Lawyers Guide 2023
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 重要情報の流出を防ぐための 規制強化が進んでいる 経済安全保障においては、先端的な技術開発や機微技術の流出防止もしばしば問題となる。我が国においては、日本国内における居住者から非居住者への特定技術の提供を国外への提供と同様に規制する“みなし輸出”の規制について、対象取引の範囲が01年東京大学法学部卒業。02年弁護士登録。09年Columbia University School of Law卒業(LL.M.)。16〜19年ドバイ駐在員事務所代表。専門領域は、M&A・コーポレート、経済制裁、経済安全保障ほか。第一東京弁護士会所属。02年東京大学法学部卒業。03年弁護士登録。10年New York University School of Law卒業(LL.M.)。07〜09年外務省経済局経済連携課。専門領域は、輸出規制、国際通商、経済安全保障ほか。第一東京弁護士会所属。04年東京大学法学部卒業。05年弁護士登録。11年New York University School of Law卒業(LL.M.)。11〜12年ワシントンDCの米国法律事務所に勤務。12〜14年経済産業省通商機構部。専門領域は、国際通商・競争法、経済安全保障ほか。第一東京弁護士会所属。日本は、“米国と中国のどちらを優先させるか”という難しいリスク判断を迫られることとなる。 輸出規制や国際通商などの案件に取り組んできた淀川詔子弁護士は、「最近は、大企業のみならずスタートアップを含む中小企業においても輸出管理体制を整備・強化しようという機運が高まっていると感じます。米国による輸出規制の拡大の動きを受け、“米国の輸出・再輸出規制を守りつつ中国の対抗立法に備えるためにはどうしたらよいか”など、より踏み込んだ内容の相談が増えてきていることから、我々としても、“両国での取引を継続させつついかにリスクを低減させるか”という戦略的なアドバイスを提供すべく知恵を絞っています」と話す。も、クロスボーダービジネスに与える影響の大きさがうかがえる。 このように、終わりの見えない米中対立やロシアによるウクライナ侵攻などを背景として、各国の経済安全保障に関する政策が変動しており、「今後も規制が突然強化されたり、複雑化したりする可能性は高い」と中島弁護士は警鐘を鳴らす。 「従来は、大量破壊兵器・通常兵器の拡散防止やテロ抑止という限られた理由で経済活動が規制されてきましたが、昨今は、軍事と民事の境界が曖昧になり、重要技術の優位性確保、重要インフラの確保、情報通信やサイバーセキュリティの確保、人権侵害というように、民間の経済活動に密接に関わる領域にまで規制が拡大しています。将来的に制裁の強化が見込まれる場合の個別の取引のリスクアセスメントや、実際に制裁法や輸出規制などの規制違反の疑いが生じる場合の当局対応、そのような規制違反を防ぐための法令遵守体制の整備は、今後ますます重要になるといえるでしょう」(中島弁護士)。55中島 和穂 弁護士・ニューヨーク州弁護士Kazuho Nakajima 経済活動が規制される領域が 従来よりも拡大しつつある もちろん、注視すべきは米中対立だけではない。近時はウクライナ侵攻を続けるロシアへの経済制裁が大きなトピックであり、日本も国際社会と足並みを揃えて、かつてないほどにロシアへの圧力を強めている。輸出入の禁止・制限や新規投資の禁止といった対ロシア経済制裁措置によって、民間企業はビジネスの軌道修正を余儀なくされる可能性がある。また、「金融機関は違反懸念のある外国送金取引等の未然防止体制を強化しており、そうした金融機関からの指摘を受けて、企業が問題点の洗い出しを迫られるケースも散見されます」という中島弁護士の言葉から淀川 詔子 弁護士・ニューヨーク州弁護士Noriko Yodogawa藤井 康次郎 弁護士・ニューヨーク州弁護士Kojiro Fujii

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