日本進出も多く見られるという。 「日本の労働法制は、外国の労働法と似通っている部分があることも多いものの、無期雇用がいまだにスタンダードであることや、これに伴う解雇規制の厳格さ、業務委託契約の利用の難しさは、外国企業にとってはあまりなじみがありません。また、退職金制度その他の福

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