Lawyers Guide 2024
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11生成AIによる変革期に企業はどう対応するべきか活用に積極的な若手メンバーが多いこともあり、影響範囲が広がることを考えて実施義務の伴う規程として定める形にしました。規程の設計としては、対象となる生成AIの機能や入力情報などでカテゴライズし、従来の情報の取扱規程などとも照らし合わせて、どの範囲までなら利用可能とするかを決めていきました。また、当社でも使用者の生成AIに関する知識レベルを測るテストの合格は必須としており、ChatGPTについては一部の担当者にのみ開放しています。現在はAzure OpenAIを使ったAPI連携なども検討しているところですが、ChatGPTのより広い範囲への開放は今後の課題になると考えています。濱野弁護士 GitHubコパイロットのようなコード生成AI、ChatGPTのような大規模言語モデル、画像生成AIのそれぞれに特徴がある中で、入力する情報やアウトプットに対して「どのようにフィルターをかけ、ツールなどを使ってチェックを行っていくか」といったルール作りは、企業での生成AIの活用においてとても重要になると思います。Cさん とはいえ、ルールでがんじがらめにすることは簡単ですが、あまりにも厳しいルールを設けると�誰も使わない�ということになってしまいます。法務担当者としては悩ましいところですね。濱野弁護士 そもそも生成AIがない時代から、画像にしても文章にしても、「そのアウトプットが第三者の権利を侵害していないかどうか」について各社で判断されていたわけですが、特に著作権については判断が難しい場合があると思います。その点も踏まえて、「自社の基準をどこに定めるのか」を決めていく必要があると思います。また、�社内のみで利用する場合�と、�社外で利用する場合�とで、対応を変えることも考えられます。一方、社会も大きく変化しており、現在では厳密に言えば著作権侵害に該当する画像等がSNS等には溢れています。今後、生成AIがより発展・普及した世界で従来のような著作物保護の価値観がどこまで残るのかということも、企業としては注目すべき観点かもしれません。Cさん 私は出版業界と音楽業界を経験していますが、それぞれの業界でも二次創作物に対するスタンスはまったく異なります。著作物保護の価値観にも変化があり、今は何となく許されているものが放置されすぎてしまうと、どこかで一斉に取り締まられるということもあるかもしれません。「ルールを作ったから安心」ということではなく、常にそうした変化をウォッチしていくことも法務の役割だと思います。Aさん 従来、多くの会社で、「法令や社内ルールに従ってさえいればよい」というルールベースによって物事が思考されてきましたが、そうしたあり方に限界がきていると感じています。生成AIのようなものを正しく活用するためには、プリンシプルベースでの思考が必要になります。「ルールを作って縛ればよい」とか、「ルールで縛られているからダメ」ということではなく、個々人が原理原則に立ち返り、�ルールが実現しようとしていること�や�ルールが守ろうとしていること�をきちんと考えながら、「ルールが守ろうとしている�何か�を守るためには、どのように利活用することが適切であるのか」を考えながら生成AIを使っていくことが必要だと考えています。また、同時に、「失敗したときにどれだけのダメージがあるのか」といったリスクベースの思考も大切になるので、法務担当へ適宜相談してもらいながら利活用してもらうことも必要になるとは思いますが、とにかく「言われたことをやればいい」「言われたとおりにやりさえすればいい」という思考では生成AIを適切に扱っていくことはできないと考えています。生成AIの登場によって起きたパラダイムシフトにどのように対応していくか。そういったことも、法務担当としては今後の大きな課題になると考えています。濱野弁護士 生成AIの活用に積極的な従業員が多い会社のケースと、生成AIの活用に消極的な従業員が多く、会社が従業員に対して生成AIの活用を促したい会社のケースでは、自ずと法務の対応も変わってくるように思います。皆さんのお話からそうした各社での考え方や対応の違いも知れて、とても有意義な座談会になりました。本日は誠にありがとうございました。

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