Lawyers Guide 2024
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30まるため、判断が容易でないことがしばしば生じます。たとえば、“医行為”については、裁判例に加え、通達、ガイドライン、グレーゾーンの解消制度の活用事例や、その他の政府の公表資料を考慮し個別に判断することになります。“医療機器”の該当性についても、政府の通知、ガイドライン、プログラムの医療機器該当性判断事例、医療機器プログラム事例データベース、グレーゾーン解消制度の事例等を参考に判断していくことになりますが、いずれにおいても該当性の判断が明確にならず規制当局とのコミュニケーションが必要になる場合があります。また、ライフサイエンスに関する製品・サービスの研究開発においては、ヒトを対象とする生命科学・医学系研究に関しての倫理指針等への準拠や倫理委員会の審査等も考慮する必要もあるでしょう。 ベンチャー企業をはじめ、社運をかけた製品やサービスの開発や上市を速やかに行いたいクライアントに対して、どのようにすれば円滑な事業推進ができるか知恵を絞るよう心がけています」(廣瀬弁護士)。 「新しい技術については自治体でも容易に回答することは難しく、厚生労働省との調整になることも多いです。ただ、明確な回答を得ることが難しい場合が生じることにも留意が必要です。また、同業者の動向や類似のサービス、製品の状況を考慮することも重要です。仮に、規制当局の承認が必要になる場合には、相当の期間や費用が必要になります。規制事項に該当しないように製品をデザインするか、それとも正面から承認を取得する前提で動くのかといった判断が重要になる場面も存在します」(小山弁護士)。 「製品の開発が進んでからだと後戻りがしにくいので、早めの段階で弁護士やその他の専門家にご相談いただき論点を整理することも重要です。初期段階でも、“こんな感じのことをやりたいのですが”とのイメージや、実施したいシステムのしくみなどを持って相談いただくことも増えています。先端技術を持っていらっしゃるクライアントをサポートするためには、前述の法分野のみならず、知的財産法、独禁法、個人情報保護法、会社法など広い知識がないと、論点の抽出や適切なアドバイスをすることができません。自分の守備範囲を広げつつ、それぞれに強みを持つライフサイエンスPGの同僚と協力しながら、総合力を発揮して対応することが重要だと感じています。また、当事務所では新人弁護士時代にさまざまな分野の案件を経験できるようにしており、そこで培われた広い視野も役立っていると思います」(廣瀬弁護士)。ライフサイエンス分野特有の多様な考慮事項への対応 前述のとおり、ライフサイエンス分野の企業をサポートするには、薬機法だけではなく、会社法、M&A、知的財産、個人情報保護、製造物責任など多様な法分野の知見を、有機的に組み合わせて提供することが不可欠である。M&Aや知的財産の取引一つをとっても、特有の考慮事項がある。 「たとえばM&Aの場面では、医薬品・医療機器に関する許可や承認の取扱いを意識したスキームの選択、スケジュールの検討等が必要になります。また、M&Aの対価の設定の仕方(金額調整)や在庫の取扱いについても規制のしくみや業界の慣行を考慮した工夫が必要です。ライセンス契約においても、開発過程、承認制度やその他の規制を考慮した対価の設定、開示する技術情報等の調整、ライセンサー・ライセンシー間の協力内容やライセンシーの活動の内容、在庫の取扱いを含むライセンス終了時の対応等に関する条項に工夫が必要となります」(廣瀬弁護士)。 知的財産に関しては、特に医薬品について、製品における特許の重要性が大きいことから、ライバル企業同士の間で、特許無効審判や特許侵害訴訟が起こされることも珍しくなく、知的財産に関する紛争の事業活動への影響も大きくなる傾向にあり、知財戦略も重要である。 「医療機器と医薬品では、特許の持つ価値が異なる場合があります。たとえば、医薬品の場合は、一つの強い物質特許で化合物等をカバーすることが多く、特許を保有することで、他社による実施品の製造・販売を防止して独占的に販売することができます。また、自らの商圏ではない外国の企業にライセンスをして収益を上げることもあります。一方、医療機器、特に機械装置の場合には、複数の多くのパーツで構成されることが多いため、複数の特許で一つの製品をカバーすることもあり、特許の活用方針は必ずしも一様ではありません。また、プログラム医療機器については、プログラムの特許やプログラムと装置の組み合わせによるシステムの特許を取得することにより、他社の参入を排除する戦略があります」(小山弁護士)。 「特許紛争をはじめとする知財の案件では、外国の弁護士や日本の弁理士と協働する案件も少なくないため、外部の専門家とのネットワークも大事にしています」(廣瀬弁護士)。

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