Lawyers Guide 2023
22/140

るのが現状です」。翁弁護士は、中国市場の発展と国際的な立ち位置を踏まえた外資系企業の状況をこう指摘する。 「証券市場は資金調達の重要なルートですが、中国の証券市場は外資系企業にとっては活用しにくいものといえます。これまで、中国A株および香港株(H株)の直接上場は中国証監会がすべて判断し、上場機会を国有企業などの内資企業に多く与えていました。これに対し、一部の外資系企業は、多くの法律上の障害を克服し、間接的な方法(海外SPCやVIEスキームで)で米国や香港などに上場していました。ところが、2019年から上海科創板や深圳創業板、北京証取所が段階的に登録制を試行し、二つのメインボードと新三板も近々登録制を全面的に実施し、海外上場も届出制に転換されますので、企業の上場可否は証取所が判断することとなり、証監会は“監督者”という立場に変化します。また、最近、国務院の部門が、外資系企業によるA株上場での資金調達の支援強化を発表しました。こうした流れを受け、登録制の下で既にA株への上場に成功していたり、証取所から上場承認を受け、証監会の登録手続に入っている日系企業もあります。 一方で、米中関係の不安定化や米国の「外国企業責任法」の規定、米国証取委員会のVIEスキーム上場企業(米国に上場する中国企業の80%以上がVIEスキーム)に対する監督の強化、米国の“ロング・アーム管轄”に対する中国側の警戒などにより、米国上場の中国企業が徐々に香港上場に回帰し、クラスタ効果が形成されています。こうした動きに伴い、香港も上場規則を見直し、香港株の人民元建てメカニズムを徐々に確立し、外商投資企業を含む中国国内企業の香港上場を積極的に受け入れています。現在、中国現地法人がA株と香港株の上場を通じて生産経営の拡大に必要な資金を調達することは、既に有効な手法となりつつあります。さらに、現地法人が中国現地(香港を含む)に上場することは、経営、財務、人材、コーポレートガバナンスなどローカル化の諸問題の解決、日本親会社への依存の最小限化、中国社会での知名度向上につながり、中国市場のさらなる拡大に有利な条件を整えられるといえます。我々と香港オフィスとの協働で日清食品の会社再編による中国事業の香港上場(01475.HK)をサポートした経験もありますので、今後も、当事務所の日本、中国の内陸および香港におけるリソースを十分に活用し、日系企業が中国キャピタル・マーケットを通じてさらに多くの発展のチャンスを獲得するようにサポートしていきたいと考えています」(翁弁護士)。20 労働人事業務の対応 「労働人事は中国のすべての日系企業が関わる問題で、企業の日常管理のあらゆる面に関係します。労働人事における問題点は、大きく日常的な労働人事事務(人事制度の制定、日常人事管理など。どの企業にも関係する)、労働紛争処理(労働仲裁、訴訟、訴訟によらない紛争の処理を含む。中国の労働法は労働者を強く保護しており、労働紛争が発生した場合、会社は簡単に敗訴してしまう。労働紛争の処理において、企業は非常に高い負担を強いられることとなる)、大規模な労働事件(ストライキ対応や人員削減など。日系企業の再編や撤退の動きに伴い、この種の案件対応の需要も高まっている。また、この種の案件処理の難易度は非常に高く、再編の類型に応じた法的根拠・人員削減方式を適用する必要があり、どのように従業員と協議をするか、どのようにストライキやデモなどの集団事件を未然に防ぐかなどは、十分な知識と経験を必要とする)の三つに分けられます」と、諸弁護士は外資系企業が直面する労働問題について、こう指摘する。 「我々日本業務チームは労働人事分野でも豊富な経験を有し、これまでに100社以上の日系企業に日常の人事管理、労働紛争解決のリーガルサービスを提供し、労働紛争の勝訴率は司法実践における平均勝訴率を大きく上回っています。 また、日本業務チームでは数十社の日系企業の再編・撤退に伴う従業員の人員整理対応を行っており、これらの人員整理案件ではほぼ円満な解決を実現し、大規模な労働紛争が発生することはほとんどありませんでした。当チームには兼任労働仲裁員も在籍しており、労働紛争に対する当局の立場を熟知し、企業の労働紛争解決を助ける役割を負うだけでなく、『HR全フロー法律顧問』など、労働人事管理に役立つ実用書の執筆にも携わっています」(諸弁護士)。 中国のデータ規制への対応 「中国のデータ規制は、関連法令や国家基準の量が膨大であり、複雑で不明確なところが多く、法的責

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る